#18 気になるあの子




 日が経つごとにクラスの雰囲気には慣れ、高校生らしい生活を送り始めていた。


 六栗とは毎日一緒に登校して、帰りも用事が無ければ一緒に帰った。

 お互い他にも友達が出来ていたので、昼休憩などはそれぞれの友達と弁当を食べていたし教室ではいつも一緒という訳では無いけど、俺の友達や六栗の友達には俺たちが幼馴染だと認知される程度には仲良くしていた。


 六栗のことは異性として好きだけど、自分にはそれを言う資格がないと思っている。

 だから学校では、幼馴染という立場を弁えて、六栗の交友関係を邪魔しないようにしなくてはと考えるようになっていた。




 桐山とは相変わらずだ。

 会話は無いし、目を合わせることも無い。

 でも隣の席だし気になってしまうので、桐山が周りの誰かと会話していると無意識に傍耳を立ててしまう。


 気になってるクセにその態度は表に出さず、興味無いフリして意図的に距離を置いている。

 警戒し過ぎてる自覚はあるが、怖い物は怖い。

 正しく、触らぬ神に祟りなしだ。



 そんな桐山と、同じ美化委員になってしまった。


 誰かと一緒にやろうと示し合わせていた訳じゃなかったし、特に希望も無かったので中学の時に経験があった美化委員を希望に書いて出したら、それがそのまま通り、どうやら桐山も美化委員を希望したらしくそうなってしまった。

 芦谷情報では桐山は中学では学級委員を何度も経験してるらしいし、担任もそれを把握してるだろうから、てっきり学級委員に任命されると思ってたのにな。意外だった。



 委員会では月に1回放課後に集まってのミーティングがあり、美化委員の場合は各役割分担がされて、その役割を随時担うことになる。

 校内の清掃に関しての監督やら、ごみの回収に関する管理や、掲示物や校内放送での清掃や整理整頓などの促進活動に、花壇の手入れなど。


 で、4月最初の委員会ミーティングに出席し役割分担が決められると、俺は花壇を管理するグループになった。そして桐山も。

 グループごとに別れて打合せが続き、説明された具体的な活動内容は、週替わりで水やりの当番をしたり、植え替え等がある場合は全員で集まって作業をするそうだ。



 それで4月の終わりに早速植え替え作業が行われることになった。

 GW直前のまだ暑くなる前の時期で、この日はどんより曇っていたので、少し肌寒かった。


 授業を終えて放課後になり、教室で体操服の長袖長ズボンに着替えて、校庭と校舎の間に並ぶ花壇に集合した。

 桐山も俺と同じように長袖長ズボンの体操服に着替えてて、女子としては長身でスレンダーで整ったスタイルなのがよく分かった。


 やはり桐山は危険だ。

 俺たち凡人と違って存在感がハンパ無く、みんなと同じダサイ体操服姿でもそこに居るだけでひと目を惹き、生気を吸い取ろうとする。


 そんな体操服姿の桐山が軍手を嵌めて、俺たち凡人と一緒に園芸作業に勤しんでいた。

 しゃがんで作業をしていると、お尻にクッキリ浮かぶ下着のライン、上下の服の間から少しだけ覗かせる素肌、そして額や首筋から流れ落ちる汗を拭う仕草。そのどれもが手の届かない雲上人のような存在に感じさせられた。



 いかん。

 桐山を気にし過ぎてる。

 こんなことでは思う壺だ。

 俺はヤツとは距離を置くのだ。

 でないと、あっという間に踏みつぶされる。


 そう自省し雑念を滅却した後は、桐山を気にすることなく作業に集中した。

 しかし1時間もすると、ポツポツと雨が降りだしてしまい、この日の作業を終えることになった。


 雨に濡れても良い様に体操服のまま帰ることにして、教室に戻り通学用にしているリュックを回収して、脱いであった制服をリュックに仕舞った。

 因みに六栗には委員会がある日は先に帰って貰うよう話してあり、今日は俺一人で帰る。


 チラリと隣の桐山の席を見るとカバンなどの荷物は無く、恐らく着替える為に更衣室に荷物ごと持って行ってるのだろう。




 そのまま教室を出て下駄箱に向かうと強くなった雨のせいで何人もの生徒が足止めをくらい、雨宿りしながら外の様子を眺めていた。


 俺は靴に履き替えると、こういう日の為にリュックにしまってあった予備の折りたたみ傘を出して、降りしきる雨の様子を見ながら外へ出ようとしたところで、制服姿の桐山が立ち尽くしているのに気が付いた。

 その手には傘などの雨具は無く、どうやら傘を持ってきていなかったらしい。


 雨が止むのを待っているのだろうか。

 それとも親に連絡して迎えに来てもらうのだろうか。


 そんなことを考えながらも、俺には関係無いのでスルーして傘を開いて外にでて数歩歩いたところで、思い出した。


 桐山、スマホとか持ってないから親に連絡出来ないのでは?

 しかも、雨足は強くてしばらくは収まりそうにない。



 その場で立ち止まり、振り返って桐山の様子を再確認すると、いつもなら落ち着いててお上品に澄ました表情の桐山が、困った様な悲しい様な表情をしているように見えた。


 はぁ、と溜め息を1つ吐き、見るんじゃなかったと思いながら玄関前に戻って桐山と向かい合う様に立ち、「この傘使って」と開いたままの折り畳み傘を差し出した。


 突然のことだったからなのか桐山はビックリした表情で言葉が出てこない様子なので、「俺んち近いから濡れても平気だし」と説明を加えたが、それでも「でも・・・」と言って受け取ろうとはしなかった。



 こんな人通りが多い場所で桐山みたいに目立つサイヤ人とこのまま押し問答を続けるのは嫌だったので、今更引っ込めるのも格好悪いし俺の傘使うのがそんなに嫌なら勝手にしろとヤケクソ気味に開いたままの傘を桐山の足元に置き、桐山が何か喋る前に雨の中へ向かって走りだした。







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