#35 優等生の欲求解消と提案
GW(正確には雨の日に石荒さんの家にお邪魔した時)を境に、私たちの関係性が変わりました。
でもその事は、私と石荒さんの当事者二人しか知らない話で、クラスでは今でも私と石荒さんは仲は良くないと認識されている。
私は、須美さんにも野場さんにも石荒さんとの関係を話してはいない。
だって、あの二人は私が石荒さんのことを好きだと誤解してて、直ぐに冷やかしてくるから。
「雨の日、一緒に帰ってどうだったの?少しは仲良くなれたの?」
「石荒くんって愛想無いけど、男らしいところはあるから、頼れる男子って感じだよね」
「ツバキちゃんも石荒くんも落ち着いてて大人びてるから、相性良さそうだよね」
「他の男子に言い寄られるのが迷惑なら、いっそのこと石荒くんと付き合っちゃえば?」
女の子同士だとこういう色恋の話が出るのはよくあることですが、私自身のことを言われるのは、やっぱり苦手です。
しかも、石荒さんとだなんて。
皆さん、石荒さんの本性知らないから好き勝手に言えるんです。
彼は、性犯罪者なんですよ。
飢えた獣ですよ。
と本気では思ってませんが、すぐ格好つけたがりますし、意地悪でニヤニヤ顔しますし、いじけた時は面倒臭いですし、いじけてなくても面倒臭いですし、小癪な男子なんです。
好きになる要素あると思いますか?いえ、ありません。
自問自答しても即答で否定してしまうくらいありえないんです。
残念なことに、確かに
でも、そんなのはほんの一瞬、極稀になんです。本当にほんの一瞬のたまたまで風が吹けば吹き飛んでしまう程度なんです。
そんなことで好意を抱くことはありません。
ずっと石荒さんのことばかり考えてしまうのは、あの坊主頭のせいなんです。
あの手触りの感触が忘れられない上に、視覚的なインパクトが網膜に焼き付いたせいで頭から離れないんです。
そう、きっとこれは、恋愛的な感情ではなくて、印象の問題なんです。
あの坊主頭で私の脳内が印象操作されているんです。
「おい桐山。こんなところに呼び出すから何事かと思ったら、何で何も言わずに俺の頭をマッサージしてるんだ?」
「いえ、これはマッサージではありませんよ。この青光りした坊主頭の感触を堪能、では無く、確認してるんです」ワシャワシャワシャワシャ
ココは美術準備室で今はお昼の休憩時間。
青光りした頭をワシャワシャしたい衝動に朝から耐えていましたが、放課後までは我慢出来そうに無くて、でも教室では私たちの関係は内緒なので、苦肉の策で昼食を済ませた後にココに呼び出して、漸くワシャワシャしてスッキリしているところでした。
「ところで、俺が桐山と仲良くしてること、誰にも言ってないよな?」
「ええ勿論です。私だって性犯罪者と友達だなんて知られるわけにはいかないので」ワシャワシャワシャ
「もう良いよ、性犯罪者でもなんでも」
「え?もう諦めたんですか?諦めるの早くないですか?」ワシャワシャワシャ
「性犯罪者扱いされてるのを諦めたんじゃないの!桐山のイジリにムキになって反応すると桐山が調子に乗るから諦めたの!」
流石、私のソウルフルなフレンド石荒さん。
バレてる。
「ところで、今日ココに呼び出したのは頭皮をチェックする為だけじゃないんですよ」ワシャワシャワシャ
「ん?なに?またらーめん屋に行きたいの?」
「違いますよ、次は牛丼屋さんでつゆだくっていうのに挑戦したいんです、って違いますよ。牛丼屋さんにも行きたいですが外食ではありませんよ。食べ物から一旦離れて下さい」
「相変わらずどうして欲しいのかよく分からんやつだな」
「石荒さん、私と一緒に部活動に入りましょう」
GWが終わり石荒さんとのお喋りする時間が無くなってしまう為、祖父にお願いしてスマートフォンを購入して、母に隠れて石荒さんとメッセージや通話のやり取りをすることにしましたが、自宅ではどうしても母に見つかってしまうリスクが高く、でも学校ではお互い私たちの仲を周りに知られたくないと考えていたので、いざスマートフォンを買って貰っても、満足出来る程の二人の時間は確保出来そうに無いことに気が付いたんです。
それで新たに思いついたのが、同じ部活に入れば美化委員会の様に周囲の目を気にせずに放課後も一緒に過すことが出来る様になること。
特に石荒さんはほとんど毎日六栗さんと一緒に帰っているので、六栗さんが怖い私は近寄ることが出来ないのです。
でも一緒に部活動してれば、六栗さんのことは気にする必要が無くなることに気付いたんですよね。
「え?なんで?面倒だからイヤなんだけど」
「え?なんでそんなに簡単に断れるんですか?私からお誘いしてるんですよ?中学生時代はツバキ姫とまで呼ばれて、数多の異性からの告白を全てお断りしてきた私のお誘いですよ?」
「自意識過剰にも程があるぞ。っていうか桐山ってツバキ姫って呼ばれるのイヤだったんじゃなかったの?ブチブチ文句言ってたじゃん」
「ええ、他人に言われるのは嫌ですよ。でも石荒さんに対しては私を敬って尊敬して、そして崇め奉って頂きたいので、敢えて自分をツバキ姫と呼ばせて頂きました」
「桐山はいったいドコへ向かおうとしてるんだ?一緒に部活に入って欲しけりゃ頭下げてお願いしろよ」
「どうして私が性犯罪者に頭下げないといけないんですか?いくらなんでも非常識で非人道的過ぎますよ」
「いや、俺を性犯罪者扱いする桐山のが非人道的だからな?」
結局、石荒さんは私と一緒に部活動に入ることを了承してくれた。
牛丼特盛つゆだくをご馳走することを条件に。
「そう言えば、桐山のアドバイスのお陰でとある女子と仲直り出来たよ。ありがとな」
「そうですか。六栗さんと仲直り出来ましたか。良かったですね」
「いや、だから六栗のことじゃないからな?」
まだ言いますか。
往生際が悪いと言いますか、本当に面倒臭い人ですね。
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