第5章 四月尽

#26 纏わりつかれて難儀な少年




 GWが始まっても、毎朝学校に登校していた。

 学校の花壇の花や植木等は連休など関係は無く水やりや草取りなどの手入れが必要で、連休中のそれらの仕事を美化委員花壇係の1年が任されてしまった。


 花壇係でも3年や2年は部活に所属してる人が多く特に3年は受験の年でもあるので、毎年1年がGWや夏休みに出て来て花壇の世話をすることになってるらしい。

 因みに、花壇係には1年が4人居るけど、俺と桐山以外の二人は家が遠かったり既に部活に入ってたりで中々来れないらしく、実質二人だけで連休中の仕事をしている。


 それで俺が「GWや夏休みも学校来ないといけないって知ってたら美化委員にならなかったんだけどな」と愚痴を零したら、それを聞いた桐山は「私はお花のお世話とか好きですよ?勉強ばかりよりもこういう時間は息抜きになるじゃないですか」と澄ました顔で宣っていた。


 やはり桐山は優等生だ。

 どんな言葉が教師や親にウケが良いかよく分かってらっしゃる。


「じゃあ俺の分も任せた。俺は息抜きする暇ないくらい勉強で忙しいからな」と皮肉ったら、「ナニ言ってるんですか?そうやってまた良い順位取って私を見下すつもりですか?そうはさせませんよ?」と俺の腕を力いっぱい握って脅して来た。



 あの雨の日以来、桐山は二人だけの時はこんな風に素の自分を出し始めて、俺との距離感を気にしなくなったのか、全然遠慮しなくなってしまった。


 

 まぁ俺がそうしたほうが良いって言ったから別に良いんだけどさ。

 それにそうしてくれた方が俺も遠慮しなくて良いから話しやすいし。

 でも、六栗もそうだけど、綺麗な女子って怒ると怖いんだよね。

 それに、桐山の場合は妙に俺に対抗心持ってるみたいで、直ぐにマウント取ろうとしたり俺に負けると悔しがったりするんだよ。


 何ていうのかな、可愛げが無いっていうか、面倒臭い?

 あと、やっぱり怖い。

 あの入学者説明会で抱いた恐怖心は、あながち間違ってなかったね。

 恐怖の種類が違うけど。


 あの時は、魔女とか悪魔みたいな人外に対するような得たいの知れない恐怖で、今は口喧しいクラスメイトとしての恐怖?ウザいとも言うけど。

 怒るとすぐ俺の腕掴んで逃がさないようにしてガミガミ文句言ってくるし、ちょっと揶揄うと怒って物投げてつけようとしてくるし。

 全然お上品でも何でもないよ。マジでみんな見た目と言葉使いに騙されてるっていうか、桐山が周りを騙すのが上手いのか。


 それに、後で聞いたらリアルお嬢様じゃなくて普通のサラリーマンの家だっていうし、母親が着物着てたのも見栄張ってただけらしい。世間体とか人目とか異常に気にする人なんだってさ。

 そういうのもあって、良い子ちゃんでいないといけないって子供の頃から強迫観念みたいなものがあったらしい。そういう部分はちょっと俺んちと似てるかも。


 まぁ、そんなことまで話してくれる程度には仲良くなれたってことだろうから、良い事なんだろうけど。



 因みに、桐山の母親はあの雨の日に俺(もしくは俺の家)のことを『良いご学友』と認定したらしく、あれ以来桐山が『石荒さんのお宅へ勉強しに行ってきます』と言うと、『礼儀正しくしてご迷惑おかけしないようにね。手土産も忘れないのよ』とか言って機嫌良さげに送り出してくれるらしい。


 念のため「男のクラスメイトの家なのにか?」と聞くと、俺が男子だとは言ってないらしく、どうやら母親は俺が女子だと思ってるらしい。


 更に「大丈夫なのか?後でバレたら不味いんじゃ?」と心配すると、母親が男性に対して異常なほど潔癖らしく、本当のことを話したら学校退学させられるレベルで怒りかねないらしい。


 だったら「じゃあ俺んちに来なければいいじゃん」って言うと、「中学までこういう友達付き合いを経験出来なかったから、これからはこういう時間を大事にしたいんです」と頑なだった。

 どうやら俺の見立てでは、遅れて来た反抗期?

 今まで良い子ちゃんだった反動なのかな。



 っていうか、桐山がしょっちゅうウチに来るようになったせいで、六栗と遊べないんですけど!?

 本当は、桐山じゃなくて六栗と勉強したり遊んだりしたいんですけど!

 折角六栗から『連休中にまた遊びに行きたいね』って言われてて、『ドコ行きたい?』とか『いつなら空いてる?』って聞かれても、桐山が毎日来るせいで約束が出来ないんだよ。


 でも、桐山に向かって「六栗と遊びに行きたいから来ないで」って言い辛いんだよなぁ。

 桐山にも須美とか野場とか他に友達居るんだから、そっちと遊べばいいじゃんって思うんだけど、どうやらあの二人の前ではまだ素の自分を見せる勇気が無いらしい。

 それに、六栗にずっと未練があるのもたまに辛いっていう、俺の問題もある。




 ってことで、今日も朝から学校に来て花壇の水やりを桐山と二人で終えて、このまま俺んちに来るそうだ。

 GWに入ってから毎日このパターン。


 ウチの母も今まで俺が友達連れてくることが無かったせいか、桐山来ると機嫌良くてさ、桐山の分の昼ご飯とかも用意しちゃって、休みで家に居る父も桐山みたいな綺麗な子が居るせいで明らかにウキウキしてんの。男親が鼻の下伸ばしてる姿とかマジで勘弁して欲しいよ。


 桐山が帰る時だって、「ケンサク!女の子一人だと危ないだろ!ちゃんとおウチまで送って来なさい!」とか言って良い親ぶってるし、母も「ツバキちゃん明日も来るのよね?遠慮しなくても良いからね」とか言って理解ある親ぶってるし。

 俺が小さい頃は全然そんな感じじゃなかったのにな。



 でも、桐山がウチに来るようになって気付いたんだけど、俺自身もだいぶ変わったと思う。

 中学の時なら、女子相手にこんな風にお喋り出来なかった。

 女子と話す時っていつもテンパってて、そのクセ恰好付けようとしたり見栄張ったりして失敗ばかりしてたのに、桐山相手だとそういうの全然無くなってる。


 多分、六栗のお蔭だろうな。

 中三の夏休みに毎日六栗と二人で受験勉強してて、それ以降も一緒に過ごす時間が多かったし、二人で遊園地に遊びに行ったり、高校入ってからも毎日一緒に登校してるお蔭で、女子に対して緊張したり見栄張ったりしなくなってる。


 なんていうか、女子と話してても、何か面白いこと言わないと!とか、この子、俺に気があったりするのかな?とかそういうアホなこと考えなくなったし、気持ちに余裕が持てる様になったんだと思う。

 こういうのを男としての余裕?それとも大人の余裕っていうの?


「石荒さん、1つお伝えしたいことがあります」


「ん?俺に?」


「ええ。石荒さん、今みたいな表情の時、ご自分で恰好良いと思ってるようですけど、ハッキリ言って全然恰好良くありませんよ?むしろ恰好付けてるのが透けて見えてて、私は引いてますよ?」


「はいぃぃぃ!?か、かかかかカッコなんかつけてねーし!な、ななななナニ言ってんだか俺にはわかんねーし!」


「やれやれですね。はぁ」



 こ、コイツ!

 ジャージのズボン前後逆に履いてた時のこと、根に持ってやがるな!?

 どこが高嶺の花の優等生だよ!






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る