#68 少女も歩み寄ることにしたらしい





 夕飯を食べ終えると再び母にお手伝いを頼まれた六栗と桐山はエプロンを身に着けて、後片付けと洗い物の手伝いを始めた。

 俺も片付けくらいは手伝おうとしたけど、邪魔だからと自分の部屋に追いやられた。


 結局、俺が寝ていた間に何があったのかは食事中に聞くことは出来なかった。

 何とも言えない不安と焦燥感が残ったままだったけど、折角怒りが治まってる六栗がまた怒りだすのも怖いし、今日の桐山は何を考えてるのか分からない不可解さもあったから、無理に聞くような真似は出来なかった。

 どうせ俺には、ストレートに聞ける程の勇気なんて無いし、後でコッソリ桐山に聞くしか無いだろうな。



 じっと待ってても落ち着かないので机に向かって試験勉強をしていると、30分程で六栗と桐山も上がって来た。



「お疲れ様。ごめん、俺んちなのに手伝いばかりさせちゃったみたいで」


「別に気にしなくていいよ。ウチらも好きで手伝ってたし」


「私、家ではお料理のお手伝いとかさせて貰ったことなかったので、凄く新鮮で楽しかったですよ」


「そっか・・・。 で、その・・・」


「ん? あー、桐山ツバキとのこと隠してたのはもうイイよ」


「でもその、ごめん。騙すつもりじゃなくて、そのなんていうか・・・」


「ヒナのこと気を使って言わなかったんでしょ?だいたい聞いたから。もう怒って無いし、私の方こそ頭ごなしに怒り散らしてごめん」


 んんん?

 六栗の方が反省して謝ってるだと???

 こんなこと今まで無かったぞ?

 いつも俺の方から謝って何とか機嫌直して貰うパターンばかりだったのに、桐山はどんな裏技使ったんだ???


 桐山に視線を向けると、穏やかな表情で六栗を見つめていた。

 多分アレは、保護者目線だな。

 もしくは姉目線?

 今朝も16になったからってお姉ちゃんぶってたしな。


 って、桐山もどうしたんだ???

 あんだけ六栗のこと挑発してたのに???

 なんでそんな菩薩の様な表情してるんだ!?

 生焼けの肉でも喰って腹の調子が悪くてトイレ我慢してて無我の境地か!?


 二人とも気が強いから、そんな女同士の喧嘩が怖くて俺は現実逃避して逃げ出したってのに、マジで何があったというんだ・・・



 っていうか、そもそも六栗は勘違いしてる気がする・・・

 桐山とのことを六栗に話せなかったのは、別に六栗に気を使った訳じゃなくて、六栗が怒るの分かってたから単に怖くて言えなかったってだけなんだけど・・・


 でも、勘違いしてるっぽいとは言え、折角機嫌が治まってるのに態々本当のこと話して、また怒らせるのは愚かだろう。


 ココは勘違いさせたままのがイイ。絶対にだ。


「でもこれからはウソとかは止めてね。隠し事とか結構傷つくんだから」


「はい、ごめんなさい・・・以後気を付けます」


「それとアンタ、前に約束したアレ教えてよ」


 六栗は本当に俺の事を許してくれてるようで、この話題を打ち切る様に今度は桐山に話しかけた。


「約束ですか? アレってなんでしたっけ?」


「アレったらアレ!」


「うーん・・・なんでしたっけ」


「もう!その、スマホの連絡先!アンタ、スマホ買ったんでしょ!4月の最初に約束したじゃん!スマホ買ったら連絡先教えてくれるって」


「ああ、そう言えば」


「え!?二人とももうそういう仲なのか!?てっきり犬猿の仲だと思ってたのに・・・」


「ケンくんには関係ないの!この女と私の女同士の問題なの!男子は黙ってて!」


「おうふ」


 さっきまでは怒って無かったのに、今度は俺に怒り出した。


 さては六栗、本当は恥ずかしいんだな?

 桐山と友達になりたいのに、俺や桐山にそう思われるのが恥ずかしくて照れ隠しで怒ったフリで誤魔化そうとしてるな?

 なんだかんだと六栗とは付き合いは長いからな、俺にだってそれくらいは見破れるぜ。ふふふ。



「連絡先を教えるのは構いませんが、1つ条件があります」


「・・・何よ」


「私の名前は桐山ツバキです。『アンタ』とか『この女』と呼ぶのは止めてください。それが条件です」


「うう・・・分かったわよ」


「では、早速今から呼んで下さい」


「なんて呼べば良いのよ」


「そうですね・・・ツバキ姫? これからは私のことはツバキ姫と呼んで、心から敬って崇め奉って下さい。さぁ!恥ずかしがらずにどうぞ!」


「はぁ?バッカじゃないの?自分で自分のこと姫とかイタ過ぎるんだけど」


「六栗さんもまだまだですね。私のユーモラスでトラディショナルなジョークが分からないだなんて。菱池部長を見習って欲しいものです」はぁ


「・・・ねぇケンくん?桐山ツバキってこんなキャラなの?学校と違い過ぎるんだけど」


「ああ、これが桐山の平常運転で間違いない。その内モテ自慢とかも始めるから、かなりウザイぞ」


「石荒さん、今聞き捨てならないワードが聞こえた気がしたのですが。今、私のこと、ウ・ザ・イと仰いました?ソウルフルなフレンドで且つ姉である私を、ウ・ザ・イと?」キッ!


「ひぃ!?言ってない言ってない!だから睨まないで!?怖すぎるから!」


「はぁ・・・もう分かったって。ツバキね。これからはツバキって呼ぶから、だから私のこともヒナって呼んでね」


「いえ、私は今まで通り六栗さんと呼ばせて頂きます。呼び捨てとか私のアイデンティティに反しますので」キリッ


「なんでよぉ!!!この流れで何でそーゆーこと言えんの!!??やっぱ友達とか無理だし!」



 うん。

 俺もこの二人が友達になるのは無理だと思う。


 

 結局、なんだかんだと二人は連絡先を交換して、まだ雨の降る中、母の車でそれぞれの家に順番で送って帰って貰った。


 二人を送ってウチに帰って来てからお風呂に入ろうとしたら、洗面所の脱衣カゴには桐山が着ていた母の手作りワンピースと六栗が着ていたTシャツ&ショートパンツが残されていた。



 豊坂高校の1年では1,2を争う美少女二人が今日一日着ていた服・・・ゴクリ

 

 それぞれ手に取って匂いを嗅いでみたら、どちらも凄くイイ匂いがした。

 

 




 第11章、完。

 次回、第12章 向暑、スタート。





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