第3章 優等生編
#13 高校生になった少年
中学生活が終わり、高校生活が始まる。
六栗は
俺も楽しみだ。
制服は学生服からブレザーに変わり、靴も学校指定の物からローファーやスニーカーなど自由になる。それだけでちょっぴり大人に近づいた気分。
クラスメイトだって、小学校から中学校の時は持ちあがりであまり変わり映えのない面々だったが、高校では市内の各中学から生徒が集まるから、新しい顔ぶれで交友関係も広がることだろう。中学の時は登下校中の寄り道は禁止されていたが、高校なら帰りに友達と連れ立って、カラオケやゲーセンやファミレスなんかに寄り道することもあるかもしれない。
何よりも、今の俺にはスマホがある。
スマホさえ有れば、友達との付き合いで遠慮したり気を使われることはもう無いだろう。まだ使い方がよく分からないから、六栗居ないと連絡先の登録もまともに出来ないけども。
入学式の朝、しみじみとそんなことを考えながら制服に着替え、若干高揚する気持ちを噛み締めながら準備をしていると、インターホンがピンコーンと鳴った。
事前に六栗から『入学式の日、迎えに行くから一緒に行こうね』とスマホにメッセージを貰っていた。
ダッシュで玄関に向かいカギを開けて扉を開くと、ニコニコ笑顔の六栗が。
「ケンくん!おはよ!」
「おおぅ、お、おはよう」
「どうしたの?ビックリした顔して」
首をかしげ不思議そうな表情でそう訊ねる六栗だが、俺の方こそ「一体今日はどうしたんだ!?」と訊ねたいくらい、六栗の様子がいつもとは一味も二味も違ってた。
まだ見慣れていない真新しい制服姿なのもあるだろうけど、いつもと髪型が違うし化粧でもしてるのか、唇がツヤツヤでぷりぷりしてる。
ぶっちゃけ、超可愛くなっとる!
ネアンデルタール人からホモサピエンスに進化したか!?
元々可愛いとは思ってたけど、高校生にもなるとこうも変わるのだろうか。
六栗とはもう慣れた物で一緒に居てもドキドキすることは滅多になくなってたのに、今日は久しぶりにドキドキしてるぞ。
「なんだか、いつもと違う・・・」
「ふふふ、わかっちゃった?高校生になったんだもん、ちょっとお化粧してみた」
「やはりそうだったのか。でも、校則違反だって教師や先輩に怒られたりしないのか?スカートも短くしてるみたいだし、髪型だって」
「大丈夫だよ。今時のジェーケーはこれくらいふつーなの。因みにツインテールって言うんだよ?」
ジェーケー?
何の略だろう。
JRとかJTBとかJRAと同じようにJはジャパン?
じゃあKはなんだ?話の流れ的にオシャレに関するワードの様だが、皆目見当つかん。
「それより何か感想は?ケンくんに見て貰いたくて朝から頑張ったんだよ?」
おおおぅ
俺に見て欲しいからだと!?
あれか!幼馴染として朝から褒めて、美意識と承認欲求を満足させるのが俺に与えられた役目ということか!?文庫本でソレっぽいの読んだことあるぞ!?
しかし俺には、「可愛いよ」とかストレートな言葉を口にするのはハードルが高すぎる。女子に面と向かってそんなナンパなこと言えないぞ・・・
「そうだな・・・とても、イイと思います」
「む。イイってどんな風に?」
「な、なんか、オシャレなふんいきをただよわせてて、いまどきのヨウキャっぽくて、とりあえずなんとなくそんなかんじで、しどろもどろ」
「もっと他にないの?」
ハッキリしない俺にちょっぴり機嫌を損ね始めたのか、真っすぐジッと上目遣いで俺の目を見据えて来た。
六栗怒ると怖いんだよな。
入学式あるのに、また前みたいにずっとパンチされるの嫌なんだよな。
超恥ずかしいけど、頑張って褒めることにした。
「パッチリした瞳に長いまつ毛がクリンクリンしててぷっくりツヤツヤの唇に血色の良いほっぺはスベスベだしくるくるのくせ毛を2つに括った髪型も新鮮で全部カワイイです!短くしたスカートから覗かせてるスベスベの太もももローファーに紺のハイソックスの組み合わせも健康的な高校生らしくて今日の六栗は全部がカワイイです!玄関開けてひと眼見た時からずっとドキドキが止まらないです!以上!終わり!」
捲し立てる様に一気にホメちぎってやった。
全部本音だ。
「ケンサク、玄関で何騒いでるの?早く行かないと遅刻するわよ?」
突然背後から、母が現れ声を掛けて来た。
今の全部、母に聞かれただと!?
「ヒナちゃん、朝からお迎えありがとうね。二人とも、車に気を付けて学校に行くのよ?ってどうしたの?二人とも真っ赤な顔して」
チラリと横目で六栗の表情を窺うと、熟れ過ぎた完熟トマトみたいに真っ赤な顔してた。
自分からホメてほしそうに要求してたのに、いざ俺にホメられると恥ずかしくなったのかな?
俺も靴を履き、母から逃げる様に二人とも無言のまま玄関を出ると、高校へ向かって歩き出した。
歩き始めて2~3分すると、六栗が無言のまま俺の肩をバンバン叩いてきた。
なんだなんだ!?
今度はどうした!?
俺はまた何か怒らせてしまったのか!?
と驚いて、六栗へ視線を向けると、耳まで真っ赤にして俯きながら叩いていた。
「ど、どうした六栗!?痛いから止めて欲しいんだけど」
「うう・・・ケンくん、ホメすぎ。めっちゃ恥ずいんだけど」
「いや、俺だって恥ずかしいのに六栗がホメろと要求するからだ。しかし、今後は気を付ける。ごめんなさい」
「ううう・・・気を付け無くてもイイ。ありがと。ケンくんもブレザー、恰好イイヨ?」
「おおおぅ!?女子からカッコイイとか言われたこと無いから、ビビるんですけど!?」
「じゃあもう言わない」
「そうか・・・ところで、ジェーケーってなんの略なの?Jがジャパンってのまでは分かるんだけど、Kがなんの略なのか検討つかなくて」
「え?ナニ言ってるの?ジェーケーって女子高生のことだよ?女子のJに高校生のKね」
「そうだったのか。ようやく謎が解けた。これでまた1つ賢くなれたな、俺」
「ナニそれ、うふふ。賢くなった記念に、胴上げしとく?」
「え?ナニ言ってるの?二人しか居ないのにどうやって?しかも俺が上げて貰う方?」
なんだかんだとワイワイ楽しくお喋りしながら豊坂高校までの道を二人で歩いた。
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