#39 少女に降りかかる新たな災難






 ケンくんと仲直り出来たはずなのに、あまりケンくんと二人きりの時間が作れて無かった。


 朝の登校はいつも通り一緒だけど、でも家から学校までが近いから10分も掛からない。

 それでも登下校が唯一と言ってもいい二人きりの時間なので当然下校も一緒に帰りたいのに、連休明けてから二日連続で「用事あるから先帰ってて」と言われてしまい、一人で帰ってる。


 それで今日は流石に一緒に帰りたいと思って朝から「今日は一緒に帰れるよね?」って確認したら「多分大丈夫」って言ってたから安心してたら、放課後になって「スマン。やっぱ先に帰ってて」と言われた。


 約束してたのにそれは酷いと思って、聞かずにはいられなくなった。


「何の用事なの?待ってようか?」


「いや、遅くなりそうだから待ってなくていいよ。事情は後で連絡するから」


「そっか、わかった。絶対連絡頂戴よ」


「うん、連絡する」


 そう約束すると、仕方ないかと諦めて「じゃあね、バイバイ」と言って一人で教室を出て下駄箱に向かった。



 中学の時と比べて、なんだか距離を感じるなぁ。

 私が勉強に集中してたりケンくんちで色々あったせいもあるけど、やっぱケンくんに好きな人が出来たせいかなぁ・・・って、え!?用事って好きな人と会ってんじゃないの!?


 マズイマズイマズイマズイ

 こんなん放置してたら、ケンくんのこと横取りされちゃうじゃん!



「あの、すみません、六栗さん。ちょっと時間良いですか?」


 ケンくんが好きな人と密会してるんじゃないかと不安になって、慌てて教室に戻ろうとすると知らない男子に声を掛けられた。


「今急いでるんで」


「本当に少しで良いんで」


「マジ急いでるんで!」


 知らない男子に構ってる場合じゃないのでそう断って教室に戻ろうと歩き出すと、その男子は廊下中に響くような大声で叫びだした。


「六栗ヒナさん!好きです!僕と付き合ってください!!!」


「はぁ!?」


 思わず立ち止まって、振り向いてしまった。

 私以外にもその場に居合わせた他の人たちが、みんな驚いた顔してその男子を観ている。


「お願いします!僕を恋人にして下さい!」


「信じらんない!こんな廊下で常識疑う!死ね!」


 そう叫び返し、逃げる様に走って教室に引き返した。


 信じらんない信じらんない信じらんない信じらんない信じらんない信じらんない信じらんない!なんなのあの男!?


 ケンくんのことで頭いっぱいなのに余計なことされて、怒りがこみ上げる。

 兎に角無視!無視無視!



 直ぐに教室に戻ると、サッチーや他にも友達が残ってたけどケンくんの姿はもう無かった。


「ヒナちゃん!顔赤いけどどうしたの!?帰ったんじゃなかったの?忘れ物?」


「えっと、その、ケンくんに用事あったの思い出したんだけど、もう出てっちゃったみたいだね・・・」


「あー、石荒くんならヒナちゃん帰った後に直ぐに出て行くの見かけたよ」


「そっか、ありがとサッチー」


 ケンくんがドコに居るか分からないから、探すべきか迷う。

 スマホで居場所聞くのは、後で連絡貰うってさっき約束したばかりだからしつこいって思われそうだし、諦めて帰るにしても、また下駄箱に向かう途中にさっきの非常識男と遭遇しそうで怖い。

 っていうか、さっきの、なんなの!?

 思考が追い付かない。


 と動揺しまくりで迷っていると、その非常識男が今度は教室まで押しかけて来た。



「六栗さん!僕は諦めません!もう一度考え直して下さい!」


「え!?ナニこの男子???ヒナちゃんの知り合い?」


「ムリムリムリムリムリムリムリムリムリ」


 非常識男は入り口で再び愛を叫んだあと、教室の中にまで入って来た。


「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!コイツマジヤバイ!」


 私が怯えてサッチーの陰に隠れようとするとサッチーが直ぐに非常識男のヤバさを理解してくれたようで、その非常識男の前に立ちはだかって私を守ってくれた。


「ちょっとアンタなんなの???ヒナちゃん滅茶苦茶怖がってるじゃん!先生呼ぶよ!?」


「僕は六栗さんに愛を伝えたいだけだ!邪魔をしないでくれ!」


「頭おかしいんじゃないの!?」



 サッチーや他の友達も私を守る様にガードしてくれてたけど、非常識男は全然諦めようとしなかった。


 非常識男が騒いでるせいで廊下に人が集まってきた。

 でもそのお陰で、集まってた人たちの中から男子生徒数名がその非常識男を取り押さえてくれて、廊下に連れ出してくれた。


 誰かが呼んでくれたのか直ぐに担任や他の職員が数名飛んできて、その非常識男をどこかに連れて行ってくれて漸く静かになったけど、私はまだ怖くて全然落ち着けなくて、席に座って頭を抱え込んでいた。


 教室に残った担任の坂崎先生から事情を聞かれたので、名前も知らない人でいきなり告白されて断って逃げたら教室まで追いかけてきて叫んでいたと説明すると、坂崎先生からは「事情はだいたい分かりました。今日はもう帰りなさい」と言って、教室から出て行った。


 教室にはサッチーや他の友達数名と非常識男を取り押さえてくれた男子生徒の一人が残ってくれていた。

 その男子生徒は私のことを心配してくれてるみたいで、サッチーたちに色々質問していた。



「大丈夫そう?帰るなら誰か付き添った方が良くない?」


「うんそうだね。ヒナちゃんの家なら私行ったことあるし、私が付きそうよ」


「じゃあ念のため僕も付きそうよ。荷物取ってくるから校門で落ち合おうか」


「おっけー、ヒナちゃん大丈夫?帰れそう?」


「う、うん、迷惑かけてゴメンね?」


「ヒナちゃんが悪いわけじゃないからね?謝らなくてもいいし」


「うん、ありがと・・・」


「じゃあ僕は先に行って校門で待ってるね。ゆっくりで良いからね」


「ありがと。えっと・・・」


「ああ、僕は1年3組の深溝彰(ふこうず あきら)って言います」


「私は横落サチエね!で、こっちの被害者が六栗ヒナちゃんね!」


「横落さん、六栗さん、よろしく!」



 深溝くんは笑顔でそう言って、手を振りながら教室を出て行った。


 少し気持ちが落ち着いて来たので、私たちも教室を出てサッチーと下駄箱に向かった。


 途中の廊下でさっきいきなり告白された場所に来たところで、「教室に戻る前にココで愛を叫ばれたから断って逃げたら教室まで追いかけてきたんだよ」と話すと、サッチーは「あんのストーカー!!!次来たらぶっコロス!」とめっちゃ怒ってて、私のことで怒ってくれるのが嬉しかった。


 サッチーは自転車通学なので駐輪場まで一緒に行って、サッチーの自転車を回収してから校門へ行くと、深溝くんが待っていてくれて、笑顔を手を振っていた。


 サッチーと深溝くんの二人に「ホント、ごめんね?」と謝りながら歩き出すと、二人とも「気にしないで」と言ってくれて、お喋りしながらウチへ向かった。

 私と深溝くんは徒歩通学で、自転車通学のサッチーは自転車を手で押しながら歩いた。


 サッチーと深溝くんは、落ち込んでる私を元気づけようとしてくれてるのか、二人とも沢山喋ってくれてて、特に深溝くんは初対面なのに、物腰が柔らかく気遣ってくれてるのも分かるし、話しやすかった。


 深溝くんは南中の出身で西中学区の私の家とは方向違うけど、学校から徒歩圏内でそれほど遠い距離では無いらしい。

 中学の時はサッカー部で高校でも入部するつもりだったけど、思ってた以上に勉強が大変で今は迷ってて、今日も家に帰るつもりだったところに騒ぎを聞きつけて、5組まで様子を見に来たそうだ。

 助けて貰ったってのもあったし、部活のこととか私と同じこと考えてて妙に親近感を感じる人だった。



 家まで10分程度なので直ぐに着いてお礼を言って別れようとすると、深溝くんが「連絡先の交換お願いしてもいい?」と言い出し、サッチーが「おっけー」と言って応じたので、私も連絡先を交換した。



 二人と別れ、家に上がってママに学校であったことを話すと、ママから「明日から大丈夫なの?ケンくんが傍に居て守ってくれるの?」と言われ、すっかり忘れてたけど、今日はケンくんが好きな子との密会してる疑惑でケンくんを探そうとしてたことを思い出した。


 そして思い出した途端、これまで以上に疲労感が襲って来た。

 非常識男のことはケンくんには無関係だけど、でもなんかケンくんに対しても怒れてくる。


 ケンくんが朝に約束してた通り一緒に帰ってくれてたら、こんなことにならなかったかもしれない。

 ケンくんが恋人だったら、告白されても「恋人います!」って断ることできて、それで相手も諦めてくれてたかもしれない。

 そもそも、ケンくんと付き合ってて、それが周囲に認知されてれば告白すらされずに済んだかもしれない。


 そんなことを考えてしまった。



 家に帰ってから1時間もすると、サッチーや深溝くんや他の友達から心配するメッセージが送られてきて、それぞれに『もう落ち着いてきたから大丈夫だよ。心配かけてごめんね』と返信を送ったけど、ケンくんからは約束してた連絡はまだ無いままだった。








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