#52 少年は色々と察した
桐山と美術部に入部して、しつこく告白してくる男の相談を聞いてからは、何かあった時に対処出来るようにと毎日帰りは家まで送る様にしていた。
それは部活の無い日も同じで、桐山は放課後も直ぐには帰ろうとしないから、俺もそれに付き合うハメになっていた。
毎日のように放課後は美術準備室に篭って、部活の日は絵を描いて、部活以外の日は勉強に付き合わされたりしてて、たまに気が向けば寄り道して何か食べてと、六栗との付き合い方を改め始めた俺としては、それはそれで都合が良かったし、六栗に全然頼りにされてない状況で、桐山は俺を頼ってくれてるのが純粋に嬉しくて、半分は自分の意思で桐山と一緒にいるようにしていた。
ただ、桐山とこれだけ一緒に居ると、あることに気付いた。
思い返せばGWの頃からそうだったんだけど、桐山は自分の家にあまり居たくない様だ。
連休中はずっとウチに入り浸りだったし、学校が始まってからは帰る時間を遅くする為に部活が無い日でも学校に残ったり、寄り道して牛丼やファーストフードで時間を潰してたりしている。
以前から、母親と上手くいってないことを聞いてたからある程度事情を察してはいたけど、中間試験が終わった頃から、更にそれが顕著になってる様に感じる。
中間試験が終わった直後の週末土曜日、前々から約束してた画材屋へ二人で買い物に出かけたのだが、お店が開くのが10時にも関わらず、その日は朝の8時に待ち合わせしてお店が開くまでファーストフードで時間つぶしに付き合わされたり、買い物が済んだ後は当たり前の様に俺んちに来て、GWの時と同じように夕方まで居座っていた。
そして、母から「遠慮しないでまた遊びにいらっしゃいね」と言われると、言われた通り遠慮せずに翌日の日曜も朝から来て、翌週以降の土日も朝から来ていた。
そんな桐山にウチの母も俺と同じようなことを感じた様で、「ツバキちゃん、しっかりしてて弱みを見せたがらないけど、本当は辛い思いも沢山してると思うわよ。ケンサクがちゃんと支えてあげるんだよ」と俺に話していた。
余談だけど、GWの間は美化委員の当番の後にウチに来てたので、連休中でも毎回制服姿だったけど、学校始まって以降の週末会う時は毎回私服姿で、私服姿でも肌の露出を控えた装いだった。
それでも、並外れた美貌とスタイルの持ち主なので、サマになってるのは流石だったけど。
因みに、桐山は私服だとスカートを履かない。
聞いてみたら、本当に制服以外はスカートやワンピースは持ってないそうだ。
で、それ聞いたウチの母が「じゃあ今度おばさんがツバキちゃんのスカート縫ってあげるわね!」と謎のやる気を
そんな感じで、いつの間にか六栗よりも桐山のがよっぽど幼馴染っぽい付き合いになってた6月中頃の部活中、桐山が唐突に俺に誕生日のことを聞いてきた。
「つかぬことを伺いますが、石荒さんの誕生日っていつなんですか?」
「俺?9月だよ。9月9日。突然そんなこと聞いて何かあるの?もしかして相性占いでもする気?」
「何故私が石荒さんとの相性を占わなくてはいけないんですか。もし良い結果が出たら私と交際出来るとでも思ったんですか?そういうのを自惚れと言うんですよ。身の程を弁えて下さい」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ!桐山こそ自惚れてんな!?っていうか、なんなの?自分から聞いといて」
「いえ別に・・・」
急に歯切れが悪くなったな。
いつもの桐山らしくない、何か言いたそうだけど言いにくい様な迷ってる様な表情してる。
そんな桐山見てたらピコーン!閃いた。
「さては桐山、お前も誕生日を聞いて欲しいんだな?」
「べ、べべべべつにそんなこと思ってませんけど!?どうして私が石荒さんに誕生日を教えなくてはいけないんですか!?」
分かりやすすぎる桐山の反応に、目を細めて疑いの視線を向けていると、ここまで空気だった菱池部長が桐山に助け舟を出した。
「桐山さんはお誕生日が近いのかな? その気持ち分るよ!本当はお誕生日にお祝いして欲しいんだよね?石荒くんにお祝いして貰いたいんだよね?でも自分から言うのは恥ずかしくて中々言えなかったんだよね?」
「何を勘違いされてるのか分かりませんが、どうして私が坊主頭の石荒さんと誕生日を一緒に過ごさないといけないんですか?検討違いも甚だしいですね」
「ダメだよ桐山さん。ちゃんと素直にならないと男の子には伝わらないんだよ?私だってソレで・・・うう、昔のこと思い出したら胃酸が逆流してきたゲボ吐きそう」
菱池部長、過去に何があったんだろうか。
いや、菱池部長はどうでもいいや。
桐山、本当は誕生日聞いて欲しいんだろうな。
菱池部長が言う様に、特別にお祝いでもしてほしいんだろうな。
「で、桐山、誕生日はいつなの?」
「・・・・・・・・・6月13日です」
「ふーん、って、もうすぐじゃん!?今度の日曜?」
「ハイ・・・」
「じゃあ、またどっかに食べに行く?次はギョーザ?焼肉?それとも回転寿司?」
「ええ、回転寿司に少々興味がありまして・・・」
「了解。桐山の誕生日のお祝いは回転寿司に決定ね」
いつもの図々しさがナリを潜めてるな。
よっぽど言い辛かったんだろうけど、逆に言えば、それだけ誕生日にお祝いしてもらうことに並々ならぬ思い入れがあったということだろう。
素の自分を出せなかった頃の話は色々聞いてるから何となく想像付くけど、恐らく今まで誕生日を誰かにお祝いして貰ったり、お誕生日会とかしたことないんだろうな。ぶっちゃけ俺も似たようなもんだし。
俺の場合は、誕生日はいつもウチで家族だけのお祝いで、友達とかとお祝いしたこと無いもんな。もしかしたら桐山は、家族とすらお祝いしたことないのかもな。
「良かったね桐山さん!石荒くんとお誕生日デート、楽しみだね!うふふ」
「はい???デートじゃありませんケド?私はお寿司がどの様に回転しているかを確認しに行くだけで、それはデートとは言いませんケド?いい加減なことばかり仰ってると今度こそ殺しますよ?」
「ひぃ!?また殺意の篭った視線!?桐山さんが怖いよぉ」
「おいこら!部長に対して失礼すぎるぞ!」
そういえば、六栗も誕生日が来月だっけ。
何か誕生日プレゼントくらいは用意した方のが良いのかな。
流石にもう図書券ってわけにはいかんだろうな。
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