第54話 不老不死の魔女

「―――――はっ!」


ミカラが目覚めた。

全身に冷や汗をかいている。


「大丈夫?」


「どしたのミカラ?話聞こか?」


「まだ寝てていいよ?」


「おっぱいいる?」


ミカラの周りに居る、彼が堕とした女傭兵たち皆が心配そうに見つめてきている。

特にリーダーのベネットがミカラを抱き締めギュッとしてきて離そうとしない。


「・・・ミカラがうなされるなんてよっぽどの事だよね?悪かったな、アンタなら怖いものなんて無いって勝手に思っちまった。好きなだけアタシに甘えていいから」


そう言うとベネットはミカラの髪を優しく撫でてくる。


「姐御、さっきからずるいっス。そろそろ交代よろです」


ドゥーベの声は華麗にスルーされる。

他の娘たちも、少しでもミカラの事を癒やしてあげようと身体を寄り添わせている。

しかし、7対1なのでいかんともしがたく、1番外に弾かれてしまったメグレーズが、所在無げにミカラの足の指をしゃぶっている。

全身に女たちの胸や舌や指の感触を味わいながら、ミカラは段々と落ち着きを取り戻す。


(ふう、悪い夢だったぜ)


落ち着いたら落ち着いたで違う部分が落ち着かなくなったので、足元に居たメグレーズを抱き寄せて可愛がる。

殿を務める事が多い彼女は1番奥手らしく、ミカラとしてる回数が1番少ない。

平等にしてやらんといけない。


「ミ、ミカラ・・・わ、私っ、ああんっ!」


可愛らしい悲鳴を上げるメグレーズの髪を撫でてやりながら、忌まわしい記憶を封印しようとするミカラ。


(・・・リュシオンとアイスに会ったせいか?)


しかしよりによってフレイヤの事を夢に見るとは思わなんだ。

女を好き勝手にしているように見えて、ミカラの思春期は結構えぐい搾取を受けている。

あの、ミカラが本人の預かり知らぬところでフレイヤの夫となってしまった時の事だ。

勇者たちと魔女による、ユグドラシル学園が崩壊するほどの激闘・・・に発展するのを防ぐため、ミカラは―――










「お、お兄ちゃん・・・嬉しい。私・・・私・・・」


「くそっ・・・僕はお前には、自由に生きて欲しかったんだよ?」


ミカラと初めて一つになった悦びから涙を流す妹を、ミカラが労るように慈しむように抱き締める。

年齢的にも肉体的にも精神的にも、アイファを抱くつもりは毛頭無かったのに。

事態を収拾するためにミカラはアヴェラ、リューセリア、アイファを本気で抱くからと言って怒りを収めさせた。

ミカラがアヴェラやリューセリアを抱く時、ややいやいや仕方なく義務感で抱いているのを、女たちは薄々わかっていた。


「僕がみんなを大切に思ってる事、ちゃんと伝えるから」


それで勘弁してくれ、と・・・なんとかとりなした。

皮肉な事にユグドラシルと繋がり、人の身にすれば無限の魔力を得たミカラは、アヴェラですら気を失うほどの精力を発揮した。

完全燃焼して満足したアヴェラをぐっすり眠らせた後、刃物を自分の胸に押し当て愛の告白を要求してくるリューセリアに愛してると百回くらい言わされた。

そして、その流れからどうしても仲間外れにする事が叶わず・・・避け続けていた妹と、遂に一線を超えるハメになってしまった。


「ううん、お兄ちゃん。私はお兄ちゃんと、ずっとこうしたかったんだよ?初潮来たのに全然抱いてくれないんだもん。意地悪だよね?子供は3人は欲しいから」


そう言って嬉しそうにミカラにキスをしてくるアイファ。


(えへへ〜お兄ちゃん好き。お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん)


ぐりぐり頭をこすりつけてくる妖怪と化した妹を抱き締めながら、ミカラが嘆息する。


「一桁の年齢の女の子が言うセリフじゃないぞ?リューセリアの悪影響だな」


「ミカラくん酷いです。そろそろ私達2人の子供の名前も考えて?」


「前後の文章が繋がってないんだけど」 


リューセリアはミカラがぺったんこ好きだと早合点し、この醜い駄肉を今すぐ削ぎ落としますとか変な事を言い始めたため、たくさんたくさん胸を可愛がってたくさんたくさん褒めてあげた。

その甲斐あってかリューセリアの機嫌は治り、アヴェラよりもというか、今の時点でミカラが知る限り最も偉大な偉容を誇る胸部を誇らしげに突き出し震わせている。

確かにここまで立派なお胸の持ち主は、暗殺者ギルドに居た頃に出会った女暗殺者たち・・・娼婦役もこなすその道でのプロ・・・の中にも居なかった。


「赤ちゃん生まれたら片方は授乳に使いますけど、今は両方ともミカラくんのですよ?お好きになさってくださいね?もう、ミカラくんも男の子なんだからっ!」


にやにやと照れ笑いをするリューセリアを見て、一難は去ったと溜め息を吐くミカラ。

ミカラは本当に胸は大きい方が好きなので、心の底からリューセリアの胸が大好きだと伝えた。

虚偽を見破る『審問』の魔術を使われていたようなので、心の底からリューセリアの胸に全力で甘えた。

ちょっと恥ずかしかったけど、リューセリアはそれで満足してくれたらしい。

刃物を手放してくれた。

そして、1番最後になってしまったアイファが泣きながら・・・


「お兄ちゃん・・・やっぱり私の事要らないんだね?お情けで妹にしてくれたけど、本当は面倒臭くて仕方無いんでしょ?あーあ、あの時、自決用の薬飲んどけば良かったなぁ。こんな惨めな気持ちしながら、生きてくの、嫌だよぉ・・・」


そう訴えてきたため、とうとう観念したミカラはアイファをも抱くハメになったのだ。


「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん愛してる」


「ミカラくん愛してる」


「ぐがぁ〜〜〜・・・ミカラ、愛し・・・て・・・ むにゃむにゃ、もう食べられない〜・・・くぅ」


(よ、ようやく、終わった・・・か?)


落ち着きを取り戻した3人それぞれの愛を受け止め、ややゲッソリしているミカラに・・・正妻一号が声をかけてくる。


「良かったですねミカラ。私と夫婦になったお陰で、何人もの女と何度も寝ても尽きぬ精力を手に入れられましたね。さて・・・そうとはいえ、まだユグドラシルとの接続が不安定ですね?微調整致しましょう」


そう言ってミカラの上へと再び跨ってくるフレイヤが指を振ると・・・


「スヤァ・・・」


「すぅすぅ」


ミカラに全力で抱かれて心身ともに満たされていたリューセリアとアイファ両名が、コトンと転がり夢の世界へ旅立って行く。


「僕は、女に乗られるのは好きじゃないんだってば」


そうミカラが抗議するが却下される。


「あらあら残念です。私はこうやってミカラを見下ろしながら愛するのが、たまらなく気に入ってしまったのです」


文字通りの幼妻(中身は百歳以上)が腰をくねらせ、ミカラに分け与えたはずの力を絞り取ろうとしてくる。


「そうだ、東の地に伝わる体交法・・・性交による身体強化魔術式も試してみましょう。私にはアヴェラとリューから頼まれた、ミカラを強くするという大事な仕事があるのですし。ああ、やりたくないです。いたいけな少年を無理矢理なんて。まったくこんな酷い事を頼むなんて、酷い女たちですね?ミカラ、魔王討伐なんて止めて、ここで一緒に暮らしましょう?」


「それは無い」


ミカラが即答する。


「力をくれた事は感謝する。夫婦ってのにも、必要ならなってやるのもやぶさかじゃない。だが、僕は僕の女たちを、必ず守る」


そう言い切るミカラを見下ろし、不老不死の魔女が妖艶な笑みを浮かべ舌舐めずりをする。


「あらあら、新婚なのにもう浮気です?結婚前の女関係は綺麗にして欲しいものです。ふふっ。初夜を途中で邪魔され、夫には目の前で違う女を3人も抱かれたのです。屈辱です。これはもう・・・」


ミカラの背中を悪寒が走る。


「精根尽き果てるまで交わらなければ、とても収まりが着きませんからね?」


その後ミカラは、大樹ユグドラシルから魔力供給を受けている不老不死の魔女を満足させられるまで、延々何日も抱くハメになる。

途中目覚めたりするアヴェラたちを口直しに抱くような感じになりつつ、ミカラはその試練に耐え、どうにかこうにか生還した。

魔術国家ユグドラシルにてミカラが強くなったのは、取り敢えず性の方面だけであった。











(・・・・・・ユグドラシルとリンクしてるフレイヤはマジで底無しだからなぁ。あの時の人外どもと比べれば、普通の女七人なんて軽い軽い)


悪夢の残滓を頭から振り払い、腕の中のフェクダの綺麗な素肌を撫でてやる。


「綺麗だよ、フェクダ」


「本当?本当に綺麗?」


フェクダはまだ、傷が治った違和感がぬぐえていない。

ついつい傷跡を探してしまい、無い事に戸惑う。

さすがにその記憶の齟齬までは治せない。

精神に干渉して記憶をいじる事も出来るが、リスクもあるのでなるべくならしたくない。

だから・・・


「綺麗さ。フェクダの肌は今まで抱いた女の中で1番綺麗だよ」


褒めて褒めて褒め殺して、嫌な記憶を払拭するのが1番だ。

決して嘘ではない。

聖女の能力で一度光の粒子へ変換してから再構成したフェクダの肉体は、ついでに小さい傷やシミやアザなんかも、一切合切全て治してあるのだ。

生まれた赤子のようにツヤツヤすべすべだ。


「本当?嬉しいっ!」


フェクダはその自慢になった素肌をミカラに密着させる。


(可愛いなぁ。俺ここに住もうかなぁ・・・)


「ミカラぁ」


「ミカラっ!」


「次私ね」


出会った時の、険悪で敵意剥き出しの女傭兵たちはもう何処にもいない。

ここには、地上の楽園があるだけだ。

そんな風に8人全員で爛れた時間を過ごしていると・・・


コンコンコン


「ちっ!誰だよ・・・」


ドゥーベが毒づく。

煩くし過ぎたのか、何者かが訪問し規則正しいノックをしてくる。

誰かが苦情を入れに来たのか?


(―――いや?防音の結界魔術はまだ切れてないぞ?て事は・・・ )


ミカラが窓から飛び出して逃げ出す算段をつけるより早く、せっかちなドゥーベが扉を開けてしまう。

ドゥーベが一番槍なのは実力うんぬんでなく性格のせいだろう。

聞いた時は全肯定しておいたが、ドゥーベの語った男嫌いの原因は、客観的に見るとちょっと自業自得というか、勘違い早とちり早合点が多分に含まれていそうな身の上話だったし。


「げ」


そうしてせっかちなドゥーベが開いた扉の外に居たのは・・・


「な、なんだお前ら?」 


無表情でピシッとした黒髪眼鏡のメイドと、妖艶に笑うメイド見習いらしき少女の2人組であった。

こんな場末の宿屋には似つかわしくない完璧なメイドの姿に、ドゥーベが鼻白む。

そのドゥーベをするりと躱して室内に入り、ケイトが告げる。


「ミカラ様、後は私が引き継ぎます。至急マルドゥック王城にお戻りを」


恭しく頭を垂れた完璧なメイドの姿に、ベネットたちが顔を見合わせる。


「ケイト、リサ。おはよーさん」


ミカラが逃げるのを諦めて、手を軽く上げて挨拶する。

メイド2人は、8人全員裸の現場に乗り込んでも表情を変えない。

無表情と笑顏。


(なんだ、コイツら?)


恐らく、いや間違いなくミカラの女に間違いない。

そうではなく、ただのメイドとは思えない雰囲気と身のこなしだ。

恐らく、自分たちより個々の能力で優れている。

2対7なら・・・見習いの方をなんとか倒した時点で自分たちは全滅するだろう。


(まったく、本当に化け物だな)


こんな女を何人抱えているのやら。

7人でも共有するのが大変なのに、これではミカラを独占するのは無理筋だ。


「報酬に関しては私どもで詰めさせて頂きます」


ケイトが書類一式を取り出してみせる。

傭兵ギルドが認めている正式な書式だ。


「待って」


ベネットがミカラの腕を取る。

その顔は切なげで、完全に恋する乙女であった。


「もう、いいよ?報酬なんて要らないから」


(お金だけの関係なんて、嫌だ)


あの金貨なんて要らない。

ナッシュ家の再興なんてどうでもいい。


「ん?まだ前金しか渡してないだろ?」


ミカラが不思議そうにしている。

傭兵はこと金銭に関しては細かい。

契約専門の文官を雇っていたり、そもそも契約や商談を得意とする商人まがいのリーダーも居る。


「アンタねぇ、自分がした事わかってる?」


ベネットがやや呆れる。


「いやさぁ、全員ミカラにボッコボコにされたじゃん」


「しかも小指一本でさ」 

 

「私なんか、小指すら、使われてない」


「全員ゲロまみれのしょんべん漏らしで負けた相手に、対等な交渉なんて出来るかよ」


「ミカラ、アンタ気絶した私らの喉からゲロ吸い出してくれたんだろ?普通できないって。放っとかれたらそのまんま死んでたんだ」


みんな笑いながら自分たちの負けっぷりを思い出している。

あんな一方的に負けたら、男とか女とか関係無い。

降参するしかない。

その、何処か憑き物の落ちたような彼女たちを見つめ、ミカラは納得しておく。


「わかったよ。金では雇わない。俺の女として働いてくれ。そうだ、そっちのがいいな。傭兵ギルドに中抜きされねぇぞ?男が自分の女に小遣いあげるだけだからな」


あの金貨の山を小遣い扱い。

惚れているのを抜きにしても、ミカラについていくだけの理由が出来てしまう。


(うん、お金は必要かも)


(女らしい事なんてしてきてないし)


(ド、ドレスとか買った方がいいかな?)


(それより風呂だ風呂。一週間は入ってない。あわわ、私、臭くなかったかなぁ?)


ベネットたちが小声でざわざわしだす。


「おい?話聞いてる?後金もちゃんと渡すし、最初に渡した前金はしっかり分配しとけよ。ギルドや銀行には預けるな。戦火に巻かれて書類や金貨が消失しておじゃんなんてバカバカしい。それに・・・ ヤバくなったら、金貨持って逃げろ。得意だろ?負け戦の匂いを感じたら速攻逃げろよ」


軽い感じにミカラが話す物騒な内容に、ベネットたちも少し気を引き締める。


「・・・化け物みたいなアンタがアタシらみたいなザコを引き入れようとしたのは、体目当てって訳じゃなさそうだね」


「まぁな。会ってみたら全員いい女だったから嬉しかったけどな」


その言葉に7人全員満更でもなさそうな顔をする。 ミカラの体交法による強化バフは、女にしか行使できない。

多少好みと違っても可愛げが無くても、抱かない事には始まらなかったのだ。

どんなゴリラが現れるかと思ってたら、タイプは違えど全員可愛かったので、ちょっと張り切ってしまった。

張り切り過ぎてゲロ吐かしておしっこまみれにしてしまいました。

反省。


「ヤバくなったら自分の命を優先してくれ。もうお前さんら全員、俺の大切な女になっちまった。死んで欲しくない」


「そんな相手なのかよ?」


ミカラの真剣さから、ドゥーベが不安そうな顔をする。

相手の力量がわからなくとも、それを測る目的も兼ねて一番槍として突っ込むのが彼女の仕事だ。

危険度は一番高い。


「いや、お前さんらにかけたバフは強力だ。並の魔物ごときじゃ負けやしない。だが、パニック起こした一般人守りながらじゃ、本来のスペックは発揮できねぇ。お前さんらの性格や性質は理解してるつもりだ。魔物に襲われてる母娘とかいたら、多少の無茶しても助けに行くだろ?それも見捨てろ。俺は見知らぬ母娘より、お前さんらの方が大切だ」


その話を聞いて皆微妙な顔をする。

助けに行きそうだ。

しかも全員。


「優先度は自分たちの安全第一、まずは命を守れ。余裕があったら魔物を倒せ。ついでに民衆も守れ、以上。これが俺からのオーダーだ」


「了解したよ、ボス」


ベネットが茶化すと、ミカラが嫌そうな顔をする。


「あ、あとそうだ。フェクダ」


大事な事を思い出した。


「な、なに?」


名前を呼ばれてフェクダの体がビクンとなる。


「お前さんにかけた治癒の事は、他言しないでくれ」


「わかってる」


フェクダが真剣な表情で頷く。

あのような力、持ってると知られたら狙われ利用されるに決まっている。

もしも彼女に力を使ったせいでミカラが窮地に陥ってしまったら、フェクダは今のこの綺麗な肉体を許せなくなってしまうだろう。


「恩着せがましくしたい訳じゃないんだが・・・」


それ以上言っていいものか、迷う。

しばしの逡巡の後・・・


「あれをやると、俺はしばらく弱くなる」


ふわっとした表現にしておく。

現実には相当まずい。

シェスタが死にかけた時に、聖女の力でなく眷属化による蘇生を選んだのもそれが理由だ。


(タルトを治した時はすぐに意識を失った。今回も少し間を置いたが結局眠っちまった。それだけでやばいし・・・さらには・・・ )


致命的な事態になりかねない。


「え!?」   


ベネットが驚く。


「な、なんで?わ、わたし・・・の、せい?」


フェクダに至っては泣きそうだ。

そんなハーフエルフをよしよしとなだめながらミカラが言う。


「お前さんは悪くない。な?笑ってくれよ?俺の可愛いフェクダ」


フェクダのほっぺを包んでにゅっと引っ張り無理矢理笑顔にする。


「もうっ!心配してるのにっ!」


胸板をポカポカされる。


(よし、誤魔化せたかな?)


これ以上は話せない。


(シェスタみたいな眷属化も毎回上手くいく訳じゃねぇし、光の治癒は俺のリスクがデカ過ぎる)


単純に死にたくないとかだけでなく、ミカラが死ねばミカラが大切に思う者たちも死んでいく。

死ぬ訳にはいかない。


「だが、これでわかるだろ?お前さんらの誰かが死にかけたら、俺はやっぱり迷わずアレをやる。で、そのたびに弱くなる訳だ。俺の敵ならまずは俺の女から叩く」


そこまで聞いて、1番頭の回るミルザが青褪め、次に気付いたベネットが思わず怒鳴る。


「あ、あんたバカかっ!?戦力増やしに来てっ!弱点増やすヤツがあるかよっ!?」


ベネットの言った通りだ。

目的と結果と、さらにそれによる影響がチグハグで無茶苦茶だ。

確かに愛されて嬉しいし、助けてもらった、救ってもらえた。

だがそれでミカラが危機に陥るのは採算が合わない。

いったい何を考えているのか。


「仕方無ぇだろ?だって、抱きたくなったんだもん」


むしろ清々しいほどに開き直る。

最初は本当にただの戦力増強だったのだが、みんなが・・・


「みんなが可愛いのが悪い。可愛い女を抱きたいと思うのは男として当然。抱いた女は守る。これ常識。だから、俺は悪くない」


急に駄々っ子のような事を言い出したミカラに7人が困惑する。


「な、なんだそりゃ?」 


「えへへ、可愛いだって・・・いてっ!」 


「バカっ!そんなので誤魔化されんなっ!」

 

わちゃわちゃしだした女7人の気持ちを代弁するかのように、ベネットが呆れた声で告げてくる。


「ミ、ミカラ、あんたリーダーや王様の器じゃぁないよ?」


英雄かも知れないが、将や王の器ではない、

上に立つ者は、時には配下を使い捨て、見捨てて使い潰して全体を活かし、絶対の目標を達成しなくてはならない。


(俺はヒートみてぇにゃできねぇよ)


聖騎士ヒートウッド・サンシーカーは、万を超える魔王討伐軍を組織し魔族領に攻め込み、そのほとんどを死に至らしめ・・・さらには自分の命すら使い捨てて、魔王を倒すための一手とした。

人間の枠を超えた超越者たちを、人の知恵と経験と、執念で滅ぼした真の英雄だ。

彼の事も惜しいと感じるし、共に戦った数知れぬ仲間たちも、死んでは欲しくなかった。

あんな采配はミカラには出来ない。

今のミカラの女たちを、誰一人失いたくはない。


「知ってるよ。俺だってやりたかぁないよ?」


だが、対抗できる駒が少な過ぎる。

ベネットたちは一応数倍は強く出来た。


「あとそうだな。能力値が上がっただけで強くなったとは言えないから、7人で模擬戦とかして使いこなせるようにしておけよ?」


不承不承と言った体で頷く7人に・・・


「総当たりで1番戦績の良かったヤツを、今夜1人だけ呼ぶ」


そう告げると、7人全員の目の色が変わったのだった。

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