第2章 続・幼馴染編

#08 少女の性癖と提言



 豊坂高校の合格発表の翌日。

 ママから「ケンくんのお陰で合格出来たんだから、お礼に伺いましょ」って言われて、ママと一緒に手土産持ってケンくんのお家を訪ねていた。


 ケンくんはおじいちゃんとおばあちゃんのお家に高校合格の報告に行ってるらしくて不在だったけど、おばさんが「上がって上がって」と快く迎え入れてくれて、初めてケンくんのお家の中に入った。


 リビングでお茶を出してくれて、ママ同士が雑談に花を咲かせる中、私はすることないし愛想笑いで適当に相槌打ちながらケンくんの事ばかり考えていた。




 今日はケンくんに会ると思ったんだけどな。

 受験終わったらケンくんと会う機会が減っちゃって、ここ最近は寂しいんだよね。

 ケンくんがスマホ持ってたら、こういう時でもお喋りとかチャット出来るのに。


 春休みに1度くらいケンくんと二人で遊びに行きたいな。

 ずっと遊ぶの我慢して勉強頑張ってたんだし、春休みの間くらい思いっきり遊んでもいいよね。


 ケンくんと遊びに行くなら、ドコがいいかな。

 男の子とデートって言ったら、定番は映画とかショッピング?

 でも、映画ってずっと黙って座ってるだけでお喋りとか出来ないし、ショッピングはお小遣い貰ってないケンくんは何も買えないから可哀そうだし。

 うーん・・・遊園地とか行きたいなぁ。

 でも、遊園地も結構お金掛かるよね。

 となると、やっぱ、おウチデート?

 でもそれだと、勉強会とあんまり変わんないし。


 あ、私んちじゃなくてケンくんのお部屋ならいいかも。

 ケンくんのお部屋ってどんな感じなんだろ。

 イメージとしては、畳の和室で小さい座卓があってお布団とかは押し入れに閉まってある感じ。

 ちょっと見てみたいな。

 おばさんにお願いしたら、見せてくれるかな。

 ダメ元で聞いてみよ。



「あの!ケンくんのお部屋、見せて貰ってもいいですか?」


「え?ケンサクのお部屋見たいの?」


「はい!」


「3階に上がって左手の部屋だから、どうぞ」


 ケンくんのおばさん、厳しくて怖いイメージあったから「勝手に入っちゃダメ」って断られるかと思ったけど、あっさりOKしてくれた。


 許可貰えたので早速一人で階段上がって3階まで行き、教えて貰った左手の部屋の扉をそっと開けると、予想とは全然違う洋室だった。

 ベッドと勉強机と本棚があって、本棚には文庫本とか文芸書が一杯並んでて、漫画とか雑誌は無かった。

 フローリングの床はホコリやキズが無くて綺麗だし、ベッドのお布団カバーや窓のカーテンはグレーに統一してて、ケンくんっぽくないシックでちょっとオシャレな感じ。


 ベッドの縁に腰を降ろして部屋の中を見渡した。

 男の子の部屋に入ったの初めてだけど、なんだかムズムズしてくる。


 パタンとベッドに倒れ込み、お布団に顔をうずめてみた。


 ああ、これはちょっとマズイかも。

 興奮してきた。


 ちょっとだけ・・・誰も見て無いし、ちょっとだけならいいよね!


 ゴソゴソとお布団の中に潜り込んで頭まで被って、フカフカのマクラに顔をうずめて、鼻から思いっきり息を吸い込んだ。


 ムフームフー


 予想以上に刺激的だ。

 ケンくんの匂いでこんなに興奮するなんて、やっぱ私、変態かも。

 こういうの、匂いフェチっていうのかな?


 これはマズイ。

 止まらなくなっちゃう。


 被っていた掛け布団にグルグル包まって、マクラに顔をうずめたまましばらく深い呼吸を繰り返してモソモソしてると、誰かが階段を上がって来る足音が聞こえた。



 ちょ!?

 こんなとこ誰かに見られたら、人生終わるし!!!

 慌てて起き上がりベッドに腰掛けてた体勢に戻った瞬間、ノックが聞こえたので「ど、どどどどうぞ」と返事をした。


 カチャリと扉が開くとケンくんのおばさんで、「お昼に出前取ったから、そろそろヒナちゃんも下に降りておいで」と声を掛けてくれたので返事をしようとしたら、「どうしたのヒナちゃん!お顔真っ赤よ???髪も乱れてるし、運動でもしてたの?」と鋭い指摘をされた。


「イエ!何でもないデス!直ぐ降りマス!」と勢いで誤魔化す様に返事したけど、かなり怪しまれたと思う。

 おばさんの後に続いて階段降りてる時はめっちや気不味かったけど、お嬢様になり切って、お上品に「素敵なお部屋ですわね、オホホホ」って笑ってなんとかやり過ごして、事なきを得た。



 お昼にお寿司の出前を取ってくれて、3人で食事をしながらお喋りしてると、ケンくんの話題になった。


 まだ少し興奮の余韻が残ってた私は、いつもよりも大胆になっていたのか、ケンくんのおばさんに色々お願いしてみた。


「今時の中学生、みんなスマホ持ってるんですよ。持ってないのケンくんだけで、友達とかがスマホ使ってるの見るとケンくんいつも切なそうな顔してるんです。わたしなんてケンくんの前じゃスマホ触らない様に気を遣ってますもん。ケンくんにスマホ買ってあげて欲しいです」

「お小遣いだって高校生になったら絶対必要ですよ。お財布持ってない中学生なんてケンくんくらいですよ」

「坊主頭もそろそろやめても。髪伸ばしたケンくんも絶対恰好良いと思いますよ!」



 私がお願いや提案をすると、おばさんは考え込む様な真面目な表情で聞いてくれていた。

 言った後から、ちょっと調子に乗りすぎたかな?と不安になったけど、おばさんは私の話を聞いて前向きに考えてくれていた。


「そうね、スマホとお小遣いは確かにヒナちゃんの言う通りね。でも坊主頭はケンサクが自主的にやってるからね。おばさんが刈ってたのは小学校までよ?中学からは本人に任せたら、坊主が一番楽だからって自分で刈ってたのよ」


「え!?ケンくん、セルフ坊主だったんですか!?初耳!」


「スマホとお小遣いのことは、ヒナちゃんの意見を参考にさせてもらうわね」


「ハイ!お願いします!」


 ケンくんのおばさん、全然話分かる人じゃん。昔から色々聞いてたから、すっごいスパルタな教育ママみたいなイメージだったけど、全然そんなことなくて、寧ろ気さくな感じだった。

 さっきだって「坊主が一番楽だから」って言う時、明らかにケンくんの物真似しながら言ってて、流石親子だからめっちゃ似てて吹き出しそうになったし。




 お昼までご馳走になって長居してしまったけど、結局ケンくんは帰って来なくて顔を会わせないままお暇することになった。

 帰り際にママから「今度の入学者説明会、一緒に行きましょ。迎えにくるわね」と言って約束してくれて、ケンくん不在でもなんだかんだと有意義な時間となった。




 そして、豊坂高校の入学者説明会。

 この日、私は、自分が如何に嫉妬深い女だったと思い知ることになった。





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