#72 微妙に辿り着けてない仮説
午後、5限の授業中。
世界史の教科担任が話すドロイーダの虐殺に関する退屈な講義を聞きながら、昨日のことを思い返していた。
俺の部屋ではドロイーダの虐殺に匹敵する程の地獄絵図の修羅場となり、ビビりの俺には気の強い女同士の喧嘩を治めるような度胸もなく、途中で現実逃避からの寝落ちして、夕方起きたら二人の喧嘩は治まっていた。
最終的に二人は和解したようだけど、これで一安心、と思うのは早計だと思う。
情報量が多すぎてまだまだ分からない事だらけだし、今後の事も色々と考えておかないといけないと思う。
とは分かってはいるものの、厄介なことだらけで何も考えたくないというのが本音だ。
実際に、昨日六栗達が帰ったあと一人になっても、面倒なことを考えたく無くてひたすら試験勉強して早めに寝ちゃったし。
でも、また六栗怒らせたり桐山に暴走されても困るのは俺だからな、逃げてばかりじゃダメなんだろうな。
まず一番に考えないといけないのが、六栗のこと。
桐山がウチに居たからって、なんであんなにも怒ってたのか。
そして、どうして桐山がウチに来てることを知ってたのか。
怒りの1番の理由は、俺が桐山と仲良くなってたことを隠してたからだろう。
でもそれなら普通、俺に対して怒りをぶつけると思う。
なのに、昨日は初っ端から桐山に対して怒りをぶつけていた。
俺にも怒ってたけど、俺の事は後回しの様だった。
兎に角桐山のことが気に入らない、そんな態度だった。
確かに桐山は挑発的だったし、六栗に対して強気の喧嘩腰だった。
でも、それは喧嘩が始まってからのことで、六栗は桐山のそんな態度を見る前から桐山に一直線に向かって怒っていた。
以前から何か揉めてたんだろうか。
でも桐山からはそんな話は聞いてない。
六栗の視線が怖いとは言ってたけど、表立ったトラブルは無かったと思う。
ではなぜあんなにも桐山に対して怒ってたんだろう。
1つの仮説を立ててみる。
六栗は嫉妬していた。
俺と桐山が付き合ってると勘違いして、嫉妬して桐山に怒りの矛先を向けていた。
でも、この仮説には重要な前提が必要となる。
六栗が嫉妬してしまうくらい、俺を好きだと言うこと。
『私のが先にケンくんのことを好きだったのに!』というやつだ。
自分で言ってて、超恥ずかしくなってきた。
自惚れるのも大概にしたほうがいいな。
高校に入ってからの六栗は、俺に対して微妙な態度が多かった。
告白男事件のことには未だに一切触れようとしないし、それ以外でも他の多数の男子から告白されてたことも六栗の口から直接聞いたことはない。
告白と言えば忘れてならないのが、俺と六栗には重大な過去のしがらみがある。
中2のバレンタイン、六栗は俺に告白してくれて、俺はその場で断ってしまったという過去。
六栗にとって今の俺は、過去の苦い思い出であり、そしていつも一緒に登校する幼馴染だ。
矛盾とも言える二つの事象が重なり合っていることから、六栗が俺に対して複雑な想いを抱いていることが推察される。
告白男のことを俺に言わないのは、過去のことを思い出すから言いたくないのでは無いだろうか。
なのに、そんな俺が恋人を作ったと思い込んだ。そしてその相手が、誰もが認める美貌の持ち主の桐山。
桐山に怒りの矛先を向けたのは、女子同士の対抗心なのかな。
六栗も桐山も学年で1、2を争う程の美少女で人気者だからな。
モテる女同士の対抗心があっても可笑しくない。
そんなライバルの桐山が、幼馴染の俺とこっそり付き合ってたと思えば、怒ってしまうのも理解は出来る。
俺だって、もし六栗が他の男子と付き合い始めたら、間違いなくショックを受ける。
六栗みたいに怒ったりはしないだろうけど、確実に凹むな。
しかもその男子が俺より全然イケメンで髪型も超オシャレだった日には、長年続けて来た坊主頭をやめたくなるほど泣いてしまうだろう。
そこまで考えると、何となく六栗の怒りの理由は見えてきた気がする。
そうなると、次なる疑問は、何故六栗は俺んちに桐山が居たことを知っていたのか。
これに関しては、マジで分からん。
偶々どこかで見かけたのか、他の誰かが見かけて六栗にリークしたのか。
それくらいしか思い浮かばないな。
この疑問に関しては直接六栗に聞くしかないけど、折角治まってる怒りをぶり返したりしないか怖くて聞けない。
ハッキリしてるのは、ドコでダレが見てるか分からない。
隠し事してても、いつかは必ずバレる、ということだ。
次に考えるのは、桐山のこと。
チラリと隣の席に視線を向けると、いつもと変わらず、お澄ましした表情で授業を聞いている。
その表情よりも、昨日顔を埋めてしまった胸の膨らみが気になってしまう・・・
この女は本当に何を考えているのか読めない。
根は悪い奴だとは思えないけど、自分の腹グロさを隠そうともしない。
いや、正確には、教室では猫を被って完璧なまでに本性を隠してはいるけど、俺と菱池部長の前では隠そうとしない。
そして昨日、その対象に六栗が加わった。
思うに、桐山にとって本性を曝け出せる相手というのは、心を許してる相手と言えるだろう。
つまり、六栗をそう認めたということじゃないかな。
挑発してたのは、六栗を怒らせる為だった。
桐山は俺に対しても普段からそうだしな。
あの女は俺を揶揄ったりイジったりして意図的に怒らせようとするからな。
六栗に対してもそうだったのだろうと思うけど、結果的には二人は和解してスマホの連絡先を交換していた。
もしかしたら桐山は最初からソレが狙いだったのか?
あれだけ挑発して喧嘩してたのに最終的におっぱいの大きさで敗北を認めたらしいが、六栗の軍門に下ったという様子でも無く対等な立場で喋ってたし、最終的に和解して友達になることを想定していた?
挑発して怒らせようとしてたのも、桐山流の仲良くしたいアピールだったのか。
本当は六栗と仲良くしたかったけど、六栗がいきなり喧嘩腰だったし、桐山も気が強いから最初からは素直になれなかったのかな。
なんだか、そんな気がしてきた。
それにしても桐山のヤツ、普段は『性犯罪者!』とか言って俺の事を蔑んでたくせに、六栗を怒らせる為とは言え、俺と付き合ってるって言い出して、やりたい放題してくれたな。
それに昨日は、回転寿司に行った時から腕組んで体密着させてきたりして、俺の目の前でタイツ脱いだりして、いつもとちょっと違ったんだよな。
ホントに恋人みたいな距離感だった。
多分、いつも俺のことをイジって反応を楽しんでる延長なんだろうな。
だから勘違いしてはいけない。
童貞の俺は『もしかして、桐山ってホントに俺のこと好きなんじゃないのか?』とか考えてしまいそうになるが、120%有り得ないからな。『またおっぱい触っても怒らないかも?』とか淡い期待など、木っ端微塵に粉砕されるからな。
いくら距離感が近くても、桐山には恋愛的、そして性的な思考は無い。
あんな美貌の持ち主が近くに居ると勘違いしたり押し倒したりしたくなるのが悲しい男の性だけど、絶対に謹まなくてはいけない。
少しでもそんな素振りを見せようものなら、嬉々として俺を罵倒するだろう。
けど昨日は、脚が痺れたせいで押し倒しちゃった時、全然怒ってなかったな。
それはそれで何考えてるのか分からなくて怖いけど。
桐山のおっぱい、柔らかかったな。
再びチラリと隣の席に視線を向けると、胸の膨らみが・・・
ヤバイ
授業中なのに、思い出したら勃っちゃった。
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