#07 少女は再び立ち上がる




 ケンくんから志望校を聞き出したら、県立の市内で一番頭良い豊坂高校だった。

 ケンくん成績良いし多分そうだろうと思ってたけど、案の定だし。

 今の私じゃかなり厳しいよ・・・


 でも諦めない。

 私のケンくんへの想いは、こんなことくらいでヘコたれたりしないし!


 そこで、早速私は当初の計画通り、ケンくんに「私も豊坂高校行きたいから勉強教えて♡」と甘えた声であざとくお願いした。


 一瞬、バレンタインにフラれた時のことがフラバしてめっちゃ脇汗噴き出してたけど、ケンくんは「分かった、いくらでも教える。一緒に合格出来る様に頑張ろうぜ!」ってキメ顔で快諾してくれた。



 そうか、ケンくんはこういうあざといのに弱いのか。

 バレンタインの時は、そんな余裕なくて勢いでなんとかしようとしてたからダメだったのかな。次に告白する時は、甘える様にした方が良さそうだね。




 兎に角、ケンくんに勉強を教えて貰う約束は取り付けた。

 そして私の計画は約束するだけでは終わらない。


 もうすぐ夏休みに入る。

 この夏休みは二人きりの勉強会をフル回転でガッチリ予定組んで、二人だけの濃密でラブラブな時間を・・・じゃなくて、二人で受験勉強という苦難を乗り越え、ただの幼馴染じゃない、共に戦った同志で特別な存在として意識して貰うんだ。

 だから、ケンくんが途中で逃げ出さない様にウチのママに頼んで、事前にケンくんちのおばさんにも根回しをしておいた。

 これでもうケンくんの夏休みは全て私が貰った。ふふふ


 因みに、机にずっと飾ってたケンくんとのツーショットは隠すことにした。

 コレ見られたら「フラれたのにまだ飾ってんのか!?」ってドン引きされて、重い女とか思われちゃうもんね。その辺は抜かりないよ。




 今の私の1番重要な目標は、豊坂高校合格。

 この目標をしっかり胸に刻んで、ケンくんと一緒に受験戦争を戦い抜くんだ。



 でもね、好きな男の子と二人きり。

 年頃の女の子としてはやっぱ意識しちゃうし、相手にも意識して欲しいでしょ?


 だから、勉強も大事だけど、めっちゃアピールした。

 毎回Tシャツやキャミソールにショートパンツの薄着で、Eカップの胸強調したり、脱毛とスキンケアに余念が無い自慢の生脚を見せて、アピールしてみた。


 けど、最初はケンくんチラチラ気にしてくれて私の思惑おもわく通り意識してくれてたみたいだけど、そのことが嬉しくてツイツイ調子にのってからかったら、ケンくんに土下座で謝罪されて、それ以降はいつもの修行僧みたいな難しい顔しかしなくなって、全然私の胸とか脚を見てくれなくなっちゃった。



 ケンくんには色仕掛けは通用しなくて、むしろ逆効果だった。

 あざとく甘えられるのには弱いみたいだけど、やり過ぎるとダメだということだったんだね。


 しかも、修行僧モードになったケンくんはめっちゃスパルタで、朝から夕方の外が暗くなるまでの間は食事とお手洗いの時しか休憩取らせてくれなくて、毎日ひたすら参考書や過去問題をやらされた。

 私がちょっとでもケンくんに甘えようとしたりダラけて眠そうに欠伸なんてすると、「六栗、俺はお前を豊高(豊坂高校)に合格させる為にココに来てるんだぞ?」とか「今頃他のライバルたちは六栗以上に寝る間も惜しんで血反吐吐きながら勉強してるんだぞ?お前はもう諦めるのか?」ってクドクドお説教してくるんだもん。そういうとこは、ちょっと怖い。



 でもお蔭で、夏休み明けて最初の実力テストで、めっちゃ成績上がってた!

 周りの友達にカンニング疑われるくらい有り得ない順位まで上がってて、めっちゃ嬉しくてケンくんのクラスまでダッシュして報告しに行くと、ケンくんも「フッ、よく頑張ったな六栗。勉強教えた俺も鼻が高い」って格好付けたキメ顔で褒めれくれた。


 コレだよ!コレ!

 共に苦難を乗り越えた同志!って感じするでしょ?

 私が狙ってたのはこういうのなの!


 これからはケンくんのこと、教官って呼ぼうかな。






 夏が終わり秋も過ぎて冬を迎え、冬休みも毎日ウチで教官と二人での勉強会をすることになり、クリスマスも大晦日も元旦も勉強漬けで、年が明けて3学期になると、担任からは「このまま行けば豊坂高校も大丈夫だろう」って太鼓判を押して貰える様になっていた。


 因みに、クリスマスに私からケンくんに手袋をプレゼントしたら、「クリスマスに図書券以外のプレゼント貰ったの、初めてだ。六栗ってサンタさんの生まれ変わりなのか?」って声を震わせて泣きそうになるほど喜んでくれてた。


 どおりで私へのプレゼントは薄い封筒だったんだね。

 ケンくんお小遣い貰ってないって言ってたから、おばさんが用意してくれたんだね。中身見なくても分かっちゃったよ、私。




 そして、中学卒業。

 3年間色々あったけど、私の中学生活はケンくん一色だった。


 こんな所では、まだ終わらない。

 終わらせてなるものか。

 このまま高校の3年間もケンくん一色に染めるんだ。

 だから、まずは高校入試を乗り越える。

 ケンくんと一緒に、軽くハイジャンプして合格してやるんだ。





 入試当日はケンくんと二人で豊坂高校まで歩いて向かい、遅刻することなく無事に試験を受け、二日目の面接も無難にこなした。


 ケンくんにも試験の出来を聞くと、「試験中にお腹痛くなってマジで死ぬかと思った。だが大丈夫だ。試験問題もパンツも漏らしてはいない、はずだ」っていつも以上にシリアスな修行僧フェイスで教えてくれた。


 我慢しないで早くトイレ行ってきなよ!って私が指摘すると、「すまん!」って言って内股で歩きにくそうな速足でトイレに向かう後ろ姿は、ちょっと格好悪かった。

 更に、トイレから戻ったケンくんと一緒に帰りながらしつこく聞くと、「ちょっとだけパンツに茶色い縦線出来てた」って白状してくれた。



 よし!

 コレでUNが付いたよね!







 3月中旬の合格発表の日。

 私とケンくんは入試の時と同じように、二人で歩いて豊坂高校まで合格発表を見に行った。


 めっちゃ緊張して怖かったからケンくんにピッタリ傍に付いててもらって、祈る思いで受験番号探した。


 二人で順番に番号探していくと、あった。

 私もケンくんも合格してた。

 嬉し過ぎて「合格したよぉ~!ケンくんのお陰!ありがとぉ~!」って号泣しながらケンくんに抱き着こうとしたらサッと躱されて、「アレだけ頑張ったんだから合格なんて当たり前だ。この程度で泣くんじゃない」って言っていつもみたいにキメ顔で格好付けようとしてたけど、でもケンくんも次から次へと涙と鼻水がダダ漏れしてて、全然格好良くなかった。


 私はそんなケンくんが大好き。

 UN〇漏らしてパンツ汚しても、涙と鼻水でグチャグチャなブサイク顔してても、私の気持ちは何も変わらない。

 ケンくんとまた3年間一緒に居られるなんて、私は最高に幸せ者だよ。






 第1章、完。

 次回、第2章 続・幼馴染編、スタート。




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