#50 上級者の仲間入り
美術準備室の大掃除を始めたのが試験週間に入る直前だった為、中間試験を跨いで先週大掃除が終わったばかりだった。
美術準備室に到着してノックせずに扉を開けると、床にダンボールが2~3枚敷かれてて、桐山はソコに座って弁当を広げて俺が来るのを待っていた。
準備室を綺麗にして以降、床のが寛げるからと桐山がドコかからダンボールを拾ってきて、こうやって床に敷いて座ってお喋りしたり弁当を食べたりするようになった。
因みに、部活で絵を描くなどの作業の時は、ダンボールは片付けて普通にイスに座る。
「すまん、少し遅れた」
「いえ、大丈夫ですよ」
俺も座り弁当を広げると、桐山は手を合わせて「いただきます」と言って食べ始めたので、俺も「いただきます」と言いながらおかずのウインナーを箸でつまんで口に放り込んだ。
弁当を食べ始めると、桐山は俺が如何にスマホ音痴なのか文句を言い始めた。
実際のところ、現状は俺よりもスマホ歴が短い桐山のが使いこなせてる。
口をモグモグさせながら、そんな桐山の文句に適当に相槌打って、スマホのグループチャットで菱池部長に六栗のことを知っているか質問してみた。
『ぶちよむつぐりしつてる』
・・・
反応が無い。
分かりやすく送り直してみるか。
『ぶちよ』
『むつぐり』
『しつてる』
『え?私?むつぐりって何のことかな?鳥でそんな名前のいたっけ?』
『それはむくどり』
『じゃあ何のことなのぉ~?』
『おれのおさなじみ』
『石荒くんの幼馴染さんがどうしたの?』
『しつてる』
『知ってるってこと?』
『はい』
『石荒くんの幼馴染のむつぐりさんって子が私の事を知ってるの?』
『ちがう』
『え?じゃあどういうことなの?石荒くんの文章、難易度高すぎるよぉ』
『もういです』
「ほら、お人好しの菱池部長でも
俺と菱池部長のやり取りを桐山も自分のスマホで観察してたらしく、早速ダメ出しだ。
「おかしいな。六栗ならちゃんと伝わって会話成立するのに。桐山とか菱池部長だとなぜか伝わらないんだよね」
「それは六栗さんが特別なんです!六栗さんは文章を読んでるんじゃなくて石荒さんの思考を読み取って理解出来てるんです!普通の人にはそんなこと出来ないんです!六栗さんが甘やかすからいつまで経っても上達しないんですよ!でも一番の元凶は石荒さん、アナタです!お弁当食べたら早速特訓しますからね!早く食事を済ませて下さい!」
弁当を食べ終えると、桐山のスパルタが始まった。
桐山が出してくる例文をひたすら打ち込む練習をやらされた。
「『雲ぬれて春の山寺碁をかこむ』 ハイ」
『くもぬれてはるのやまでらごをかこむ』
「漢字に変換!大着しない!」
『雲濡れて春の山寺後を囲む』
「漢字が違ってます!もう一回!」
『雲ぬれて春の山寺碁をかこむ 』
「OKです。次『帰り給ふ都は春になりぬれど 』 ハイ」
『帰り珠江都は春になりぬれど』
「”たまえ”じゃありません。”たまふ”です。もう一回」
『帰り給ふ都は春になりぬれど 』
「っていうか、 漢字よりも句読点と疑問符のやり方教えてよ」
「そうですね。漢字変換は普通の人は教わらなくても出来ることですからね」
こいつ、俺が普通よりもレベル低いって言いたいのか?
失礼な女だな。
「疑問符と感嘆符は打ち込みキーの右下にありますよ。分かりますか?」
「右下? あ、ホントだ。こんなとこにあった」
「同じアイコンに、句読点もありますよ」
「おお、ここに隠されてたのか。全然気づかなかった」
「使い方は分かりますか?」
「タップして選択肢みたいに出たら選べばいいんでしょ?」
「そうです。では実際に句読点使って例文打ち込んで貰いましょうか」
「おっけ」
「『昔、でーたらぼっちが田植えを真似て、海苔を作ったそうじゃ』 ハイ」
『昔、でたらぼつちが田植えお真似て、ノリオつくつた』
「漢字変換で『作った』って出ないんだけど」
「小文字にしないからですよ!小さい”っ”!」
「小文字にするの、どうすれば・・・」
「小文字にしたい文字打った後に、左下の変換アイコンで小さくしたりするんです。濁点と同じですよ?」
「・・・ホントだ!?濁点は知ってたけど小文字の変換は初めて知った!これでまた1つ賢くなったな、俺」
「ハイハイ、じゃあ例文の続きを打ち込んで下さい」
こんな時、六栗ならホメてくれて「胴上げしとく?」って言ってくれるんだけどな。
やっぱ桐山は俺に厳し過ぎるな。
『昔、でたらぼっちが田植えお真似て、ノリオ作ったそうじゃ』
「”でー”です!あと”を”が全部”お”になってますよ!ノリオって誰ですか!」
「伸ばすのってどうやるの?」
「中央の一番下に”ー”も”を”も有りますよ」
「なんだよ、こんなとこにあったのか。このアイコンに『わ』しか書いて無いから気付けるわけないじゃん」
「言い訳してないでさっさと文章直してください」
『昔、でーたらぼっちが田植えを真似て、海苔を作ったそうじゃ』
「ハイ、OKです。これで少しはまともな文章になりますよね?」
「もう完璧。俺も遂にスマホ上級者の仲間入り。早速菱池部長にさっきの質問をやり直してみるか」
『菱池ぶちょ、六栗、知ってますか?』
『さっきの話の続きかな?六栗さんって人は知らないよ?』
『そうですか。ありがとう、ございます。』
『っていうか、急に文章上達してない!?何があったの!?』
『俺、スマホ、上級者、仲間入り、しました。』
『なんでカタコト!?』
よし、この調子で六栗にも上達したことを報告するか。
『スマホ、特訓、した。是で、俺も、スマホ、上級者。』
『覚えたての句読点使いすぎ。ケンくんが上級者名乗るの100年早いからね?』
ホメて貰えると思ったのに、六栗からもダメ出しされた。
っていうか、菱池部長と六栗は面識無いのなら、なんで六栗は菱池部長のことを気にするんだろう。
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