#34 朝から少女に届いた謝罪
ケンくんの部屋に落ちてた髪のことは、ケンくんが惚けている限りは誰のか分からないので、結局保留にするしか無かった。
私は桐山ツバキだとは思えないし、そうであって欲しくないという願望もあると思う。
そんなことよりも、明日からケンくんとどう接すれば良いのか、そのことの方が頭が痛くて重要な問題だった。
早めにケンくんの謝罪を受け入れ、連休中に仲直りしてればこんなに悩むことも無かったのに。
でも、事件直後はメンタル的に無理だったし、次の日には少し冷静になったけどニキビとか顔がムクんでたせいでめっちゃブサイクだったからもっと無理だった。
しかもまだニキビが残ってて大分腫れは収まったけど、綺麗になるまではまだまだ時間がかかりそう。
でも、ニキビはマスク付けてれば隠せるから何とかなる。
もっと問題なのは、朝、ケンくんちにお迎えに行かないといけないこと。
事件以降ずっとケンくんからの連絡とか全部無視してたのに、今更どんな顔して行けばいいの?
っていうか、こんなん無理だよ。
でも、迎えに行かないで一人で登校したらめっちゃ角立つし、ケンくんだって流石に怒るかも。
サッチーは「明日だけでも私も一緒に行こうか?」って言ってくれたけど、サッチーの家方向違うからそこまで迷惑掛ける訳に行かないし、多分こういうのは自分で何とかしないとダメだと思う。
ケンくんのせいでこんなことになったって思うけど、その後、仲直りしづらくしちゃってるのは自分のせいだし。
きっとケンくんはケンくんなりに仲直りしようと頑張ってくれてたのに、私がそれを全部無視しちゃってるから。
はぁ・・・
今からでも『無視してゴメン』ってメッセージ送って、仲直りした方がいいのかな。
返事してないのに一応毎日律儀に謝罪と心配するメッセージ送って来てくれてるから、私からアクション起こせば仲直りは出来ると思う。
でも、散々無視してたから今更素直になり辛い。
それにモヤモヤしてるのもある。
こんなこと言うと頭おかしいと思われそうだけど、ケンくんが下手に出て素直に謝ってくれると、こっちが素直になり辛い。
いっそのこと開き直ってくれて、お互い文句言い合ってた方のが発散出来てスッキリしてたんじゃないかって考えちゃう。
はぁ
マジどうしよ。
明日起きてから決めようかな。
◇
翌朝、起きてからも腹が決まらずウダウダと悩みながら準備をしていると、こんな時間なのにピンコーンとインターホンが鳴った。
ママが応答に出ると、スピーカーから私にも聞こえるガナリ声で『朝からすんません!ヒナさん迎えに来ました! あ、石荒です!』と聞こえて来た。
時計見ると7時過ぎで、家出るのにまだ30分くらいあった。
私がウダウダしてたらケンくんの方から来た。
ママが「ほら、ケンくん来てくれたから玄関開けてあげて」って言って来たけど、まだパジャマのままでメイク始めたばかりだしニキビだって隠せないから、「無理!ママお願い!」ってママに頼んだ。
ママが玄関に行くと、玄関からママとケンくんがお喋りする声が聞こえて来た。
ケンくんとはどんな顔してどんな話すれば良いのか、全然思いつかないけど、それ考えるのは後回しだ。
兎に角、学校に行く準備を終わらせないと。
どうせマスクで隠すからと簡単にメイク終わらせて、髪をツインテールに結って、ショーツも履き替えた。
ダサいデカパンで恥ずかしい思いしたから、念のためにちょっと高めのいいヤツをチョイス。
パジャマ脱いでブラと肌着とシャツ着てからスカート履いて、もう一度鏡で顔をチェックして前髪の位置直して、靴下履いて、また鏡で前髪チェックして、制服の上着着て、また前髪チェックして、マスクして上着のポッケにハンカチとかスマホ入れたの確認んしてってやってたら、ママが「いつまで待たせるの!早く行きなさい!」って怒られて、慌ててお弁当をカバンに仕舞って、最後にもう1回前髪チェックしてから、カバン持って廊下に出た。
廊下の向こうの玄関では、ケンくんが中で立ったまま待ってくれてて、私の姿見た途端ガバっと頭下げて、「あの日、ごめんなさい!全部俺が悪いです!2度とあんなことしないので、どうか許して下さい!」と大きな声で謝って来た。
気を付けの姿勢から腰を90度曲げて謝るケンくんの頭は、青光りしていた。
坊主頭なのは昔からずっとだったけど、今までは黒かったのに今日は青い。
ツルツルのスキンヘッドじゃないけど、限界ギリギリまで短くしてるのが分かる。
何故だかビクビクしながら玄関まで忍び足で近づくと、ケンくんは頭を下げたまま謝罪を続けた。
「もし!足舐めろと言うなら喜んで舐めます!だからどうか許して下さい!」
「・・・足、舐めたいの?」
「はい! あ、違う、別に舐めたいわけじゃ。許して貰えるならそれくらい躊躇せずにするぞっていう覚悟と意気込みを伝えたくて」
「っていうか、何で頭青いの?」
「反省の意を表そうと思ったんだけど、頭丸めたくても元々坊主だったから代わりに限界まで短くしてみた。普段は5分刈りなんだけど、今回は5厘刈りまで攻めた」
「いやいやいや、坊主にしか分からない坊主事情とか意味わかんないんだけど」
「5分刈りが9ミリ程度で、5厘刈り1.5ミリ程度。本当は眉毛も剃ろうと思ったけど、流石にそこまでする勇気は無かった」
「だから説明されても分かんないって」
どんな顔してどんな会話すれば良いのか分かんなかったのに、ケンくんの青光りしてる頭に全部持って行かれて、悩んでたこともどっかに行っちゃってた。
ローファー履いて玄関出てからもケンくんはずっと謝りながらも「あの時脚が痺れてたせいで悪気は無かった」としつこく釈明していた。
「はぁ、もう良いよ。ワザとじゃないって分かったから」
「そうか。でも本当にごめん」
「だからもう良いって。 ・・・ヒナだってずっと無視しててごめん」
「いや、六栗は怒って当然だし、謝る必要なんてないはず」
「でも、ケンくんはどうしてそんなに必死に謝ってくれたの?こんだけ無視されてたらムカついたりしないの?」
「え?なんで?全部俺が悪いのに何で俺が怒らないといけないの?そんなのただの逆恨みで超格好悪いじゃん」
「そうだね。ケンくんはそういう人(そう考える人)だね」
ケンくんはまだゴチャゴチャ言ってたけど、今回は許すことにした。
って言うか、ケンくんのお陰で許すことが出来たって感じ。
私は意地になったり凹んで引き篭ったりして自分から歩み寄ろうとしなかったのに、ケンくんは真っ直ぐにそれをしてくれてた。
きっとそれは誰にでも出来る事じゃなくて、ケンくんだから出来ることだと思う。
気になることはまだまだ残ったままだけど、ケンくんと仲直りしたいのは間違いないし、また距離出来たりしたらそれこそ私の知らないところでカノジョ作ったりして取り返しが付かなくなる。
ケンくんが誰を好きになったのかは分からないけど、それだけは絶対に阻止しないとダメだから。
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