#67 少女は語り、優等生は何を思う
「家が近所で昔から知ってたけど遊んだことは無かったし、まともに会話するようになったのだって小5の頃で、でも、その頃からケンくんは凄くて私の憧れだった」
小学生時代の石荒さんを語る六栗さんに、軽く嫉妬してしまいます。
私も小学生の石荒さんに会ってみたい。当時から坊主頭だったと聞いてるので、その石荒さんの頭を思う存分ワシャワシャしてみたいです。
と、そんなことは今はどうでもいいですね。
「中学でも同じクラスになったから、仲良くなりたくていつも私から話しかけてた。それで中2の時のバレンタインにチョコ渡して告ったらフラれてギクシャクしちゃって」
「ハイィィ!?今フラれたって仰いました!?六栗さんが?石荒さんに???」
「大声出さないで。今でもトラウマなんだし」
「す、すみません・・・驚き過ぎて配慮に欠けてました」
「・・・そんで仲直りしたくて、強引に幼馴染っていうことにして、これからも仲良くしようって仲直りして、それからはお互い幼馴染ってことになってる」
「なるほど・・・つまり、恋人になれなかったからせめて幼馴染としての立場に収まったと」
「うん・・・」
「そうだったんですか。色々と誤解していたようです。酷い事言ってしまい、すみませんでした」
「別にいいし・・・アンタに言われたコト、自分でも分ってたし」
六栗さんのフラれた後の想いと行動は、恋愛経験の無い私でも理解は出来ます。
寧ろ、今の私も同じような物かもしれません。
石荒さんの傍に居たい。
石荒家の家族になりたい。
少しでもそう近づきたいと思い、『心の友』や『ソウルフルなフレンド』などと言って、親しさをアピールしてきました。
その想いと行動は、六栗さんのそれと似ている様に思えます。
それにしても・・・
六栗さんをフったとは、石荒さんはバカなんでしょうか?
何を考えてるのでしょうか?
私が有象無象の男子から告白されてたのとは訳が違いますよ?
あれだけ普段から六栗さんのことを気にかけ大切にしてるのに、実は石荒さんが一番六栗さんを傷つけていた元凶だったとは。
「アンタ、今ケンくんのこと理解出来ないバカだって思ったでしょ?」
「ええ、六栗さんからの告白を断る男性が存在すること自体、私には理解できません」
「当時は私も納得出来なかったし腹も立ってた。でも今はそんなこと思って無い。ケンくんは私の為にいつも一生懸命になってくれてた。だからケンくんには感謝しないといけないのに、いつも私が感情的になってケンくんのこと責めて、私の方こそ恩知らずのバカだし」
「そうですか・・・でも確かに私の知ってる石荒さんは、他人を傷つけるような人ではありませんね。たまにどうしようもない程バカに見える時もありますけど」
「ケンくんはホントに凄い人なの。周りからバカにされてもいつも堂々としてて恰好イイし、豊高合格圏外だった私の受験勉強にずっと付きっきりで面倒見てくれて合格させてくれたの」
石荒さんを『凄い人』だと話す六栗さんの横顔は、心なしか誇らしげに見えた。
「でしたら、石荒さんのことはもう許せそうですか?」
「分かんない・・・でも、いっつも怒る度にあとで引っ込みつかなくなって後悔して、その度にケンくんの方から謝ってくれて何とか仲直り出来るようにしてくれてたから、いま冷静になってくるとまたケンくんに謝らせちゃうのかって罪悪感もあるし」
もしかしたら、石荒さんもずっと罪悪感を感じてて、六栗さんに気を使い大切にしてるのでしょうか。
フッて傷つけたことに罪悪感をずっと抱いたままなのでしょうか。
石荒さんの性格なら、そんな気がします。
六栗さんをフッたことは理解出来ませんけど、もしそうなら、その行動は石荒さんらしく思えます。
六栗さんが本音を話して下さって、今まで分からなかったことを知ることが出来ました。
過去に六栗さんは失恋して、今でもそのことを引き摺ってるんですね。
そして石荒さんは六栗さんを傷つけたことに、今でも罪悪感を抱いているんだと思います。
ここまで知ることが出来ましたが、想像以上に複雑でややこしい事情があったということでしたね。
「色々聞かせて下さって、ありがとうございました。そろそろ出ましょうか」
「ん」
私が声を掛けると六栗さんが立ちあがって、湯船から出ようと少し前かがみになりながら片足を湯船の外に踏み出した。
すると、私の眼の前で前かがみになっている六栗さんの豊満な胸が、たっぷり熟した果実の様に重力に引っ張られて垂れ下がり、ぷるんと自己主張していた。
無意識に右手を伸ばして、その重みを確かめる様に持ち上げていた。
「ちょい!勝手にさわんなって言ってんでしょ!!!」
「す、すみません。つい出来心で」
バスルームから出て体を拭き終えて着替えも済ませると、「髪を乾かすの、私にやらせて下さい」と申し出た。
「はぁ?また隙見ておっぱい触るつもりでしょ?」
「もう許可なく触ったりしませんから」
「アンタの言うことなんか信用出来んし」
「だったら腕で隠してて下さい。それなら触られる心配も無いですよね?」
「むー・・・分かった。でも変な事したらぶっ飛ばすから」
「ハイハイ」
ドライヤーを送風モードで当てながら手櫛で解すように乾かしていく。
六栗さんのトレードマークとも言えるクセ毛はクリクリとしてて柔らかくて、直毛の私には憧れがあったので、こうして直に触れるのは少し楽しかった。
六栗さんも口ではブーブー言いながらも、穏やかな表情を浮かべていた。
「でもさ・・・フラれてたって憧れるのは自由でしょ? ずっと憧れ続けても、良いでしょ?」
六栗さんは髪が整い気持ちが落ち着いたからなのか、バスルームでの話の続きを話し始めたので、一旦ドライヤーを止めてから答えた。
「そうですね。それは六栗さん、いえ、女の子の権利だと思います。だから、私が誰かをお慕いするのも私の自由です」
「そっか、女の子の権利かぁ・・・」
「因みに、男子にはその様な権利は認められてはいません」キリッ
「それには私も同意」
「フフフ」
六栗さんの髪を乾かし終えるとツインテールに結うのもさせて貰い、ムフフと満足した私は自分もバレッタを付け終えて、二人揃ってリビングに居たお母様にお礼と報告を伝えた。
「お風呂ありがとうございました。お蔭様で六栗さんとゆっくりお話し出来ました」
「ありがとうございました」
「良かったね。 それで夕飯なんだけど、二人とも焼肉でもいい?」
「いえ!お昼ご馳走になったばかりなのに!」
「いいのいいの。実はツバキちゃんのお母さんに電話して先に許可とっちゃったの、うふふ。ヒナちゃんも食べて行くでしょ?」
「えっと、その・・・はい」
「じゃあ今から準備始めるから二人ともお手伝いして頂戴!」
お母様は機嫌良くそう言うと、私と六栗さんにそれぞれエプロンを渡して、台所へ行ってしまった。
因みに、後で聞いたらこのエプロンもお母様のハンドメイドだそうです。
「六栗さん、お料理は出来ますか?」
「まぁ少しは。アンタは?」
「聞かないで下さい」
「・・・」
案の定、私だけ何も出来ずにお荷物で、でもお母様が手取り足取り包丁の使い方や野菜の切り方などを教えて下さり、食材の下ごしらえをなんとか終えることが出来た。
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