#51 少女の自戒と乙女心




 ん?

 ケンくんからメッセ?



『スマホ、特訓、した。是で、俺も、スマホ、上級者。』



 ナニこれ???

 文字化け???

 って


「ええええええええええ!!!???」


 まさか、句読点と漢字使ってるし!?

 ケンくんが進化しとる!!!


 ビックリしすぎて教室じゅうに響く大声出ちゃってた。


 ずっとひらがなオンリーだったのになんで急に成長してるの???

 一生懸命スマホに文章打ち込んでる姿想像すると、めっちゃ尊いんですけど!?


「どしたのヒナちゃん!?急に大声出して」


「ああああのねあのね!サッチー聞いて!ケンくんが句読点と漢字使える様になってるの!!!」


「はぁ?小学生じゃなあるまいしナニ言ってるの?」


「だってだって、コレ見て!昨日までのケンくんのメッセ!全部ひらがなで句読点全然無いでしょ? でも今来たメッセだと句読点と漢字使えてるの!めっちゃスゴくない!?」


「うわホントだ。ウチのおばあちゃんのメールみたい」


「でしょでしょ?ケンくんスマホの使い方全然覚えようとしなかったんだよ?なのに急に進化したの!」


「それでそんなに驚いてるの?」


「うん!めっちゃ驚いた!衝撃MAXトルネードだし!!!」


「っていうか、句読点の使い方可笑しくない?進化したっていえるの?コレで上級者名乗るのはどうなの?ヒナちゃん普段から甘やかし過ぎなんじゃない?」


「あ、ホントだ。衝撃MAXトルネードで文章の内容よく読んでなかった」


「コレはあれだね。敢えて厳しくしないとだね。最近の石荒くん、中間で3位とって調子に乗ってるし、ガツンと言ったほうがいいよ」


「そうかな・・・」



『覚えたての句読点使いすぎ。ケンくんが上級者名乗るの100年早いからね?』


 サッチーのアドバイス通り、心を鬼にして返信。




「でも何度も読み返してみると、これはこれで味があるよね。痛メンとは大違いだし、やっぱケンくんってめっちゃカワイイよね。ムフフ」


「ヒナちゃんが完全に恋する乙女になっとる」


 なんだか、久しぶりにケンくん絡みでテンション上がってる気がする。




 私は最近、ケンくんとの事で気付いたことがあって、反省して自分自身を戒めてる最中。

 切っ掛けは、非常識男からの告白とその後の痛メンこと深溝くんからのしつこいアプローチ。


 非常識男からの突然の告白。

 放課後の廊下という沢山の生徒が行き交う往来の中で、私が用事があるからと断っても私の都合や迷惑など全く考えずに愛の告白を叫ばれた。

 そして、その非常識男から助けてくれて私が感謝したのを良いことに、翌日から私が迷惑がってるのに気づいて無いかのようなしつこいアプローチを続ける痛メン。


 最初は、相手の気持ちや都合を無視する二人に、なんでこんな事が出来るの?相手が嫌がる様なことすれば余計に相手には好意なんて伝わらないのに、と不思議だった。

 不思議というか、理解不能でムカツイてしょうがなかった。


 でも、中間試験が終わって学年順位が出た時、ケンくんが学年3位という驚異的な結果を叩き出して、私は気付かされた。



 GWから中間試験までの間、ほとんどケンくんと一緒に過すことが出来なかったけど、ケンくんは私という邪魔者が居なくなったから勉強が捗って好成績を叩き出すことが出来たんじゃないの?

 中学時代から私が続けて来たケンくんへのアプローチって、ケンくんにとっては迷惑な物で、実は勉強の邪魔になってたんじゃないの?

 ケンくんにとっての私って、あの二人と同じじゃないの?

 中2の頃から2年もの間、私はずっとあの二人と同じことをケンくんに続けてたんじゃないの?


 そう気づいた途端、猛烈に後悔と羞恥心に襲われた。



 私は、なんて自分本位な愚か者なんだろう。

 大好きな人の足を引っ張り、あまつさえカノジョ気取りで我儘放題で、時には甘えてベッタリして、更にはスネて無視したり、本当に最低な振る舞いばっかり。


 そもそも一度フラれたクセに、恋人としての立場が得られなかったからと言って幼馴染だと言い張って強引に幼馴染のポジションに居座って、自分の都合で振り回してばかりいた。

 家は近所だけど遊んだりしてた仲じゃないし、小学校からの同級生ってだけで本当は幼馴染なんかじゃないのに。


 あの頃は諦めきれなくて必死だったし、幼馴染という関係を作れたこと自体は良かったと思う。

 でも、受験勉強や高校入学してからの私の振る舞いは、とてもじゃないけど褒められたものじゃなかった。


 今なら自分でも『何様なの?』って思うもん。

 非常識男や痛メンとおんなじじゃん。


 ケンくんは優しくて私には凄く甘いから、いつも嫌な顔1つしないで何でも私の言うこと聞いてくれて、それで私も調子に乗って気付くのが遅くなったけど、これからはこういう自分の態度は改めなくちゃいけない。


 最近ケンくんも私の前で元気がないことあるし、もしかしたら私のことにウンザリし始めてるのかもしれない。

 もし、ケンくんに嫌われでもしたら、私の青春はそこで全てが終わっちゃう。

 豊高入ったのも勉強頑張るのも、その先にはケンくんとの未来を見据えたものなんだし、これからは自重して調子に乗らず思いあがった言動は控えて、ケンくんとの絆が途切れない様に大切にしていくべきだと思う。


 馴れ馴れしくしたり束縛するようなことはもう止めよう。

 ケンくんに他に好きな子が居たって、それはケンくんの自由だ。

 私がそこに口を挟む権利なんて、最初から無かったんだ。


 私は私なりにケンくんとの付き合い方を改めて、いつかケンくんと結ばれる未来を信じて、自分を磨くことに集中するべきだ。





 と、格好つけて自戒してるけど、本音はめちゃくちゃ不安。

 朝一緒に登校するときも、「昨日の放課後なにしてたの?」って聞いちゃうし、お昼時間に教室から出て行くのを見ると声を掛けちゃうし、部活に行く姿を見かける度に尾行したくなるし、休みの日とかケンくんちに押しかけたくなる。

 そいう衝動を紛らわせるように、今は必死に勉強に打ち込んでるんだよね。



 だから、ケンくんからたまにメッセージが来たりすると、めっちゃテンション上がるの。今日のなんて、嬉し過ぎでさっきからずっとその文面を眺めてるし。


 ああ、でもさっきの返信は偉そうだったかな。

『頑張ったね!』って褒めるべきだったかな。


 でも、ツッコミどころ満載なんだもん。

 そこがカワイイんだけどね。





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