#74 登校中の一幕
翌日の朝は曇ってはいたけど、雨は止んでいた。
しかし、天気予報で確認したら、お昼頃にはまた降りだすらしく、相変わらずジメジメとした気候だ。
そんな天候だったからなのか、朝は昨日と同じく髪をお団子に括った六栗が迎えに来てくれて、約束通り貸してたジャージを返してくれたので忘れ物の服を渡してから一緒に登校した。
日曜日は大変だったけど、昨日の朝には落ち着きを取り戻した様でいつも通りだった。
いや寧ろ、いつも以上にニコニコと穏やかな表情で口調にもトゲが無く優しかった。今朝もそんな感じだ。
六栗の性格は、俺や桐山とは真逆だと思う。
積極的だし感情的だし情熱的な面もある。
そういう意味では尊敬してるし、憧れもあった。
告白を断った俺みたいな男でも仲直りしようと歩み寄ってくれたし、それ以降も受け身で朴念仁の俺を中学の間はずっと引っ張ってくれてたと思う。
すぐに感情的になって怒ると手が付けられなくなるのは玉に
俺や桐山なんて、情熱なんていう言葉は無縁だしな。
そんな六栗の穏やかな表情や態度は、結構珍しいと思う。遊園地に遊びに行った時がそんな感じだったけど、それ意外では余り見た記憶は無いな。
「ケンくん、期末試験の勉強始めてるの?」
「ああ、ぼちぼち始めてるよ」
「そっか。私も今回はもっと順位上げたいから、早いうちから始めてるの」
「ほー頑張ってんだな」
「それでね、お願いがあるんだけど」
「うん?」
勉強関連でのお願いとなると、また勉強見て欲しいってことかな。
桐山にも同じこと頼まれてるから、被ってしまうな。
いっそのこと3人で勉強会とか・・・は流石にまだそこまでの仲でもないか。
「期末終わったら、デートしたいの」
「デート?」
「うん。春休みに遊園地行ったきりお出かけとかしてないでしょ?GWとか全然遊べなかったし、期末終わったらあとはすぐ夏休みだし」
「俺と?」
「うん、ケンくんと」
「デートっていうくらいだから、二人で?」
「うん、二人で」
「って、春休みの遊園地って、アレもデートだったの?」
「うん、デートだったけど。 あ、まさかケンくん、アレ、デートだと思って無かったの?」
「ああ、うん・・・」
あれは小遣い持つようになった俺がお金の使い方を勉強する目的のお出かけだったはずだけど。
「春休みの事は置いといて、期末のあとの話!今ヒナね、めっちゃ勉強頑張ってるんだけど、ずっと勉強ばっかしてるとしんどい時あるでしょ?でも期末終わればデートだ!って目標あれば頑張れると思うの。モチベってやっぱ大事でしょ?」
「そりゃモチベが一番大事だな」
俺は勉強に関しては目標意識はあまりないから、モチベーションの維持が大変なので理解は出来る。
ただし、デートの約束がモチベーションに繋がるかは不明だ。
「それで、どこか出かけたい場所とかあるのか?映画見たいとか、食べたい物があるとか」
「うんとね、海!海水浴行きたい!」
海だと・・・つまり、桐山が絶賛していたたっぷり熟した果実の様な胸が水着姿で拝めると言うことか!?
「おっけ。海水浴おっけ。俺も海行きたい」
「でしょ!?海行きたいよね!期末終わったら海デートだからね!」
「うん」
具体的な日程や場所はおいおい決めることになった。
しかし正直に言って、デートだと言われると身構えてしまう。
六栗や桐山とかと買い物やご飯食べに行ったり出かける事自体は慣れている方だと自分では思う。
でも、学校帰りとか思いつきでとかでその場その時の状況に流される様に行ってたので、服装とか全然気にする必要はなかった。
けど、改めて『デート』と言われてしまうと、女の子とのデートに相応しい服装とか考えないといけないとか、男の俺がエスコートしないととか、食事は変なのとこに連れていけないとか、色々プレッシャーを感じてしまう。
それに、海水浴となると、それ用に水着も用意しなくてはダメだろう。
俺が持ってる水着って、学校の体育用のヤツだけだし。
そして、前々から考えていた六栗の誕生日プレゼントのことも忘れてはならない。
桐山の時は日数的にも余裕が無い状況だったので急いで用意したけど、六栗の誕生日までまだひと月程度はある。
じっくり考えて喜びそうなものをチョイスする必要があるな。
しかも、期末試験が近いし試験勉強をしながらだ。
桐山の試験勉強にも付き合う約束してるし、アイツのことだから週末も押しかけてくるだろう。
時間的にも余裕が無い中、アレやコレやと考えたり準備したりとやること多くて忙しくなってきたな。
因みに、試験週間は来週からで部活も来週と再来週は休みだ。
今週は部活が火曜日の今日と木曜日にあって、月に一度の美化委員が水曜日にあるけど、花壇のお世話班は雨天だとお休みなので多分無いだろう。
それにしても女の子とデートってことは、もしかしてもしかすると、遂に俺も女運がアップしてるってことか?
いや、でも・・・相手は六栗だからな。
デートって言っても、あくまで幼馴染としてなんだろうな。
下手したら相手は誰でも良くて、俺を選んだのも、俺相手なら気を遣わないからとかその程度の理由かもしれない。
勉強のストレス発散に付き合う程度の話なんだろうし、勝手にその気になって勘違いでもしてたら、あとでガックリきそうだよな。
つまり、普段桐山に色々と付き合わされてるのと同じ様なものなのかもしれないな。
なら気負うことも無いか。
「なんかみなぎって来た!まだまだ勉強頑張れそうだよ!」
六栗はそう言って、両手の拳をシュッシュと前に突き出すようにシャドウボクシングを始めた。
「お、おう。頑張れ」
六栗が拳を繰り出す度に激しく揺れる胸に、桐山が敗北を認めたのも納得した。
第12章、完。
次回、第13章 青梅雨、スタート。
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