#45 優等生は推察する
今日は朝から教室の中が騒がしいです。
5組の教室だけでなく、他のクラスも?
1年生全体で六栗さんのことで噂が立ってる様で、今も六栗さんの席には人が集まっています。
野場さんの話では、昨日の放課後、六栗さんが他のクラスの男子生徒に告白されたそうで、それが廊下やこの教室だったらしく騒ぎになってたそうです。
昨日、帰りがけに見かけた教員に連行されてた生徒がどうもそうらしい。
私にも似た経験がありますので分かりますが、告白されると言うのはただでさえ恥ずかしいし気が重いのに、それが衆人環視の中でとなれば理不尽に感じるほど迷惑でウンザリしてしまうもの。
どうしてそんなことをするんでしょうか?
迷惑行為をされて好意など持つわけ無いのに。
六栗さんだってきっとそうだったんでしょう。
好意を持つどころか、嫌悪して激昂したのでは無いでしょうか。
六栗さんは気が強いので、恐らく揉め事になったんだと思います。
実際に、昨日はその迷惑な告白をしたと思われる男子生徒は、生徒間でのトラブルでは済まなかったのか、教師に連行されてましたし。
でも恐ろしいのは、それほどの迷惑行為をして六栗さんに拒絶されたのに、昨日連行されていた時の様子ではまだ諦めてないこと。
本当に理解に苦しみます。
今日ばかりは六栗さんに同情だってします。
私だって昨日は最悪な相手と鉢合わせてしまい、しつこく言い寄られましたしね。
それでも、石荒さんが話を聞いてくれて、牛丼屋さんやスタバへの寄り道に付き合ってくれたお陰で気持ちは大分持ち直しましたので良かったんですけど。
ところで、石荒さんと言えば、六栗さんとは幼馴染。
石荒さんは、六栗さんに対して特別な感情を持ってる様子。
体調不良になった時は知られるのを恐れ、部活動に入部すれば直ぐに報告。怒らせて口を聞いて貰え無くなれば、サンマの塩焼きの様な死んだ目で落ち込み、仲直りする為に何とかしようと頑張ってました。
私と二人で居る時でも、よく六栗さんのことを気に掛けてたり心配したりしてますので、日ごろから六栗さんのことを考えてるんでしょう。
でも、今日の様子を見ていると、今回の告白事件にあまり興味が無い様子。
興味が無いと言うか、積極的には関わろうとしていない?
私と石荒さんは教室では隣同士の席でも直接会話するのは避けてますので、代わりにスマートフォンで『六栗さん、大丈夫なんでしょうか?』とメッセージを送ると、私のメッセージを確認した石荒さんは困った様な表情をして『わからん』と一言だけ返事。
幼馴染らしく今日も一緒に登校してたのに、わからないというのはどういうことなんでしょう。
『朝一緒に登校されたときに、何か聞いてないんですか?』
『きいてない』
んんん?
あの六栗さんが、石荒さんに何も話してない?
これだけの騒ぎになるような出来事を話していない?
そんなことがあるんでしょうか。
私ですら石荒さんに聞いて貰いたくて、昨日はお昼だけでなく放課後も強引に付き合って頂いたのに。
仲直りしたと聞いてましたが、実はまだ仲直り出来ていない?
でもそれなら一緒に登校はしないでしょう。
『心配じゃないんですか?』
私がそう送ると、石荒さんは仏頂面になって返事をしてくれなくなってしまいました。
石荒さんは六栗さんのことを好きなんだと思ってましたが、私の勘違いだったのでしょうか。
幼馴染である六栗さんを大切にしているのは間違いないようですが、恋愛的な話題を避けている?
今回の事件は恋愛絡みの物でしたので、お互いにこの件に触れるのは避けているということでしょうか。
同じ高校に進学するほど仲が良くて、入学式の日だって同じクラスになれたことに六栗さんは興奮して喜んでいました。
あれだけ仲が良いのであれば、過去に恋愛的なやり取りがあっても可笑しくない。
でも、今現在二人は恋人ではありません。
私は、石荒さんだけでなく六栗さんも石荒さんに好意を寄せていると思ってました。
二人は、相思相愛なんだと。
でも、付き合っていない。
そこには何か事情があって、石荒さんはあんな風に六栗さんに気を遣い、六栗さんは六栗さんで今回の件を石荒さんに話そうとしない?
お互い遠慮して、踏み込むことを避けているんでしょうか。
私も他人との距離の取り方で悩むことが多いですし、自分から踏み込むことは避けて生きて来ました。
私にとって、踏み込むことが出来る人、そして踏み込んでくることを許せる人、それが石荒さんです。
唯一それが出来る人であり、石荒さんにはそれを受け止めるだけの度量があると私は断言します。
なのに、六栗さんは石荒さん相手でも遠慮してる?もしくは避けている?
幼馴染で長い付き合いがあるにも関わらず、石荒さんの本質を見抜けていないのでしょうか。
それとも、分かっていてもそれが出来ない理由があるのでしょうか。
もしかしたら、幼馴染として振舞っているのも、その辺りの事情を隠す為なのかもしれませんね。
いずれにしても、長い付き合いであれば色々なことがあったでしょうし、本人たちにも上手くコントロール出来ない感情などもあるでしょう。
他人の私がとやかく言う話ではありませんね。
寧ろ、幼馴染としての関係がその程度の物なら、私も遠慮する必要が無くなると言えます。
既に全く遠慮出来てない自覚はありますが。
石荒さんを美術部に強引に入部させたのは、結果的に石荒さんにとって何か良い変化が生まれるかもしれません。
例えば、六栗さんとの関係を見直すとか。
私だって石荒さんのお陰で、気持ちの持ちようが大きく変化して、これからの高校生活を変えて行こうと考える様になりました。
今度は私が石荒さんにとってそんな存在になれれば、きっと私たちの関係にも強い絆が生まれ、この先も長く続く関係になれるのではないでしょうか。
◇
この日の放課後は、美術準備室の大掃除。
授業後のHRが終わり、一足先に美術準備室へ向かうと、菱池部長が既に来ていた。
大掃除するのに制服のままでは汚れてしまうので、体操服に着替える必要があります。
準備室の扉を内側から施錠し、菱池部長に向かって「時間が勿体ないのでさっさと着替えましょう」と話し、制服を脱ぎ始めた。
菱池部長も私に倣う様に制服を脱ぎ始めると、「桐山さんって、スタイル凄く良いんだね!ファッション雑誌のモデルさんみたいだよぉ!今度人物画のモデルお願いしようかなぁ」と興奮気味にしきりに私の体形を褒めていた。
スタイルには少し自信があるので、褒められると悪い気はしません。
中学時代、弓道部で鍛えていた甲斐があったというもの。
弓道って礼儀作法が厳しくて大人しいスポーツに見えますけど、肉体的にも精神的にも相当負担がかかる競技なんですよね。
因みに、中学時代に私がなぜ弓道を選んだかと言うと、スポーツの中でも数少ない肌の露出が少ない競技だったからです。
スポーツウエアの多くは脚や腕を露出した物ですし、水泳や新体操などの半裸に近い物は母から禁止されていましたので、消去法で弓道を選びました。
それでも真面目に取り組んでましたし、あまり大した実績は残せませんでしたけど、良い思い出も多く残せました。
高校では美術部ですけど、これもまた楽しいことが待ってる予感があります。
なんと言っても、石荒さんと一緒ですからね。
「桐山さん、ウエストはキュっと締まってるのにヒップがプリっとしてるから、女の私から見てもツイツイ触りたくなっちゃう!」むふぅ
私が石荒さんとのこれからの部活動に想いを馳せていると、菱池部長はそう言って鼻息を荒くしながら私のお尻をペロリと触り、そのままお尻の感触を味わう様に撫で始めた。
ナンですかこのセクハラ部長。
石荒さんよりも酷い性犯罪者がココに居ました。
菱池部長の手を掴んで捻り上げ、瞳をジッと見つめる。
「イタタタタタ!?ゴメンナサイゴメンナサイ!そんなに怒らないで!今にも殺しそうな眼差しで私を睨まないで!こんなに強い殺意向けられるの初めてだよぉ」
「分かれば良いんです。次にしたら本当に殺しますからね」
「本当にやりそうで怖いよぉ~、石荒くん早く来てぇ~」
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