#16 少年の罪滅ぼしと警戒





 入学式が終わると各クラスに戻り、明日以降の日程の説明や順番に自己紹介などして、午前中にはこの日の授業は終了した。



 六栗と一緒に帰る約束をしていたが、クラスメイトの何人かに囲まれてスマホで連絡先の交換をしている様だったので、俺も待ってる間にスマホを出して、大草と芦谷の二人に連絡先を交換して貰おうか、でもやり方がまだ分かんないんだよな、と迷っていると、大草が俺では無く桐山に「桐山さん!連絡先交換しよう!」と話しかけ、「私、スマートフォンは持ってないんです。すみません」とあっさり撃沈していた。


 そのやり取りを聞いてて、俺はスマホ持ってるんだぜ、とスマホ買って貰ったばかりの奴に有りがちなしょうもない優越感に浸りつつ、芦谷に「連絡先教えてくれ。でもやり方分からないからやり方も教えてくれ」とお願いした。

 芦谷とあーだこーだとやって居ると大草も加わり、無事に3人で連絡先の登録を終えると、大草は席を立って色んな人に声を掛けて連絡先の交換を始めた。


 この二人のキャラが大分分かって来たぞ。

 芦谷は見た目も性格もマジメくんタイプだけど、社交的だし気遣いも出来そうだ。

 大草はお調子者で怖い物知らずなところがあり、社交的というか行動派。ガッツもありそうだ。

 何となくだが、俺は二人とは気が合いそうだ。


 そんなことを考えていると、六栗が俺たちの席のところへやって来て、俺では無く桐山に「桐山さんも連絡先交換しよ?」と声を掛けたが、先ほどの大草と同じようにスマートフォンを持ってないことを理由に断られていた。


「そっか、残念~!買ったら教えてね!じゃあ私たち帰るね!バイバイ!また明日ね!」


「え、ええ、さようなら」


「ほらケンくん!帰ろう!」


「お、おおぅ」


 立ち上がってチラリと桐山に視線を向けると、桐山も立ち上がって帰る準備を始めていた。

 何となく、このままだと桐山も同じタイミングで教室を出て、下駄箱まで一緒に行くことになりそうなのが嫌だったので、六栗の背中を押す様にして早めに教室を出て、逃げる様に校舎から出た。



 六栗と二人で帰り道を歩いていると、六栗のスマホには引っ切り無しにメッセージの着信が来てて、それに一々返信してるので「歩きスマホは危ないんだぞ。家に帰ってからやればいいじゃん」と注意すると、「そうだね、ごめん」とスマホを制服のポケットに仕舞った。


「それにしても、人気者だな」


「うーん、豊高って真面目な進学校だし、私ってそういうキャラじゃないじゃん?だから、浮いちゃって友達出来るか不安だったのに、なんかめっちゃ話しかけられて嬉しいんだけど、でもあんまり多いのも面倒だよね」


「逆に俺は二人しか連絡先交換してないな。でも寂しくなんてないんだかんね」


「前と後ろの席の子?芦谷くんと大草くんだっけ?大草くんは私も連絡先交換お願いされた」


「大草って妙にアクティブだったな。一番最初に桐山に突撃して撃沈してたし」


「あーなんかわかる。結構グイグイ来ててちょっとウザかった。っていうか、ケンくんは桐山さんと話したの?」


「いや、俺からは話しかけて無いし向こうからも話しかけては来ないな。何となくだけど、お互い壁作ってる感じ」


「ケンくんも壁作ってるの」


「そうだな。生気吸い取られそうで何だか怖い」


「ぶぶ、ナニそれ酷くない?魔女とか悪魔みたいじゃん」


「あながち、本当にそうかも知れないぞ?ヤツには気を付けねば」



 六栗は、桐山のことを嫌ったりはしてない様だが、俺が桐山と交流を持とうとしないことに苦言を呈したりすることは無く、なんとなく、今の対応で間違っていないだろうと思えた。



 自宅近くまで来ると、「また明日も迎えに行くね!ばいばーい!」と言う六栗と別れて自宅に帰り、昼ご飯を食べて自室にこもった。


 スマホには、芦谷から『これから1年よろしくね』とメッセージが着ており、大草からは『石荒ってケンサクって名前なんだな。これからはイシケンって呼ぶわ!』と着てて、初日からあだ名を付けられた。


 それぞれに返信した後、スマホに充電コードを繋いでからベッドに横になり、考え事を始めた。




 六栗とは同じクラスになれた。

 嬉しくて最初は興奮したが、六栗が桐山と話す姿を見ていると、微妙な気持ちになって来た。



 俺と六栗の関係は、この先どうなるのか。


 六栗からは、俺は幼馴染だと言われている。

 俺はそれだけじゃなく、受験勉強で一緒に頑張って来た仲間という意識が強い。


 本当は、恋人っていうのが一番憧れるんだけど、俺は自らそれを拒否して今後そうなれる可能性も潰してしまった。

 春休みに遊園地に遊びに行った時、六栗は俺に対する思いを話してくれたが、それは恋では無く、感謝と憧れの想いだった。


 もう六栗の中では、俺に対する恋心は消化されているのだろう。

 俺が酷い振り方をしたばかりに、六栗は諦めざるを得なかったんだ。


 それでも俺の存在を大切に思ってくれてるから、頑張って今の関係を構築してくれたんだ。


 そんな六栗には、俺の方こそ感謝してる。

 だから、これからも六栗との今の関係は大事にしていきたいと思ってる。


 それが俺に出来る罪滅ぼしだから。





 次に、桐山のことを考えた。

 正直言って、凄く憂鬱だ。


 ぶっちゃけると、超気になる存在。

 だけど、入学者説明会で身に染みたが、桐山の美貌は危険だ。

 見る物の心を奪おうとしてくる。

 恋愛経験の無い俺なんて、チョロ過ぎて簡単に潰されてしまうだろう。


 性格までは分からないが高嶺の花で優等生らしいし、だからこそ危険を感じるのかも知れない。

 特に異性にしてみれば、美貌に惹き付けられ特別な存在だと崇め憧れ、でも手の届くような相手じゃないから狂わせる。ストーカー予備軍とか居そうだしな。

 そんな異性を惑わす悪魔の様な女子が、俺の隣の席に居る。


 その内に席替えが行われて離れることは出来るだろうが、同じクラスなのは変わらない。

 この1年、桐山とは慎重に距離を取って、波風を立てない様にしなくては。







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