#17 優等生の不安と気苦労
新しいクラスでは、坊主の人やツインテールの子が居て、幾分か気持ちがホッとさせられた。
多分、私よりも目立つ存在が居ることに、私一人が注目されることは避けられるのでは無いかと期待が持てたから。
特に石荒ケンサクさんと言う名前の坊主の人は席も隣だから、周りからの関心を私の分も引き受けてくれるかもしれない。
でも、石荒さんは私のことを避けている様子だった。
入学者説明会で目が合った時は、私が頭を下げると彼も下げて挨拶を返してくれた。でも今日は、隣の席になったのに目を合わせようとはせずに、言葉を交わすこともほとんど無かった。
今まで、特に異性からこういう反応をされたことは記憶に無く、珍しいことだった。
毎年のクラス替えや席替えの度に、男子が隣の席になると、みな嬉しそうに、そして親し気に話しかけてきていた。
馴れ馴れしくされるよりはよっぽど気楽で有難い反応なのに、彼の場合は何故だか引っかかる。
六栗ヒナさんという名前のツインテールの子とお付き合いしてる様なので、恋人以外の異性とは距離を置こうとしてるのだろうか。
それとも、私自身が彼を怒らせるような何かをしてしまったのだろうか。
それにその六栗さんにも戸惑う。
石荒さんとは真逆で、私との距離を詰めようとしているのか、グイグイ話しかけて来きていた。
でも、一番戸惑う理由は、あの眼差し。
明るい口調で親し気に話してるのに、眼差しが全然親し気じゃなかった。
他のクラスメイトと話す時はそうではない様子だったけど、私と話す時だけ目が笑って無くて、圧の様な物を感じた。
容姿が可愛らしいから、余計にあの眼差しには異質な物を感じる。
親し気な態度を見せながら、内心では嫉妬や妬みを抱いているということなのかな。
こういうのは過去にもあった。女性同士だとそういうのは多分にある。
本当は彼女みたいに明るくてお洒落な女性と友達になって、色々教えて貰ったり女子同士らしいトークを楽しみたいけど、そういう同性に限って私を敵視したりライバル視してくることが多かったから、今までそういう同性と友達になることは無かった。
だから、正直に言うと六栗さんには、初日から苦手意識を持ってしまった。
小学校や中学校と違い、特に豊坂高校の様に偏差値の高い進学校では優秀な生徒が集まっており、私よりも注目を集める人が多いことにはある意味安心出来る物だったけど、その分、今までに無い様な未知の苦労や面倒ごとが待ってるような不安もあった。
◇
入学式の翌日には校内学力試験が1日あり、その翌日からは通常授業が始まった。
中学校とは違って授業中に騒ぐような生徒は居らず、みんな真剣に教師の講義を聞きながら板書している様子は流石だと思えた。
学力試験の結果も直ぐに発表されて、私はなんとか学年で30位以内に入れた。
中学時代はずっと一桁だったのに、高校ではそうもいかない。それだけこの高校の学力が高いということで、人付き合いだけでなく学業でも中学時代と同じようにはいかないのだと、身に染みる思いだった。
入学式から1週間が過ぎクラスの中でグループも出来あがってくると、二人のクラスメイトと仲良くなり一緒に行動するようになった。
一人は須美朱音(すみ あかね)さんと言って出席番号順で私の後ろの女性で、もう一人は野場一果(のば いちか)さんと言って須美さんの隣の席の女性。
須美さんは落ち着きがあって、言葉使いや表情が柔らかく、優しく微笑む笑顔が素敵な女性で、野場さんは運動好きないつでも明るく元気で、誰とでも分け隔てなく仲良く出来きる女性で、二人とも好感が持てた。
お昼ご飯はいつもこの3人で集まって一緒にお弁当を食べる様になって、移動教室や体育などでも一緒に行動していた。
六栗さんとはよく挨拶を交わすけど、どうしても苦手意識があって、でもそれを表情には出さない様に細心の注意を払いながら会話をしていた。
私は誰とでも仲良くしたい訳では無いけど、敵も作りたくない。波風立たない学生生活を送りたいだけだから。
そういえば、六栗さんは石荒さんとはお付き合いしてないそうだ。
ひと目も気にせず仲良くしてるし毎日登下校も一緒の様なので、てっきり恋人同士なのだと思っていたけど、聞こえて来た石荒さんと芦谷さんの会話から、お二人は幼馴染で恋人同士では無いとのことだった。
だからあんなにも仲良しでいつも一緒に登下校しているんだ。
それはそれで羨ましい。
恋人では無く幼馴染。
恋人なら性行為などの要求や期待に応える必要が発生するでしょうけど、きっと幼馴染だと長い付き合いからの信頼関係があって、お互い余計な遠慮や気遣いが必要なく、過度の押しつけや期待なども無くて気楽な関係でいられることでしょう。
ある意味、私としては異性との付き合い方では理想形だと思う。
そして、その石荒さんとは相変わらず会話はほとんど無かった。
隣の席なのに必要最低限の会話だけで、目を合わせることも無く、理由は分からないままだけど完全に嫌われてしまったようだ。
今まで周りにいた男性と彼は少し違うと思ったけど、結局彼も同じで勝手に私に期待して勝手に失望したのかもしれない。
そんな石荒さんとは壁の様な気不味い空気があったのに、同じ美化委員になってしまった。
HRで学級委員や各種委員会などの役割を決める際に、担任の坂崎先生から「みんなクラスメイトがどんな性格や長所を持ってるのか、どんな適正なのか、お互いまだ理解出来ていないだろうから、ここは推薦では無く各自立候補で決めていきたい。けど、ここで立候補を募っても中々手を上げ辛いとも思うので、調査用紙を配るから各自希望の係や委員会を3つ記入して提出してください。それを元に私の方で調整して後日全員の最終結果を発表します」と説明があり、後日発表された結果で、私は美化委員となり石荒さんも美化委員になっていた。
ただでさえ教室では気不味いのに、委員会活動でもなんて正直に言って気が重い。
異性のことでこんな風に気が重くなるのは、告白されて断った後によく似ている。
いえ、ちょっと違うかな。
告白された時だと、私は何も悪く無いのに罪悪感をどうしても感じてしまう。
でも石荒さんの場合は、罪悪感は全くなく、何故嫌われているのか分からない理不尽さを感じている。
なぜ彼は、私と目を合わせないのか。
なぜ彼は、いつも素っ気ないのか。
なぜ彼は、坊主頭なのか。
様々な疑問が湧いて来るけど、石荒さんには嫌われている様なので本人に確認することも出来ない。
須美さんや野場さんに相談してみることも考えたけど、事を荒立てて大事になってしまうのも怖い。そのことで更に嫌われたり、悪意を向けられたりしたら困るのは私だ。
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