#22 雨の帰り道で二人は何を思う




 どうしてこんなことになってるんだ?


 俺は桐山とは距離を置いて1年間過ごすはずだったのに、何故雨の中、桐山と二人で相合傘して帰ってるんだ?


 俺が右で桐山が左で、傘は桐山が持ってくれている。

 最初、学校出る時は自分の傘で帰るつもりだったのに、「石荒さんは体調が悪いんですから傘は私が持ちますので入って下さい!!!」って怒ったみたいに怖い顔してゴリ押ししてくるから、ビビって「あ、はい」と従ってしまった。


 そもそも、今日は六栗が委員会あるから俺は一人で帰るつもりだったのに、俺が急にゲーしたのを桐山が「昨日、私のせいで石荒さんが雨に濡れたから体調崩したんですね」って勘違いしちゃって、何度も「体調悪くないし大丈夫だ」って言ってるのに野場や須美まで保健室に連れていこうとしたり担任呼んでくるとか騒ぐから、いい加減帰りたくなって「もう帰る」って一人で帰ろうとしたら、また桐山が「帰る途中でまた嘔吐したら大変ですから家まで送ります!」って急に使命感燃やし始めちゃって、野場と須美も止めてくれればいいのに「それがいい!そうしなよ!」とか言って焚きつけやがって、こうなってしまった。


 しかも、当然お互い無言。

 学校でてからずっと無言。

 空気が超重い。


 いや、別に桐山と会話したいわけじゃないし、それでも良いんだけど、気不味いんだよ。六栗と二人で居る時は、いつも六栗が五月蠅いくらいに喋っててくれるから、気不味くなったり重い空気になったりしないのに、他の女子、しかも桐山となると、分かってはいたけど、やっぱり気不味過ぎる。



 しかも、桐山含めた女子3人が見てる前でゲーしちゃってるのもな。

 桐山が俺に渡そうとしたラッピングされた包み見たら、中2のバレンタインのこと思い出しちゃって、急に胃の中の物がこみ上げてきやがった。


 完全にトラウマになってるな。

 どうも俺は、胃腸が弱い上に精神的重圧にも弱いらしい。

 六栗と遊園地行った時も観覧車で告白のこと考えたらゲーしたし、今日のも似たようなものだった。

 俺、超恰好悪いな。



 でも、意外だったのは、桐山って結構お節介なんだな。

 俺も昨日傘貸したりしてるから人の事言えないけど、こんな雨の中、友達でもない俺の体調心配して家まで送るとか、こんなお節介するヤツだとは思わなかった。


 もっとこう、他人との間に壁作ってると言うか、他人に興味無いようなタイプかと思ってた。

 それに、いつもお上品にお澄まししてるのしか見たこと無かったから、今日みたいにキョドったり怖い顔で自分の意見ゴリ押ししてきたりするのには、びっくりした。


 今まで俺が抱いていた、お上品でいつもお澄まししてて育ちのいいお嬢様っていうイメージは、多分、偏見だったんだろうな。

 本当は今日みたいに感情を表に出す様な人間臭いヤツなんだろう。

 スーパーサイヤ人じゃなくて、ナメック星人くらいだったのかな。

 それでも、俺よりは優等生だろうし、滅茶苦茶美人なのには変わりないけど。



 そんなことを考えながら歩いていると、直ぐに家に到着した。


「悪かった。ありがとうな」ってお礼言って別れようとしたら、桐山ビショビショなの。

 俺の体大きいのに1つの傘で無理矢理二人入って帰ってたから、濡れるのは仕方ないんだろうけど、それにしてもスカートなんか水が滴るほど濡れてるし、上半身だって傘持ってなかった方の左腕は肩までビショビショ。多分、俺が濡れないように気を使って、ずっと傘を俺の方に傾けてくれてたんだろう。



「帰りますね。お体、お大事にしてください」


「ちょっと待って。桐山ビショビショに濡れてるから、俺んちで乾かしてから帰った方がいい」


「え!?」


「このまま帰ったら桐山の方こそ風邪ひいて体調崩すぞ」


「でも自分で言い出したことですし」


「いいから。ウチに母も居るし、車で送って貰う様にお願いしてみるから」


「そんな、ご迷惑になるから」


「濡れたまま帰られて風邪ひかれる方のがご迷惑だから」


「ううう」



 傘握りしめたまま俯いて、どうしたら良いのか迷ってる様なので、桐山の後ろに回って背中押しながら強引に玄関先まで連れて行った。




 ___________



 一方、桐山ツバキは。



 シトシトと雨に煙る道を石荒さんと会話も無いまま歩いていると、頭が冷えたのか冷静になってきた。


 今日の私は、自分が自分では無いみたい。

 昨日からずっとそうでした。


 石荒さんにお礼を言って傘とお礼のお菓子を渡すだけのことで、右往左往としてた。


 それに、須美さんや野場さんに相談したことも。

 中学までは自分のことでこんな風に友達に相談したことは無かった。

 人に頼るのが苦手で、自分でどうにかしようとしてきた。

 でも、今日は縋る様な思いで相談していた。


 他にも、石荒さんが嘔吐したのを見て泣きそうになってしまい、居ても立っても居られなくなった。私のせいで体調を崩したと考えたら、私が責任を持って家まで送らなければと強い責任感も感じた。

 異性と二人で帰ることなんて考えたこともなかったのに、今日は自分からそうしなくてはいけないと思えた。


 今までの自分を顧みると、本当にこんなことは初めてだった。

 どうして今日の私はこんなにも動揺したり落ち込んだり大胆になったりと、目まぐるしく感情が不安定なんだろう。

 いつもの自分はもっと冷静で落ち着いてたはずなのに。


 理由を探そうとすると、1つしか思い当たる物が無かった。


 石荒さん。

 理由はそれしか思いつかない。


 石荒さんの事になると、冷静でいられなくなっていた。

 多分、昨日、傘を借りてからずっとだ。

 あの時からおかしくなっている。



 隣を歩く石荒さんの表情をこっそり覗くと、いつもの様に何を考えているのか読み取れない無表情で真っすぐ正面を見ている。

 顔色は学校に居た時に比べれば、良くなった様に見える。

 嘔吐した後も冷静に受け答えしてたし、本人が言う様に体調の問題じゃなかったのかな?


 でも、嘔吐してしまったことを六栗さんに知られるのを極度に嫌がっていた。

 何か六栗さんに関係のあることが嘔吐の原因だったのかな。


 そう言えば、六栗さんは保健委員だ。

 もしあの時に保健室に行ってたら、恐らく保健委員の六栗さんにも知られていたはず。それが分かってたから、石荒さんはあんなにも保健室へ行くことを拒絶してたのかな。


 あの時の石荒さんの口調や態度から、ただ心配をさせたくないだけだったようには見えなかった。

 知られることを恐れている様な感じだった。

 二人の間に何かがあったのかな。


 普段は羨ましくなるほど仲が良くて、いつも無表情の石荒さんですら六栗さんの前では優しそうな笑顔を見せる。

 なのに、体調不良を知られることに強く拒絶をしてしまうほどの理由があるんだと思う。六栗さんに対して石荒さんには何か特別なことが有るのかもしれない。


 もう一度こっそり石荒さんの表情を盗み見た。

 やっぱり、何を考えているのか分からない表情だけど、怖いとは思わなくなっていた。




 だからと言って、お家に上がれって、いきなり過ぎますよ!?

 お母様いらっしゃるんですよね!?

 どんな顔して会えば良いのですか!?

 なんなんですか!昨日からこの坊主頭は!

 どこまで私の心を搔き乱せば気が済むんですか!?




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