#14 憂鬱な優等生
高校生になれば、何かが変わるのかな。
中学までの自分とは別の何かになれるのかな。
私は、他人にも自分にも期待が持てず、そして周りから期待されることに苦痛を感じながらこれまでの15年間生きて来た。
どうせ、本当の私のことなんて誰も理解してくれないし、口先ばかりで軽い言葉だけの白々しい笑顔でチヤホヤし、勝手に期待する。
でも、それは私も同じ。
本音を言葉に出来ず、相手が喜びそうな嘘の言葉と表情でやり過ごしてばかり。
褒められても嬉しくないのに、ありがとうと良い顔する。
頼られても本当は嫌なのに、嫌だと言えずに引き受けてしまう。
生れついての容姿のせいなのか、それとも椿姫(ツバキ)なんていう名前のせいなのか、誰もかれもが私を持ち上げ、そして高嶺の花や優等生などのイメージを押し付け、都合が良い様に利用する。
小学校中学校と周りからは「ツバキ姫」とか「姫様」と呼ばれてたけど、名前に『姫』の文字が使われてるだけで、私はお姫様なんかじゃない。
清楚だとかお上品だと言われても、ちっとも嬉しくなかった。
なんでもかんでもみんな好き勝手に私にレッテルを貼り付ける。
好きでこんな風に振舞ってるわけじゃないのに。
肌の露出を控えてるのだって、母の教育方針でそうせざるを得ないだけ。
幼少期、私は1度もスカートを履かせて貰ったことが無かった。
母から「女性が素肌を晒すのははしたないこと」だと常々言われ続け、家でも学校でもずっと長袖長ズボンだった。
唯一水泳の授業の時だけ素肌の露出が許されたけど、小学校高学年になって胸が膨らみ始めると、母から毎回授業を見学するように強制された。
中学に上がる時、制服を着る為に初めてスカートを履くことを許可して貰えたけど、ストッキングやタイツを履くことが条件だった。色は黒しかダメで、夏場の暑い日でもスカートの下にストッキングを履いていた。
今日の入学式も、真新しい制服に黒いタイツ。
スカートが少しでも短く見えると母に「だらしない」「はしたない」と言われてしまうので、少し長めのサイズ。
高校は、母から「豊坂高校にしなさい」と言われて決めた。
多分、自宅から徒歩圏内なのと市内で一番偏差値が高いのが理由。
自分で選んだ訳じゃない。
だから余計に新生活に期待が持てないのかもしれない。
朝から鬱屈とした気分をお腹の底に押し込んで、一人で歩いて学校へ向かった。
学校に到着すると、自分のクラスを確認する為にクラス分けが貼り出されている掲示板へ向かった。
掲示板の前には大勢の人だかりが出来てて、その中を掻き分けて行くのは躊躇われた。
仕方ないので、人が少なくなるのを少し離れた所で待つことにした。
手持無沙汰で人混みの様子を眺めていると、二人組の男女が目に付いた。
男子生徒の方は見たことが有った。入学者説明会で見かけた『坊主の人』だ。
女子生徒の方はカールした髪をツインテールで結んでて、少し派手な容姿だけど顔は凄く可愛らしく、坊主の人に向かって興奮気味に話しかけている。
坊主頭の男子生徒と可愛いらしい女子生徒の組み合わせは目立つし、女子生徒の方が元気一杯にはしゃいでるから周りからの注目を集めているけど、特に女子生徒の方は注目を浴びていることを全然気にしてない様子。
恋人同士なのかな。
同じ中学からココの高校へ入学して、クラスも同じになれたのかな。
女子生徒の喜びようを見てると、そんな想像をしていた。
羨ましい。
あんな風に人目を気にせずにはしゃいだり、女子高生らしく髪型やお化粧とかお洒落して、男性と連れ立って歩いて。
見てるだけで、幸せいっぱいなのが分かる。
それに比べて私は。
いつも人目を気にしてる。
周りからの失望を恐れてルールからはみ出せないし、異性とだってあんな風にお喋りしたことない。
恋人が欲しいわけじゃない。
中学の時は、男子生徒に交際を申し込まれたことは何度もあった。
でも、誰ともお付き合いしたことは無かった。
好きになったり気になる異性は居なかったし、慣れ慣れしくされるのも苦手だし、交際どころか特定の異性と仲良くなろうと思うことは無かった。そのくせ誰にでも良い顔する八方美人だったからなのか、よく告白されて、断るのにも苦労してた。
だから、あんな風に他人からの目を気にせず異性と楽しくお喋り出来ることが、純粋に羨ましい。
しばらくして人混みが少しマシになったので、掲示板で名前が1年5組にあるのを確認してから教室に向かった。
1年5組の教室に着くと廊下に席順が貼り出されていたので自分の席を確認し、後ろの入口から教室に入ると、居た。
先ほど見かけた坊主の人とツインテールの女の子が。
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