#10 教育方針のステップアップ



 体育館の外に出ると大勢の新入生や保護者が居て、教科書を支給してもらうコーナーには行列が出来ていた。ココは手分けして用事を済ませてさっさと帰ろうということになり、母たちには体操服の注文コーナーに回って貰い、俺と六栗は教科書支給コーナーの行列に並ぶことにした。


 行列に並び、まだ無言のまま俺のお尻をパンチし続けている六栗に「そろそろマジで痛いです」と伝えると、「今日のケンくんマジむかつく。ヒナ、めっちゃ怒ってるんだけど」と漸く口を開き、でも叩くのを止めてはくれなかった。



 六栗が俺に対してこんな風に不機嫌な態度を露わにしたのは初めてだった。


 他の女性に気を取られ放置してしまったのは悪かった。

 しかし、ココまで怒ることだろうか?


 そういえば以前、幼馴染だと言われてその定義を調べようと読み漁った幼馴染を題材にした文庫本では、ヒロインの幼馴染が恋人でもないのにやたらと主人公の私生活や交友関係に干渉して、嫉妬心をむき出しにするパターンが多かった。



 六栗もそういうことなのか?

 過去に俺のことを好きだと告白したこともあったし、今は好きじゃ無くてもそういうのは面白くないのか?


 つまりコレは、嫉妬なのか?

 俺に嫉妬してくれているのか?

 だったらちょっと嬉しいぞ。


 気になったので、行列に並んで待ってる間に本人に聞いてみることにした。



「六栗、嫉妬してるのか?ヤキモチ焼いてるのか?」


「はいぃぃぃ!?嫉妬なんてしてませんけど!?」


「なら良いんだけど・・・」


「やっぱ今日のケンくん、めっちゃむかつく!!!」



 そう言って、今度は俺の太ももを服の上からつねり出した。


 嫉妬じゃないとなると、何故こんなにも機嫌が悪いのだろう。

 来るときはあんなにご機嫌だったのに、説明会が終わった辺りからご機嫌斜めで暴力的になってしまった。

 俺が斜め前に座っていた綺麗な娘さんに見惚れて六栗に構ってあげなかったことが原因だと思うのだけど、嫉妬なんてしていないと否定された。


 じゃあ、放置したからスネてるということか?

 なら、構ってあげれば機嫌は直るのか?


 ということで構ってあげようと、六栗の脇腹を掴みモミモミしてやると、「ちょ!?お腹の肉は掴むなし!」と更に怒り出した。


 嫉妬でも無く構って欲しい訳でもない。

 六栗は俺にどうしてほしいんだ?

 マジでわからん。

 もうお手上げだ。


 俺には機嫌を直して貰えるような手はもう思いつかなかったので、目を閉じて、六栗のパンチやつねり攻撃に只管黙って耐え続けることにした。



 列が進み俺たちの番となり、俺も六栗も無事に教科書を受け取ると、ご機嫌取りの為に六栗の教科書も全て俺が持つことにした。

 しかし、持ったは良いが、超重い。

 高校の教科書って中学までに比べて分厚いし教科の数も多いから、一人分でも洒落にならない。

 それを二人分抱えた俺は、少し機嫌が直った六栗の後を必死に追って母たちと合流した。




 帰り道、途中でファミレスに寄って4人で昼食を食べてから帰ると、俺はもうクタクタで、まだ早い時間だったがベッドで横になった。


 今日は色々ありすぎた。

 超絶美人に生気を吸い取られ、ご機嫌斜めの六栗に翻弄され、二人分の教科書を抱えたまま帰って来た。


 六栗が何故怒ってたのか、結局最後まで分からなかった。

 家まで送ると少しは機嫌が直ってた様で、「春休みの間に遊ぼうね」と言われ、さよならした。


 遊ぶのは良いけど、六栗と何して遊べばよいのだろう。

 六栗の家には数えきれないほど行ってるけど、全部勉強会だったし遊んだことは無かった。女子と遊んだことないから、マジで分からん。

 何して遊ぶつもりなのか、もう少し詳しく聞いてからさよならすれば良かったか。明日にでも六栗の家を訪ねて、確認するしか無いか。


 そんなことを考えていると、俺の部屋に母がやって来て、「ケンサクにもスマホ買うことにしましょ。今からお店に行くわよ」と言い出し、また出かけることになった。


 どうやら六栗に「そろそろスマホ買って貰ったら?」と言われてたのが聞こえたらしく、もう高校生だしスマホくらい持たせた方が良いだろうと判断した様だ。


 ウチの母が俺にスマホを買うと言い出すなんて天地がひっくり返る程の大事件だ。15年生きて来た中で、中2のバレンタインに六栗に告白された時の次くらいの衝撃だ。



「マジで買ってくれるの!?」


「ええ、高校合格のお祝いよ」


「す、すげぇ・・・俺が自分のスマホを持つことになるとは」



 母の運転する車に乗って買い物に出かけると、スマホ以外にも「お財布も買いましょ」と母が言い出した。


 俺はお小遣いを貰ってないので、高校生になるというのに自分の財布を持っていなかった。そんな俺に財布も買ってくれると言う。



「と言うことは、つまり・・・」


「ええ、あなたもそろそろ自分でお金の管理する勉強が必要だと思うわ」


「お小遣いくれるの!?」


「いいえ、お小遣いじゃないわ。銀行の通帳とキャッシュカードを渡すわ。今までのお年玉全部その口座に入れてあるから、これからは自分で管理しなさい」



 家に帰ってから受け取った通帳の預金額を確認すると、68万5千円弱の残高が印字されていた。


 おおおぅ、俺にこんな大金持たせるなんて、ウチの母、正気なのか!?

 自分で言うのもなんだけど、ヤンチャ盛りの3歳児に核ミサイルの発射ボタン持たせるくらい危険だと思うぞ?





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