第14章 出梅
#79 白ヘルが似合わない
今週、火曜日以降雨は降らず、金曜日には梅雨明けが宣言された。
天気予報でも週末は快晴が続くと言っていたので、土曜日の桐山の自転車特訓と日曜日の買い物とかラーメン屋とかのモロモロのお出かけは予定通り行けそうだ。
金曜日の夜、自宅で家族と晩飯を食べながらその話をして「明日、かーさんの自転車借りるね」と言うと、何故か父が乗り気になりだして、「母さんの自転車しばらく使ってないから、今夜のうちにメンテナンスしておくか」と言い出した。
それを聞いて、今後桐山が自転車に乗る機会が増えるのなら乗り方だけじゃなくてそういうのも憶えた方がいいんじゃないかと思い、それを俺が言うと「じゃあ明日の朝、ツバキちゃんが来たら父さんも一緒にみてあげる」と言ってくれたので、メンテナンスだけ助っ人をお願いした。
そして翌日の土曜日。
朝の9時前には桐山が来て、早速着替えると言って俺の部屋のクローゼットからペパーミントグリーンのスカート取り出したので、「ちょっと待て」と止めた。
「慣れない自転車乗るのにスカートなんて履いてたら、捲れたりするのが気になって運転に集中出来んくて危ないぞ。それにコケたりしたら怪我するし、スカート履くのは慣れてからにした方が良いと思うぞ」
「言われてみれば、確かにそうですね」
「俺のジャージ貸すから。あと小学生の時に使ってたヒザ用のサポーターとかもあったはず。ヘルメットも用意するから、練習の間だけでも使うか。ジャージは適当に自分で選んで」
そう言って、クローゼットとは別の収納スペースをさばくって、サポーターと中学指定の白いヘルメットを取り出して渡すと、俺は部屋を出た。
で、着替えが終わったと呼ばれたので部屋に戻ると、桐山は何故か西中のジャージを着ていた。胸に『石荒』と名札が縫い付けてあるヤツだ。
「なんで中学ジャージなの?他にもちゃんとしたジャージあったでしょ?」
「高校生にもなって自転車の練習してると思われたら恥ずかしいじゃないですか。せめて中学生のフリでもしようかと」
「なるほど。じゃあサポーターとヘルメットも装着してみようか。つけてあげるから座って」
ベッドに座らせて、桐山が頭に付けてたバレッタを自分で外してる間にジャージの上から両ヒザにサポーターをつけてあげて、ヘルメットも被らせた。
「なんというか・・・」
今まで美人の桐山は何着てもサマになるって思ってたけど、流石に緑色の西中ジャージにサポーター付けて頭に白いヘルメット被る姿は、超ダサかった。
寧ろ、背筋をピンと伸ばして姿勢良くベッドに座ってるせいで、ダサさが際立ってる。
「田舎の中学生感が凄いぞ」
「そんなに中学生に見えますか?実年齢よりも上に見られることは多いのですが、下に見られるのは珍しいですね。でもそれなら作戦通りです」うふふ
俺の部屋には鏡が無くて桐山は自分の姿が確認できていないから分かって無いんだろうけど、べつに若く見えるってわけじゃ無いんだけどな。
表情がいつもの桐山のまんまだから、違和感が凄いんだよな。
まぁ、たまにはこういう桐山もいいか。
ヘルメットを被らせたままの桐山を1階まで連れて降りて父に声を掛け、ガレージに移動して自転車のメンテナンスを始めた。
手が汚れないように軍手を付けさせダサさが更にパワーアップした桐山に空気入れの使い方を説明して、母のママチャリに実際に自分で空気を入れるのをやってもらい、それが終わると父がサドルを緩めてくれたので、跨って貰って丁度いい高さを確認して、固定するコックを締めるのも自分でやらせて、最後にチェーンに油をさす作業を父が説明してくれて、それも自分でやらせた。
ペダルを逆回転で回しながら潤滑油のスプレーでチェーンに油をさしている桐山の様子を横から見てると、目をキラキラさせてなんだか楽しそうだ。
最初に自転車の特訓の話をした時は嫌がってたけど、なんだかんだとその気になってくれて楽しんでくれてるのかもしれないな。
これなら特訓も途中で投げたりしないで、乗れるようになるまで頑張ってくれそうで安心だ。
それにしても、ヘルメット被ったまま作業してる桐山、やっぱり超ダサいな。
メンテナンスが終わり、父にお礼を言ってからガレージから母のママチャリだけ出した。
近所に市の交流センターの広い駐車場があるので、俺がママチャリを手で押しながら歩いて向かう。
横を歩く桐山は、機嫌良さげにお喋りしていた。
「今日は天気良いから、自転車の練習には丁度いいですね」
「そうだな。でも暑くなりそうだからお昼頃には戻るか。それまでに頑張って乗れるようになってくれよ」
「ええ、頑張ります。 あ、それで、いつもは私が姉の設定ですが、今日は中学生の妹という設定でお願いします」
「全然似てないから誰も兄弟だなんて思わんだろ」
「気持ちの問題ですよ?おにいちゃん?」うふふ
そう言って首を傾げる様にして俺の顔を覗き込む桐山。
ヘルメットが全然似合ってないのに、この時はなぜか可愛く見えてしまった。
何故なんだろうか。
目的地の駐車場に到着すると、早速サドルに座らせて、後ろの荷台を手で支えながら押すようにして、まずは真っすぐ進む練習から始めた。
最初はフラフラしてたけど、流石は成績上位で頭も良いからなのか飲み込みが早く、1度も転ぶことなく1時間程で支え無しでも走れるようになっていた。
あとは曲がったりブレーキで止まったりの練習も続け、お昼前には日差しも強くなって俺も桐山も汗でびっしょりになっていたので、特訓は終了にして交流センター内の自販機でジュースを買って、少し休憩してから帰ることにした。
「お疲れ様。もう大丈夫そうだな」
「ええ、最初は怖かったですが、思ってたよりも早く乗れるようになれて安心しました」
「まぁみんな通る道だしな。むしろ高校生になっても自転車乗れない方のがレアだし」
「そうですね。これで私もようやく人並みになれましたね」
人並みどころかスーパーサイヤ人なんだけどな。
「んじゃ丁度お昼だしそろそろ帰るか。帰りは俺が運転するから二人乗りで帰るか」
「良いんですか?この間は警察に捕まるからって嫌がってたのに」
「直ぐ近くだしこの辺警察ウロウロしてないから大丈夫だろ」
俺がサドルに座って車体を支えると、桐山は後ろの荷台に横向きで座って俺のお腹に右手を回した。
「しっかり捕まっててよ」
「はい」
桐山の返事を聞いてからゆっくり走り出した。
汗をかいてたから、自転車で走っていると風が気持ちよかった。
桐山は特訓が上手くいったのが嬉しかったのか、帰りも機嫌良さげにお喋りしていた。
「おにいちゃんが居たらこんな感じなんでしょうかね。こういうのちょっと憧れてたので、楽しいです」うふふ
「そうだな。妹居たらこんな風に一緒に出かけたりしてたのかな」
俺も桐山も一人っ子だから、兄弟の居る生活に憧れがあるのは何となくわかる。
普段の桐山みたいな怖くて意地悪な姉ならノーセンキューだけど、今日の桐山みたいな素直で可愛い妹なら欲しいなって、ちょっぴり考えてしまった。
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