#76 デートとそうじゃない境界線
六栗へ渡す誕生日プレゼントのことはさておき、期末試験が終わった俺たち美術部は、夏休みに向けて本格的に始動することになった。
俺も桐山も学校の授業程度しか経験の無い素人だったので、5月に入部して以来、菱池部長に教わりながら基礎的な練習描きを続けていたけど、そろそろ本格的な作品制作を始めて良いだろうということだった。
具体的には、「夏休み中に1つ作品を完成させる」と菱池部長から課題が出された。
そして、夏休み期間中の部活も毎週火曜と木曜の週2と決まったのだけど、強制では無く自由参加で、作品制作は学校でやってもいいし、学校に来るのが面倒なら家でやってもいいということになった。
多分桐山は平日は毎日登校するんだろうな。
そして俺も強制的に付き合わされることになるんだろうな。
と考えていると、案の定桐山は「美化委員の当番もありますし、今年の夏休みは忙しくなりそうですね。ふふふ」と不敵に笑っていたので、思ってた通り毎日学校に来る気らしい。
しかも俺に同意を求めていることから、やはり俺も強制なのが明白だった。
まぁまだ大学受験とか関係ない高校1年の夏休みだしな。家でゴロゴロ暇してるくらいなら部活や委員会で忙しくしてる方のが有意義だろう。
とりあえず、課題の作品を何にするかを考えないとだな。
入部してからやってたのは、デッサンと水彩画の練習だ。
モデルは果物とか花瓶とかの動かない物ばかりだった。
ずっと室内でそんな物ばかり描いてると飽きちゃってたから、課題の話が出た時にまず最初に、屋外に出て風景画でもやってみたいなと頭に浮かんだ。
「桐山、何描くか決まりそう?」
「そうですね・・・人物画か風景画に興味があります」
「俺も風景画にしようかって考えてる。どっか外に出掛けて綺麗な景色でも描いてみたいな」
「なるほど・・・夏休みですし、いっそのこと部活動の一環で写生旅行や合宿なんかをしても面白そうですね」
「いや、流石に俺の腕じゃそこまでしようとは思わんな。近所の公園とか河川敷で充分だ」
「では今度、お買い物に出掛けたついでに、題材になるような景色を探しにウロウロしましょうか」
「人物画の方はいいの?」
「まだ風景画にするとは決めたわけじゃありませんよ。いい題材が無ければ人物画にするかもしれません。 もしくは、風景画を描いている石荒さんを私が描くというのも」
「俺をモデルにするのはやめて」
「あくまで候補の1つですよ」うふふ
「二人でロケハンに行くんだ・・・それってもうデートだよね?いいなぁ、私も行きたいなぁ」
「受験生は大人しく家で勉強して下さい」ピシャリ
「ううう、桐山さんってどうして私にだけそんなに厳しいのよぉ」
ラーメン食べに行くついでに買い物もして、そのあと題材になるような情景を探す目的でウロウロするというのは、デートと言えるのだろうか。
桐山と二人でメシ食べに行くなんて日常茶飯事だし、桐山だってデートだなんて思ってないだろう。
六栗と遊園地に行ったり今度海水浴に行くのは、デートと言われると確かにそうだよなって思うけど、今更桐山とお出かけするくらいはデートだとは思えないんだよな。
結局、デートかそうじゃないかの違いって何なんだろう。
菱池部長から見たら、俺と桐山が二人で出掛けるのはデートに見えるらしい。回転寿司に行くって話してたときも、そんなこと言ってたし。
でも、本人たちはそんなつもりは無い。俺と桐山は男女としてじゃなくて友達として出かけるから?
でも、俺と六栗だって友達だしなぁ。
俺が六栗を好きだからなのかな。
女性として意識してるからなのかな。
でも、桐山に対してだって性的に意識しちゃってるから、それは当然女性として意識してるってことなんだよな。
出掛ける目的で違うのかな。
デートっていうのは、異性と二人で過ごす時間を楽しむことを目的としてて、買い物だとか食事だとかが目的だとデートとは言わない?
例えば、歩くのを目的としてるお出かけは散歩だけど、歩いて山を登るのは登山と言うし、お弁当持って屋外とかで食事目的に歩いて出かけるのはピクニックと言う。
他にも、自転車に乗ることを楽しむお出かけはサイクリングと言うけど、自転車で買い物に出かけるのはサイクリングとは言わない。
つまり、そういうことなのかな?
目的によって呼び方が変わるのと一緒なのかな。
今度桐山にも意見聞いてみるか。
「そう言えば石荒さん」
「ん?」
「自転車持ってましたよね?」
むむ、自転車のこと考えてた俺の思考を読んだのか?
「一応あるけど、ほとんど使ってないからガレージの奥にしまったままだよ」
「今度のお出かけ、自転車で出掛けましょう。そろそろ梅雨が明けて週末は天気は良さそうですし、自転車なら徒歩より広範囲でウロウロ出来ますよね」
「いいけど、桐山は自転車持ってないんじゃなかったっけ?いつもウチ来るとき徒歩でしょ?」
「ええ、持ってませんよ。それに乗れませんよ」
「え?じゃあどうするの?」
「運転するのは石荒さんで、後ろに私を乗せて下さい」
「別にいいけど、最近は自転車って色々煩いんじゃないの?ヘルメット着用とか、ながら運転とか。イヤホンで音楽聞きながらでも捕まるらしいぞ」
「ヘルメットは強制じゃないはずです。二人乗りは、もし警察に見つかったら石荒さんを囮にして私は速やかに逃げますので」
「お前なぁ、もう1台ウチに母の自転車もあるから、それ使え」
「自転車乗れないって言ってるじゃないですか」
「だったら土曜日練習な。出かけるのは日曜にしよう」
俺がそう言うと、桐山は眼を細めて無言で睨んできたけど、俺も同じように眼を細めて睨み返してやった。
桐山のせいで警察のご厄介とか冗談じゃない。コレばかりはどんなに睨まれようと譲れんぞ。
「え?自転車の練習もするの???私、自転車通学だから私も教えるのに付き合おっか?石荒くんよりも自転車慣れてるよ?」
「いえ結構です。受験生は大人しく家で勉強してて下さい」ピシャリ
「やっぱり私にだけ厳しいよぉ」
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