#58 少女VS優等生




 ドンドンドンドン!


 なんだなんだ?

 最初、母かと思ったけど、母はこんな風にドアを叩くようなことはしない。

 むしろ、こんな風に五月蠅くしたら怒るだろう。



 ドンドンドンドン!


 寝ようとしてた桐山もドアを叩く音で起きて、二人で無言で見つめ合う。



 ドンドンドンドン!


『ケンくん!!!桐山ツバキもソコに居るんでしょ!』



 六栗だと!?


 ヤバイヤバイヤバイ!超ヤバイ!!!

 どうしよどうしよどうしよ


 って桐山、布団被って隠れやがった!!!

 俺一人に押し付ける気かよ!!!



 と、とにかく、落ち着いて貰うしかないか・・・

 超怖いよぉ

 めちゃくちゃ怒ってるの見なくても分るし



 ビビりながらドアの前まで行き、そーっとドアを開くと、ソコにはノーメイクで鬼の様な形相の六栗が俺を睨むように立っていた。

 高校に入ってからはいつもツインテールにしてたのに、今日は結んでなくて、妖怪みたいにクセ毛がボサボサに爆発している。


 外は雨降ってるもんな。

 クセ毛だと湿気に弱いんだろうな。

 俺は坊主頭だから雨とか関係ないし、濡れても平気なんだぜ。

 って、現実逃避してる場合じゃないぞ!!!



「ど、どしたの急に・・・」


「桐山ツバキは、ドコ?」


「え?ダレそれ?」


「とぼけないで。全部知ってるんだから」



 全部知ってるってどういうことだ!?

 GWに毎日ウチに遊びに来てたことか!?

 美術部に揃って入部したことか!?

 放課後部活無い日でも一緒に居ることか!?

 休みのたびに桐山がウチに来てることか!?

 今日桐山の誕生日でウチの家族でお祝いに回転寿司に行ってたことか!?

 まさか、桐山の生脚にドキドキしてこっそり触ろうと欲望を滾らせていたこともか!?


 思い当たることが多すぎて全身から汗が噴き出していると、六栗は「入るよ」と一言だけ言って、俺を押しのける様に部屋に入って来た。



 もうダメだ。

 この二人が衝突したら1年5組が地獄絵図になると警戒してたけど、1年5組じゃなくて俺の部屋が地獄絵図待ったなしだ。



 六栗は部屋に入ると真っすぐベッドに向かい、立ち止まると、不自然に膨らんでいる布団を掴んで一気にめくった。


 布団の中からは肩肘ついて横になってる桐山が現れ、何故か笑みを浮かべていた。



「なんでアンタがココに居るの?」


「ご想像にお任せします」フフ


「・・・」


 睨む六栗と微笑む桐山。


 無理過ぎる。

 こんなのどんなに修羅場経験豊富な恋愛マスターでも無理だ。

 真性チェリーの俺にはどうこう出来るレベルじゃないぞ!



「と、ととととととにかく落ち着くんだ六栗!」


「・・・」


「私、休んでたところなんです。用が無いのなら、お引き取り願えませんか?」


「あああ!まさか! ベッドで何してたの!?二人で何してたのよ!!!」


「おおおおぅ!六栗、それは流石に誤解だぞ!!!」


「さて?なんでしょうね?年ごろの高校生がベッドですることなんて、決まってると思いますけど?」


「おいコラ桐山!誤解を招くようなことを言うんじゃない!」


 慌てて桐山を黙らせようとベッドに駆け寄り口を塞ごうとすると、桐山は抵抗しながら更に六栗を挑発しはじめた。


「誤解じゃありませんよ?私と石荒さんはいつもこうしてイチャイチャする仲なんですからね?毎日毎日ワシャワシャして心も体もスッキリ満足してるんですよ?今日だって朝からずっと一緒に仲良く寄り添ってたんですから」


「こら!適当なこと言うんじゃない!」


「ムカツクムカツクムカツクムカツク!なんで私の前でイチャついてんのよ!」


「いやコレは取っ組み合ってるだけでどう見てもイチャついてはいないだろ」


 俺が否定の弁を述べた瞬間、それまで抵抗していた桐山が両手両足使って俺にしがみ付く様に抱き着いてきた。

 お前はコアラか。


「石荒さん、今更恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか。坊主頭らしくどっしり構えてないとダメですよ?」


「いや恥ずかしがってないし、桐山を黙らせたいだけだし」


「離れなさいよ!!!」


 そう言って、今度は六栗が俺と桐山の間に体ごとねじ込もうとタックルしてきた。


 俺に抱き着いて離れようとしない桐山。

 それを剥がそうとする俺。

 そんな二人の間に割り込もうとぐいぐいタックルしてくる六栗。



 梅雨入りした6月中旬の日曜日の午後。

 外では雨が降りしきる中、家の中の俺のベッドの上では、県立豊坂高校1年では有名な二人の美少女と一人の坊主頭が取っ組み合って揉み合っていた。


 そこへタイミング悪く、いやタイミング良く、母がジュースとお菓子を載せたお盆を持ってやって来た。



「3人とも、ご近所の迷惑になるから静かにしなさいね」


 母は怒ってはいないけど、場違いな程冷静な声で注意してきた。


 それを聞いた俺達3人は同時に動きを止めた。


 その瞬間を見逃さず、二人に落ち着いて貰おうと必死に訴えかける。


「と、とにかく!落ち着け餅つけペッタンコ!」


「・・・」

「・・・」


 渾身のギャグが滑った。




 母が「3人とも、仲良くしなさいね」と言い残して階段を下りて行くと、俺と六栗はベッドから降りて、離れた位置で腰を降ろした。


 桐山はベッドの端に腰掛けて乱れた髪や服を整えている。

 六栗は俺の勉強机のイスに座って腕組みして俺と桐山を睨んでいる。

 そして俺は、フローリングの床の二人の中間点で正座してこうべを垂れていた。


 先ほどの言い合いがウソの様に3人とも黙ってて、空気が重い。


 揉み合って暴れてたせいなのか、それとも修羅場の緊迫感のせいなのか、先ほどから全身を汗がダラダラ流れてパンツの中までびっしょりだ。


 胃が痛い。

 ゲーしそう。

 



 最初に沈黙を破ったのは、六栗だった。


「で、いつから付き合ってるの?正直に話して」


「いや、付き合って無いし」

「GWからですけど、何か問題でも?」


「おいコラ!いい加減にしろ桐山!」


「ケンくん、こんな腹グロで性格ブスのどこがいいの?」


「いや、マジで付き合ってないんだって! でも桐山は確かに腹グロだけど、性格ブスってほど性格悪くないぞ? いや、性格は悪いかもしれないけど、他人をけなしたり迷惑かけるようなヤツじゃないぞ? いや、俺はいつも貶されて迷惑掛けられっぱなしだったな・・・桐山、もしかしてお前、性格超悪いんじゃないのか?」


「何を仰ってるんですか、私ほど石荒さんの心に寄り添ったソウルフルなフレンドは他に居ませんよ?」


 俺と桐山がいつもの様に不毛な掛け合いを始めると、六栗が「うるさい、黙れ」とでも言いたげにドスンと音を立てて床を踏みつけた。


「で、ドッチなの?付き合ってるの?付き合って無いの?」


「だから付き合ってないんだって!」

「さっきからイチャイチャラブラブな様子見て分かりませんか?」


「桐山ぁぁぁ!お前は適当なことばっか言ってんじゃないのぉぉぉ!」


「そもそも、私と石荒さんが付き合っていようが付き合ってなかろうが、の六栗さんには関係無いと思いますけど?」


「それ、どういう意味よ」


「そのままの意味ですよ。幼馴染だからと言って、石荒さんの恋愛に口を挟む権利なんて無いはずですよ?なのにどうしてそんなに怒ってるんですか?なんの権利があって怒ってるんですか?」


「ぐぬぬぬぬぬ」


「それに比べて、私は石荒さんとは心が通じ合ったソウルフルなフレンドですからね。誰にも邪魔をする権利なんてありませんから」



 もうヤダ

 二人とも怖いよぉ

 女同士の喧嘩、超厄介なんですけど。

 また脚が痺れて来た。




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