#54 優等生の生脚解禁



 私が落ち着くまで黙って撫でてくれていたお母様に、今度はハッキリとした口調で「ありがとうございます。もう大丈夫です」と伝えると体を離してくれたので、「今から着てみてもいいですか?」と尋ねると、お母様は満面の笑顔で「勿論。廊下に出てるから、着替え終わったら呼んでね?」と言って、部屋から出て行った。



 自分のバッグからハンカチを取り出して涙を拭きとり、ティッシュで鼻も噛んでから早速着替えてみることにした。


 まずは、ペパーミントグリーンのフレアスカートを着てみた。

 サイズはピッタリでしたが、今日はスキニーパンツで来てたのでストッキングやタイツを履いてなくて、丈の短いスカートでの素足は股下の周りが慣れない解放感で落ち着かなかった。


 姿見の前に立って前と後ろと繰り返し確認してみる。

 やっぱり、凄く可愛い。

 私の為に作って頂いたスカートだと思うと、胸に込み上げてきます。


 廊下で待たせているお母様に声を掛けて、お母様にも確認して貰う。


「サイズは良さそうね。ツバキちゃんいつも落ち着いた色合いの服ばかりだったから、こういう明るい色も良いんじゃないかって思ったんだけど、悪くはないわよね?どうかな?」


「はい、凄く可愛いです。とても気に入りました」


「ホント!?良かったぁ。年ごろの女の子の好みが分からなくて、雑誌とか見て色々研究したのよね。気に入って貰えて良かった。うふふ」


「ありがとうございます。本当に気に入りました。うふふ」


「あ!ワンピースの方も試して頂戴!」



 ワンピースも試着してみましたが、胸の周りが少しキツかった。

 お母様は「聞いてたサイズよりも少し胸が大きかったのね。今日中にサイズ直すから少し待ってて頂戴」と言って、私の胸周りのサイズをチェックしてから早速作業に取り掛かった。


 先日、サイズを測って頂いた時はスカートだけの予定で、ウエストを中心に見てたので上半身は口頭でバストサイズを伝えただけで計っては無かったんですよね。


 お母様に今日はフレアスカートの方を着てても良いか許可を貰い、もう一度フレアスカートに着替えて再度お礼を言ってから部屋を退出して、3階の石荒さんの部屋へ向かった。



 素足を出しているのは少し恥ずかしかったですが、それ以上に可愛らしいスカートを着ていることで気持ちはウキウキしてて、早く石荒さんに見て貰いたくて足取り軽く階段を駆け上がった。


 私が部屋を訪ねると、私のスカート姿を見た石荒さんは激しく驚いていた。


「おおおおぅ!?生脚!?遂に解禁したのか!?」


 どうやら、可愛らしいスカートよりも、素足のことの方が驚いた様です。

 お母様の言う通り、男の子はダメですね。


「はぁ、本当にデリカシーが足りない人ですね」

 

「いや勿論スカートも似合ってて凄く可愛いよ?でも俺だって健康的な男子高校生だし綺麗な女の子の綺麗な生脚見たらドキドキしちゃうの仕方ないじゃん!しかも桐山の生脚って超レアじゃん!」


 裏表なくバカ正直な所は石荒さんの良いところですしね。

 今日は機嫌も良いので、許してあげましょう。




 期末試験が近いので、午前中はいつもの様に石荒さんのお部屋で勉強をして過ごした。


 でも、普段は私にあまり興味を示さない石荒さんは、チラチラと私に視線を送って来て、何か気になってる様子だった。



「どうしたんですか?今日はあまり集中出来てないようですね。何か言いたいことでもあるんですか?」


「いや、その、なんて言うか・・・」


「何ですか?遠慮なく仰ったらどうですか?」


「うーん・・・桐山がいつもと雰囲気違うから、落ち着かないと言うか」


「え?」


「いや、可愛いスカート履いて素足出してるだけで、こんなに雰囲気変わるんだなって思ってさ。普段は真面目そうで堅い感じなのに、ちょっと服装のイメージ変わっただけでガラッと可愛らしい感じに変わるの凄いなって思ってさ。やっぱ、美人は何着ても似合うってこういうことなのかな」



 以前からそうですが、どうしてこんな風に女性を褒めることが出来るのでしょうか。

 下心丸出しで何でもかんでもチヤホヤ褒めてくる人は沢山いましたが、そういうのと違って、ただ素直に感心したから言ってみた、としか聞こえないんですよね。こういう時の石荒さんには嫌味とか下心が全然に見えてこないんです。

 でも私も、こういう反応の方が純粋に嬉しいです。なんだかんだと期待に応えて私を満足させてくれるのが、石荒さんなんですよね。


 ココは居心地が良くて、嫌なことも辛いことも忘れさせれくれます。

 母やしつこい男子のせいで気持ちがささくれても、ココにくればリフレッシュ出来るんです。




「お母様がスカートだけじゃなくてワンピースも作って下さったんですけど、そちらも違う色合いでしたので、また違って見えるかもしれませんね」


「他にも作ってるの!?張り切りすぎじゃね? 多分アレだな・・・女の子の桐山がウチに来るようになって、まるで娘が出来たみたいで嬉しくてはしゃいでるんだな」


「うふふ、先ほどもそんな話してました。お母様、本当に優しくて私は大好きです」


「それ、母に言ったら、多分泣いて喜ぶぞ」


 その前に私が先に泣いちゃいましたけど。



「そう言えば、スカートとか作って貰ったは良いけど、持って帰ったら家でなんか言われるんじゃないの?桐山の母親、そういう露出多い服とか五月蠅いんだろ?家だと洗濯とかも無理じゃない?」


「そうでした・・・確かに持って帰ったら何か言われそうですね。どうしましょうか」


「まぁ、ウチに置いとくしか無いだろうな。着たい時はウチで着替えれば良いんじゃない?」


「そうしても良いですか?」


「今更だし、ココのクローゼットに入れとけばいいよ」


「そうさせて頂きますね。うふふ」



 昼食も済ませて午後も勉強を続けているとお母様に呼ばれて、サイズ直しが終わったワンピースを再び試着することになった。


「どうかな?苦しくない?動きづらかったら言ってね」


 今度は胸周りは苦しくなくてサイズはバッチリ直っていた。


「大丈夫です。少し余裕があって動きづらさもありません」


 姿見で確認すると、フレアスカートよりも更に丈が短いのが気になったけど、清潔感のある可愛らしさで、明日の誕生日のお出かけはコチラのワンピースで行くことに決めた。


 ムフフと満足な笑みを零していると、お母様は「あとはアイロン掛けて完成ね。フレアスカートもアイロン掛けちゃうから置いておいて頂戴ね」と言うので、「アイロン掛けは私にやらせて下さい」と申し出た。


 アイロン掛けをしたことが無かったので、お母様に手取り足取り教わりながらやってみた。


 途中、石荒さんが「ワンピース、どんなの?」と作業部屋に訪ねて来ましたが、お母様が「女の子が着替えてるところに来るなんて、デリカシーが足りませんよ」と追い返していた。


 作業を終えて石荒さんの部屋に戻ると、「俺だけ見れんかった」と少しスネていたので、「明日のお出かけはワンピースを着ますので、明日になれば見れますよ」と教えると、「そっかぁ、じゃあ明日楽しみだな!」と嬉しそうな笑顔を見せてくれた。


 坊主頭の無邪気な笑顔は、ちょっぴり可愛いかった。





 第9章、完。

 次回、第10章 五月闇、スタート。



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