#71 少しの変化といつもの日常



 桐山の誕生日の翌日から、教室でも桐山と会話をするようになった。


 六栗に俺達の関係が知られてしまったから今更隠すのも白々しいということで、同じ美術部だから会話程度はするようになったという体でオープンにすることにした。

 とは言っても、桐山は教室では相変わらず猫を被ったままなので、挨拶や事務的な会話程度なんだけど。


 それでも、大草と芦谷からはアレコレ煩い事言われた。


 やれ「あれだけ仲悪そうだったのにどういう風の吹き回しだ?」だの、やれ「普通のヤツなら桐山さんの隣の席なんて大喜びなのに全然口きこうとしないから、イシケンは頭おかしいのかと思ってた」だの、やれ「これで気を使わなくて済むね」だの。

 桐山とのことを隠す為に仲良くないフリしてたけど、逆にそのせいで目立ってしまってた様だ。

 そのせいで、周りの連中にも気を使わせてしまってたことも分かった。


 自分たちでは目立たない様にしてたつもりでも、なんだかんだと超絶美人の桐山と坊主頭の俺とでは注目されてしまってたのだろう。

 逆に、こうやってオープンにするにはいい機会だったのかもしれないな。



 そして桐山の方は俺と会話するようになったことよりも、頭に付けてるバレッタのことで須美と野場の二人からあれこれ言われていた様だ。


 同じ女子からしれみれば、美人な上に綺麗な黒髪が憧れや注目の的だった上に、今までそういったお洒落アイテムを身に付けずにいたのに突然お洒落アイテムを付けて来たことが、些細な事とは言え目立ってしまった様だ。


 実際、アンティーク調の銀細工のバレッタは、ぱっと見ただけでも目に付くような存在感を放ってるしな。そんな状況な上に須美と野場の二人は桐山の誕生日を知ってたらしく、誕生日の翌日ということで『誰にプレゼントされたの?』『ついにカレシできたの?』とキャーキャー言いながら色々聞かれている様だ。


 プレゼントした張本人の俺としては、そんな会話が聞こえてくると俺の方がドキドキしてちょっぴり動揺してしまう。

 でも、桐山もバレッタのことを聞かれると、はぐらかしながらも嬉しそうな表情を浮かべてたし、色々悩んで選んだプレゼントをこうして使ってくれてるのを見ると、やっぱり嬉しい。


 こんな風に友達にプレゼントを贈る習慣は今まで無かったけど、これからは積極的に贈るようにしても良いかもしれない。

 早速来月には六栗の誕生日があるし、何か贈るべきだよな。

 桐山にはプレゼントしてて六栗には何も無しって分かったら、六栗絶対機嫌損ねるだろうし。



 そして、その六栗と桐山だが、教室では今までと然程変わらない距離感の様だ。

 挨拶程度はしてる様だけど、どちらからも積極的に話しかける様子は見られないし意識してる様にも見えない。


 まぁ、昨日のあの状況から連絡先交換出来ただけでも凄いことだと思うし、一晩経ってクールダウンすれば冷静にもなるだろ。

 二人ともバカじゃないし、教室でいがみ合うほど子供でも無いだろうしね


 と呑気なこと考えてたら、桐山からお昼に弁当持って美術準備室に来るように呼び出された。


 昨日二人の間で何があったのか聞きたかったし、桐山と二人きりになれるのは都合が良かったので4限が終わると弁当持って美術準備室に向かった。


 いつもの様にノックせずに扉を開けると桐山は既に来ていて、床に座って俺が来るのを待っていた。

 桐山と向かい合う様に俺も座ると、開口一番バレッタのことを話題に出してみた。


「学校にも付けて来たんだな。お陰で須美と野場にからかわれてたみたいだけど」


「ええ、とても素敵な髪飾りでしたので、つい自慢したくなってしまいました」うふふ


 会話しながらもお弁当を広げて、頂きますして食べ始める。


「桐山でもそんなこと思うの?」


「お母様の影響でしょうかね?お洒落に目覚めたのかもしれませんね」


「なるほどねぇ、なんだかんだ言っても桐山もJKだもんな。JKって知ってる?女子高生って意味なんだぞ?」


「それくらい知ってますよ。そんなことよりも相談があったから呼び出したんです」


「うん、なんだった?」


「期末試験です。中間試験では不甲斐ない成績でしたので、色々とのっぴきならない事情がありまして、今度の期末試験では挽回する必要があるんです」


「そっか。なら遊んでないで勉強頑張れ」


「・・・」


 俺が正論で答えると、桐山は箸を持つ手を止めて不満そうにジッと俺を見つめて来た。


「なに?俺に勉強教えろとでも?桐山は俺に教わらなくても自分で勉強出来るだろ」


「昨日六栗さんから聞きましたよ。豊坂高校合格圏外だった六栗さんを付きっきりで勉強見て合格させたと」


「確かに六栗の受験勉強に付き合ってたけど、合格出来たのは本人が頑張ったからだよ。俺は六栗がサボらないように厳しく監督してただけ」


「なるほど。大好きな六栗さんのことは鼻の下伸ばして付きっきりで手取り足取り面倒見れても、私はどうでもいい女だから面倒見てはくれないと言うことですか。ああそうですか。流石にそれは傷つきました。石荒さんにとっては私なんてどうでもいい女だったんですね。あれだけ二人だけの熱く濃密な時間を過ごして来たというのに、熱かったのは私だけだで石荒さんはどこまでもクール気取って格好付けるおつもりなんですね」


「はぁ・・・勉強見て欲しいなら六栗の話ださなくても「お願いします」って言えばいいじゃん。まさか嫉妬してるの?そういうの重いよ?面倒臭いよ?」


「石荒さん、誤解されてる様なのでハッキリさせたいんですけど、私が嫉妬?ツバキ姫と呼ばれ数多の男子生徒からの告白を全て断って来たこの私が、坊主頭の石荒さん相手に嫉妬ですか?」


「それももう聞き飽きたから。一緒に勉強するくらいならいつものことだし今更アレコレ言わなくてもいいよ。試験週間始まったら放課後ココで勉強するのか?」


「ノリが悪いですね。もっとこうパッション溢れる掛け合いがしたかったのですが」


 そんなことだろうと思った。

 この女の言うことを真に受けて、「そんなに俺に勉強教えてほしいのか?実は俺と一緒に居たいから口実で言ってるのか?」と思ってはいけない。絶対にだ。

 少しでもそんな素振りを見せようものなら、怒涛の如く「自惚れないで下さい!」とか「そんな目で私のことを見てたんですか!不潔です!」とか言い出すだろうな。

 実際に何度も言われたことあるし。


 六栗といい、桐山といい、可愛い子とは仲良くなれるのに、彼女とか出来る気が全くしねぇ・・・

 俺には恋愛運が皆無なのかな。




 弁当を食べ終えると俺からも昨日のことを聞くことにした。


「昨日六栗とどんな話したの?あんなに喧嘩してたのにどうやって六栗宥めたの?」


「それは秘密です。ですが1つだけ言えるとしたら、六栗さんのあの豊満な胸は、たっぷりと熟した果実の様でした。自慢してただけのことはありましたね。流石に私も敗北感を感じましたよ」


「え?胸?」


「ええ、胸です」



 昨日は事故とは言え俺も桐山の胸のふくらみに顔を埋めてその大きさと柔らかさに感動したけど、その桐山が敗北を認める程の胸だったと言うことか。

 っていうか結局、桐山が六栗のおっぱいに負けを認めて二人は和解したってことなのか?

 つまり喧嘩の勝敗は六栗に軍配が上がったということなのか。

 何だかよく分からんけど、女同士の喧嘩ってそういうもんなの?


 しかしどういうシチュエーションでおっぱいの確認したんだろう。

 二人で裸になっておっぱい勝負とかするのかな。

 童貞の俺には想像も付かない状況だな。


 にしても、今まで知らなかったけど、女同士の喧嘩って最終的にはおっぱいで勝敗が決まるんだな。

 男同士だと殴り合いとかだけど、女子は違うんだ。


 勉強になるなぁ。

 また1つ賢くなったわ、俺。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る