#63 少女と優等生の差




 かれこれ20分以上は言い争いを続けてた。

 お互い一歩も引かず、ケンくんの前だと言うのに女の醜い感情を曝け出して、頭に血が上ってた私は完全に冷静さを失ってた。


 すると突然、ベッドに座る桐山ツバキは人差し指を口に当て「シッ!静かにして下さい」と言って立ち上がった。


 何かされるのかと身構えていると、桐山ツバキは部屋の隅で寝転んでるケンくんの傍に近寄って行った。


 そして、ケンくんの様子を確認すると無言のままベッドに戻って、掛け布団を抱えて再びケンくんの傍に戻って掛け布団をケンくんに掛けて、その場に腰を降ろした。



「寝ちゃいましたね。 石荒さんにも言うべき事がありましたが、これでは方針を変更せざるを得ませんね」


「え!?いつの間に・・・」


「兎に角、起こしたら可哀想なので、第三幕は少しトーンを落として話しましょう」


 そう言いながら先ほどまでの挑発的な表情では無く、穏やかな微笑みを浮かべてケンくんの頭をそっと撫で始めた。


 私は頭に血が上っててケンくんの様子なんて全く気遣えなかったのに、この女は私とあれだけ言い争いしててもケンくんの様子を気に掛けれるほど余裕があったっていうの・・・?


 自分に余裕が無いこと。

 桐山ツバキには余裕があること。

 その差に初めて気づいて、なんとも言えない敗北感を感じた。



「それに、お互いもう少し冷静になってお話しませんか?」


「・・・」


「六栗さんが私のことを気に入らないのはよく分かりました。私もずっと六栗さんのことが苦手でしたし」


「あっそ」


 完全に冷静さを取り戻している相手に対して、強がりしか言えない自分が子供じみて嫌になる。



「でも、ずっと羨ましくもありました」



 桐山ツバキはケンくんの頭を優しく撫でる様にしながら、私のことを「羨ましい」と言い出した。

 敵意は感じられないけど、でも油断は出来ない。


 さっきまでずっと挑発的なことばっか言ってたのに急にそんなこと言われても、素直に「ハイそうですか」ってなれるわけない。

 それに、私よりも容姿もスタイルも学力も上で、女として桐山ツバキに勝てる要素なんて無くて、私こそ羨ましいくらいだ。

 あ、でもUN〇がデカそうなのは羨ましくないけど。

 

 いや、UN〇がデカいなら、便秘で悩むことも無いのか。

 だからお肌があんなに綺麗なのかな。

 ならやっぱりUN〇がデカいのも羨ましい。


 って、今はUN〇の大きさなんてどうでもいいんだ。



「今度は何を企んでるの」


「企んでなんていませんよ。六栗さんと腹を割ってお話ししようと思ってるんです」


「アンタの言うことなんて信じらんない」


「信じられなくて当然です。それが普通なんです。私だってずっと他人の言葉や態度を信じずに16年間、上辺だけ取り繕って生きて来ましたから」


「何が言いたいの」


「そんな私にも無条件で信じられる人が居ます。それが石荒さんです」


 ケンくんを無条件で・・・?


「六栗さんは石荒さんにウソ付かれてたことが腹立たしいですか?もう信用出来なくなりましたか?」


 ケンくんは、ウソついていた。

 意図的に私を騙していた。

 だから、今は信じる事は出来ない。


 肯定の意味を込めて、無言で二人を睨み付ける。



「では、どうして石荒さんはアナタにウソをついたと思いますか?」


「・・・私に隠れてアンタと会うためでしょ」


「そうですね。でも、もし石荒さんが六栗さんにそのことを伝えてたらどうしてましたか?友達が増えて良かったね、と言ってあげることが出来ましたか?それとも、あんな女と仲良くするな、と怒りましたか?」


「・・・」


「私たちの関係を隠そうとしたのにはお互いそれぞれの事情や理由がありました。 だから、結果的に石荒さんは六栗さんを騙してしまった形になりましたが、そこに悪意は無かったと思います」



 確かに、今までのケンくんなら悪意を持って他人を騙そうだなんてしない。

 いつもバカ正直でエエ格好しいで、他人を陥れるようなことなんてしない人だ。

 どちらかというと、騙されやすそうなくらいだし。



「隠し事されたりウソを付かれるのは腹立たしいでしょうし、騙されたと思うのは仕方ないでしょうけど、石荒さんは六栗さんの事を思いやってのことだったのではないでしょうか」


「・・・」


「石荒さんにとって六栗さんは特別です。傍で見てるとどれだけ大切にしてるのか分かります。アナタのことで何度も相談されましたから」



 以前は、私には優しいし凄く甘かったから、他の女の子とは違うんだ、特別な存在なんだって思ってた。

 でも、桐山ツバキとの関係を見せつけられ、その認識は覆されたばかりだった。



「私なんかよりもアンタの方が特別扱いされてるようにしか見えないけど」


「そんなことありませんよ。 石荒さんにとって私は、仕方ないから一緒に居るだけの友達です。同情みたいなものですね。 でも六栗さんに対しては、今の関係が壊れることに何よりも恐れている程、気を遣っている様に見えます。それだけアナタのことが大切なんだと思います。だから私との関係も隠そうとしたんじゃないでしょうか」


「さっきまでと言ってることが全然違うんだけど?急にそんなこと言われても全く信用出来んし」


「それは、アナタと石荒さんの本音を引き出したかったから、わざと怒らせようとしてただけです」


「はぁ?ナニ言ってんの?」


「ずっと不思議だったんです。どうして六栗さんは石荒さんのことが好きなのに、お付き合いしないんだろうかと」


「んな!?んなわけ無いし!べ、べべべ別にケンくんのことすすすすす好きなわけじゃないし!かかかか勝手なこと言うなし!」


「もうそういうのはいいですから。私は六栗さんの本音が聞きたいんです」


「・・・」


 私の本音・・・


 私の本音を全て曝け出せば、きっと今まで以上にケンくんを振り回して、ケンくんにとって重くて迷惑な存在になってしまう。


 やっぱ、本音を曝け出すなんて無理。

 フラれた時の悲しさ、惨めさ、辛さを知らないからそんなことを言えるんだ。

 何もかも中途半端な今の私じゃ、またあの時の二の舞になるのが目に見えてるし。



「何も知らないくせに、簡単に言わないで」


「なら、どのような事情があるのか、私に教えてくださいよ」


「なんで友達でもないアンタに教えないといけないのよ!」


「私が石荒さんと心の友だから?もしくはお姉ちゃんだから?」


「ふざけないで!」


「ふざけてませんよ。大真面目です」キリッ


「その顔も態度も信用できんし!」


「うーん・・・では、私もこれまでのことを本音で話しますから、六栗さんも話して下さいよ」


「・・・」



 この女、本当に何がしたいのか、全然読めない。

 でも桐山ツバキは、そんな私の戸惑いなど気にすることなく、語り始めた。



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