#28 甘く無かった少女の現実
豊坂高校に入学してひと月が経った。
相変わらずケンくんとは仲良く通学してるし、ケンくん以外にも沢山の友達が出来た。
後は勉強と部活動に頑張るつもりだったけど、部活はちょつと厳しいかも。
中学ではバスケ部に所属していた。
2年の夏からレギュラーで、3年で引退するまでそれなりに活躍は出来てたと思う。それに、スポーツが好きだったので高校でも続けたいと考えていたけど、そんな余裕は無さそう。
因みに、ケンくんは坊主頭のせいで中学野球の経験者だと勘違いされて、野球部にスカウトされたらしい。
一応見学にも行ったらしいけど、ただの冷やかしで入部は断ってきたそうだ。
ケンくんのことは兎も角、今の私は、はっきり言って授業について行くのが大変で、放課後は部活や遊ぶ余裕が無くなってる。
最初の学力テストではドベとほとんど変わらない順位だったし、理数系の授業では少しでも聞き逃したりすれば途端に内容が理解出来なくなるし、得意だった英語ですらボロボロだった。
そんな私に比べ、ケンくんやクラスの友達たちは全然余裕ありげで、授業中に指されても「わかりません」と答える人は居ないし、みんなにとっては出来て当たり前のことが、私には難しいことだと身に染みたひと月だった。
まだ1年の始めだと言うのに、既に落ちこぼれ始めた危機感と焦りがあるから、部活には入らず、放課後は寄り道もしないで真っすぐ帰るようにして、毎日欠かさず予習と復習に課題を必死にこなしてる。
自分の実力に見合っていない高校に入ってしまった、というのは分かってた。
でも、そのことで後悔はしたくなかった。
私は豊坂高校に入ることを目標にして頑張ったんだし、受験勉強ではケンくんにとてもお世話になった。
それに、二人揃って合格した時、ケンくんと泣きながら喜んだのは忘れられない大切な思い出で、それを穢したく無かった。
その為にも、高校を卒業する時、胸を張ってこの高校に入って良かったと思えるような3年間にしなくてはいけない。
何より、落ちこぼれたままだとケンくんに置いて行かれてしまうという焦りが大きかった。
だから、自分で選んだ高校なんだから、これからは甘えずに自分で責任を持って授業についていけるだけの努力が必要だと考えていた。
兎に角、私の高校生活は、イチに勉強、ニに勉強。サンシが無くてゴにケンくん。
それだけの心構えが無くては、きっとケンくんとの仲も成就出来ない。
そんな現実に直面しつつも、まだまだモチベ十分な私だけど、今はGWで久しぶりにのんびり過ごしていた。
勉強は午前中に済ませて午後は運動と美容の時間と決めてて、ジョギングやヨガにスキンケアや美容室に行ったりして、夜は家族と過ごしたり、ケンくんや友達とスマホでチャットしたり、パソコンで面白動画漁ったりして過ごす。そんな連休だった。
ホントは、ケンくんとどこか1日で良いからデートに出かけたかったけど、ケンくんが美化委員で連休中の花壇の水やり当番になっちゃったり、他の友達と遊ぶ先約があるみたいで中々時間が合わず、今の所まだ予定が組めてない。
ケンくんと同じ高校に入ったら、毎日バラ色の青春が待ってるって思ってたんだけどなぁ。
現実にはそんなに甘くないんだよね。
それに、気になることも有る。
桐山ツバキ。
ケンくんが入学者説明会で見惚れてた子だ。
同じ女の私から見ても、めっちゃ綺麗な子。私が子供の頃憧れてた艶々の黒髪のストレートロングで、ハッキリ言って、容姿では私は適わない。
それに勉強でも、多分勝てない。
今のところ、ケンくんは距離置いて仲良くはしてないと言うから大丈夫だと思うけど、不安は拭えない。
もし、あの子がケンくんを狙って来たらと思うと、ゾッとする。
私たちの絆はそんな柔なものじゃないって言いたいけど、ケンくんだからちょっと不安。
ケンくんは男らしいところは格好良いけど、イケメンじゃない。
しかも坊主頭で、お洒落とかにも気を遣うタイプじゃない。
というか、最近までお小遣い貰って無かったからオシャレとか無縁だった。
なのに、モテないクセにケンくん自身がエエ格好しいで女の子からの視線とかめっちゃ意識するタイプ。そんなケンくんだから、ちょっとでも甘い誘惑があればフラフラするんじゃないかって思うと、不安しかない。
だから、むしろ桐山ツバキよりもケンくんの方のが要注意?
今は距離取ってるとか言ってても、何かが切っ掛けで浮かれ出して桐山ツバキに夢中になったりするんじゃないかって、不安なんだよね。
しかも、桐山ツバキも美化委員だし。
連休中の美化委員の仕事は詳しく知らないけど、桐山ツバキも一緒ってことだよね?
委員会だから多分二人きりとかないだろうし、お互い壁作ってるみたいだから、急に仲良くなる様なことはないだろうけど、それでも私が居ないところで二人が会ってると思うと、ジッとしてられない。
私も学校に行って、ケンくんの傍で監視してたいくらい。
でもそんなことしたら、また恋人でも無いのに嫉妬してるのか?とか言われそうで、それも嫌なんだよね。
あああもう!
もどかしい!
そんな悩ましい連休を過ごしている中、ママがお友達の農家さんからイチゴを沢山貰って来てて(春先の旬を過ぎてしまった出荷出来ない廃棄予定の物を毎年くれる)、「ケンくんのとこにお裾分け持って行ってあげて」と言って、私にお使いを頼んできた。
よっしゃキタァァァ!任せんしゃぁぁぁい!!!って急いでシャワー浴びて軽くメイクして可愛いスカート選んで、夕方の5時頃にイチゴ2パック分を紙袋に入れて、ケンくんのお家に向かった。
ウキウキと鼻歌を歌いながら歩いていると、どこかに出掛けてたらしいケンくんと偶然出くわした。
「お、六栗?」
「ケンくんだ!」
やっぱ私たちって、赤い糸じゃない?
事前に何も連絡してなかったのにこうやって直ぐに会えちゃうのも、強い絆と運命だよね?
「今ちょうどケンくんのお家に行くとこだったんだよ」
「え?そうなの? 俺はちょうど帰るとこだった」
「じゃあ丁度いいね。 ママにお使い頼まれておばさんに用事あるの」
「へー」
お喋りしながら一緒に歩いていると、直ぐにケンくんのお家に到着。
でも、おばさんにイチゴ渡すとお返しにバームクーヘンをくれて、それで用事が終わってしまった。
けど、ケンくんが、「折角だから、上がってく?」と言ってくれた!
私、完全に前のめりになってて、「もちろん!」って返事する前に靴脱ぎ始めてたよ。
だって何度もお家に来てるのに、ケンくんにそんなこと言って貰えたの、初めてだもん!
ケンくんのお部屋に入るのは、これで二度目。
一度目はケンくんが留守の時におばさんの許可貰って内緒で入った。
でも今日は、ケンくんから誘ってくれて堂々と正面から侵入。じゃなくて入場。
でもさ、一歩踏み入れた瞬間から違和感があるんだよね。
「適当に座ってて」って言われて前に来た時みたいにベッドの縁に腰掛けて室内を見回すんだけど、違和感が気になって落ち着かない。
一カ月前に来た時はケンくんの男の子らしい匂いっていうのかな、私が好きな匂いで充満してたのに、今日は違うの。
明らかにケンくんとは違う匂いなの。
なんとなく女の子の匂いな感じなんだよね。
私ともおばさんとも違う、誰か別の女性がココに来てたってことなのかな。
ケンくん一人っ子だからお姉ちゃんとか妹は居ないし、連休だから遊びに来てる親戚とかかな?
うーん。
ケンくんが「ジュース、どうぞ」って言ってグラスにドリンクを用意してくれたから、ベッドから降りて受け取って、その場に腰を降ろしてグラスに口を付けると、目の前に1本の長い黒髪が落ちてるのが目に入った。
グラスを置いて髪を摘まんで持ち上げると、ストレートのロングヘヤ。
私はクセ毛だし、ケンくんちのおばさんはセミショートでこんなに長くない。
さっきから感じていた違和感もあって、我慢出来ずに思わず口から零れた。
「え?ナニこれ?ダレの?」
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