#33 優等生のお悩み相談室


 今年のGWはとても充実した連休となりました。


 石荒さんという気の置けない友達が出来て、毎日一緒に美化委員の仕事をして、作業が終われば石荒さんのお家にお邪魔して、石荒さんのお部屋で一緒に勉強して一緒にお昼ご飯を食べて、読書したりお喋りしたり、二人でらーめん屋さんにも行きましたし、まるで兄弟や幼馴染の様な時間を過ごせました。


 入学式の日に六栗さんと石荒さんの仲の良さそうな様子を見て、「私にもあんな風に仲良く出来る人が居たら」と憧れを抱いたものですが、自分にもそういう友達と場所を見つけることが出来ました。

 石荒さんの方はフシブシに迷惑がってる感が見受けられ、些か不満を禁じえませんが。


 でもそうですよね。

 いつも私から押し掛けて、お喋りするときも私の方からばかりで、少し押しつけがましかったかもしれませんよね。

 私もグイグイ来られたりするのは苦手なので、こんな風にされたら顔を顰めて距離を取ろうとしてたかもしれません。

 けど、石荒さんが「俺の前では素の自分出して良いよ」って言ってくれて、これが今の素の自分なんですから仕方無いですよね。

 石荒さんも迷惑そうにしながらも、なんだかんだと一緒に居てくれますし。


 とは言いましても、友達なら一方通行じゃダメですよね。

 貰ってばかりだから、たまには私からも与えられる様にならないと。



 GWの最終日。

 隣県の祖父母の家に向かう電車の中で、石荒さんに対して私に何が出来るかを考えていた。


 まずは、勉強に関することでしょうか。

 石荒さんは私よりも成績が良いです。

 テストの学年順位は一桁ですし実際に一緒に勉強してみると、主要教科はほぼ欠点が無い様に思えます。

 正直に言って、私が教わることはあっても、私が教えられることは無いですね。

 なので、主要教科以外の選択科目や保健体育で。


 でも保健体育も石荒さんのが出来そうなんですよね。

 ではやっぱり、選択科目の美術で石荒さんの助けになれるように頑張りましょうか。



 でも、それはちょっと微妙過ぎますよね。

 そもそも石荒さんが選択科目に力を入れてないのは、進学を考えた場合に優先順位がかなり低い科目だからでしょうし、こんなことで助けになっても有難くもなんともないですよね。


 では、勉強以外で。


 こういう場合の定番は、手料理でしょうか?

 コレは却下ですね。

 私、お料理出来ませんので。


 なら、手芸などハンドメイドの品をプレゼント?

 コレも却下ですね。

 私、お裁縫出来ませんので。


 あとは、マッサージとか?

 肩叩き券とか作りましょうか。


 コレなら今の私でも出来そうですが、選択科目の美術の手助けよりも更にチープな感じがしますね。

 私たちもう高校生なんですから、今時小学生でもやらないその場凌ぎのプレゼントなんて格好付きませんよね。



 さて、困りました。

 上辺だけの友達なら今までも沢山居ましたし、そういう方たちには愛想よく微笑み返せば万事上手くいってましたが、石荒さんの様な云わば心の友と呼べるような存在は初めてのことですので、こういうケースでの良策が私一人では浮かんでこないんですよね。


 ということで、こういう時こそ心の友である石荒さんに相談することにしましょうか。


 今日はこの後、祖父母が駅まで車で迎えに来てくれるので、そのままの携帯電話のお店に向かってスマートフォンを購入して、その後は食事と買い物をしたいと言ってたので色々周って、夕方頃には帰れるでしょう。

 この連休中、石荒さんのスマートフォンをお借りして操作方法は勉強しましたし電話番号も事前にメモしてありますので、帰りの移動中にでも電話を掛けて相談に乗って貰いましょうか。




 ◇




『だったらいい加減、俺の相談に乗ってくれよ!俺が相談しても桐山直ぐ「性犯罪者!」とか「近寄らないで下さい!」とか言って、俺の悩みに全然答えてくれねーじゃん!肩叩き券とかマジいらんし!』


 ああ、そうでした。

 石荒さん、女性関係で悩んでましたね。

 六栗さんのスカート脱がせてから口聞いて貰えなくなったんでしたっけ。

 石荒さんは頑なに六栗さんの名前は出さずに”とある女子”と誤魔化してましたが。


 それにしても、私の肩叩き券を要らないとは相変わらず無礼ですね。


『それで、私にどんなアドバイスをして欲しいのですか?性犯罪に加担する様なことでしたら絶交ですよ』


『桐山はどうしても俺を性犯罪者にしたいようだな。あんなに親身になって少しでも桐山が元気になればって考えてたのにさ。やっぱり桐山ってお高くとまった嫌味な女子なんだな』


『失礼ですね。私ほど石荒さんの気持ちに寄り添ったソウルフルなフレンドは居ませんよ?』


『性犯罪者とかソウルフルとか、桐山は俺に何を求めてるんだ?イジリたいだけか?』


 とうとうバレてしまいました。


『そ、そんなことありませんよ?えーっと・・・そう!六栗さんとの仲直りでしたよね!』


『いや六栗じゃねーし!とある女子だし!』


『ハイハイ、とある女子さんですね。それで、あれから六栗さんにはキチンと謝罪出来ましたか?』


『いや、まだだよ。全然連絡取れないし会いに行っても会ってくれない。っていうか六栗じゃないからな』


『なるほど。コレは相当ご立腹の様ですね。切腹すれば六栗さんも許してくれるのでは無いでしょうか』


『お前、やっぱり本気で相談に乗る気ないだろ!』


『そんなことないですよ。ワタクシのユーモラスでトラディショナルなジョークで石荒さんに少しでもリラックスして頂こうとしただけですよ。心に余裕が無いと仲直り出来る物も出来なくなりますよ?』


 石荒さんの反応が良いからついつい揶揄ってしまいましたが、買ったばかりのスマートフォンのバッテリーも余裕ありませんし、そろそろ本気で悩み相談にお答えしましょうか。


『それで、具体的には何をお悩みなんですか?』


『それはその・・・連休前は毎朝家まで迎えに来てくれてたけど、口聞いて貰えない今の状況だと明日からは迎えに来てくれないんじゃなかと思って。それだけなら一人で登校するだけで済むんだけど、もしそうなったら教室で顔会わせ辛いし、「なんで今日は来なかったの?」って聞き辛いけど、聞いたら聞いたで理由なんて分かってるのに今更ナニ言ってんの?って話だし、でも聞かないとあれだけのことしといて知らんぷりかって思われそうだし、うんたらかんたら』


『毎朝家まで迎えに来てくれてた』って毎朝一緒に登校してた六栗さんしか当てはまる人居ないんですけど、”とある女子”の正体を誤魔化すのはもう諦めたんでしょうか。


『でしたら、明日は石荒さんが六栗さんのお宅まで迎えに行けばいいんじゃないですか?』


『ソレだ!!!そうだよ!俺が迎えに行けばいいじゃん!桐山天才だな!今初めて桐山のこと尊敬しそうになったよ!』


『お悩みも解決したようなので切りますね。もうバッテリーが瀕死の状態ですので』


『おお、ありがとな!』


『ええ、では明日学校で』



 ふぅ

 友達の力になるって、こんなにも疲れるんですね。


 石荒さんも私の為に色々考えてくれた時は、こんな風にお疲れになったんでしょうか。

 やっぱり、石荒さんのそういう人柄は、尊敬に値します。






 翌日、連休明けの朝。

 登校して1年5組の教室に行くと、石荒さんの坊主頭はいつもより青光りしていた。


 そのせいで授業中など、あの青光りした坊主頭をワシャワシャしたい衝動を抑えるのが大変な一日となりました。




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