#57 少女の憂鬱と激震




 日曜日、目が醒めて起きると外は雨が降ってて、朝から気が滅入ってくる。

 とうとう梅雨入りしちゃった。


 雨の日は折角綺麗に結ってても湿気でクセ毛がくりくりに広がっちゃうから、この時期は1年の中でも一番憂鬱なんだよね。


 期末試験が近いから、この週末は朝から部屋に篭って試験勉強してるから平気だけど、月曜からも雨が続くと思うと、やっぱり憂鬱。



 こんな時、ケンくんと二人きりで過ごすことが出来たら憂鬱な気分も吹き飛んで、テンションMAXトルネードなんだけどなぁ。

 ケンくん、期末も上位目指してるだろうから、週末はお家で試験勉強頑張ってるのかな。


 去年は何も遠慮せずにずっと一緒に勉強出来たんだけどなぁ。

 こんな憂鬱な気持ちになることなんて全然無くて、楽しかったなぁ。


 あ、でも受験勉強のこと思い出すと、鬼の様なスパルタなケンくんの姿が頭に浮かんできて、脇汗出てくる。


 ネチネチネチネチお説教がめっちゃウザかった・・・

 それに、私が薄着で精一杯色仕掛けしても、全然効かなかったし。

 むしろ、ずっと修行僧みたいな顔して、マジで女の子に興味ないかもって心配になったんだよね。


 でも、今思えば、私を豊高に合格させる為にそれだけ一生懸命になってくれてたってことなんだよね。


 やっぱ、ケンくん、凄いなぁ。

 合格圏外だった私を合格させて、自分は入学してからは学年3位なんだもん。


 ちょっとやそっと頑張ったくらいじゃ、全然追いつけないよ。

 もっともっと頑張らないとだね。


 今日も集中して勉強頑張ろっと。



 ◇



 ところがこの日、一人で試験勉強に打ち込んでいると、激震が走った。


 お昼前でそろそろ休憩しようかと思ってたところに、サッチーから写メとメッセが送られてきた。


『石荒くんと桐山さんがめっちゃ仲良さげにしてるの目撃』



 添付されてた写メには、二人の男女が腕組んでる姿が写っていた。

 遠目の画像で写ってる二人の姿は小さいけど、男はケンくん本人で間違いない。私が見間違えるはずないから。

 腕組んでる女の方は、黒髪のストレートロングでサッチーが言う様に桐山ツバキに見える。


『何コレ?どういうことかな?』


『ウチの家族で回転寿司に来てるんだけど、テーブル席でお寿司食べてたらイチャついてるカップルが目の前通って、なにこいつら?って顔見たら石荒くんと桐山さんだったの』

『二人だけじゃなくて親も一緒みたい。どっちの親かわかんないけど、ウチの席はなれてて遠くからだし確かじゃないけど、桐山さんの様子から石荒くんの親っぽい』


 マジでどういうことなん???


 ケンくんの家族と桐山ツバキが一緒に回転寿司???

 しかもケンくんと腕組んでイチャイチャしてるだって???


 何度見ても、写メに写ってるのはケンくんで、女の方は桐山ツバキにしか見えなくなってきた。


 ダメ。

 吐きそう。

 気持ち悪い。


 誰を好きになるのもケンくんの自由だって自分に言い聞かせてたけど、相手が桐山ツバキだとなると、とてもじゃないけど冷静ではいられない。

 

 いつドコで二人は繋がったの?

 腕組んでイチャつくくらいだから、結構前から?

 学校では仲良くないフリして隠してたってこと?




『トイレ行くフリして、もっと近くで撮影してみるね』



 10分程すると、今度は動画が送られてきた。


 短い動画だったけど、やたらとテンション高くて楽しそうな桐山ツバキと、いつもの様にクールぶって恰好つけてるケンくん。そしてニコニコ笑顔で桐山ツバキと会話してるケンくんちのおばさんとおじさんが写っていた。



『ケンくんとケンくんちのおばさんとおじさん、そして桐山ツバキに間違いないです。これにて六栗ヒナ終了をお知らせします。ご清聴ありがとうございました』


『待って待って!まだ二人がどういう関係かわかんないんだし、早まっちゃダメだよ!!!』


『いやムリでしょ。人目も気にせず腕組んでイチャついてて、しかも親も一緒に桐山ツバキにニコニコしてるんだよ?ただの恋人同士じゃないじゃん。もう結婚秒読みの婚約者じゃん』


『いや私たちまだ高1だから。結婚は流石に無いって』


『ケンくん、そんなこと一言も言ってくれなかったから全然気づけなかった。やっぱ私には内緒で付き合ってたんだよ』


『兎に角、もう少し観察続けるから待っててね!』


 私の方はママに「お昼出来たよ」と呼ばれたけど、ゲーしそうで食事どころじゃなかったから、お昼ご飯は断って、部屋で大人しくサッチーからの続報を待った。



 その後、大人しく待っているとサッチーから何度も続報が送られてきた。


『桐山さんは清楚系のザ・お嬢様!って感じにお洒落してるのに、なんで石荒くんはハーフパンツにパーカーなの?坊主だからって手抜き過ぎない?』

 ケンくんにお洒落求めちゃダメだから。

 それがケンくんクオリティだし。


『桐山さんの前にお皿が山積みになってて一人だけめっちゃ食べてるんだけど、あんだけ食べててなんであんなにスタイルいいんだろ?』

 知らんがな。

 私だって知りたいよ。

 その分、UN〇もデカイんでしょ。


『いま会計のとこで桐山さんと石荒ママがモメ始めた!なんか『今日はツバキちゃんのお祝いで来てるんだから』とか言ってるよ?』

 ああ、ケンくんちのおばさんなら言いそう。

 そっか、おばさん真面目タイプ好きそうだもんね。きっと桐山ツバキは気に入られてるんだね・・・これは凹む。


『結局石荒ママが会計済ませて、今帰って行ったよ』

 今お店を出たってことは、もう少ししたらお家に帰って来る?


 今からケンくんちに向かえば、二人の様子を直接確認出来るかも?

 自分の目で確かめるべきだよね?


 もうこうなったらヤケクソだし、行くしかないよね!





 部屋着の上から薄手のジャンバーを羽織って、傘とスマホ持って家を飛び出した。

 雨が降りしきる中、ケンくんちに向かう。


 外に出て頭が冷えたせいか、頭の中は冷静になってきた。


 ケンくんの好きな人は、桐山ツバキだった。

 GWにケンくんの部屋に落ちていた髪も桐山ツバキで間違いない。

 っていうことは、少なくともGWにはケンくんちに遊びに来る程、既に仲が良かった。

 そういえば、二人とも美化委員でGW中は花壇のお世話の当番だって言ってた。

 私がどこかに遊びに行きたいってケンくん誘っても、美化委員の当番とか友達と先約があるって言って、予定が合わなかった。

 それが全部桐山ツバキが原因だったってことか。

 

 GWに既にそこまでの関係だったのなら、連休が明けてからも放課後用事があるって毎日の様に言ってたのも、桐山ツバキと密会する為?

 じゃあ、ケンくんを美術部に勧誘したっていう3年のひしいけ部長って人は無関係だったってこと?


 あ・・・

 まさか、ケンくんがスマホの文章上達したのも、桐山ツバキの影響?

 なのに私は『ケンくんが進化しとる!』って喜んでたってこと?


 よりにもよって、桐山ツバキ。

 女の私から見ても嫉妬するくらい綺麗で、しかも艶々さらさらの綺麗な黒髪でストレートロング。そして同じ高1だとは思えない程、理想的なスタイル。

 女として、私は何もかも負けてる。 

 そんな女に、大好きなケンくんを横取りされた。


 悔しい

 悔しい悔しい悔しい!




 考え事をしていたら、いつの間にかケンくんちの前まで来ていた。

 

 ガレージのシャッターは閉まったままで、帰って来てるかは分からない。

 でも、外から見える範囲では、お家の中は電気が付いてない様子。

 多分、まだ帰ってないのかな。

 

 ここだと帰って来た時にすぐにバレちゃうから、少し離れたところで様子見てよう。




 ケンくんちの前から離れて隠れる様にしていると、直ぐにケンくんちの黒いレクサスが帰って来て、ガレージのシャッターが開き始めた。


 でも遠いし雨も降ってるから、車の中まではよく見えない。

 うーん、ココからじゃ分んないなぁ。


 そうこうしてる内に、レクサスはガレージの中に入ってしまい、シャッターも下がり始めた。



 結局、外からだと確認は出来なかった。

 このまま諦めて帰っても、頭パンクして勉強どころじゃない。

 どうせヤケクソでココまで来たんだから、突撃しようか。


 そうだ。

 ケンくんにも桐山ツバキにも一言二言文句言ってやらないと気が済まないし。

 中2のバレンタインにフラれたあとだって、文句言ってやりたくなったぐらいだし、このまま負けて私一人が泣くだけなんて、そんなの絶対我慢出来ない。


 自分戒め期間、終了します!


 ヨシ!と気合いを入れてからケンくんちの玄関前まで行き、インターホンを押してピンコーンと闘いのゴングを鳴らした。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る