#60 優等生の芽生えた恋心と覚悟
今まで、恋愛というものに興味が無く、なのに私自身がその対象とされることが多かった為、いつしか嫌悪すらするようになっていました。
「好きです!付き合って下さい!」
「一目惚れしました!僕の恋人になって下さい!」
「僕に相応しい女性はキミだけだよ」
「君のことを考えると、胸が苦しくなるんだ・・・」
「いつかきっと君のことを振り向かせてみせる!だから僕のことをずっと見ててくれ!」
「お小遣いあげるから、おじさんと楽しいことしないかい?」
アナタは好きだとしても、私は好きでも無い人とどうして付き合わなくてはいけないんですか?
一目惚れって「見た目だけで好きになりました。人格はどうでもいいです」と言ってるのと同義だと分ってて仰ってますか?
百歩譲って私がアナタに相応しかったとしても、アナタは私には相応しくないです。
胸が苦しいなら、こんなところで遊んでないで急いで病院に行って下さい。
どうして赤の他人の成長を見届けないといけないんですか?「ずっと」とは、具体的にいつまでですか?
取り合えず通報しました。
本当にウンザリです。
付き合うってなんなんですか?
恋人になったら何があると言うんですか?
一方的に好意を押し付けられる私の迷惑を考えたことがありますか?
中学生の間は、唯々面倒で理不尽な気持ちにしかならなかった。
そんな私ですが、石荒さんとの出会いで少しだけ異性への見方が変わりました。
石荒さんにはこれまで見てきた異性とは違い、下心や嫌味妬みなどが全く無かったんです。
だから、異性に対して初めて心を開くことが出来ました。
その結果
構いたい。
構って欲しい。
もっと話を聞いて欲しい。
一緒に居たい。
このように、異性に対して生まれて初めて好意を抱く様になりました。
でも、その気持ちはまだ恋ではありませんでした。
それは友情であり執着心であって、恋とは呼ばないでしょう。
石荒さんと過ごす時間は、楽しいです。
多幸感に包まれます。
落ち込んでても、元気に変えてくれるんです。
だから、執着してしまうのは仕方が無かったと思います。
でも、16歳を迎えた今朝、私の中である想いが芽生えていたことを知りました。
今日が誕生日であることに親ですら触れてこなかったのに、石荒さんは開口一番『誕生日おめでと』と仰ってくれました。
私が何か言うよりも前にです。
他の誰よりも一番に私を祝ってくれたんです。
親ですら言ってくれなかったのに、石荒さんにとってそれは当たり前のことなんです。
おはようの挨拶と同じことなんです。
私はそのことが堪らなく嬉しかった。
そして、そんな石荒さんのことが抱き着いて頬ずりしたくなるほど愛おしかった。
勿論、頬ずりなんてしませんけど。
きっとコレが恋心なんですね。
こんな衝動が湧いてしまうのが、恋なんですね。
生まれて初めてその感情を知りました。
16歳の誕生日を石荒さんと過ごしたいと思ったのはどうしてなのか、最初は自分でも明確な理由は分かりませんでした。
GW以降毎週末、石荒さんのお家に通い、石荒さんや石荒さんのご家族と過ごす様にしていました。
今年の誕生日が偶然日曜日だったから、何も無いまま過ぎてしまうのは寂しいし、別にお祝いやプレゼントなどを要求するつもりは無いのだから、いつもとは少し違う日曜日なんだと意識し貰えるだけで十分だと思っていました。
今にして思えば、『誕生日おめでと』と石荒さんに言って欲しかっただけなのかもしれません。
でも、石荒家の皆さんは、そんな私の浅はかな想いなど全て見透かしていたかのように、私の想像など軽く上回る程の愛情を与えてくれました。
家族ですら私の誕生日のことなど触れては来なかったのに、みなさん、それが当たり前のことのように、笑顔で私を迎え入れてくれて、そして無償の愛情を与えてくれました。
そうなんです。
石荒家の皆さんは、私に何も求めていないんです。
何かを要求してくることも、何かを強要したり押し付けてくることもありませんでした。
そして、家族の一員同様に扱ってくれるんです。
自分のお家よりも大切な場所だと思ってしまう程に、温かくて優しくて、そして心が安らぐんです。
だから私は、この居場所を守りたい。
何があってもこの場所を譲りたくは無いです。
でも、それは私の我儘なんだということも理解しています。
石荒さんはこの世に一人しか存在しない。
私がいくら石荒さんを独占したくとも、それは石荒さんの意思にそぐわないことも知っています。
石荒さんには、私と知り合う前から好意を寄せている女性が居ました。
でも石荒さんは、その女性を大切にしては居ますけど、恋愛にまで発展させようとはしていません。
本人も、今後告白することは無いと仰ってました。
そして相手の女性の石荒さんに好意を持っていると思わせるような振る舞いを度々見て来たので、お互い相思相愛なのに関係を進めようとしていないかのように見えてました。
そのことを都合よく解釈して、私は私の居場所を守るために、敢えて石荒さんの意思を無視して、この居心地のいい石荒家を私一人で独占してきました。
今日だって、最初はこの大切な居場所を奪われたくなくて、真向から戦うつもりでした。
でも先ほど、その女性の石荒さんへの激しい想いに触れることが出来て、少し考えが変わりました。
やっぱり二人は想い合ってて、でもその想いが噛み合ってないんですよね。
私が知り合う前からきっとそうだったんです。
何か事情があって今の様な関係が続いているのでしょう。
だから、その事情を壊す必要があるんだと思います。
でもそれは、きっと本人達には出来ないこと。
だから時間だけが過ぎて、今までズルズルと引き摺ってきたのではないでしょうか。
二人の関係を進めるには、誰かがその事情を壊す必要があります。
私なら、きっとそれが出来る。
そして、それが石荒さんへの恩返しになるはずです。
私も覚悟が必要なのだと悟りました。
今は、芽生えたばかりの私の恋心なんて、出る幕じゃありません。
腹グロい?
性格ブス?
そんなこと言われなくても知ってますよ。
15年間、ずっと本心を隠して愛想笑いを振りまいて、優等生のふりをしてきた自分が一番分かってますよ。
寧ろ、15年間ずっと仮面を被って周りを騙し続けた私なら、きっとやり遂げることが出来るはずです。
覚悟して下さい、六栗さん
そして、石荒さん
さぁ、第二幕の始まりです。フフフ
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