#61 少年はまた繰り返す



 六栗と桐山がやり合ってる間に状況を整理しよう。



 今日は桐山の誕生日でウチの家族でお祝いしていたが、桐山は回転寿司で食べ過ぎて、俺の部屋のベッドに横になって休憩していた。

 そこに六栗が急襲して、桐山が居ることに激怒。

 激怒する六栗を桐山は更に挑発して女同士の喧嘩に発展。

 俺は恐怖で逃げ出したい。


 因みに、桐山はウチの母の手作りワンピースに生脚を出した清楚なのに色っぽい装いで、今は教室に居る時みたいにお澄まししてお嬢様然としている。

 対して六栗は、着ていたジャンパーは脱いで、家に行くとよく見たTシャツと短パンの部屋着スタイルのむっちりした太ももが相変わらず健康的でエロイが、妖怪みたいにクセ毛を爆発させてていつもの可憐さはナリを潜めている。


 一番のポイントは、六栗が怒ってることだ。

 その理由は、桐山が俺の部屋に居たからだろう。

 更に掘り下げるならば、これまで俺と桐山が仲が良いのを内緒にしてたことが、付き合ってるとの疑惑を抱かせ、六栗にとっては面白く無かったんだと思う。


 でも、普通に考えると「誰々と友達になった」とか逐一報告する必要ある?

 そんな報告、普通はしないよな。

 俺だって六栗が誰と仲良くしてるかなんてほんの一部しか把握していない。


 付き合ってる疑惑に関しては、俺は完全に否定している。

 しかし、何故か桐山は俺と付き合ってるかのような言動を繰り返してる。

 桐山が何考えてるのかは分からんが、俺が完全否定してる以上はそのことで責められるのは違うと思う。


 しかし、六栗にはそんな正論が通用しないのもまた事実。

 現に今、滅茶苦茶怒ってて、手が付けられない状況だ。


 今更言っても遅いが、最初から隠さずオープンにすれば良かったという話だが、それに関しては俺も桐山もオープンにするべきでは無いとの判断だった。


 つまり・・・どうすればいいの?

 この状況、どうすれば、六栗を納得させて機嫌を直せるの?


 と、状況整理したところで何1つ解決策が見出せない俺は、正座して首を垂れたまま沈黙を続けていた。




「六栗さん。アナタは石荒さんに幼馴染という首輪をはめて、ご自分のペットか何かと勘違いされてるんじゃないのかしら?」


「はぁ?そんなこと思ってないし!」


「でしたら、どうして石荒さんの交友関係に口出しするんです?石荒さんが誰と遊ぼうと誰とお付き合いしようと、アナタにそれを干渉する権利はありませんよね?」


「だったらなんなん?アンタにだって私のこと、文句言う権利無いんですケド?」


「いいえ、私は石荒さんのソウルフルなフレンドなので、石荒さんを困らせる様な人が居れば、私が石荒さんを守ります」


「つまり、アンタは私を敵だって認識したってことね」


「ええ。そしてアナタは私だけではなく石荒さんにとっても、敵だということになります」


「そんなわけ無いし!!!私はいつだってケンくんの味方だし!」


「だったら石荒さんの意思を尊重して下さい。石荒さんはこの私、桐山ツバキというソウルフルなフレンドを、心の底から大切にしてるんですから」


「だからソウルフルなフレンドってなんなん!?」


「身も心も全て曝け出し合って、心も体も通じ合ってる友です」


「おいコラ!また誤解を招くようなことを言うんじゃない!体を晒したことも通じ合ったこともねーだろ!」


「今後そういう未来も、無きにしも非ずです」


「へー、じゃあ体はまだだけど、心は曝け出し合ってて通じ合ってるんだ?」


「いや、それはその・・・・ちょっとだけ?」


「ケンくんまで!ムカツクムカツクムカツク!ムカツク!!!」


「六栗さん、嫉妬心丸出しはみっともありませんよ? 私のことを嫉妬するほど羨ましいのなら、アナタも心も体も曝け出せば良いんじゃないですか?」


「ぐぬぬぬぬ」


「私は、石荒さんの為ならなんだって出来ますよ?今ココで、全てを曝け出しましょうか?」


 桐山はそう言って立ち上がると、ワンピースのボタンに手を掛けた。


「おいコラ!脱ぐんじゃないよ!」と言って制止しようと慌てて立ち上がるが、正座してて足が痺れてたせいで上手く立ち上がれず、「おあ!?」と変な声を出しながら桐山に向かって倒れ込んだ。


 一瞬、六栗のスカートを脱がせてしまった時のことが頭を過り、咄嗟の判断で服を掴んだりしないように両手を拡げた。


「きゃ♡」


 両手を広げたせいで桐山に抱き着いてしまい、押し倒す様にベッドに倒れ込むと、俺の顔面が桐山の胸にうずまり、女性特有の甘い香りが鼻孔をくすぐった。



 時が止まった。


 俺に押し倒されたまま動こうとしない桐山。

 顔面に押し付けられた柔らかな感触の正体に気付いて、動けない俺。


 この瞬間、二人だけの世界に・・・



「こんな時にナニしとんじゃぁい!!!」


 俺と桐山の二人だけの世界に割り込んで来た六栗にタックルされた俺は吹き飛ばされ、フローリングの床をゴロゴロと転がり、壁にぶつかって止まった。



 のっそりと上半身を起こすと、頬に感じた感触から桐山の胸のサイズを想像して、両方の掌でそのサイズを再現して見つめる。


「桐山のおっぱい、おっきくて柔らかかった・・・」


「い、いいい石荒さん!アナタという人はやっぱり!飢えた獣デス!」


「アンタたちなんなん!!!さっきから見せつけしくさって!」




 もういいや。

 桐山の柔らかいおっぱい触れたし、六栗の機嫌を宥める糸口すら見つからないし、どうにでもなれ。


 俺は二人に背を向けフローリングの床に横になると目を閉じて、脳内で桐山のおっぱいの感触を反芻することにした。



「と、とうとう一線を越えてしまいましたネ。こ、これで石荒さんと私は本当に身体的にも繋がりましたので真の友になりましたヨ?口先ばかりのただの幼馴染さんは指を咥えて見ていればいいんデス」


「おっぱい触って貰ったくらいで偉そうにすんな!おっぱいなら私のが勝ってるし!」


「おっぱいおっぱい煩いですね。アナタ、本当にそれしか無いんですか?おっぱい以外で私に張り合えるもの無いんですか?所詮はただの幼馴染ですね」


「ムキィィィィ!!!」



 戦線離脱した俺を他所に、六栗と桐山は相変わらず不毛な言い争いを続けていた。

 窓の外では雨が降り続け、雷の音も聞こえ始めている。


 二人が『おっぱい!おっぱい!』連呼するのを聴いていると疲れがドッと出てきて、俺はいつの間にか寝落ちしていた。







 第10章、完。

 次回、第11章 風待月、スタート。



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