#78 青い少年は正直者




 案の定、桐山からお昼休憩に呼び出しがあり、教室でビキニ画像検索してたことでまたお説教でもされるんだろうなと憂鬱な気分で弁当持って美術準備室に行くと、意外にも桐山は大人しかった。



 先に来ていつもの様に床に敷いたダンボールに座ってた桐山に「遅れてすまん」と一言かけてから俺も座るが、桐山は自分のスマホに夢中な様子で生返事しか反応が返ってこなかった。



「なんか調べものか?」と声を掛けつつも腹が減ってたので弁当広げて、俺だけ「いただきます」をしてから食べ始めるが、桐山は弁当よりもスマホの方に夢中で、相変わらず生返事しか反応が無い。



「食べないのか?時間無くなるぞ」


「ふぅ・・・そうですね。頂きます」


「ナニ調べてたの?桐山がメシよりも夢中になるなんて珍しいな」


「ええ、私もコレを調べてました」


 そう言って自分のスマホを差し出す様にして、画面を見せてくれた。

 画面には、女性物の水着を取り扱う通販サイトが表示されていた。


「えええ!?桐山も水着買うの!?お前、水着NGじゃなかったのかよ!!??」


「そうなんですけど、石荒さんが余りにも興味津々な様子だったので、私も気になって少し検索してみたら、今まで私の知らなかった世界にどんどん興味が膨らんでしまって、気付いたら夢中になって調べてました」


「ということは、桐山も水着買うつもりなのか?」


「どうしましょうか・・・私も欲しくなってはいるんですけど、水着を着用して人前に出るのには物凄く抵抗があります」


「そりゃそうだよな。体育の水泳すらずっとサボってたくらい肌出したく無いんでしょ?」


「ええ、人前で水着になるのは全く慣れてません。それに、水着は肌の露出だけでなく体のラインもクッキリ出てしまいますからね。物凄く恥ずかしいです」


「でも、桐山くらいスラっとして整ってる体形なら人に見せるくらい恥ずかしがることは無いと思うんだけどな。あの六栗ですら『モデルみたいな超絶スタイル』って桐山のこと褒めてたし、寧ろ自慢してもいいくらいじゃないの?」


「そういう問題じゃないんですよ。石荒さんだって、他人から『超絶おちんちん』と褒められても、人前で丸出しになんて出来ませんよね?それと同じです」


 桐山の口から『おちんちん』って言葉が!?

 誰もが羨むような美貌で高嶺の花だと思われて数多の男子から告白されまくってきた(注:本人による自己申告)スーパーサイヤ人で元生徒会副会長で今は美化委員花壇班所属の桐山が、男性器のことを『おちんちん』と言葉を発しただと!?



「もう一回言ってみて」


「人前で丸出し」


「違う!そこじゃない!もういっこ前!」


「他人から褒められても」


「肝心なワードが抜けてるよ!超絶おちんちんでしょ!」


「・・・ゴミクズ」


 桐山が、今朝よりも更に蔑むような視線と言葉を俺に向けている。

 コレはコレでちょっとクセになりそうだ。



「と、とりあえず、丸出しと水着を同列で語るのはナンセンスだと思うけど、水着には興味あるんだろ?いつものチャレンジ精神で試してみたら?」


「ゴミクズさんは私の水着姿を見たいんですか?」



 むむむ

 正直言うと、物凄く見たい。

 滅茶苦茶見たい。

 今すぐ見たい。


 でも、正直に本音を言ってしまうと、いつものようにセクハラだの飢えた獣だの罵倒されるのではないだろうか。

 いやしかし、今の桐山は、俺に背中を押して欲しい様にも見える。


 つまり、今この場で俺のするべきことは、如何に下心を見せずに桐山の背中を押せるような言葉を真剣に伝えることだ。



 俺は食べ掛けの弁当と箸を置くと、ズズズっと桐山にすり寄り両手を桐山の肩に置き、真正面から桐山の目を見ながら言葉を選び、ゆっくりと語り掛けた。


「いいかよく聞け桐山。俺はお前のことを大切な友達だと思っている。だから誤解しないで欲しい。 俺はお前の水着姿が見たい。誰もが羨むような美貌と抜群のスタイルを持った現役JKの水着姿、物凄く見たい。下心じゃないからな?純粋な好奇心の話だ。何度も言うが、誤解しないで欲しい。俺はただ見たいだけなんだ、桐山の水着姿をこの網膜に焼き付けておきたいんだ。 そして、もう1つ伝えておきたいのが、ビキニをリクエストさせて欲しい。なるべく際どいのをな」


 俺が噛みしめる様に一言一言語り掛けると、桐山は肩に乗せてる俺の手を払いのけて一言「黙れゴミクズ」と言って、弁当を食べるのを再開した。



 おかしいな。

 真剣に話せば伝わると思ったんだけどな。


 まぁ、そもそも桐山が水着姿を他人に晒すこと自体、ミラクルな話だしな。

 急に興味あるようなこと言い出すから、つい俺も期待して乗り気になってしまった。



 早々に諦めて、俺も弁当を食べるのを再開すると、しばらく沈黙の時間が続いた後に桐山が口を開いた。



「・・・・今度のお買い物で、私の水着も選ぶのに付き合って下さいね」


 驚いて桐山の表情をマジマジと見つめると、思い悩んでる様なテレてる様な、なんとも言えない表情をしている。


「ああ、俺も水着買うつもりだったから、一緒に選ぼうか」


「はい・・・なら私からもゴミクズさんに、ブーメラン型の水着をリクエストさせて頂きます」


「ブーメラン型って競泳選手とかが使ってるモッコリのだろ!?流石にそれはハードル高すぎる!」


「ゴミクズの石荒さんに、拒否権があるとでも?」


「ぬぅ・・・」



 モッコリが見たいのか?

 桐山の性癖なんだろうか。

 それとも、単に俺に対する意地悪なんだろうか。


 だいたい、ブーメラン型だと体育の水着とそんなに変わんないんだけどな。


 いやでも待てよ?

 俺が際どいのを着れば、桐山も際どいのを着てくれるってことか?

 これは交換条件としては、俺にとってはかなりイイ話では無いだろうか。


 ふむ

 ココは一時の羞恥心よりも、桐山のビキニ姿を優先するべきだな。



 俺は弁当の残りを食べながら、青空の下、桐山と六栗が水着姿で学校の花壇に水やりをしている情景を脳内で妄想していた。


 二人ともホースを持って花壇に水やりしてたはずが、エスカレートしてお互いに水を掛け合ってキャッキャウフフと楽しそうにはしゃいでて、濡れた体の雫がキラキラと輝く際どいビキニ姿。

 現実にはありえない情景だ。



 去年の夏は受験勉強一色だったけど、今年は胸が躍る様な楽しい夏になりそうだ。





 第13章、完。

 次回、第14章 出梅、スタート。

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