#31 少年は頼ってみたが



 昨日、六栗のスカートを脱がせてしまった後、六栗は怒ることも泣くことも無く黙ってスカートを履くと、そのまま何も言わずに帰ってしまった。

 本当は追いかけて脚が痺れてたことをちゃんと説明して誠心誠意謝りたかったが、脚の痺れに次いで足裏がつってしまって身動きが取れず、玄関まで見送ることすら出来なかった。


 当然、何度もスマホで釈明のメッセージ送ったり通話も掛けてみたが、六栗からは返事はないし通話にも出てくれなかった。


 ただでさえ機嫌が悪かったのに、災害級レベルでやってはダメなことを最悪のタイミングでやってしまった。

 あの様子だと、もう口も聞いてくれないかも知れない。

 そうなると、これまで大切にしてきた幼馴染としての関係も解消されてしまう。

 六栗との幼馴染関係が無くなってしまったら、俺は明日から何を糧に生きて行けば。



 ◇



 翌朝、まだGW中のこの日も美化委員の仕事があって、こんな心境のまま行っても作業に身が入らないのは明白なのでサボりたかったが、朝からウダウダしてる俺の思惑を見抜いた母に「ツバキちゃん一人に仕事押し付けたらダメでしょ!早く学校に行って作業してらっしゃい!」と怒られたので、渋々登校した。


 登校すると、桐山はスマホを買って貰えることになったことを嬉しそうに話してたけど、機嫌良さげな桐山を見ていると惨めな自分を対比されてるように思えて、益々気分は落ち込んだ。



 そんな俺の事を桐山は心配してくれたが、ちょっとやそっと桐山に慰められた程度ではどん底まで落ち込んだ俺のメンタルは回復なんてするはずもなく、しかも思春期真っ盛りの俺はそんな桐山に八つ当たりの様な態度を取ってしまった。


 そしたら桐山がキレた。

 頭ガシガシしてきたり顔面に両手で張り手されて、メソメソするな!って気合入れようとしてくれた。桐山がこんなにも俺のこと心配してくれる様な厚い人情の持ち主だとは知らなかった。

 以前からお節介な面を隠し持ってたことには気づいていたけど、落ち込んでイジけている俺を厳しく叱責しながらも元気づけようとしてくれるなんて。


 魔女だ悪魔だと言ってすまなかった。

 桐山、お前は血も涙も無いサイヤ人ではなくて、人情に厚い立派なナメック星人だ。


 桐山なら今の俺の窮地を救う様な何かアドバイスをしてくれるかもしれない。

 何せ、中学時代は生徒会やら学級委員やってて周りから優等生として認知されていたのだから、人間関係のトラブルの対応も手慣れたものだろう。

 それに、女子の立場から有効な意見を貰うことも期待出来る。



「桐山、俺の話を聞いてくれるか?」


「はい、何でしょうか。下らない話だったら許しませんよ」


「その、なんて言うか・・・桐山って好きな男って居るのか?」


「はい???急に何ですか!?まさか!今まで理解ある友達のフリして私に近づいて本当は私のことをそういう目で見てたってことですか!?信用してたのに裏切られた気分です!私とても不愉快です!」


 好きな子との仲が拗れた時にどうやって仲直りしたらいいか聞きたかったのに、何を勘違いしたのか、好きな男居るか聞いただけでブチ切れ始めた。


「いや、桐山に対してそういうの全く無いから。むしろ最近の桐山の距離感にちょっと引いてるくらいだし」


「し、失礼ですネ!わた、わたしはこ、こう見えても中学生時代は沢山の男子からきゅきゅ求愛されてきたんですヨ!なのにアナタと言う人は!私の友好的な距離感を有難がるどころ迷惑そうにするだなんて!無礼が過ぎますよ!」


「桐山はどうして欲しいの?言い寄られたいの?言い寄られたくないの?俺の話聞く気あるの?」


「そ、そうでした、私としたことが。石荒さんが可笑しなことばかり仰るから冷静さを失いかけてました。私には好きな男性は居ませんし、好きになったこともありません。勿論男性と交際したこともありませんが、モテなかった訳ではありませんよ?告白して下さる方は沢山いましたからね!では、お話の続きをどうぞ」


 桐山は漸く落ち着きを取り戻してくれたようだが、どうしても俺に対してマウントを取りたい様で、俺と同じで碌に恋愛経験無いクセに、自分がモテることを強調していた。ココまで自意識過剰な女、見たこと無い。しかもモテるの事実だから、余計に厄介だ。

 っていうか、いくらモテようが片思いすらしたことないんじゃ、絶賛片思い中の俺のがまだ恋愛経験あるほうじゃないのか?桐山に相談して、本当に大丈夫なのか?



「まぁいいか桐山でも。他に相談相手居ないし」


「はい?まだ何か文句あるんですか?」


「いや、今のは失言だったすまんつい心の声が。 それで相談というか何と言うか」


「はい、なんでしょう」


「実は昨日桐山が帰ったあとにと二人きりで会ってたんだけど、脚痺れてひっくり返ってスカート掴んで脱がせちゃって、そのあと一言も口聞いてくれなくなっちゃってさ、もうどうしたらいいのやら」


「うわ、想定してたのとは次元が違い過ぎますね・・・ここまで酷いレベルの悩み事、初めて聞きました。って、女性のスカートを脱がせるだなんて性犯罪者じゃないですか! ま、まさか!?私のこともそういうイヤらしい目で見てたんですか!? もう私には近寄らないで下さい」シッシッ


「いやだから、不可抗力なんだって!ワザとじゃないの!正座で座ってたから脚痺れちゃったの!こんな感じで脱がそうとして掴んだわけじゃ無いの!」


 そう言いながら、態とじゃなかったことを判って貰おうと、桐山の制服のスカートのお尻の部分を掴むフリしてその時の状況を再現しようとしたら、触って無いのに「触らないで下さい!」と言って顔面にビンタされた。



 昨日から踏んだり蹴ったりだ。

 桐山に相談しようと考えた俺が間違ってた。

 この女はやはり魔女か悪魔だ。



 ビンタされた俺が完全にスネて桐山と口聞くのを止めると、流石の桐山もやり過ぎたと反省したのか、「落ち込んだ時は美味しい物食べたらきっと元気出ますよ」と言って、俺のスマホを勝手に使ってウチの母に『今日は二人で外で食べてから帰りますので、昼食は不要です』と連絡を入れてしまった。


 その後、美化委員の作業をいつもより遅い時間に終えると、桐山は「私、一度らーめん屋さんに行ってみたかったんです!石荒さんはよく行くんですか?今から二人で行きましょう!」と言って先ほどまで俺を性犯罪者扱いしてたクセに、まるでそんなことは無かったかのように俺の手を取って引っ張るように強引に学校を出ると、いつもの俺んちに向かう道とは違う方向に歩き出した。




 お昼にはまだ少し早い時間にらーめん屋に着くと、店先には既に4~5名程の列が出来ていた。


 二人で最後尾に並ぶと、男臭いらーめん屋の行列に桐山の様な超絶美少女は超場違いで浮いていたけど、本人はそんなことを気にしてない様子で、メニュー見ながら「これはどんな味なんですか?マシマシって何の略ですか?食券だと追加注文とかどうするんですか?唐揚げは食後のデザートに含まれますか?私が餃子を注文しますので石荒さんは唐揚げ注文してシェアしませんか?友達とシェアってなんだか憧れますよね」と俺にしつこく話しかけていた。


 俺は先ほど性犯罪者扱いされたことをしっかり忘れずに根に持っていたけど、真性チェリーの俺は桐山の様な美少女にはなんだかんだと甘くなってしまい、不貞腐れながらも聞かれた質問には答えていた。


 列に並んで20分程で店内に入れて、それぞれ自分の食券を購入して、カウンター席に並んで座った。


 隣に座る桐山は興奮気味に店内を見回してて、学校帰りに飲食店に寄るのも、らーめん屋に入るのも、友達と外食するのも初めてらしく、俺を元気づけようと食事に誘った当初の目的など忘れた様子で、店内のどの客よりも桐山が一番楽しそうにしていた。

 因みに、俺も桐山と同じように学校帰りにらーめん屋に寄り道するのは初めてのことだったけど、六栗のことで頭一杯で全く楽しめなかった。


 そのお店は豚骨ベースのこってり系で、背脂たっぷりのスープは女子にはキツイと思ったけど、桐山は野菜とニンニクマシマシで大ボリューム且つこってりの1杯をペロリと食べきり、俺が注文した唐揚げもデザート代わりに食べていた。


 桐山は大満足したようだけど、俺は腹が膨れただけで、気持ちは全然晴れなかった。


 『ご馳走さまでした』と二人で手を合わせてからお店を出ると、そのまま俺んちに向かった。


 家に着いて3階に上がり、いつもの様に俺の部屋で二人きりになったが、桐山のせいで部屋中ニンニク臭くなっただけで、結局桐山からはなに1つ有効なアドバイスを貰えないままだった。






 第5章、完。

 次回、第6章 惜春、スタート。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る