#29 またも辿り着けない二人
小さい頃から自分の部屋は自分で掃除するのが母の教育方針で、今でも小まめに自分で掃除をしてるから、ゴミが落ちてることを指摘されるのは俺としては不本意だ。
けど、問題はソコじゃない。
今、六栗が見つけた髪は、桐山の物で間違いない。
ここ数日毎日来てるし、今日も午前中から来てはこの部屋にずっと居座っていたのだから、髪の毛の1本や2本落ちてても不思議ではない。
問題なのは、ドコからどう見ても女の髪の毛に見える長い髪が俺の部屋に落ちてることに六栗が気付いて、不機嫌そうに俺に鋭い視線を向けている事だ。
恐らく、この部屋に他に女が来ていたのでは無いかと疑い、それが気に入らないのだろう。
迂闊だったとしか言い様が無い。
さっき桐山が帰る時に、ダスキンで床の掃除しとくべきだった。
いや、待てよ?
そもそも俺と六栗は幼馴染だが、恋人では無い。
俺が六栗以外の女友達と遊んでもなんら問題は無いハズだ。
だがしかし、多分この論理は六栗には通用しない。
入学者説明会でそれは身をもって経験しているからな。
と言うことは、ここは惚けて誤魔化すべきか。
いや、でも物的証拠を押さえられてるこの状況で誤魔化すのは難しいだろう。
そして、誤魔化そうとしてたことがバレれば、更に怒らせることになるかもしれない。その結果、根掘り葉掘り尋問され、桐山の髪だと吐かされた挙句、桐山にも類が及ぶかもしれない。
流石にそれは不味い。
六栗と桐山、豊坂高校1年の間では有名な美少女二人が衝突でもしたら、1年5組が地獄絵図と化してしまう。
よし、ココは正直に話して、根気よく誠意を持って説明して何もやましいことが無いことを理解して貰おう。
多少機嫌を損ねるだろうけど、地獄絵図にまでは発展しないはずだ。
と、修羅場経験が豊富な恋愛マスターなら、ポーカーフェイスのまま瞬時に思考を巡らせ最適解を導き出し、被害を最小限に抑えることも可能だろうが、俺は真性チェリーでビビりの恋愛初心者だ。
いくら昔と違って六栗や桐山みたいな美少女相手でもテンパらなくなったとは言え、こういう修羅場的なのは別だ。
「あ、あああれれれ?なんのけだろ?まいにちそうじしてんだけどなぁ、お、おっかしいなぁ、ハハハ・・・」
俺にはポーカーフェイスで思考を巡らせることなど出来るはずもなく、ただビビって誤魔化そうとしてしまった。
「ふーん、ケンくんにも心当たりないんだ?ふーん・・・ホントに?」
「お、おぅ。風で飛んできて、窓から入ったのかな?今日は風強かったもんな、ハハハ」
「ふーん、風で飛んで来たんだ?ふーん、ココ3階なのに?ふーん、ふーん・・・で、誰の髪なの?コレ、女の子の髪だよね?ストレートのロングだからヒナのじゃないしケンくんちのおばさんよりも長いし誰の髪なのかな?ん?」
「・・・」
会話を重ねるごとに、六栗のご機嫌角度が急勾配に!?
早口モードの六栗、怖すぎるだろ!
「ダーレーノーカナッ!?」
六栗はそう言いながら、右手で摘まんでいる髪の毛を俺の顔に触れそうになるほど近づけて、答える様に迫ってきた。
「ひぃ!?」
俺には無理だ・・・
ウソついて六栗をダマすなんて、そんな度胸もトークスキルも無い。
だがしかし、ココでゲロったら途轍もなく厄介なことになる気がしてならない!
何が何でも本当の事を言う訳にはいかないぞ!
「ケンくん。ちょっとソコに座って」
さっきからずっとソコに座ってんだけどな。
今日の六栗、怖すぎるよ。
取り合えず、正座に座り直してみた。
胃が痛い。
_______________
一方、六栗ヒナは。
ケンくんは、明らかに何かを隠している。
きっと、この髪が誰のなのか心当たりがあるんだろう。
私には言えないっていうことは、まさか・・・恋人?
知らないウチに、誰かと付き合い始めたっていうこと!?
私が勉強と美容に必死だった間に、他の女に横取りされたってこと!?
しかも、よりにもよってクセ毛で天然茶髪の私を嘲笑うかのように黒髪ストレートロングの女と!?
「まさか、カノジョ出来たの?」
「そんなワケないでしょ!俺にカノジョなんて居る訳ないじゃん!」
さっきまでの動揺してた態度と違ってハッキリと即答してる様子から、ウソは付いて無さそう。
「カノジョじゃないけど、ヒナには言えない相手ってこと?」
「いや、そういうわけじゃ・・・ていうかマジで心当たりが無いと言うか・・・」
「ふーん・・・」
まだシラを切るつもりなんだ。
「あの、六栗さん?今日の六栗さん、超怖いっす・・・あの天使の様に可憐な六栗さんがどうしちゃったんすか!?そんなに怖い顔してたら、俺、悲しくなっちゃう!いつものカワイイ六栗さんに戻って欲しいっす!」
「むむ」
誰のせいでこんなにも腹立たしい思いをしていると。
でも、直ぐ怒ってケンくんに当たるのは、私の悪いクセだ。
入学者説明会の時も、後で散々後悔したって言うのに。
それに、今、私がしつこく問い詰めることで、中二のバレンタインの後みたいにギクシャクして距離置かれたりしたら、それこそ今までの苦労が全部ムダになっちゃう。
そもそも、ケンくんが他の女と交友持つことに、恋人でも無い私には干渉する権利は無いんだし。
とは言っても、女の影は無視できない。
うーん・・・
そうだ。
恋人としての権利は無いけど、幼馴染としての義務ならあってもいいハズ。
そう、義務だよね。
幼馴染として、ソコをハッキリさせるのが私の役目だよね。
「最後にもう一回聞くけど、ホントにカノジョ、居ない?」
「マジ居ないっすよ!カノジョ居ない歴イコール年齢っすよ!」
「じゃあ、好きな人は?」
「ええ!?」
カノジョは居ないって即答で否定するのに、好きな人のことは否定できないってことは
「ふーん、好きな人はいるんだ・・・」
「いや、それはなんというか・・・」チラ
しまった、ソコまで聞くべきじゃなかった。
フラれてる私じゃないことは間違いないから、他に好きな子が居るってことじゃん。
もうダメ。
胃が痛くなってきた。
立ち直れそうにないよ。
_____________
再び、真性チェリー石荒ケンサクは。
咄嗟の判断で、容姿をホメられるのに弱い六栗を煽てる作戦に打って出たが、何とか切り抜けれそう?
にしても、好きな子のこと聞かれても、目の前に居る本人に向かって言える訳ないじゃん。
過去に酷い振り方しといて、今更ナニ言ってんの?って更に怒らせるに決まってるし。
でも、分かって欲しかった。
俺は確かに六栗の告白を断ったけど、そうじゃないんだ、と。
泣くほど後悔したし、今は六栗のこと好きなんだって。
だから、その思いを言葉じゃなくて眼力に込めて視線で飛ばしてみた。
「今日は帰るね・・・はぁ」
こりゃ、伝わってないな。
まぁ、伝わったところで結果は同じだろうけども。
「送ってくよ」
「いい。一人になりたいし」
「そうか。なんかスマン」
俺がそう言うと、六栗は無言で首を横に振り、立ち上がった。
家まで送るのを断られたとは言え玄関までは送るべきだと思い俺も立ち上がると、正座してたせいで脚が痺れて上手く立ち上がれず、バランスを崩し「おあ!?」っと変な声を発し、前方に倒れ込みながら何かを掴もうと両手を伸ばした。
「きゃ!!!」
倒れ込んだ前方では六栗が部屋を出ようと俺に背を向けたところで、俺が伸ばした手が六栗のミニスカートを掴んでいた。
しかし、六栗のミニスカートでは俺の体重を支えるのは無理だった様で、俺はそのまま床に倒れ込み、その両手には脱ぎたてホヤホヤの六栗のミニスカートが握られたままだった。
六栗の今日のパンツは、水色だった。
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