#12 多感な少女は




 入学者説明会が終わって家に帰って部屋で一人になると、ベッドにダイブして、布団に顔をうずめて「ああああ!もう!」と大声を出した。


 イライラが酷くて、辛い。

 生理でもないのにムカムカが止まらない。


 ずっと他の女の子のこと見てたケンくんには腹が立つけど、このイライラはそれだけじゃない。自分にもなんかムカムカしてる。

 

 私が機嫌悪いからケンくんは私を宥めようと優しくしてくれてたのに、全然素直になれなかった。ホントは仲直りして、楽しいお喋り一杯したかったし、春休みの間に遊ぶ相談したかった。

 

 ケンくんの恋人でもないのに私が怒るのは筋違いだって分かってるけど、でも我慢出来なかったんだもん。


 だってさ、一度ケンくんに告白してるんだよ?私がケンくんのこと好きなの知ってるんだよ?

 なのにさ、ちょっと可愛い子が目の前に座ったら、私が傍に居るのに鼻の下伸ばしてデレデレしちゃってさ。

 話しかけても上の空だし、そんなん目の前で見せられたらムカー!ってなるじゃん。

 私だって最初は「嫉妬して怒るなんてみっともない」って我慢してたんだよ?

 気にしてないふりして、話かけたりしてたんだよ?

 でも、ケンくん、全然私の方見ようとしないで、ずっとその子のこと見てるんだもん。

 それでつい手が出ちゃって、「嫉妬してるのか?」とか言うから、バレバレだったのが恥ずかしくてケンくんにずっとパンチしてた。


 だいたいさ、私いっつもケンくんのこと気に掛けて心配とかしてるんだよ?

 おばさんにもケンくんが可哀そうだって色々お願いしてあげてたんだよ?

 めっちゃ健気で一途な幼馴染じゃん。

 なのにさ、ケンくんは全然私のこと見てくれないんだもん。

 そりゃ受験勉強にずっと付き合ってくれてたし、凄く感謝してるけどさ、これだけ長い時間一緒に居るんだから、もうちょっと私のこと意識してくれたっていいじゃん。


 私ばっかりの一方通行なんて、寂しいじゃん。




 でも、私、フラれてるんだよね。

 彼女でも無いのにこんな風に思うのは、全部私の我儘なんだよね。

 なのにあんなに叩いて、嫌われでもしたらって今更自己嫌悪。


 一緒の高校に行けるようになったのはめっちゃ嬉しいけど、こんなのがもう3年続くかもって思ったら、ちょっと自信なくなってきちゃう。


 因みに、元陸上部のケンくんのお尻も太ももも筋肉でバッキバキに硬くて、叩いたりつねったりしてたらあの独特の感触が病みつきになりそうだった。

 こういうの、筋肉フェチっていうの?やっぱ私、変態かも。




 ◇




 一晩寝たらイライラは治まったけど、その代わりに寂しさと焦燥感が湧いて来た。

 春休みだとケンくんに中々会えなくて寂しいし、ケンくんが他の子を好きになったらどうしようって不安で。


 自分から会いに行こうかな。

 でも昨日いっぱい叩いちゃったし、嫌われちゃってたらどうしよ。


 そんな風に悶々として部屋でゴロゴロしてたら、ケンくんの方から私に会いに来てくれて、そんな不安なんか簡単に吹き飛ばしてくれた。


 昨日の帰り際に私が「春休みの間に遊ぼう」って言ったのが気になってたらしくて、何して遊ぶのか態々聞きに来てくれた。

 でもそんなことよりももっと驚いたのが、ケンくんがスマホを買って貰ってた事。

 おばさん、私がお願いしたからなのか本当に買ってくれたみたい。

 それでケンくんが「スマホ買って貰ったのに六栗の連絡先知らないし、教えてくれ」って。


 朝から来てそんなこと言うってことは、一番に私の連絡先を入れたいって思ってくれたってことだよね???

 誰よりも最初に私の連絡先が欲しかったってことだよね???

 ソレってケンくんに取って、私が1番の存在ってことでしょ?

 何ソレ!?めっちゃ嬉しいんだけど!!!



 さっきまで沈んでたのが嘘みたいにテンション上がると、直ぐにお家に上がって貰って私の部屋に連れ込んで、二人でくっ付く様に座って2つのスマホ並べて「コレだよ」とか「こーするんだよ」とか登録の仕方を教えてあげながらイチャイチャしてたら、更にケンくんが驚くべきことを話してくれた。



「あとで、コンビニ行きたい」


「コンビニ行くって、ケンくんお金あるの?スマホで決済するの?そんなことしたら後でおばさんに怒られない?」


「いや、現金持ってる。昨日財布も買って貰ってお年玉貯金の通帳も渡された」


「え?通帳丸ごと?それって結構な金額なんじゃない?」


「うん。70万弱入ってた」


「おおおぅ、ケンくんにこんな大金持たせるなんて、おばさん、正気なの!?」


「お金の管理の勉強しなさいだってさ」


「だからって、コンビニ行って何買いたいの?」


「お菓子とか?」


「いきなり無駄遣い?今までの反動で目的も無く使いたいだけじゃない?」


「そ、そそそんなんじゃないし、ハハハ・・・」



 気持ちは分からないでも無いけど、今のケンくんじゃ碌なことにならない気がする。

 おばさんにお小遣いの話をしたのは私だし、ここは私が面倒見てあげるべき?


 っていうか、今気が付いたけど、予算の都合でおウチデートしか無いって諦めてたの、これで色々行ける様になってるし!

 だったら、デートしながらお金の使い方とか勉強すればいいじゃん!



「今から遊園地に行こう!コンビニなんかよりももっと楽しくお金の使い方を勉強しよう!」


「遊園地?電車に乗って行くの?」


「うん!遊びに行く約束してたでしょ?だから今日これから行こう!」



 そうと決まるとケンくんには私の部屋で待ってて貰って、大急ぎでシャワー浴びて着替えて30分で準備を終えて、直ぐに出かけた。


 行きの電車では、自分の体験をもとにお金の使い方(この場合は会計時の支払い方ではなく、無駄使いの防ぎ方など)をレクチャーした。


「お財布に大金入れて持ち歩いてると「今日はお金持ってるから大丈夫」って考えちゃうから、ホイホイ使っちゃって気付いたら思ってよりも残金少なくなってたってことが良くあるからね。お財布の中は必要な分だけにして余分なお金は持ち歩かない方がいいよ」

「コンビニってついつい色々目について買っちゃうけど、1つ1つがスーパーとかドラッグストアよりも割高だからね。お菓子とかジュース買いたいならコンビニは止めた方がいいよ。千円二千円なんてすぐ行っちゃうんだから」


 等々、私なりに真面目に考えて話してたんだけど、ケンくんも興味ありげな顔して「なるほど、そう言われればそうかもしれんな」ってちゃんと聞いてくれてた。

 勉強会の時は私が教わるばかりだったけど、こういう風に逆転するのも新鮮で楽しい。





 遊園地に着くと、券売機でそれぞれ自分の入場券を買ってから入場した。


 それで「どこから周ろっか」と言いつつ、思い切って私から手を繋いでみた。

 ケンくんは遊園地の雰囲気に興奮気味で、手を繋がれたことは気にならない様子で拒否されなかった。


 ケンくんには色仕掛けが通用しないけど、何かに夢中になってる時にどさくさに紛れてのスキンシップなら平気そう?

 ならもう少し大胆に行っても大丈夫そう?


 そう判断した私はこの後ドンドンエスカレートして、腕組んだり抱き着いたりして、めっちゃベタベタイチャイチャしてやった。





 私にとっては初めてのデート。

 それが初恋相手で大好きなケンくんと。

 すっごく楽しかった。

 私だけじゃなくてケンくんもずっとはしゃいでて、楽しんでくれたみたい。

 二人ともクタクタになるまで遊んだ。


 そんな楽しいデートも、終わりの時間が近づいて来た。



 そろそろ帰ろうかって話になると、このまま帰ることに焦りを感じ始めた。

 昨日のイライラなんて吹き飛ぶくらい今日は凄く楽しくて、初デートとしていい思い出になった。スキンシップも沢山して、ケンくんとの仲も今までよりもグッと近づくことが出来たと思う。



 でも、だからこそこのまま帰ってしまうのが勿体ないと思った。

 思ってしまった。


 今日なら、告白してもOK貰えるんじゃない?

 そんなことを考えてしまった。


 告白するなら二人きりの場所がいい。

 観覧車なら丁度いいかな。

 なら、最後に観覧車に乗って・・・






 でも、告白は出来なかった。

 二人きりになって気持ちを整えて、今度こそ成功させる為に雰囲気も良くして、さぁ告白するぞ!って時に、去年のバレンタインの振られた時の事がフラバして、「好き」って言葉が言えなかった。


 でも、なんとか気持ちを伝えたくて、代わりに私にとってケンくんが如何に特別な存在なのかを話した。

 恥ずかしかったけど、いっぱい感謝してることも話した。


 ケンくんに気持ちが伝わったかは分からない。

 ケンくん、返事もせずに修行僧フェイスでずっと黙ってたから。

 でも聞いて貰えただけでも、少しだけスッキリ出来たと思う。




 焦りや緊張でドキドキしながら乗り込んだ観覧車は、ゆっくりと私の緊張をほぐす様に1周して、降りる頃には気持ちを穏やかに落ち着かせてくれた。



 でもケンくんは、観覧車で乗り物酔いしてたみたい。

 気持ち悪かったから、私がいくら話しかけても返事しないで修行僧フェイスだったんだね。

 だから、もしあのまま告白してたら、返事どころか二人きりのゴンドラの中でゲーして最悪の結果になってたかもしれない。

 結果的には、告白しなくて良かった。

 初デートでまた告白失敗とか今度こそ立ち直れなくなるし。

 まだ3年もあるから、焦らなくても大丈夫だよね。



 





 第2章、完。

 次回、第3章 優等生編、スタート。




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