第10章 五月闇

#55 梅雨入りとプレゼント




 6月中旬の日曜日。

 今日は桐山の誕生日で回転寿司に行く約束をしていたが、この地方も梅雨に入り、朝起きた時には既に降り始めていた。


 朝食を食べながら「参ったなぁ」と零すと、母が「ツバキちゃんなら車で迎えに行ってあげるわよ」と言ってくれたので、とりあえずウチには無事に来れそうだけど、「でもお昼に回転寿司行く予定なのよ」と話すと、今度は父が「だったらみんなで行こうか。折角のお祝いだしお金も出すぞ」と言ってくれた。


 朝食を済ませてから、取り敢えず桐山に『母が車で迎えに行ってくれるって言うから待ってて。あと、父がお昼はみんなで行こうだって。お金も出してくれるって言ってるけど、どうする?』と送ると、直ぐに『お迎え、お母様にお願いしますとお伝え下さい。お昼を皆さんと行くのは良いのですが、お金は自分で出します。それと、文章はもう完璧ですね。特訓した甲斐がありました』と返事が返って来た。



 桐山の家まで案内する為に俺も車に乗って迎えに行くと、桐山は既にマンションのエントランスで待っていた。

 マンション前の道路に車を停めると俺だけ車を降りて、雨の降る中エントランスまで走って迎えに行き、声を掛けた。


「おはよ。それと、誕生日おめでと」


「!?」


「どしたの?そんなに驚いて」


「いえ、すみません。おはようございます。それと、ありがとうございます」


「んじゃ、表の道に車停めて待たせてるから行こうぜ」


「はい」



 服装はいつもと同じようなズボンとシャツ姿だったけど、珍しく革製のブーツを履いていた。

 後で聞いた話では、ウチに来る時はいつもは徒歩だからスニーカーにしてたらしく、今日は車のお迎えがあるし、母が作ってくれたワンピースに合わせる為にブーツをチョイスしたそうだ。

 そういうところはやっぱ女の子なんだなって思う。



 俺が傘をさして表の道までエスコートして車に乗り込むと、母からも「ツバキちゃん、16歳おめでとうね」と言われて、桐山は照れた表情で「今日はありがとうございます」と返事を返していた。


 ウチに向かう車中で唐突に母が「ツバキちゃんが16歳になったってことは、ツバキちゃんがお姉ちゃんでケンサクは弟ってことになるのかしら?」と言い出した。


「そうですね。石荒さんには弟らしく姉をもっと敬って欲しいですね」


「はぁ?なんで俺が弟なの?身長も俺のが高いし成績も俺のが上だから、どーみても俺のがお兄ちゃんじゃん」


「身長も成績も関係ないでしょ。ツバキちゃんのが落ち着いてて大人びてるんだから、当然でしょ?」


「そうですよね。ウフフ」


「すげぇ納得できないんだけど」


 こういう会話してると、石荒家での俺と桐山の扱いに格差を感じてしまう。




 ウチに到着すると、早速桐山は母に作って貰ったワンピースを持って俺の部屋に篭って着替えを始めた。


 昨日はスカート履いてて初めて桐山の生脚見たけど、長くて綺麗な白い脚してて凄くドキドキしてしまった。


 因みに、六栗はよく生脚出してるけど、中学時代にバスケ部で走り込みをよくしてたせいかムッチリとした健康的な太ももで、桐山の場合は長くて引き締まってて綺麗な曲線美の色気を感じる美脚だった。


 今日はワンピースだけどスカートと同じ様に母の手作りなので、また桐山の綺麗な脚が拝めるかもと期待してたら、着替え終わって呼ばれて見ると、普通に黒タイツを履いていた。


 でも、ワンピースのデザインは清楚な感じなのに昨日のスカートよりも丈が短くて、黒タイツとの組み合わせは、学校の制服とは違う色っぽい雰囲気もあって、やっぱりドキドキした。



「昨日のフレアスカートよりは落ち着いた色合いですが、どうでしょうか?」


「ああ、うん。凄く似合ってる」


 そうだ、こういう時はもっと具体的に褒めるべきだよな。

 六栗にはいつもそうしてるしな。


「色合いとデザインが落ち着いてて清楚な感じが桐山のイメージにあってるよ。でも、スカートの丈が短いせいか、なんか普段よりも幼く見える感じするかな?普段の制服だと大人びて見えるから、年相応に見えるってことかも。そういうの含めて凄く似合ってて可愛いと思うよ」


 流石に「スカート丈短くて色っぽい」とは言わないでおいた。 


「そ、そうですか・・・ありがとうございます」


 俺がベタホメしたら、桐山が真っ赤な顔して俯いた。

 六栗と同じ反応するんだな。

 六栗も桐山も容姿をホメられるのには慣れてるだろうけど、こうやって具体的にホメるのは効果覿面てきめんなんだよな。


「あ、そうだ。俺からも渡すもんあったんだ」


「え?」


 母だけじゃなく一応俺もプレゼントは用意してたんだよね。


「前にも言ったけど、俺んち誕生日とかクリスマスのプレゼントっていっつも図書券だったし、友達とかにプレゼントあげたこともなくて、どんなの選べばいいか分かんなくて選ぶのに母にも手伝って貰ったんだけど・・・」


 そう言い訳しながら、机の引き出しからプレゼント用に梱包された小箱を取り出して、桐山に「ハイ」と言って手渡した。


「良いんですか?」


「うん。気に入らなかったら返してくれてもいいよ」


「そんなことしませんよ。ココで開けても?」


「うん」



 桐山はベッドの端に腰を降ろすと、慎重な手つきで梱包を剥がし始めた。

 箱のフタを外すと、中にはシルバー製のバレッタが入っていた。


 桐山へのプレゼントをどうしたらいいか母に相談すると、「ツバキちゃん、凄く綺麗なお嬢さんなのに、あまりお洋服とかアクセサリーでお洒落しない子だから、アクセサリーとかの小物が良いんじゃない?」とアドバイスしてくれて、今週雑貨屋まで車で連れて行って貰い、散々悩んで選んで買ってきた。


 アンティーク調の銀細工でサイズも大き目で、小顔の桐山が付けたら、存在感あってかなり見栄えが良くなると思う。


「桐山、艶々サラサラですげぇ綺麗な髪してるから、こういうアンティーク調の付けたら凄くお洒落になるんじゃないかと思って」


「・・・」


「でも俺坊主頭だし、「坊主なのに髪留め必要無くない?」って店員さんに思われてるんじゃないかって不安になって、会計の時に「友達へのプレゼントなんですよ!自分で使う訳じゃないですよ!」って説明してたら、なんか店員さんがバカウケしてた」


「・・・コレ、いくらしたんですか?高いですよね?」


「いや、そうでも無いよ。 あ、こういうの好みに合わなかった?」


「そうではありませんけど・・・」


「取り敢えず付けて見せてよ。それで似合わなかったら使わなくていいし」


「では、洗面所お借りして付けてきますね」


「あいよ」



 プレゼントしたバレッタを持って部屋から出て行くと、桐山は30分以上経っても戻って来なくて、心配になって様子を見に行ったら、洗面所で母と二人であーでもないこーでもないと言いながら何度も髪型を変えて付け直している最中だった。


「いや、取り敢えずなんだから普通に付ければいいじゃん!」


「石荒さんは本当にデリカシーが足りないですね」


「ケンサク、もう少し乙女心を勉強しなさい。そんなことだからヒナちゃんに構って貰えなくなるのよ?」


「はぁ?六栗は関係ないじゃん!」


「そうですよね。ウフフ」


 やはり、格差が酷い。



 散々あれこれ悩んでたクセに、結局、特に凝った髪型にはせずに俺が言った通りに後頭部に付けるだけにしたようだ。

 でも、母が作ったワンピースと俺が選んだアンティーク調のバレッタは、お上品な佇まいの桐山に凄く似合ってて、今まで見て来た中で一番可愛いかった。



 そして桐山は、俺がプレゼントしたバレッタを、この日から毎日付けるようになった。





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