#48 優等生の毒親コンプレックス
中間試験の最終日。
この日、全ての試験科目が終わった放課後、美術部はお休みの日でしたが、石荒さんを美術準備室に呼び出した。
部活が無いのに呼び出した目的は、中間試験の自己採点をする為。
毎回用件を言わずに呼び出していたので最近は石荒さんの不平不満が酷く、仕方ないので今回は事前に『中間試験の自己採点をしましょう』と言って呼び出した。
ホイホイと私の呼び出しに応じた石荒さんは、あの格好付けたつもりのニヤニヤ顔だった。六栗さんの告白事件以降元気が無かったので、久しぶりにこの顔を見た気がします。
それだけ中間試験の結果に自信があるということでしょう。
二人で試験問題に向かって黙々と答え合わせを進めると、石荒さんは先に終わったらしく、背伸びしながら「ふぅ~」と息を吐いた。
やっぱりその表情には余裕が見え隠れしています。
きっとご自分が想定していた通りの結果で、それに満足しているのでしょう。
つまり、出来が良かったということ。
こういう時の石荒さんは、悪い意味で面倒なので、敢えて試験の出来は聞かない方が良いでしょうね。
結局この日は、お互いの自己採点結果は明かさずに、結果発表までのお楽しみということになりました。
そして翌週。
高校に進学して初めての定期試験の結果が出ました。
結果は、惨敗。
4月初めの校内実力テストでは、学年順位でギリギリ30位内をキープしてたのに、今回は90番台まで落ちていた。
理由は明白です。
ここ最近、浮かれすぎてました。
石荒さんと遊びすぎて、勉強の時間が減っていましたからね。
順位が落ちたことは悲しいけど、理由がハッキリしてるので、次は挽回可能です。
それに、順位は大きく落ちてますけど、点数その物は悪く無かったんです。
中学で上位だった生徒が集まった高校ですので、みなさん優秀なんですよね。出来て当たり前なので平均点が高いんです。たった1点の影響が大きいんです。
だから順位が落ちてしまったことはそれほど気にしてません。
点数自体が暴落した訳ではありませんので。
でも、どうしても気に入らないことがあります。
ええ、そうです。
石荒さんです。
何ですか、学年3位って。
前回の校内実力テストが5位で、それでも驚いたのにどうして上がってるんですか?
私と一緒に遊び周ってましたよね?
普通に習熟クラスの生徒にも勝ってますよね?
それにですよ、担任の坂崎先生が各自の結果を配布してた時も、受け取る前からずっとニヤニヤしてるんですよ。
私がチラリと鋭い視線向けても、いつもの様な怯えた表情をせずに、むしろ余裕
アナタ!髪ないじゃないですか!
なんですかその勝ち誇った笑顔!
しかもですよ!
明らかに私に向けてやってるんですよ!
他の人に声掛けられても「タマタマだよ。今回のは部活とか忙しかったからあんまり時間無かったしな(チラッ)」とか言って、まるで私に向かって「(一緒に美術部入ったり牛丼屋とかスタバ行ったりしてて、俺も桐山と同じように遊んでたよな?あれれれれれ?俺と同じ条件のハズなのになんでそんなに順位落ちてるの?俺は順位上がったのにおっかしいなぁ?)」とでも言いたげな表情してるんですよ!
コレはあとでお説教コースですね。
調子に乗るなよ!クソ坊主!?
っと、いけませんいけません。
とてもお下品な言葉使いが出てしまいました。
こんな言葉使いは私のアイデンティティに反しますよね。
お上品に。
そしてお淑やかに。
まるで春風の様に。
穏やかな小川のせせらぎの様に。
あ、また前髪かき上げる仕草した!
キィィィ!!!
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク!!!
◇
自宅に帰ると早々に、母が中間試験の結果を見せる様に要求してきた。
学年順位で90番台というのは、中学生時代では有り得ない順位。
豊坂高校では仕方ないことではありますが、きっと母にしてみれば成績が大幅に落ちたと捉えるでしょう。
案の定、ネチネチと嫌味を言われました。
『情けない』『恥ずかしい』とも言われました。
成績が落ちたのは事実ですし、その理由も私自身にあったのも自覚してるので、何も言い返すことは出来ません。
でも
どうしても比べてしまいます。
石荒さんのお家と。
ブーブー文句言いながらも私の我儘には何でも付き合ってくれる石荒さん。
厳しい様で本当は優しくて思いやりのあるお母様。
親子でそっくりのニヤニヤ顔のお父様。
石荒さんのお家は、いつ行っても温かいんです。
優しんです。
楽しいんです。
私がお邪魔すると、いつでもご両親は実の息子の石荒さんと分け隔てなく接してくれますし、毎回必ず「遠慮せずに明日も遊びにおいでね」と言ってくれるんです。
ウチの母の様に、子供に向かって『恥ずかしい』なんて言葉は絶対に言ったりしないんです。学校から帰って来て早々に制服も着替えさせてくれずに成績のことでお説教なんてしないでしょう。
母の説教が終わり自室に入ると、制服の上着だけ脱いでベッドにうつ伏せで倒れ込んだ。
私は豊坂高校に入ったことを、今では後悔してません。
人生観を変えてくれる人と出会えたし、毎日が楽しくなりました。
私の高校生活は母の虚栄心を満たす為にあるんじゃない。
私は高校生活を謳歌したいだけなんです。
それが自分で判ってるのに、家庭環境がそれを許してくれない。
世の中にはもっと大変な人も多く居るのはわかってますよ。
学校に行きたくても通えない人。
勉強したくても時間が取れない人。
それどころか、命の危険にさらされて勉強どころじゃない子供も沢山います。
私なんて、放課後に遊び周ってそれで成績落して、母からのお説教に不満を溜めこんでグチグチいじけてるだけの甘ったれた人間なんです。
なんだか惨めで情けなくなってきます。
母が私を『情けない』と言ったのは、案外その通りなんですね。
本当に情けない。
第8章、完。
次回、第9章 軽暑、スタート。
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