#02 解放された少女の初恋
私には好きな人がいる。
幼馴染の石荒健作くん(いしあらい けんさく)
小中高とずっと一緒だった。
家が近所だから小中と一緒だったのは必然だったけど、高校は私がケンくんを追いかけて同じ県立高校に入った。
私はケンくんに一度フラれている。
中2のバレンタインに、長年の想いを込めて告白したけど、あっさりフラれてしまった。
小学生時代からそれまでずっと、ケンくんを意識して頑張って来た。
ケンくんと恋人になりたくて、見た目も振る舞いも可愛くなるように研究し、異性として意識して欲しくて積極的に話しかけて、中学からは「ケンくん」とフレンドリーに呼んでいた。
正直言って、フラれるとは思って無かった。
ケンくんとはしょっちゅう視線が合ってたし、私と話してる時は他の女子と話す時よりもキョドりながらもニヤニヤしてちょっと嬉しそうだったし、私の日頃の努力が効果を表し、ケンくんは私のことを意識してくれていると思っていた。
だから、切っ掛けさえ作れば簡単に恋人になれると考え、自分から告白した。
だけど、現実はそんなに甘く無かった。
私の告白に、ケンくんは「そんな暇ない!」と即答し、走って立ち去ってしまった。
一人残された私はHPゼロで、追いかけることも出来ず、しばらく茫然として立ちすくみ、家に帰ってママから「告白上手くいったの?」と聞かれて、初めて目から涙があふれ出した。
そもそも、事前に告白のことはママには話してなかったのに、手作りチョコを用意してたからバレバレだったのだろう。なんなら、相手が小学校時代からの同級生のケンくんだと言うこともバレていた。
まぁ、部屋の勉強机に小6の修学旅行の時に写したケンくんとのツーショットをずっと飾ってるからね。バレてて当たり前なんだけど。
◇
ケンくんとは、小学校では1年2年5年6年と一緒のクラスで、中学でも1年と2年で一緒のクラスだった。
小学校低学年の頃は、異性としては全く意識していなかった。
当時は真面目なキャラで坊主頭だし、その頃根暗だった私とは接点は無く、会話したことも数える程だったと思う。
そんなケンくんへの認識が大きく変わった出来事が、小5の時に起きた。
起きたと言う程大袈裟な物では無いけど。
当時、ケンくんはクラスのみんなからは「真面目だけど、いつも同じ服着てるし家にはゲームとか無くて貧乏」と思われていた。
坊主頭なのも床屋に行くお金が無いから、家でお母さんにバリカンで刈って貰ってると噂になっていた。
でも、近所に住んでいる私には、ケンくんのお家が貧乏じゃないことは知っていた。
おじさんの車は新車のレクサスだし、おばさんは私と同じ美容院に行ってるから、月に1度は美容院で髪の手入れをしていることを知っていた。家だって車2台停められるガレージ付きの3階建てで、近所でも結構目立つ大きなお家だった。
それである日、ケンくんと会話する機会があった時に、つい「ケンサクくんって、どうしていつも坊主にしてるの?貧乏だからって噂あるけど、ケンサクくんのお家って貧乏じゃないよね?」と気になっていたことを聞いてみた。
するとケンくんは、「ウチの母が坊主以外は認めて無いから」と言う。
その言葉に、私は同情と憐み、そして仲間意識を抱いた。
当時の私は、自分の天然パーマと髪色に悩んでいた。
クセ毛や天然茶髪にコンプレックスを持ってて、定期的に美容院に行って黒く染めてストレートパーマを当てて、友達から天パだと指摘されるのを恐れていた。だから、そんなこともあってケンくんの年中坊主頭の頭髪に興味もあった。
母親に強要されて常に坊主だったと知り、同じように頭髪に悩みを抱えて劣等感を持っていると勝手に決めつけた私は、一方的に仲間意識を持った。
「そうなんだ・・・ケンサクくんも髪の毛のことで悩んでるんだね。私も・・・」
「いや俺、悩んではいないけど?そんな小さいことで俺は悩まない。むしろ、ケンサク=坊主と周りから認知されて都合がいい。オシャレなギャルが髪の毛を染めたりピアスをジャラジャラつけて自己主張するよりもよっぽど健康的で分かりやすい」
「え!?」
ケンくんの若干早口になりながらの説明を聞いて、私は目から鱗が落ちる思いだった。
親に強要されているにも関わらず、坊主頭を自分のパーソナルなアピールポイントとして捉え、都合が良いとさえ思っている。
ケンくんにとって、貧乏だと誤解されていることは、気にならない程どうでも良いことで、そんな男らしい事言うケンくんを初めて格好良いと思った。
それに比べ、天パや茶髪なのを隠し、そのことでビクビク怯えて過ごす自分が情けなく、格好悪いと思えた。
そして私は、ケンくんの言葉が切っ掛けでその日以降、ストレートパーマを当てることも黒く染めることも辞めて、今までコンプレックスだった頭髪を他人には無い自分だけのチャームポイントとして受け入れ、天パでも可愛くなる長さやヘアスタイルを研究し、髪留めやヘアピンをアクセサリーとして活用するなどして、『自分だけの最大のオシャレ武器になる』と考える様になっていた。
その結果、そんな心境の変化や日々の研究の成果が実り、周りからは「可愛くなった」と褒められ、少しづつ自分に自信が持てる様になり、根暗で劣等感の塊だった私は、ケンくんの言葉が切っ掛けで劣等感から解放されることが出来た。
だから、私にとってケンくんは特別な人。
憧れと尊敬は勿論、恋心を抱くのも当たり前。
なのに、フラれた。
そして高校生になった今もまだ、私はケンくんのことが大好きだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます