第13章 青梅雨

#75 部長と優等生に相談



 テレビの天気予報では、今週末には梅雨が明ける見込みだと言っていた。


 期末試験は滞りなく終わり、7月に入った今週からは通常授業や部活が再開された。



 次々と返される各教科の答案用紙にクラスメイトたち一喜一憂して、まるで教室が試験中の緊迫感から解放された様に賑やかだ。


 俺はと言えば、点数自体は中間試験とほぼ同程度だったけど、学年順位としては2つほど後退して5位だった。

 主要教科だけ見れば中間より上がってるし、まあこんなもんだろう、というのが今回の試験の感想だ。


 以前桐山にも言われたことあるけど、上位のほとんどを習熟クラスが占めている中での一桁は、かなり健闘してる方だと思う。

 だからと言って1位を目指しているつもりは無くて、自分では『やることやったらこの結果だった』といった感じだ。


 因みに中間の結果が悪くてのっぴきならない事情があると言っていた桐山は30位以内に入り、何とか挽回出来たそうだ。

 なんだかんだとプレッシャーを感じてた様で、結果が出た時は珍しくホッとした様子だった。


 六栗の方も相当頑張ってた様で、100番台になったらしく前回よりも大幅にアップしたと大喜びしていた。

 もしかしたら今の六栗は、中3の受験勉強の時よりも頑張ってるのかもしれない。

 次は100位以内を目指す!と更に上を目指す宣言もしていた。


 六栗も桐山も気が強いだけあって、負けん気と根性はあるんだよな。

 俺にはその辺りが足りてない自覚があるので、こんな風に目標持って頑張れる二人のことがちょっと羨ましい。



 そして、六栗とのデートの約束だけど、梅雨が明けてからと言うことで7月中の夏休みに入る前に県内の海水浴場に出かけることになった。

 夏休みに入ってからでもという話も出たけど、梅雨が明けたら直ぐにでも!と六栗が言うので、7月17日の土曜日に行くことになった。


 六栗は言わないし俺からもまだ話題には出さない様にしてるけど、7月17日というのは六栗の誕生日だ。

 きっと六栗としては、誕生日に合わせたかったのだろう。

 桐山もそうだったし、女子って誕生日を友達とかとお祝いしたい生き物なんだろうな。

 それにデートかどうかはおいても、俺だって六栗と二人きりでのお出かけは春休み以来なので、プレッシャーを感じつつも凄く楽しみだ。



 と言うことで、試験も終わったし今週末にでもプレゼントと水着を買いに行きたいところだけど、週末はまず間違いなく桐山がウチに来るから、どうするべきか。


 いっそのこと桐山も海水浴に誘うか考えたけど、その考えは直ぐに破棄した。

 そもそもデートって言われてるしな、桐山がついてきたら六栗だってまた怒り爆発しかねない。

 それに、最近は比較的肌の露出するようになった桐山だけど、精々生脚とか腕くらいで、人前で水着になるのは流石に無理だと思う。


 ならば、水着や六栗への誕生日プレゼントの買い物だけ桐山にも付き合って貰うというのも考えたけど、俺がそんなことをお願いすれば「デリカシーが足りない」とか言われそうで、それも気が引ける。

 精々、どんなプレゼントが良いだろうかとかの相談程度にしとくべきだよな。

 それでも面倒なこと言いそうで頭の痛いところだけど、女子が喜ぶプレゼントとかマジで分かんないから意見は聞いておきたい。



 と言うことで、放課後の部活中に桐山と菱池部長に相談することにした。


 8月一杯で引退予定の菱池部長は最後の作品として油絵を制作中で、桐山は練習に果物の水彩画を制作していて、俺も桐山と同じ果物をモデルに、スケッチブックにデッサンをしていた。


「二人に相談があるんですが」


「うん?ナニかな?」


 俺が手を動かしながら話しかけると、菱池部長は手を止めて返事してくれて、桐山は顔だけコチラに向けて無言のまま首を傾げている。



「二人に女子としての意見が欲しいんすけど、女の子への誕生日プレゼントってどんなのが喜んでもらえますかね?」


「んん?桐山さんの誕生日はもう終わってるよね?別の子?」


「ええ、私は既に先月プレゼントを頂きました。 石荒さんが私以外でプレゼントを贈る女性となると、六栗さんだけですよね?」


「うん、今月六栗の誕生日があるの」


「六栗さんって石荒くんの幼馴染さんだっけ?どんな子?どんな子?」


「一言で言えば、1年生の間では人気ナンバーワンと言っても過言では無い程の容姿と豊満な胸の持ち主なんですが、ジョークが通じないし短気で直ぐ怒りますし、ニコやかな笑顔に隠された鋭い視線は背筋が凍り付くほど恐ろしい女性です」


「・・・今の説明だと、ジョークが通じない以外は桐山さんとそっくりじゃ・・・あ、でも桐山さんもジョーク通じないことが・・・」


「ああ、確かにそうかも、流石菱池部長。二人とも凄く可愛いのに、直ぐ怒るしすげぇ怖いんだよな・・・っていうかジョークだって桐山自分は散々言うくせに他人のジョークには異常に厳しいとこあるし・・・因みに、容姿に関しては桐山がスーパーサイヤ人なら六栗はホモサピエンスで、俺と菱池部長は類人猿ですね」


「え!?私って類人猿なの!?」


「・・・」


 桐山が黙りこくった。


 いつもだったら直ぐに反応しそうな話なのに、黙ってしまうということは、少しは心当たりがあるということか。


「っていうか石荒くんって、桐山さんやその六栗さんとか可愛い子とばかり仲良くしてるの?真面目で硬派タイプだと思ってたけど、実はナンパなの?」


「石荒さんは硬派なのは坊主頭だけで、クールを気取って格好付けただけの思春期男子です」キリッ


「なんで自分の時は黙ったくせに俺の時は直ぐに反応するんだよ」


「勿論それは、私が石荒さんの心の友だからですよ」


「じゃあその心の友として相談に乗ってくれよ。女の子って何貰ったら喜んでくれるの?」


「えーっとですね・・・自分でネットなりで調べて下さい」


「心の友、軽薄すぎ!?」


 流石菱池部長、瞬時にツッコミ入れた。



 結局、菱池部長は「六栗さんって子がどんな子なのか分からないと分んないよ。私は食べ物なら何でも嬉しいかな。A5ランクの松阪牛とか貰えたら直ぐに嫁入りしちゃうね」という全く参考にならない意見で、桐山は「実際にお店に行って商品見ながらのが選びやすいのでは」という意見だった。



 ということで、桐山とは期末が終わったらラーメンを食べに行く約束もしてたのもあって、「今度の週末にラーメン食べに行くついでにプレゼント選びに買い物も行きましょう」と桐山の方から提案してくれたので、有り難くそうさせて貰うことにした。



 因みに菱池部長も誘おうと声をかけたら、桐山が「菱池部長は受験生なんですよ。本当にデリカシーが足りない石荒さんですね」と注意された。


 でも菱池部長が「ちょっとくらいなら」と来たそうな反応をすると、桐山が無言で睨んで黙らせていた。






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