第53話 ミカラの正妻一号、その名は・・・

ベネットはナッシュ家の長女として生まれた。

両親はなかなか子供が出来ず、ようやく授かった子供が男児でない事に落胆はしたが・・・ 娘を男のように育てる事で帳尻を合わせる。


「ベネットは頭もいいし、剣の才もある。ナッシュ家は安泰だな」


「家を継いで立派な領主になりなさいね」


「はい、お父様お母様。ベネットは必ずやお二人のご期待に応えてみせます」


・・・頑張っていたつもりだった。

家を継ぐための努力を怠る事はなかった。

貴族の子女が集まるお茶会や舞踏会に行かされる事は皆無で、馬術大会や剣術大会でその名を馳せた。

・・・ 少しは、ドレスとか着てみたかったが、自分に求められているものはそうではないと理解していた。


(私は両親の後を立派に継ぐんだ)


しかしその人生は唐突に、終わる。

母が妊娠し、その子が医者や魔術師、神官の見立てで男児と解った瞬間に。

剣や馬は取り上げられた。

少し憧れていたドレスは、着せられてみたらスースーするし、踵の高い靴は歩き難い。

お茶会の作法など解らず、恥しかかかず、令嬢たちに笑われる。

混乱しつつも、ベネットは親の期待に応えようと無理をした。

急な教育方針の転換に戸惑いつつも、これも家を継ぐために必要な事なのだと言い聞かせた。

自分を騙し続けたが・・・すぐに限界は来た。

弟が無事に生まれた、その時に。


「け、結婚?む、婿を取るのですか?」


自分が当主となるならば、家格の釣り合う家の次男や三男だろうか?


「何を馬鹿な事を言っている。お前のようなガサツな娘を嫁に迎え入れてくれるお優しい方だ。可愛がってもらいなさい」


家のため、両親のため、弟の・・・ため。

ベネットは父よりも年上の、脂ぎった高位貴族の男の元へ送り出される。

その初夜の時・・・


「男を産めば本妻にしてやる。せいぜい頑張れ」


夫となった男が酒臭い息と共に吐き出した言葉で、ベネットは完全に壊れた。

気づいたら、暖炉の火掻き棒で男を滅多打ちにしていた。

駆け込んできた護衛の騎士も、簡単に倒せた。

馬を奪って逃げたら、追っ手は簡単にまけた。

なんたる皮肉か。

両親の教えに従い鍛えに鍛えた剣術馬術が、ベネットを救ったのだ。

ベネットはそのまま戦地に飛び込み傭兵を始める。

傭兵となっても、それでも家名を捨てれない自分が嫌だった。

心の何処かで、両親が迎えに来てくれる事を夢見ていた。


(傭兵として名を馳せていれば、いつかきっと・・・迎えに来てくれる―――)


そんな事は有り得なかった。

ナッシュ家が取り潰され一家離散していた事は、大分後に知った。

ベネットが大貴族に大怪我を負わせたせいなのか・・・あの、見栄っ張りの両親が散財し過ぎたせいなのかはわからない。

今のベネットの密かな夢は、金を貯め名を上げ、ナッシュ家を再興する事になった。

この期に及んで家を捨てれない自分が、本当に嫌だったが、どうしようもなかった。


「そうか、辛かったな」


ベネットの過去を聞いたミカラが、ベネットの髪を優しく撫でながらキスをしてくれる。

そんなミカラを、ベネットが軽く睨む。


「・・・解ったような事を言わないで・・・お前なんかに・・・解られてたまるものか・・・」


ミカラに抱かれて、己の中の何人ものベネットが混ざり合うのを感じる。

領主となるために努力した自分。

貴族令嬢として振る舞おうとした自分。

荒くれ者の傭兵の女を演じていた自分。

・・・男に抱かれて恋心を抱く自分。


(くそっ・・・初めてを奪った相手に尽くそうだなんて・・・ そんな生娘みたいな・・・いやさっきまで生娘だったけどさ)


身体は許しても心は渡さない。

そう思っていたのに。


「ふふっ。まぁそれで男嫌いになったお陰で、ベネットちゃんの初めての男になれた訳だけど」


「お前・・・本当に最低だな」


そう思っても、もう身体はミカラに完全に支配されていた。

フェクダやメグレーズ、ミルザたちと比べれば大した過去ではないのかも知れない。

寄り添い共感し、慰めて欲しい訳でもなかったが、ベネットの独白を聞いての感想が処女ゴチでーすみたいなノリは如何なものか?


「いつか女に刺されて死ぬぞ?」


ミカラは優しかった。

嫌悪していた男女の営みは、痛みすら幸福感を与えてきた。

何度も抱かれていると、快楽が強まり、ハマッていく。

何より、男に愛されてるという本能的な歓喜はどうしようもない。

ミカラが自分を、自分たちを大切に抱いているのがわかる。

駆け出しの傭兵の頃、敵や味方から押し倒される事は何度もあった。

その時、なんとか切り抜け守ってきた貞操は・・・


(この男に抱かれるために守ってきた・・・なんて)


そんな風に考えてしまう自分が嫌になった。


「なんだよ?気持ち良くなかった?」


「そういう事じゃ・・・はぁ、もういいっ!」


ぷいっとそっぽを向く可愛らしい仕草をする女傭兵のリーダーを、ミカラが笑いながら抱き締める。


「ほんとに可愛いなベネットは」


「うぐっ」


可愛いと言われて悦んでしまう自分。

そんな風にじゃれ合っていると、ミルザがちょんちょんと肩を突っついてきた。


「姐御、もういいなら、代わって?」


少し膨らました頬としかめた眉。


(・・・ミルザの心を、いつか癒やしてあげて、感情や表情を取り戻してあげたかったのに・・・)


その役目はミカラに奪われたし、姐御に向ける視線は嫉妬の感情と来たもんだ。

やってられない。


「ミカラ、次は、ミカラの好きなように、して?」


頬を赤らめ微かに微笑むミルザ。

男が近寄っただけで『隠蔽』魔術で気配を消すような娘だったのに、今は自分こそがミカラを1番愛しているのだと主張するように、男が悦ぶだろう行為を必死にしている。


「嬉しいけど無理すんなよ?ゆっくりでいいからな?ミルザの好きにしていい」


「うん。わかった」


素直に頷いたミルザは、慣れない娼婦の真似事を止め、ミカラの胸に飛び込み頬を胸板にスリスリする。

その表情はとても幸せそうである。


(・・・ミカラは安心する、優しくて好き)


ミルザは肌を重ねるだけで満足出来た。

仲間たちとも距離を取っていたミルザは、人肌恋しく、スキンシップに飢えていた。


(ふっふっふ。コレよコレコレ)


ミカラが満足そうに頷く。


「私もいいかな?」


ミルザをヨシヨシしてると、メラクがその巨体でミカラを抱き締めてきた。

その大きな身体に見合った大きな胸で窒息しそうになるが、まったく問題ない。


(七人の女傭兵、ゲットだぜ!)


最初は全く心を開いてくれない女を、少しずつ解すように自分の女に変えていく。

自分の色に染め上げていく。

その過程が醍醐味なのだ。

それは娼婦とて同じ。

娼婦たちも、好きで身体を売っている者など少なく、ただ金を払っただけでは気持ちの良いサービスなど受けられない。

そこは腕の見せ所。

話をし、緊張を解き、笑わせ、時には過去を聞いてやり優しく抱き締め眠らせる。


(楽しいなぁ、最高)


高級娼館でのガッカリ感をなんとか払拭できた。

暗殺者ギルドのメンバーたちは、最初っから貴方のためなら命を捧げます狂信者モードなのだ。

性技にも長けており仕込む余地も無いし、ミカラに・・・ボスに抱かれるだけで光栄と思う従順な配下。

命じれば人殺しも躊躇無く行う美女美少女。

その洗練された女たちと比べ、目の前にいる七人はお世辞にも上手いとは言えないが、とにかく可愛い。

ミカラに完全に心を許し、無防備に甘えてくる。


(このクランは、俺専用の娼館にしよっと)


ただ彼女たちはプロの娼婦でなくあくまで素人なので、対応は丁寧にしないといけない。

下手を打てば、七人全員に刺されたり、クランメンバー同士で争って分裂崩壊も有り得る。

平等に別け隔てなく愛さないといけない。

そんな時・・・


(・・・眠気が。くそ、やっぱ反動来たな・・・)


「ミカラ?」


ミルザがミカラの頭を抱き締めてくれている。

ぐったりとして、体に力が入らない。

意識的に使ってこなかった聖女の癒やしの力を、フルに使ってフェクダを癒やした反動だ。

魔力のロスも激しく、体力の消耗が激しい。


「ああ、くそ。もっと楽しみたい・・・のに・・・」


重くなった瞼を必死に開こうとするが、結局そのまま意識を失う。


「あれ?寝ちゃった?」


ミルザが少し戸惑う。


「・・・ヤり過ぎたんだろ」


「いや多分、フェクダを・・・」 


「だな」


あの聖女のような力を何故ミカラが使えるのかは知らない。

だが、あの直後に相当消耗していたのは全員が見ている。

その後メグレーズも癒やした上で、何度も女を抱いてるのは驚異のスタミナではあるのだが、とうとう限界が来たらしい。


「私のせいだね。じゃあ、私が責任取らないとだね」


ミルザからミカラを奪い取ったフェクダが、絶対に離さないというようにミカラの頭を抱き締める。

この再生された乳房も、ナイフや鞭の跡が嘘みたいに消えた腕も、ミカラを抱き締めるためにあるのだ。


「いやそりゃずるいってフェクダ」


「私がミカラを抱き締めてやるからどいてな」


「なによアンタ、自分ばっか気持ち良くなっててミカラの事悦ばせてないじゃない」


「お前がそれ言うか?」


ミカラを巡って醜い女の争いを始めた妹分たちを眺めながら、ベネットが零す。


「男なんて・・・やっぱりわからないな」


フェクダの胸に抱かれて眠る男を見つめる。

愛しいのか憎らしいのかわからない。

突然やってきて、ベネットの自信やら価値観やらを破壊しまくり、自分の我を押し通してきた。


(どう考えても、英雄の類だよね?)


歴史にたまに現れる、英雄。

超常的なまでの強さを誇り、そして色を好む。

女神教は否定派肯定派に分かれているが、かの初代聖女も、相当な数の男を食ってきた伝説が残っている。

ミカラの話を思い出すが、王都が戦火にまかれる心配など無いのではないだろうか?

老婆心な気がする。

ミカラ1人いればなんとでもなりそうだ。


(ミカラ、アンタには何の不安も恐怖もないんだろうね?)


ベネットは男が怖かった。

そして今は、ミカラを失う事が怖い。

そんな風にされてしまった我が身を呪う。

すると、妹分たちに変化があった。

 

「どうしたのミカラ」


「大丈夫?」


心配そうな妹分たちの声を聞いて、ベネットがミカラの顔を覗き込む。


「・・・え?うなされてる?」


ミカラが瞑ったままの目をしかめ、唸っている。

苦しそうに歯を食いしばり、脂汗まで流してる。

ヤり過ぎで死にかけてるとも思えない。

この男がうなされるなど、いったいどんな悪夢なのだろう。


「ずるいヤツ・・・寝てる時もアタシらを誘惑するのかい?」


ミカラを取り巻く妹分たちは皆、心の底からミカラを想い、心配している。

ベネットの胸も切なさで占められ、ミカラの頭を・・・フェクダやメラクを押し退けどかして、強引に奪ってからかき抱く。


「大丈夫。アンタにはこのアタシがついてるんだ。しっかりしな」


フェクダやメラク、他の妹分たちの抗議の声を無視して、ベネットがミカラを優しく抱き締めた。












「この大陸の西の果てに・・・魔王が居るのか」


ミカラがぽつりと零す。

勇者暗殺失敗からアヴェラの性奴隷となって大分経つ。

東の大陸より大船団を組んで海を渡ってきた。

中心である少数の勇者パーティーはともかく、勇者軍全員を転送門で移動するのは無理だからだ。

ここは魔術国家ユグドラシル国立学園。

勇者パーティーの強化のために立ち寄っている。

勇者の強化、ではない。

アヴェラは放っといても最強になる。

討伐軍の志願兵たちの強化が必要なのだ。

世界の危機を、みんなの心をひとつにして―――みたいなお題目を掲げてしまったために、有象無象が集まり過ぎた。

一応ふるいにはかけており、多少見込みのある者や、在野に埋もれていた傑物などは確保している。

その原石たちを鍛えたり装備を揃えるためである。

東大陸の魔術師ギルド総本部からも大量の参戦者がおり、対抗する訳ではないだろうが、魔術学園からも有力な生徒や講師が戦列に加わるらしい。


「魔術師、か」


ミカラが己の手を見つめる。

6属性は一応操れるし、身体強化、他者へのバフ・デバフ、治癒や浄化も扱える。

並の人間や魔物相手に遅れは取らないだろうが・・・


(力不足、だな。僕自身が足手まといになりかねない)


アヴェラがミカラに夢中なのは暗黙の事実となっている。

勇者を倒すなら、まずはミカラを狙ってくるのは確実だ。


「強く・・・なりたい」


そう言って拳を握り締める。

勇者様・・・は、まぁ大丈夫として、ちょっと言動が妖しくなってきた聖女様や、最近出来た妹とかは、彼が守ってやらねばなるまい。

そうミカラが決意していると・・・


「くすんくすん」


小さな子の泣き声が聞こえてきた。

ミカラがその声の元へ向かう。

生まれ育ちのせいか、小さい子が泣いていると放っておけない。


「君、どうしたの?」


膝を曲げて目線を合わせる。

魔術師だ。

魔術師の格好はしている。

長いローブに杖、それとトンガリ帽子。

しかして、その姿はちっちゃく、一人前の魔術師には到底見えない。


(魔術学園は才能のある子供を留学生として迎え入れてると聞く。親元から遠く離れてホームシックになったのかな?)


親の居ないミカラにはよくわからない感覚だが、女の子が泣いてるのを無視は出来ない。


「ほら、泣かないで?可愛い顔が台無しだよ?」


ミカラが安心させるように微笑み話しかけると、その幼女魔術師がチラリと盗み見てくる。


「僕はミカラ。勇者パーティーの一員さ。まぁ見習い扱いだけどね」


年齢的に冒険者登録もできないが、あまり名前や足跡を残したくないので都合が良いとも言える。


「何か困りごとかい?」


解決出来るかはわからないが、元気づけたりは出来るかも知れない。


「・・・勇者パーティーに、参加しちゃ駄目って、言われたんです・・・」


幼い見た目の割に、しっかりと受け答えする幼女にミカラは少し驚く。


(さすが魔術師の卵。頭も良いんだろうな・・・あとホームシックとか失礼な事考えたな。この娘は勇者とともに魔王と戦うつもりだったのか・・・)


蛮勇かも知れないが、その心意気に敬意を表する。


「わかるよ、その気持ち。僕も、もっと力があればって、思うもの・・・」


アヴェラは過保護過ぎて、危険な役目をミカラには絶対にやらせない。

戦闘時は、常に側に居てミカラを守っている。

その自分の立ち位置が、歯がゆくて仕方無い。

幼女魔術師が小首を傾げて、舌っ足らずな言の葉を紡ぐ。


「ミカラは、強くなりたいです?」


子供相手に何をムキになっているのだろう。


「ああ、どんな事をしても、僕は強くなりたい」


そう真っ直ぐに幼女に語る。


「・・・どんな事を、しても?」


幼女の瞳が妖しく光る。


「・・・アヴェラとリューが言っていたのはこの子の事ですか・・・」


「ん?何か言った?」


幼女が何かを呟いた気がした。


「ううん、なんでもないです」


そう言って笑った女の子は、もう泣いていなかった。


「ねえミカラ、私が強くなる魔術をかけてあげましょうか?」


くるりと回った彼女のローブが、花開いたようにフワリと舞う。


「へえ、そんなの出来るの?凄いね。お願いしてみようかな」


ミカラが大袈裟に驚いた仕草をしてやり、褒めてあげる。

バフ魔術の類であろうか?

幼女がその妖しく光る瞳で、ミカラの瞳を覗き込んでくる。

なんだかその目を見つめていると不思議な気分になってきて―――


「あれ?」


次に気付いた時、ミカラは見知らぬ天井を見上げていた。


「なんだ?何処だここは?」


記憶が飛んでいる。

身体が思うように動かない。


「き、君の仕業か?」


目の前にいる幼女・・・の姿をした何者かに、問いかける。

ミカラは今仰向けに寝かされており、その上に先程の幼女魔術師が跨っている。

ミカラを見下ろす幼女がにっこりと微笑み、自己紹介してくる。


「ご挨拶が遅れましたね、ミカラ・デタサービ。私はこの魔術国家ユグドラシル国立学園学長、フレイヤ・ヴァルプルギスと申します」


「ユグドラシルの・・・学長っ!?」


魔術国家ユグドラシルはその名の通り、大樹ユグドラシルを中心に回っている。

国王や王侯貴族が居るには居るが形骸化しており、真に権力を持つのは魔術学園であり、その頂点に位置する学長こそがこの国の支配者だ。

学長の姿は千差万別な噂のみ。

髭が何メートルもある老人だとか、実はドラゴンだとか、エルフや魔族とか、諸説ありまくりで正体が掴めない。

名前ももちろん非公表である。

その学長がまさか・・・


「不老不死の魔女っ!フレイヤ・ヴァルプルギスっ!」


ミカラの背を冷や汗が伝う。

生ける伝説とも言われる魔女である。

その正体を知る者は居ないとされている。

かつての暗殺者ギルドも、フレイヤの暗殺依頼は受け付けていなかった。

・・・ 勇者の暗殺依頼も拒否して欲しかったけど。


(まさか伝説の魔女が学校運営してるとかっ!捻りが無さ過ぎるぞっ!くそっ!何をされてるかサッパリわからねぇっ!)


身動きを封じる魔術式の構造が解らなければ突破は無理だ。

無言の抵抗を続けるミカラの上に居るフレイヤが、一枚一枚衣服を脱ぎ始める。

ローブを脱ぎ、ブラウスを脱ぎ、肌着を脱ぎ、下着を脱ぐ。

自分が裸になった後、驚いているミカラに悪戯っぽい笑みを向ける。


「あらあら?ミカラは自分で脱ぎ脱ぎできませんか?しょうがないですね〜」


小さい子をあやすようなセリフを吐きながらフレイヤが指を振ると、ミカラの衣服がするするとひとりでに脱げる。


「・・・ どういうつもりだ?まさか―――」


(僕に手を出せばアヴェラが飛んでくるぞ?)


あのフレイヤでも、さすがに勇者を倒せるとは思えない。

魔女は舌舐めずりをして、ミカラの身体に己の身体を重ねてくる。


「本当はこんな事はしたくありませんが・・・」


「なら、やめてくれっ!」


そう言うミカラに首を横に振るフレイヤ。


「アヴェラとリューから頼まれたのです。ミカラという少年が死なないよう、強くして欲しい・・・と」


「いや、それ普通、修行とかマジックアイテムとかくれるヤツじゃ・・・」


フレイヤはにっこり笑って否定する。


「これが、私が出来る最大級の強化魔術です。お覚悟を」


(あんの脳筋勇者と色ボケ聖女っ!余計な事しやがって!!!)


「ふふふ、あの勇者と聖女を同時に堕としたその手腕、存分に振るってくださいな?」


「ぐむっ!」


ミカラの唇をフレイヤが奪い、舌で蹂躙していく。


「ぷはっ・・・はぁ〜〜〜・・・私の力を、魔力を、魔術式を・・・大樹ユグドラシルの加護を、貴方へ与えましょう。代わりに・・・」


見た目幼女が、そのちっちゃい掌でミカラのモノを包むと、不思議な事に精力がみなぎってくる。


(せ、性魔術っ!?サキュバスじゃあるまいしっ!)


己の意思に反して元気いっぱいな分身をなんとかしたいがどうにもならない。


「・・・ミカラの子を、産ませてください」


「な、何を言って・・・」


突然に過ぎる。


「ああ、大丈夫ですから。こんなナリですがちゃんと赤ちゃん身籠れますのでご心配なく」


「そ、そうじゃないっ!うぐっ!」


フレイヤが腰を落とし、ミカラを飲み込んでいく。


「うぅっ!コレが、破瓜の痛み・・・」


フレイヤに刻まれた魔術式がオートでその苦痛を消し去ろうとするが、それをフレイヤは抑え込む。


(ミカラとの、営みを・・・無かった事に、など、させませんっ!)


痛覚を刺激されるなどそれこそ何十年ぶりの感覚か。

涙をポロポロ零しながらも、身体が引き裂かれるような喪失の痛みに耐えて・・・いや、それを堪能する。

そのフレイヤの反応にミカラが気づく。


(まさか・・・まさか、伝説の魔女が処女?)


「フレイヤ、お前・・・ くおっ!」


痛みに耐えて涙を流す見た目幼女に動揺したミカラが、気を抜いた一瞬の隙を突かれ一気に締め付けられる。


「ぐおっ!ちょっ、待っ―――」


そのまま限界まで絞り取られ、死すら覚悟する。


「ああっ!ミカラ、凄いですっ!」


恍惚な表情でよだれを垂らすフレイヤが、びくびくと身体を震わせながら、ミカラの体にぐったりともたれかかってくる。


(く・・・最強の魔術師ってのも、ホラじゃないな。アヴェラ以来だよ。無理矢理されて、しかも死にかけるの・・・)


ミカラは自分に跨るフレイアを恨みがましく睨む。

酷い目に遭った。


「はぁ、はぁ・・・あら?不本意な視線ですね。この私の初めてを奪い、さらには私の魔術師としての適性も奪ったくせに」


「いや貞操奪われたの僕なんだけど?あとこんな手段だと知ってたら断ってたよ」


(いや、アヴェラとリューセリアから話がいった時点で詰んでた、か・・・)


そう思いつつも、ミカラは己の中に強大な魔力が宿っているのを感じる。


(なんだ?身体の奥・・・魂とでも言うべきナニカと何かが、繋がっている?)


そのミカラの様子を見て満足そうに魔女が微笑む。

自分の掌とミカラの掌を合わせて指を絡ませてくる。


「うふふ。貴方と私は、大樹ユグドラシルによって夫婦の契りを結びました。樹前式?とでも言えばよいですかね。いいですね、流行らせましょう」 


結婚式と言えばもっぱら女神教が幅を利かせているが、ここはユグドラシルを御神木と崇める魔術国家なのだ。


(結婚出産なんて縁の無い話、まるで興味が無かったのですが・・・いいですね)


こうして可愛い夫もゲット出来た事だし、樹前式を流行らせ、国民みんなで愛を分かち合おう。

フレイヤがニマニマしながらそんな事を考えていると・・・


「は?夫婦?」


フレイヤの言った聞き捨てならぬ単語を拾ったミカラが、呆けた表情をしていた。

そのミカラに優しく口づけし、魔女が囁く。


「私達2人の婚姻届は大樹ユグドラシルに刻み込まれました。離婚するなら、ユグドラシルを切り倒すしかありませんよ?離婚するなら戦争です」


まるで恋人同士が木の幹に2人の名前をナイフで刻みつけるみたいな・・・そんな感覚で大樹ユグドラシルに名前を刻んだのだろう。


(待て待て待て待て。夫婦?婚姻届?えーと、今日のお昼ご飯何にしようかな?)


ミカラが現実逃避し始める。

そんな事はお構い無しにフレイヤが話を続ける。


「私を通して、ミカラにはユグドラシルの大量の魔力が供給され続けます。私が戸籍主、世帯主みたいなものなので、私ほど力は引き出せないでしょうけどね」


「・・・この感覚は、それか・・・」


フレイヤの魔術式も刻んだと言っていた。

オリジナルほど使いこなせないとは思うが、あの伝説の魔女の御業を使えるのは、かなりのパワーアップになる。

確かに力は欲しかった。

簡単に手に入ったとも、言える?

言えるのかなぁ?

ミカラは腑に落ちないままで、フレイヤを優しく抱きしめる。

圧倒的な力で襲ってきた相手とはいえ、初めてを散らしてしまった女だ。

情が湧く、大切に思う気持ちが湧いてしまう。


「ふふ、嬉しい。これで私も、ミカラの女ですね」


フレイヤは見た目に似つかわしくない艶然とした笑みを浮かべ、さらにミカラを貪ろうとする。


「・・・今度は、ちゃんと抱かせてくれよ?」


そうミカラが言うと・・・


「わかりました」


フレイヤが頷き、身体の自由が戻った。

直ぐさま身体の位置を上下入れ替える。


「あら?大胆」


押し倒されたフレイヤが目をまんまるにしている。


「やかましい。どの口が言いやがる。僕は、女に上に乗られるの嫌いなんだよ」


そう言いながら、ミカラがフレイヤの小さな身体に覆いかぶさった時―――


ドッカアアアアアアアンッ!


フレイアが厳重に何十にも結界を張っておいた秘密の小部屋の扉を、何者かが蹴り開けた。


「・・・お前さん、いったいどういうつもりだ?」


襲ってきた高位魔族すら笑いながら引き千切って滅ぼす勇者が・・・ 見たこともない憤怒の形相をしてミカラに押し倒されているフレイアを睨んでいる。


「フレイア師・・・ それは、それは駄目です。それだけは駄目なんです」


聖女リューセリアが光輝く手をかざしながら、ぶつぶつと呟き、幽鬼のようにゆらゆらと揺れている。


「私より見た目小さいくせに・・・よくも、お兄ちゃんを奪ったな・・・」


暗殺妹アイファが、毒塗りのナイフを片手に4本ずつ計8本持って、腰を低くして構えている。


「ミカラくんが私との将来をきちんと考えてくれないから・・・こんな事になるんですよ?ああ、そう、そういう事なの?そうよね?いきなり妹を作ってきちゃうくらいだもんね?ミカラくんは、そっち側なんだ・・・」


リューセリアがその自身の大きな胸を両手で握り潰している。

ミカラが妹として可愛がっているアイファも、今まさにミカラと愛し合っている魔女も、まさにぺったんこだ。

嫌な記憶を思い出す。

処女信仰、幼女信仰の根強い土地を訪れた際に・・・そんな胸の聖女がいるか!と、理不尽な物言いとともに石を投げつけられた。

持たざる者が持つ者に憧れるように、持つ者もまた持たざる者への憧憬を持つ事になるのだ。


「あら?夫婦の初夜を邪魔するなんて、なんて無粋な方たちですこと。ねぇ?あなた?」


そのセリフに、3人の動きがピタリと止まる。


「「「夫婦?」」」


3人の声がハモる。


「先程ミカラと夫婦の契りを交わしました。大樹ユグドラシルに、私とミカラの魔力パターン生体パターンをパートナーとして登録しました。これは、人間の法として記録される婚姻届けなどよりももっと崇高なものです。人間の婚姻届けなんて、国が滅べば消えてしまいます。偽装も可能です。ですが・・・大樹ユグドラシルに嘘偽りは刻めない。大樹ある限り、未来永劫、私とミカラは夫婦です」


その言葉を聞き・・・

勇者が拳を握り締める。

聖女が懐から刃物を取り出す。

暗殺妹が強化魔術で身体能力をブーストする。


「結婚したのか、私以外の女と」

「結婚したのね、私以外の女と」

「結婚したんだね、私以外の女と」


再びハモる3人。

フレイアはミカラの体の下から抜け出し立ち上がると、余裕たっぷりに3人を挑発する。 


「早い者勝ちです。諦めてください。そもそも貴女たちですよね?私にミカラを強くして欲しいと願ったのは。魔女との取引には気をつけないといけませんよ?高い勉強代になりましたね」


最強の魔術師が、夫を守るべく大樹ユグドラシルから魔力の供給を始める。

脱ぎ捨てていた衣服が、一瞬で主の身を守るように包み込む。

なんの変哲も無いように見える木の杖は、大樹ユグドラシルの枝である。

滅びの枝・・・ レーヴァテイン。

フレイヤの主力兵装である。


「こんのロリババア。魔王の前にてめぇから仕留めてやるよ」


勇者がその能力のリミッターを解除していく。


(嘘でしょヤメテ。そのリミッター解除した身体で僕を抱くの?いや死ぬから普通に)


「ミカラくん・・・あなたの後は、すぐ追いますから・・・」 


(カチャカチャ鳴らしてるその刃物・・・教会が隠匿してるアーティスト級の神器だよね?人に向けちゃ駄目なヤツよね?聖女様?)


「お兄ちゃん、そんな偽物より、本物の年下の妹がいるよ?お兄ちゃんの妹だよ?兄妹なら愛し合って問題無いんだよ?」


(いやお前も本物じゃねーだろ。あと問題しかねーよ)


ミカラが色々言いたい事を飲み込み、両手を広げてストップをかける。


「待て。話し合おうアヴェラ、リューセリア、アイファ。そして僕は結婚はしていない」


ユグドラシルに刻まれたとか知らない。

知らないもん。


「いいえ、貴方はもう私の夫です。地の果てまで逃げても逃がしませんよ?ミカラ。さぁ、子供を作りましょう。あなたの子供が早く欲しいです。私に可愛い赤ちゃんを産ませてください・・・」


そう言って、ミカラの正妻一号がミカラにキスをして・・・


勇者&聖女&暗殺妹 対 不老不死の魔女


・・・による戦いの火蓋が、切って落とされたのであった。



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