#09 入学者説明会にて
県立高校の合格発表の五日後、俺と六栗が合格した県立豊坂高校では入学者説明会が開かれた。
説明会では、新入生に向けて大学進学にまつわる学校方針や授業内容に部活動や、その他の様々な行事や学内の規則やシステムなどを説明する物で、説明会の後には授業で使う教科書の支給や体操服の注文受付などもあり、保護者同伴で出席しなくてはいけない。
ウチの場合は母と行くことになるので、当日は中学の制服を着て、おめかしした母と一緒に歩いて向かうつもりでいたが、家を出る予定時間の10分前に六栗と六栗のお母さんがウチにやって来た。
どうやら、母親同士が事前に一緒に行く約束をしていたらしい。
朝からご機嫌の六栗と一緒に歩くのは、普段なら嬉しいし楽しい時間になるのだが、今日はウチの母や六栗のお母さんも居るので、照れくさいし恥ずかしい。
だから、普段以上にクールぶってつっけんどんな態度を取っていた。
豊坂高校まで歩いて向かう途中、六栗はそんな俺の冷たい態度を全く気にすることなく、ずっと喋り続けていた。
「豊高の制服って結構地味だよね。スカート短くしてたら怒られるかな」
「同じクラスになれるかな?豊高って一学年10クラスあるらしいよ。めっちゃ確立低くない?」
「高校入ったら髪伸ばしてみようかなぁ。ケンくんは伸ばさないの?坊主にこだわってるんだっけ。髪伸ばしたケンくん、ちょっと見てみたいかも」
「そろそろスマホ買って貰ったら?ケンくんに連絡取りたいとき
「ああ」とか「そうだな」しか返事しない俺に、六栗は終始ハイテンションで喋り続けていた。
因みに坊主頭は自分で電動バリカン使って刈ってて、床屋に行くよりもお手軽で時間もかからないので、今後も続ける。
豊坂高校に到着すると、校門に立つ職員から「体育館に向かって下さい」と案内され、体育館の入り口で受付を終えて中に入り、俺たち4人は横に並んで席に着いた。
俺の横に座った六栗は、席に着いてからも喋り続けていた。
俺は様々な中学の制服を着た新入生やその親たちをボーっと眺めながら説明会が始まるのを待っていたが、俺たちの前の席に一組の親子がやって来て座ると、目を見開いて固まってしまった。
最初は俺の前の席に座った着物姿の母親の方に『入学式でも無いのに着物なんて珍しいな』と気を取られたが、その母親の右隣(俺の右斜め前)に座った娘さんの横顔を見た途端、息をするのを忘れてしまう程、ビックリ仰天した。
なんか滅茶苦茶綺麗な女子がおる。
背筋をピンと伸ばして座る姿は同じ15歳とは思えないほど落ち着いた佇まいで、そこはかとなくお上品な雰囲気を漂わせて、一目見ただけで育ちの良さが滲み出ていた。
俺や六栗とは明らかに人種が違う。
俺が類人猿で六栗はネアンデルタール人なら、その娘さんはスーパーサイア人だ。
容姿のことを言えば、確かに六栗も美少女だが、この娘さんの美しさは次元が違った。
身長は六栗よりも少し高そうで、黒タイツに包まれ真っ直ぐ膝を揃えてスラリと伸びた脚や肩から腰に掛けての線は細く、スレンダータイプだ。
ストレートロングの黒髪は1本も乱れることなく流れる様に揃い芸術的な程に艶々で、坊主頭の俺にはこの芸術的な程美しい頭髪を維持するのに、如何ほどの日々の努力が必要なのか、皆目見当がつかなかった。
そして、何よりもその横顔。
伏し目がちにしている瞳は切れ長で、スっと筋が伸びた形の良い小鼻、薄い唇はツヤツヤで血色は良く、染み一つない白い肌は頬ずりして感触を確かめたくなるほどきめ細やかで張りがある。
全てのパーツの形が整ってて、小顔なのにそれぞれの大きさや配置もまた芸術的なほど絶妙なバランスで、欠点が1つもない正しくパーフェクトな美貌。
見た目だけじゃない、内面の美しさも滲み出ている様だった。
まぁ性格までは知らないし、本当は性格悪いかもだけど。
兎に角、見てるだけで生気を吸い取られてしまいそうなその娘さんの美しさに、俺は説明会が始まっても話が頭に入って来ない程ずっと魅入ってしまっていた。正に俺自身、生気を吸い取られていたのだろう。
そんな俺の様子に気付いた六栗が横から俺の脇腹を肘でグイグイしながら「(ちょっとケンくんどうしたの?またお腹の調子が悪いの?パンツ汚す前にトイレに行かないとダメだよ?)」と小声で話しかけて来たが、斜め前に座る娘さんを見つめるのに夢中な俺は、「ああ」とか「うん」と生返事しか出来ず、娘さんをガン見し続けた。
説明会が終了すると周囲はざわつき始め、目の前に座る着物姿の母親が「行きますよ」と娘さんに声を掛け立ち上がり、娘さんも「はい」と返事をして静かに立ち上がった。
その様子を見つめていると、娘さんは俺の視線に気付き、頬を赤らめ軽く会釈をしてくれた。
会釈する姿もお上品で美しい。
軽くアゴを引いて首筋を真っ直ぐ伸ばしたまま腰を軽く折り、元の姿勢に戻しながら耳に掛かった黒髪を直す仕草。1つ1つの所作に洗練された品があり、一挙手一投足、眼が離せなかった。
見惚れすぎて一瞬遅れてしまったが、俺も慌てて会釈で返した。
そんな俺の様子を横で見ていた六栗は、座ったまま無言で俺の太ももをバチンバチンと叩き始めた。
我に返り「ヤメテヤメテ」と訴えても止めてくれず、母たちに促されて俺たちも席を立ち、出口に向かう間も六栗は無言で背後から俺のお尻をパンチし続けていた。
確かに今の俺の態度は良く無かった。
今日の俺は六栗と同伴して来てる。
なのにその六栗を放置して他の女性に気を取られ過ぎていた。
こんな時の為にメンタルトレーニングで鍛えて煩悩や雑念を滅却出来る様になったというのに、斜め前に座ってた娘さんが余りにも美し過ぎて、今日はそれが出来ていなかった。
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