#15 入学初日の教室では
豊坂高校1年目のクラス分けでは、六栗と同じクラスになれた。
クラス分けが貼り出された掲示板の前で俺は「よっしゃぁぁ!!!」と叫びたいほど嬉しかったが、六栗や他の生徒さんたちの前でそんな雄叫び上げる勇気などないので、クールぶって平静を装ったが、胸の内では喝采を上げていた。
しかし俺と違って六栗は、「ケンくんと一緒だよ!また同じクラスだよ!ねえ!ホラ!同じ5組に名前あるし!凄くない!?10クラスあるのに一緒になれるとか奇跡じゃない!?」とひと目も憚らず大喜びで騒いでいた。
周りから注目されてしまい恥ずかしくなり、たまらず六栗を引き摺るようにして玄関に向かったが、移動しながらも六栗は嬉しそうにずっと俺に向かって喋り続けてて、それがまた俺には嬉しいやら恥ずかしいやら。
校舎に入り廊下を歩いていると流石に注目を集めていたことに気が付いた様子で、六栗も大人しくなっていたが、表情はずっとニヤニヤしていた。
多分俺もニヤニヤしてたと思う。
教室では席が出席番号順に決められてて、苗字がイで始まる俺は2番目で窓際の前から2番目の席。苗字がムで始まる六栗は25番目で廊下寄りの後ろの方の席だった。
少し緊張気味に教室に入り大人しくそれぞれの席に着くと、流石美少女で陽キャの六栗は早速何人ものクラスメイトに囲まれ話しかけられていた。
しかし坊主頭の俺には誰も近寄ろうとしないので、スマホを机の上に置いて「俺もスマホ持ってますよ!連絡先交換受付中ですよ!」と無言でアピールしてみたが、やはり誰も話しかけてはこなかった。
手持無沙汰の俺は六栗の事が気になったのでチラチラ視線を向けて、入学初日から人気者の六栗に軽く嫉妬心を燃やしていると、後ろの席の男子生徒がやってきて「あれ?坊主の人だ」と声を掛けられた。
俺の坊主に何か文句でもあるのか?と振り返ると、その男子生徒は「入学者説明会でずっと女子に殴られてた坊主の人だよな?」と友好的な表情で話しかけて来た。
く、あの時のことか。
何か気の利いた返しをした方が良いだろうかと逡巡していると、「なんかインパクトあったからよく覚えてるよ。俺、大草(おおくさ)ね」と自己紹介をしてくれたので、俺も「石荒だ」と名乗った。
俺と大草が「どこ中出身?俺、城南」「俺は西中だ」など会話を続けて居ると、今度は前の席の男子生徒が「僕は南中出身。名前は芦谷(あしや)ね」と会話に混ざって来た。
芦谷も「そういえば僕も石荒くんのこと入学者説明会で見かけたよ。殴ってたのは同じ中学の子?カワイイ子だったよね?彼女なの?」と大人しそうな顔してるくせに、突っ込んだ質問をしてきた。
「あそこの席に座ってる六栗がソレな。同中で近所にすむ幼馴染というヤツだ。因みにカワイイのは認めるが、彼女では無い」
「へー、幼馴染で同じ高校に進学してクラスも同じなんだ。アニメのラブコメみたいだな」
「六栗も嬉しそうにそんなこと言ってたな」
「じゃあ毎朝起こしに来てくれたりするの?」
「なぜ他所の家の子に起こしに来てもらわねばならんのだ。朝から他人の家に押しかけて上がり込むなんて非常識だと思わないか?六栗は常識はある奴だぞ?そもそも毎日早起きしなくちゃいけないから、他人の為にそんなことする物好きなど居ると思うか?」
「いや、ラブコメの定番だとそうだから聞いてみただけだし」
初対面のクラスメイトとちょっぴり緊張と遠慮がちにそんな会話をして時間を潰していると、隣の席に女子生徒がやってきて、俺たちに会釈をしてから座った。
俺はその女子生徒を見た途端、息をするのを忘れてしまう程、ビックリ仰天した。
入学者説明会で見た滅茶苦茶綺麗な女子が目の前におる。
俺が固まっていると大草も同じように固まってて、芦谷だけが「桐山さん、おはよう。僕のこと分かる?同じ南中だった芦谷です」とその女子生徒に話しかけていた。
その女子生徒は座ったまま「はい、芦谷さん。おはようございます。これから1年、よろしくお願いします」と丁寧に返事をして、チラリと隣の俺に視線を向けてきた。
入学者説明会で見た時と変わらず綺麗な顔してて、またもや生気が吸われそうになるが、桐山と呼ばれたその女子の向こうで目を細めて鋭い視線をコチラへ向けている六栗の姿が視界に入り、俺は名前を名乗らずに「よろしく」と短く挨拶だけして体ごと前に向けて、以降は桐山の方を向かないようにした。
しばらく教室内はザワザワしてたが、俺は謎の重圧を感じて無言で時が経つのを待った。
ようやく担任がやってきて挨拶と自己紹介(坂崎先生。30代女性)を終えると、早速体育館へ移動して入学式へ出席することになった。
移動中、大草が芦谷に桐山のことを尋ねてて、その話の内容によるとフルネームは桐山椿姫(きりやま つばき)と言い、南中では「ツバキ姫」とか「姫様」と呼ばれて高嶺の花として有名で学級委員や生徒会役員を務めた優等生でもあるらしい。
やはり俺の予想通り、俺や六栗とは人種が違った。
俺なんて美化委員だったし、六栗に至っては落とし物係で、全く仕事なんてしてなかったしな。
退屈な入学式が終わり教室へ戻る途中、六栗が俺の所にやってきて話しかけて来た。
「早速友達出来たみたいだね」
「まだ友達と呼べるかどうか分からんけど、自己紹介はしたよ」
「ヒナも沢山IDの登録お願いされた」
「俺はまだ1件も・・・」
「男子同士ってそんなもんじゃない?」
「そう言えば、六栗が幼馴染だと教えたら、毎朝起こしにくるのか?とふざけたこと言い出したから、そんな物好き居るわけないだろと教えといた」
「ぶ、ナニそれ。でも、マジで毎朝起こしてあげようか?」
「いや、遠慮しとく。朝は自分で起きないと母が怒るし」
「確かにケンくんちのおばさんなら怒りそうだね。 そう言えば隣の子とはどうだったの?喋ったりしたの?」
六栗は桐山のことが気になる様だ。
先ほど教室で鋭い視線を俺に向けていたのは、やはりそういうことなのか?
これは下手なこと言うとまた入学者説明会の時みたいにパンチされそうなので、慎重に答えねば。
「桐山という名前らしいけど、会話はしてない」
「へーそうなんだ。っていうか、入学者説明会の時に前の席に座ってた子だよね?」
今の六栗の言葉には、何やら圧を感じる。
「さ、さぁ?どうだったかな。よく覚えてないや」
「ふーん。ちょっと挨拶してこよっと」
「え?」
六栗はそういうと、前方を歩いていた桐山に駆け寄り、「桐山さん!私、六栗ヒナね!よろしくね!桐山さんってドコの中学出身なの?私、西中!」とグイグイ一方的に話し始めた。
二人のやり取りに傍耳を立てて聞いていると、桐山は先ほど芦屋と挨拶を交わしていた時と同じように丁寧に挨拶を返していた。
六栗と桐山。
クラスメイトとなった二人の美少女が肩を並べて歩く様子を後ろから見ていると、何やら胸騒ぎの様な正体不明の不安感が湧いてきていた。
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