#83 欲情の限界に少年は
予定していた買い物が済み、スマホで時間を確認すると11時半を過ぎたところだった。
「そろそろお昼にしましょうか」と桐山が言うので、桐山が事前にリサーチしていたショッピングモール内の豚骨ラーメンのお店に向かって歩き始めた。
桐山は当たり前の様に俺の腕に手を絡ませてきたが、まだ精神的ダメージが残っていた俺は拒否する元気も無く、桐山にされるがまま歩いた。
ラーメン屋はまだ12時前なのにそれなりに混雑してて、店内に入るとカウンター席に並んで座り、二人とも豚骨ラーメンをバリカタでトッピングにネギとチャーシューを注文した。
二人分同時に運ばれてくると、大人しく静かに食べるのに集中して、食べ終えると速やかに会計を済ませてお店を後にした。
お腹が膨れたお蔭で俺の精神的ダメージもだいぶ回復したので、「次はドコに行くの?」と桐山に確認すると、再び当たり前のように俺の腕に手を絡ませて「折角なので、少しお洋服のお店も見て良いですか?」と言うので、もう少し買い物を続けることにした。
どのお店に行くかは決めてなかった様で、腕を組んだままモール内をしばらくウロウロと歩き、3軒ほど周って最後のお店で夏物のシャツとスカートを購入していた。
因みに洋服では俺に意見を求めてくることは無く、桐山は自分の好みで選んでいた。
シャツはノースリーブでスカートは丈が短く、普段の桐山の私服では見ない様な露出高めの夏物だったけど、ウチの母が作った服を意識して選んだ様に思えた。
以前、桐山も自分で言ってたけど、オシャレに目覚めたんだろう。
やっぱり桐山も年頃の女子高生だし、本当はこれが普通なんだろうな。
そんな桐山の変化に、なんだか安心感みたいなものを感じた。
洋服の買い物を終えると桐山も満足した様子で、機嫌良さげに「そろそろロケハンに行きましょうか」と言うので、トイレで用を済ませてから駐輪スペースに戻ることにした。
二人分の荷物を1つの袋に纏めて俺の自転車のカゴに入れて、日差しを確認しようと空を見上げると、太陽は真上にあって、来るときに比べて強くなっていたので、ショルダーバックからハンドタオルを取り出して、桐山に「日焼けするから首に巻いた方がいいよ」と言って渡すと、桐山は受け取ったタオルを素直に首に巻いていた。
俺がチェーンのロックを外している間に、桐山はスマホの地図アプリを使ってこれから向かうエリアへの経路を確認していた。
「まずは緑地公園に行きましょうか。ココからだと10分程の様です。その次は城跡のある中央公園で、時間に余裕があれば豊羽川の河川敷にも行ってみましょうか」
「了解。後付いてくからまた先に走ってくれる?」
「分かりました。途中でコンビニに寄って飲み物を購入してから向かいましょうか」
「了解。車とかに気をつけてな」
「はい。では行きましょう」
◇
途中コンビニに寄って、スポーツドリンクを2つ購入して少し水分補給してから再び緑地公園に向かって出発して、到着すると駐輪場に自転車を停めて、買い物した荷物は俺が持って公園内の散策を始めた。
緑地公園と言うほどだから園内は林の様に木が多くて、木陰の中を歩いていると、ココでも桐山は当たり前の様に俺の腕に手を絡ませて体を密着させてきた。
「俺、すげぇ汗かいてるから、無理にくっ付かなくてもいいんじゃない?」
「私は気にしませんよ」
「ビショビショになるほど汗かいてるのに?普通他人の汗なんて気持ち悪いでしょ?」
「確かに他の人のなら嫌ですけど、石荒さんの汗なら気持ち悪いとは思いませんよ。普段から坊主頭の頭皮をワシャワシャしてたお蔭でしょうか。寧ろ、少しクセになってるのかも」
桐山はそう言って、歩きながら俺の胸元に顔を近づけて鼻をクンクンさせ始めた。
ただでさえ今日はいつも以上に距離近くてドキドキしっぱなしだったのに、こんな風に顔をくっつける様にして体臭を嗅がれるのは、真性チェリーの俺には耐えられそうにない。
オカズにしてエロイこと妄想してるのとは訳が違うんだよな。
「マジでやめて。童貞の俺には心臓に悪すぎる」
「私だって処女ですよ?そんなこと気にしなくても良いじゃないですか」クンクン
「お前なぁ・・・最近の桐山、はっちゃけ過ぎじゃないの?クラスの連中が今の桐山見たら、みんな腰抜かすぞ?」
「こういうのは石荒さんの前でだけですよ。他の人に見せるわけ無いじゃないですか」
俺の胸元の匂いを嗅いでいた顔を上げて、超至近距離で俺の顔を見つめてきた。
ああ、ダメだ。
相変わらず神懸る程の美貌が目の前に迫って来ると、抱き付きたい衝動が湧いてくる。
もしこのまま抱き付いたら、俺は止まらなくなるだろう。
桐山は自分の容姿が相手に与える影響を理解してないんだ。
こんな風に迫られたら、どんなに意思が強くて理性的な人間でも、正気を保てないぞ。普通の男なら、間違いなく襲い掛かってるだろうな。
俺は抱き付きたい衝動に必死に抗う様に、「ごめん。マジでダメだ。これ以上はガマン出来なくなりそうだから、少し離れてくれ」と言って強引に腕を振り解いて、逃げる様に一人で歩きだした。
「どうしたんですか?怒ってるんですか?」
一人で歩く俺を、桐山は追いかける様に後ろについてきた。
「いや、怒ってないよ。でも、これ以上桐山にベタベタされるのはキツイ」
「六栗さんに悪いからですか?」
「六栗は関係ない」
「じゃあやっぱり私が悪かったんですか?もうベタベタしないので許して下さい」
「いや、俺自身の問題。桐山が謝る必要ないよ」
「でしたら機嫌直して下さいよ」
桐山はそう言って俺の腕を掴んだので、足を止めて大きく溜息を吐き、桐山の方を振り向いた。
桐山は、今にも泣きそうな表情をしていた。
俺の前ではいつも強気で図々しくて、こんなにも不安そうな表情をするのは、雨の日に貸した傘を返して貰った時以来だ。
その表情は今の俺にとってはかなりのショックを受けるもので、先ほどまで感じていた桐山への抵抗感が薄れてしまった。
この状況を理解しようと、必死に考えた。
先ほどビキニを選んでた時よりも、もっと真剣に。
これまで桐山からは家庭のことや高校に入る前までのことを色々と聞いてたから、ずっと周りへの不満を抱えていたと理解してたつもりだった。
でも、根っこの部分では不満だけじゃなく、こんな表情をしてしまうほどの不安や孤独感を抱えていたのかもしれない。
俺だって子供の頃は色々と理不尽さを感じたり不満や孤独感を抱えていたけど、今はそういう感情はかなり改善されてるし、親や周りの友達に対しての不満や反抗心はもう湧かなくなっている。
でも桐山は今でもそういった物を抱えてて、そんな中で似た境遇で育った俺と知り合い、俺に依存することで高校生らしい学生生活を保っているんだろう。
それなのに俺が、普段とは違う真面目な態度で拒絶したから、泣きそうになるほどの不安に陥ってしまったんだと思う。
多分、桐山のことを一番理解してやれるのは俺だ。
ウチの母も、俺が支えてやれって言ってたし、驕りでは無く客観的に見てもそうなんだと思う。
そんな俺は、桐山を傷つけることも泣かせるようなこともしたくは無い。
具体的にどうすれば良いのかは分からないけど、今はちゃんと向き合って話をするべきだと思う。
そう考えるに至ったので、「少し座って休もうか」と声を掛けてから桐山の手を取って近くのベンチまで連れて行き、座らせた。
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