#47 甘えを払拭したい少女の気付き



 美術部に入部したケンくんのことや、そのケンくんを勧誘したという部長のことが気になっていたけど、例の非常識男のことや深溝くんのせいで、他人を気にする余裕が無くなっていた。



 非常識男は5組に近寄ることは無くなってたので直接の被害はあの日の公開告白だけで済んでる。

 でも、翌日以降、そのことが噂となって広まり、色々な人から心配やら質問やら話しかけられてて、めっちゃ面倒なことになってた。

 同じ様な質問や言葉を何度も繰り返され、内心ウンザリしてるのにそれを表に出してしまうと途端に「態度が悪い」などの悪評が広がりかねないので、常に愛想笑いをするしかなかった。

 サッチーとかグループの友達が防波堤になってくれようとするけど、それも限界がある。

 特に面倒なのが、5組以外のクラスの子たち。


 同じクラスの子たちは私に対して同情的で、最初こそ心配してくれて声を掛けて来たりしてたけど、必要以上に騒いだりはしないでいてくれた。

 でも他のクラスの子たちは、それほど仲が良いわけじゃないのに、大げさに心配して慣れ慣れしくしてきたり、何かあったら相談のるよ?的なありがた迷惑な申し出も多かった。


 特にあの日助けてくれた男子の一人、深溝くん。

 最初は良い人だと思ったんだけど、正直言って今はウザい。

 断っても断ってもしつこい。

 連絡先交換したのは失敗だった。

 あれで完全に友達認定されてしまって、馴れ馴れしくされてる。

 交換した日こそメッセージに返信したけど、次の日からは完全に未読でスルーするようになった。


 何て言うのかな、『僕に任せておけば大丈夫だよ!』的な自意識過剰で思い上がりな自己主張が強くて、ただウザイだけ。

 寧ろ、勘違いの痛い人に見えて来た。


 私たちの間では、『爽やか風イケメン気取りの勘違い男子』と共通認識が持たれ、痛いイケメン、略して痛メンと呼ばれる様になっていた。


 うわ、また痛メンきた。とか、今日の痛メンメッセも相変わらず痛いから見ない方が良いよ。とかそんな感じで。



 私の好みってケンくんなんだよね。

 顔じゃなくて人柄とか性格ね。

 勿論、顔も好きだけど。


 ケンくんって、良くも悪くも根がバカ正直っていうのかな。

 裏表が無くて、ストレートなんだよね。

 怒る時も喜ぶ時も笑う時も泣く時も全部正直なんだよね。


 クール気取って格好付けてても、それが全部見えてて微笑ましいんだよね。

 泣く時だって、口では格好付けた事言ってても、涙と鼻水溢れさせて、めっちゃ泣くんだよね。

 反省して謝る時だって、頭五厘に丸めたり土下座したりして、私が許すまでずっと頭下げ続けてくれるんだよね。

 足舐めるって言った時は流石にドン引きしたけど。


 私はそういう人が好きなの。

 小学生の時にケンくんを好きになった理由はソレなの。

 私なら恥ずかしいと思う様なことでも、全然恥ずかしがること無く堂々と出来る姿が格好良かったの。

 普通なら躊躇するようなことでも自分がそれが正しい、そうするべきだって思ったら、躊躇することなくそれが出来るのがケンくんなの。


 深溝くんみたいに薄っぺらで押しつけがましいのがケンくんに勝てるわけないじゃん。

 私に好意を持つのは勝手だけど、私がそれに応えるなんてありえないし。



 と、一人でグチグチ愚痴ってても、そんな私の気持ちなんて誰にも伝わらないし理解なんてして貰えないだろうなぁ。




 あれこれ悩みは尽きず、モタモタしてたら中間試験の試験週間が始まってしまった。

 高校に入学して初めての定期試験で、進学校であり各中学の成績上位者が集まってる豊高では、みんなの目の色が変わり始めた。


 ケンくんにも試験勉強の様子聞いてみたら、「部活入ったばっかだけど、今週から臨戦態勢突入」と教えてくれた。

 本当は「受験勉強の時みたいに、一緒に勉強しない?」と誘いたかったけど、色々とモヤモヤしたままだったし、何よりも本気で試験勉強に取り組み始めているケンくんにとって、私はただのお荷物にしかならない。

 多分、私がお願いすれば断ったりしないだろうけど、そうなれば、ただ迷惑かけるだけになるのは間違いない。


 それに、受験の時みたいな入試試験の為だけの勉強と高校での定期試験の勉強は別物で、今の勉強に関しては他人頼りでは直ぐに落ちこぼれるのが目に見えてるので、自分で何とかしなくてはいけない。


 進学校で偏差値も高い豊坂高校は、そういう学校だから。

 ココでの勉強に関しては、甘えは通用しない。

 入学してからの1カ月でそれは身に染みてる。




 ◇




 2週間後。


 中間試験の結果が発表されると、1年の生徒数約360人の中で、私はギリギリ300位以内に入っていた。

 それでも赤点は無かったし各教科の点数も低い訳では無かった。

 平均点が異常に高いのだ。


 上位なんて満点がザラだったというし、並み程度では半分以内にも入れない。


 そしてケンくんは、学年で3位。

 クラスでは1位だった。


 中学の頃は、ケンくんはそこまで上位じゃなかったと思う。

 学年で一桁だったけど、目立つような順位じゃなかった。


 でも高校では、明らかに違う。

 きっと高校に入って本気になったんだと思う。

 中学までは、全然本気じゃなかったんだ。


 あ、違う・・・

 本気を、出せなかった・・・?



 私は、これまでの自分が如何に愚かだったのか、今更気が付いた。






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