#36 女の独占欲



 六栗ヒナの場合。




 ケンくんと仲直り出来たけど、だからと言って二人の仲が進展した訳じゃない。教室では、相変わらずだし。


 学校ではお互いに友達が居て、ケンくんにはケンくんのグループみたいなのあるし、私にもサッチーとかいつも一緒にいる友達のグループがある。だから教室だと、ずっと一緒ってわけじゃなくて、どっちかと言うと別々にグループの子達と一緒の方が多い。

 それに教室みたいに人目が多い場所でケンくんに話しかけると、クールなフリしてあんまり喋ってくれない。二人きりのときは沢山喋ってくれるのにね。

 だから、ホントは教室とかでももっとお喋りしたり、一緒にお弁当食べたりしたいんだけど、貴重な二人だけの楽しい時間は登下校の時くらいしか無かった。


 だから今日は、仲直り出来たばっかだしお昼時間に教室以外のドコかでゆっくりお喋りしようと思ったら、いつの間にか居なくなってた。

 スマホで『いまドコ?』って送っても既読も付かなくて、戻って来たのは5限の予鈴が鳴ってから。

 戻って来た時「メッセージ送ったのに返事ないし、ドコ行ってたの?」って聞いたら、「え!?そうなの?すまん、スマホ、リュックに入れっぱだった」とか言ってて、結局ドコに居たのか教えてくれなくて、なんだかなぁって感じなんだよね。


 しかもさ、桐山ツバキも同じタイミングで教室に入って来たのもなんか引っ掛かる。

 やっぱケンくんの部屋に落ちてた黒髪のこともあったから気になってて、今日は朝から二人の様子観察してたけど、相変わらず二人とも壁作ってる感じで全然会話とかしてる様子無いし怪しい感じは無かった。


 なんやかんや気になるのは、やっぱ桐山ツバキは存在そのものなんだろうね。

 ケンくんが妙に怖がってたけど私もそれには同意で、いつもお上品に微笑んでて、でも何考えてるのか全然読めない感じがね。

 ああいうタイプって絶対に腹グロかったりしたたかだと思う。


 それに悔しいけど、顔も髪もめっちゃ綺麗なのも。

 脚長くてお尻も小さくてスタイルだってすっごくイイし、あんな子こんな田舎の県立高校に居ちゃダメでしょ!って思うもん。

 私が勝てるのって、育ち盛りで最近Eになった胸のサイズくらい?


 噂だと、中学の時は男子から告白されても全部断ってたらしくて恋愛に興味無さそうって聞いたけど、でも私も中学の時は全部断ってて、それはケンくんのことが好きだったからだし、桐山ツバキも実は好きな男子居たりするのかな。


 っていうか、やっぱ偶々同じクラスの隣の席になったくらいで、あの桐山ツバキがケンくんを好きになるとかあり得なさすぎる。

 だってケンくん、坊主で全然イケメンじゃないし、そのクセ格好付けてばっかでクールぶってるし、坊主のクセにたまに細かいこと言い出して面倒なことあるし、勉強の時はスパルタで坊主のクセに鬼だし、急に吐いたりお腹壊すことも多いし、デート中にそれやらかすし、坊主のケンくん好きになるのなんて私くらいでしょ。




 で、放課後一緒に帰ろうとしたら、「すまん、今日は用事あるから先帰ってて」ってどういうことなん!?

 仲直りしたばっかだし、折角色々お喋りしたかったのに!


 用事ってなんなの!って聞きたかったけど、そんなの束縛してるみたいでカノジョでも無いのに強く聞けないし、帰って勉強しなくちゃだから何時に終わるか分かんないケンくん待ってるのも無理だし、すっごいモヤモヤする。


 折角GWに一緒に過せなかった分、いっぱい取り戻そうって思ってたのに、それが出来なくてモヤモヤが酷い。

 でも、そういう我儘言ったら絶対メンドクサイ女だって思われるし、自分でもそういうみっともない姿見せたくないし、結局我慢するしかないんだよね。


 カノジョになれてたらもう少しどっしりと構えてられるのかな。

 幼馴染とか言っても、一緒に登下校してるだけで全然なんにも役に立たないし、仲直りしても心の安定は程遠くて、なんか辛い。


 こんなんじゃ折角治りかけてるニキビが、ストレスでまた酷くなりそう。







 ______________



 一方、桐山ツバキの場合。




 一緒に部活動に入る約束を取り付けることに成功したので、この日の放課後に早速二人で行動を開始することにしました。


 場所は、お昼の休憩時間と同じ美術準備室。

 なぜココを選んだかと言うと、美術部が狙いだったから。

 私がリサーチした結果、美術部の活動拠点はこの美術準備室で、幽霊部員は多数居るそうですが本格的に活動してる生徒は極少数。活動日は毎日では無くて、火曜と木曜の週に二日だけ。

 私は毎日でも良いのだけど、それだと石荒さんが「面倒だからイヤだ」と我儘を言うので、活動日が少ない部を選びました。


 そして、美術室やこの準備室は美術部以外では1年生の選択科目でしか使用されない教室であり、校舎内では配置の関係で普段は人が寄り付かない。因みに美術の教師も他校と掛け持ちの非常勤の為、授業がある曜日にしか出勤してこないので、日によっては誰にも気兼ねなく使用出来る。


 と言うことで、放課後「今日は六栗と一緒に帰るつもりだったのに」と文句タラタラの石荒さんを「美術部に見学に行きましょう!」と言って拉致、では無くてお誘いして美術準備室を訪れた次第です。



「っていうか美術部って火曜と木曜じゃなかったのかよ!今日月曜じゃん!休みなのに何故俺をココに連れて来た!?」


 ええ、知ってましたよ。

 ワザとですから。


「私としたことがうっかりしてました。そう言えば今日は月曜日でしたね」


「はぁ、じゃあ今日は帰ろうぜ。今から走れば六栗居るかな?流石にもう家に着いちゃってるか」


「まぁまぁ、折角ココまで来たんですから、少し美術部の活動内容でも確認しておきましょう」


「いやいやいや、美術部の人居ないのにどうやって確認するつもりなんだよ」


「じゃあ仕方ありませんので、美術部の活動内容の確認は明日することにして、今日はココでいつもの様にお喋りでもして時間を潰しましょうか」


「俺は家に帰りたいだけだから時間潰す必要無いんだけど。 っていうか、桐山がお喋りしたいだけだろ?お喋りに付き合って欲しいなら素直にそう言えばいいじゃん」


 人が触れて欲しくない部分に容赦なく触れて来るとは、相変わらずデリカシーが足りない人ですね。


「だったら何だって言うんですか?友達とお喋りしたいと思うことは悪いことですか?友達とお喋りしたいと思うのがそんなに罪なことなのですか?石荒さんが「俺の前では素の自分を出してもいいぜ!(キラーン☆)」って坊主頭なのに格好付けて言ってくれたから私もそうしてるだけなのに、友達のフリして私をからかってたんですね。本当は血も涙も毛も無い人だったんですね。こんなにもデリカシーの無い方だったなんて知りませんでした。とても不愉快です。ええ不愉快です。牛丼屋さんに一緒に行くの楽しみにしてましたけど一人で行かせて頂きます。もう坊主頭の石荒さんは来て頂かなくても結構です」


「よくそんなに噛まずにスラスラ文句が出て来るな。教室に居る時と違い過ぎるぞ。桐山が被ってる猫、強力すぎんだろ」


 文句じゃない。

 私は事実を述べているだけです。

 でも文句と言われるのは面白く無いので、不平を訴える様に無言で石荒さんを睨み付けた。シャー!


「怖いって!桐山が睨むとマジで怖いんだって!わかったから!お喋りに付き合うから睨まないで!?」


「最初からそう素直になればいいんですよ。本当に手の焼ける石荒さんですね」



 この日は存分にお喋りに付き合って貰い、帰りも送ってくれたので、自宅のマンションに着くまでずっとお喋りしてました。


 GWの間、毎日の様に顔を会わせて二人で過ごして、そういう時間がすっかり当たり前になってたのに、学校が始まると教室で同じ様に直ぐ傍に居るのに全然お話し出来ない事に、思っていた以上にフラストレーションを感じてたので、ウズウズしてこうなってしまいました。


 もはや私にとって石荒さんの存在は、既に日常の一部となっていることを痛感します。






 

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