#40 結局振り回されてる少年



 またも桐山から昼ご飯の後に呼び出しがあり、俺も部活の事で相談したかったから美術準備室へ行くと、昨日一昨日は俺よりも先に来てたのに桐山はまだ来ていなかった。


 結局俺が来てから10分ほど遅れてやって来たけど、最近の桐山には珍しく口数が少なく、いつもの強気で横柄な態度もナリを潜めていた。



「お待たせしてすみません」


「俺より先に教室出てたと思ったけど、何してたの?」


「ええ、ちょっと・・・」


「俺が遅いとネチネチ小姑みたいに五月蠅いのに」


「すみません・・・」


「なんか元気無い? 弁当食べてた時はいつもみたいに猫被ってお澄まししてたのに」


「・・・」


「お腹でも壊した?保健室連れてこうか?」


「いえ、大丈夫です」


「そっか」



 うーん。

 美術部に二人揃って入部したことで何か聞かれた時の為に口裏合わせしとこうと思って呼び出しに応じて来たのに、なんかそんな相談する空気じゃないな。


「なんかあったの?」


「いえ・・・」


 雰囲気からしてなんかあったのは間違いなさそうだけど、他人には言いにくい話?

 察してそっとしておいた方のがいいのかな。

 それとも、自分からは言いにくいから俺が聞き出して相談に乗るべき?



「休憩時間の残りもそんなに無いし、教室戻るか?」


「いえ、その・・・」


「どうした?聞いて欲しい話があるなら聞くぞ?」


「・・・では、少しお話ししてもいいですか?」


「うん。いつもの様に遠慮せずにどうぞ」


「石荒さんは異性に告白したことはありますか?」


「へ!?」


 まさか、桐山が俺に恋愛相談???

 最近は家庭の事情とか中学時代のモテ自慢とか何でも話してくれる感じになってたけど、恋愛相談だけは無かったな。

 しかも、俺が六栗を怒らせて悩んでた時に、「好きな男いるか?」って聞いたらブチ切れた程だったしな。



「俺から告白したことは無いな」


「そうですか。 ではこの先、ご自分から告白することはあると思いますか?」


「この先? うーん・・・」


 俺は六栗に告白することは、無いだろう。

 六栗のこと、好きだけど、俺にはその気持ちを言葉にする資格は無い。

 だから、せめてその代わりに幼馴染という関係をこれまで守って来たし、この先も守り続けたいと思っている。


「多分、告白することは無いと思う」


「そうですか・・・では、男性として聞きますが、断られても何度も告白すると言うのは、どういう心境なんでしょうか?」


「え?断られても何度も???」


「ええ、何度も」


「うーん・・・それだけ好きだと言う事か、諦めきれないと言う事か・・・もしくは、何度も告白することでいつか気持ちが伝わると信じてるのか・・・それとも、断ってるけど照れてるだけで本当は相手も自分が好きなんだと勘違いしてる残念なオツムなのか」


「なるほど、何となく理解出来ました」


「で、何だったの?何があったの?」


「先ほどココに来る途中に男子生徒に呼び止められて、告白されてました」


「へー、やっぱり桐山って本当にモテるんだな」


「ええ、残念なことに」


「残念って。いつもは俺にモテ自慢してるクセに」


「それは石荒さんに対してだけですしジョークみたいなものですよ。本当は、異性に好意を寄せられたり告白されるのは苦痛を感じます」


「苦痛か、確かに恋愛とか異性が苦手なら苦痛かもしれないな」


「相手から一方的に告白されて、私自身は相手に対して何も責任がないはずなのに、周りの人間から『付き合ってあげればいいのに』という空気にされて私が悪者にされることもあるんですよ?そんなの理不尽だと思いませんか?」


「まぁ、そうだね・・・」


 でも俺の場合は、理不尽でも何でもなかった。

 六栗は何も悪くないのに傷つけてしまった。100%俺が悪かった。


「なんなんでしょうね。どうして皆さん、恋人を作りたがるんでしょうね。そんなにセックスしたいんでしょうか」


「はぁ!?セックス!?」


「ええ、セックスしたいから恋人作るんじゃないんですか?」


「まぁ、確かにそういう人は多いだろうけど、まさか桐山の口からセックスって単語を聞かされるとは思わなかったぞ?」


「私だって高校生ですし、それくらいの知識はありますよ。あまり興味はありませんけど」


「そうなんだ・・・」


 桐山が興味ない恋愛事に悩んでいるのは分かったけど、なんでそこまで苦手意識を持っているのかまではよく分からなかった。

 何度も告白を繰り返す男の心境とか聞いてたし、今日桐山に告白してきたという相手は今回が初めてでは無く、これまでにも何度も告白して来てるのかもしれない。

 要は、余りにもしつこくてウンザリしてるってことなのかな?

 それとも、モテすぎる自分が嫌になってるのかな?



 結局、美術部入部の口裏合わせが出来ないまま5限の予鈴が鳴ってしまい、教室に戻ることになったが、教室に向かって廊下を歩いていると「今日も放課後、美術準備室で待ち合わせしましょう」と桐山が言い出した。


「今日は真っすぐ帰りたいんだけど。明日じゃダメなの?」


「明日は部活があるじゃないですか。今日は牛丼屋さんに行きたいんです」


「いや、その時間に食べたら夕飯食べれなくなるから嫌なんだけど。っていうか、桐山だって平日だと流石に家で五月蠅く言われるんじゃないの?」


「ええ、言われるでしょうね。でも今日は何か発散したい気分なんです。あとついでに画材屋さんにも行ってみたいですし」


「うーん、画材屋かぁ。確かに行ってみたいけど、今日はちょっとなぁ」


「それに、先ほどの続きも聞いて頂きたいですし」


 桐山がこんなに落ち込んでシリアスにお願いしてくるのは珍しいからよっぽどのことなんだろうけど、六栗とも一緒に帰るって約束してるからなぁ。


「うーん・・・」


「結局、石荒さんにとって私なんてその程度の存在なんですよね・・・私は石荒さんのことを心の友だと思って胸の内の裏側まで曝け出して心を開いてたつもりでしたけど、石荒さんには伝わらないんですね・・・」シクシク


 桐山は立ち止まってそう言うと、ポケットからハンカチを出して目元を押さえた。


「分かった、分かったって。牛丼屋付き合うから。だからそんなことくらいで泣くなよ」


「ふふふ、石荒さんならそう言ってくれると思ってました。放課後約束しましたからね?来なかったら末代まで呪いますからね?」


「ウソ泣きかよ!」



 ウソ泣きで俺を騙そうとする程度には元気になったということか。

 そう考えれば、悩みを聞いてあげて少しは俺も役に立ったってことかな。


 結局放課後、六栗には謝って、桐山と二人で牛丼屋と画材屋に行くことにした。





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