第6.6話 巨乳女占い師タルト

ミカラが表通りをぷらぷらと歩く。


「占い〜」


ふと足を止める。


「占いは要らんかね〜?」


怪しい占い師がいる。

青白い肌に巨大な胸、それを強調する、ゆったりとしながらも胸の谷間やらふとももやらが丸見えの露出度の高い服。

目の前のテーブルには大きな水晶玉にカードの束などがある。

コッテコテの辻占い師だ。

呼び込みのつもりなのか、くねくねと中途半端な妖しい踊りをするたんびに、デカい乳がぷるんぷるん揺れている。

がばりと大きく開いた胸元から、今にも零れ落ちそうだ。


(この女、でかい―――じゃなくて)


何か違和感を感じる。

なんだろうか。

無言でデカ乳を睨んでいると、デカ乳占い師がミカラに対して眠そうな笑顔で話しかけてくる。


「やぁ〜やぁ〜そこ行く色男のお兄さん〜?占いは要らんかね〜?安くしとくよ〜?」


ちょいちょいと手招きしてくる怪しい女占い師。


「いや、別にいいや」


ミカラが乳から目を離し、その場からも離れようとした時・・・


「おい!てめぇの言う通りにしたのに、本当に悪い事起きたじゃねぇか!このインチキ女がっ!」


男が1人怒鳴り込んできた。

占い師は眠そうな顔で薄く笑いながら男に言う。


「ありゃりゃ〜?頑張ったのに不幸な未来から逃げられなかったか〜。残〜念〜・・・諦めて?」


女占い師が小首を傾げながら言うと、男が激昂する。


「ふざけんなてめぇ!ぶっ殺してやるっ!」


男がテーブルを蹴りつけると、占い用のカードがバラバラこぼれ、水晶玉が地面に落ちて割れる。


「おっと兄さん?物騒だな。相手は女だぜ?」


何人か立ち止まり野次馬ができるが、助けようとする者までは現れない。

ミカラは仕方無く占い師の前に立ち塞がる。


「ああ〜商売道具がぁ〜〜〜」


女占い師は砕けた水晶玉を見つめて残念そうにしている。


「んだてめぇはっ!?この詐欺師の仲間かっ!?」


(どうする?この女がマジで詐欺かなんかしでかしてたら、庇うのはまずいし・・・)


ミカラが興奮する男を前に、どうしたもんかと考えあぐねていると・・・


「見つけたぞっ!このクソ占い師っ!」


「言う通りにしたのに大損こいたぞっ!」


「アンタのせいで彼に捨てられて夫にもバレたっ!アンタ殺して私も死んでやるっ!」


野次馬たちをかき分けて、なんか色々出てきた。

みんな目を血走らせ、女占い師に詰め寄ってくる。


「おいおいおいおいなんだこりゃ?」


さすがのミカラも呆れた。

美女だからと咄嗟に庇ったのは失敗だったかも知れない。

女占い師はすすすとミカラの背後に隠れると、その大きな乳をミカラに押し付けてくる。

柔らかくも弾力のある感触が、ミカラの判断は間違っていないと教えてくれる。


「いやぁ〜なんだか恨みを買っててさ〜匿っておくれよ〜」


「わかった、任せろ」


ミカラは占い師をお姫様抱っこすると、すたこら逃げ出す。

盗賊の本分は逃げる事。

人混みをひょいひょい躱して走り抜ける。


「逃げたぞっ!」


「追えっ!」


「くそっ!邪魔だっ!」


「てめぇこそどけっ!」


占い師に詰め寄ってた連中は、我先にと走り出したため、お互いぶつかり思うように進めていない。

ミカラはこれ見よがしに手を振り、煽る。


「みなさん、さいなら〜。これからは怪しい占いに頼らず真っ当に生きてな〜?」


そう言い捨てて路地裏に入った瞬間、ミカラは壁を三角飛びを繰り返して駆け上がる。

建物の屋根の上へと身を伏せ隠れると、眼下をコッソリと見下ろす。


「待てやぁっ!金返せぇっ!」


「私の幸せを返してぇぇぇっ!!!」


「その身体で詫び入れろやぁっ!」


「奴隷商に売っ払ってやるぁああああっ!」


狭い路地裏を走り抜けて行く追手たちを、ミカラは呆れて見送る。


「お前さん、いったい何やらかしたんだよ?」


女占い師はニヘラと笑う。


「別にぃ〜普通に占いしただけだよ〜?あ〜私タルト〜。よろしくね〜、何度も助けてくれてありがとぉ〜」


女占い師タルトの間延びした声を聞きながら、ミカラはふと疑問に思う。


(何度も?・・・ああ、さっきのと今の、別カウントか)


ミカラが最初の男の前にしゃしゃり出なければ、タルトは怒りに任せて殴られていたかも知れない。


「俺はミカラだ」










「私さ〜占いは、悪い事ばかり当たるんだよね〜」


タルトの衣装はとにかく目立つので、ミカラは服屋で買い替えさせた。

今はあの妖しい占い師スタイルでなく、何処にでも居そうな町娘の姿だ。

ただ、乳がデカくて目立つ。

ミカラでなくとも、この乳を目印に追手が気づくかも知れない。


「でねぇ〜そういう占いしたらさ?みんな、悪い結果にならないように努力するじゃ〜ん?」


「そうかね」


ミカラは適当に相槌を打つ。

成り行きで巻き込まれて安請け合いしてしまったが、1度守ると決めた以上、この乳女は守ると誓った。

・・・守ったらその乳を好きに出来るかも知れないし。


「どんな理由にせよ、か弱い乙女を守るのが男ってもんさ?お嬢さん?」


ミカラがキザったらしく言うと、タルトは豊かな胸の片方をよいしょと持ち上げる。


「ありがとぉ〜よかったら揉むかい〜?今渡せる謝礼ってこの体くらいだからさ〜」


「バーカ、もっと自分大事にしろ」


ミカラは一瞬ぐらつくが、タルトの頭をポカリと軽く叩くと、タルトが不満気に告げてくる。


「ええ〜私魅力無いかな〜?おかしいな〜ミカラはおっきなおっぱい大好きでしょ?私知ってるもんね〜。あ、そうだ〜ちょっと吸ってみる?」


(この女天然か?よく今まで無事に生きてこれたな・・・ )


無言でタルトの額をズビシと指で弾くと―――痛ぁい〜なにするの〜?―――とか間延びした声でぷるぷる震えている。

女慣れしてるミカラでさえ、この乳女の謎のフェロモンにやられかけている。

好色な有力貴族の目にでも止まったら、拉致され幽閉され妾として囲われてしまうだろう。

もしくは奴隷商人に誘拐されるかだ。


(んー俺もしばらくご無沙汰だしなぁ)


この前一緒に寝起きしていた女が、急に結婚を仄めかしてきたのでミカラは逃げ出した。

足がつくのを恐れ娼館に行くのも控えていたため、最近女を抱いてない。

そのせいもあるだろう。


(だが、なんかこの女見覚えあるんだよな〜?)


顔はともかく、このデカ乳は相当インパクトがある。

忘れたくても忘れられないだろう。


「・・・あ〜〜〜・・・」


「ん?どうした?」


変な声出して急に立ち止まったタルトに、ミカラが声をかける。


「まずいかも〜〜〜う〜〜〜ん」


なんか唸ってる。

そして・・・


「ミカラってさ〜〜〜強い、よね?」

 









「魔物だぁ?この前騎士団が大量発生した魔物の群れを片付けたとこだぞ?冒険者ギルドからしばらく魔物の発生は無いだろうってお墨付きだ。だから衛兵の大半も溜まってた有休を消化してる」


町の警備隊に、タルトが占ったという情報をミカラが伝える。

タルトの占いだとか言っても相手にされないので、ミカラが冒険者的勘で魔物襲撃の兆候を捉えた・・・という事にした。


「あいにくと俺は仕事だがな。オマエらみたいなふざけた連中の相手をするために休み無しだよ。この町の主力の冒険者も外へ出稼ぎに出てる。強い魔物なんて出た日にゃこの町はおしまいだな。この話もおしまいだ。さぁ、帰れ帰れ」


警備兵は手をシッシッと振ってミカラを追い払う。

溜め息を吐いてミカラが、壁の陰に隠れているタルトの元へ戻る。

実際は悪い占い結果が当たっただけだとしても、それをタルトのせいだと信じた連中がたくさんいる。

そのうちの誰かが衛兵の詰め所に駆け込んでいたら、ややこしい事になるのは間違いない。


「どうだった〜?」


「駄目だ、信じてくんねぇ」


「ですよね〜〜〜たはは」


タルトが力無く笑う。

彼女は本気で、悪い占い結果さえ示せば相手は努力すると信じているのだろうか?

性善説派だとしても無闇に信じ過ぎるのもどうかと思う。


「人間なんて都合の悪い事は他人のせいにするもんさ。お前さんのやってる事は、むしろ他人が反省する機会を奪ってるぞ?」


タルトの才能を否定したくはないが、このまま誰かに逆恨みされ、それで命を失う事になったら本末転倒だ。

ミカラのその言葉を受けて、タルトはミカラの瞳をじっと見つめてくる。


「そんな事無いよ〜?昔さ〜とある人間に言ったのさ〜。君には悪い未来しか見えないから早く諦めて楽になれってね〜。そしたらどうしたと思う〜?凄いよ〜その子〜」


タルトが青白く眠そうな頬を朱に染め、遠い目をする。


「私が見た占い結果を、全部覆しちゃったんだよ〜!死ぬはずだった人を助けたり〜倒せないはずの相手を倒したりね〜。で、その子は私も助けてくれたのさ〜」


そこでタルトはキリッと顔を真剣なものにすると・・・


「お前さんの見る不幸は俺が全部ぶっ壊してやる・・・てね~。きゃ〜カッコいい〜〜〜」


ミカラはタルトの一人芝居を冷めた目で見ている。


「そんなキザなセリフ言うヤツ居るかぁ?居たとしたら相当な自信家か、お前さんの胸が目当ての女好きだけだろ」


タルトは真顔に戻ると、ジッとミカラを見つめる。


「ん?なんだ?」


「なんでもな〜い。あ〜〜着いたよ〜」


「ここか?」 


ミカラとタルトは、町の門の側へとやってきた。

衛兵の詰め所はあるが、彼らは通行人に怪しい者がいないかチェックしてるだけだ。

魔物への対処など出来ないだろう。

しばらくして・・・


「にっ!逃げろっ!魔物だっ!大型のっ!」


街道の向こうから、馬車を走らせた商隊が駆け込んで来る。


「閉めろっ!早く門をっ!」


急かす商人に新人の門番がおろおろと応える。


「そ、そんな事言っても、まだ通行人が・・・」


町の門の外にはまだまだ通行人がたくさん居る。

今門を閉じれば、大型の魔物の町への侵入は防げるだろう。

しかし、まだ町に入っていない人間は見殺しだ。

新人の衛兵にはそんな責任を負える立場は無い。


「いかん!来たっ!逃げろっ!」


商人は馬車に乗り込むとさらに走り出した。

このまま町を突っ切り逃げる算段だろう。

この門の反対側にも門がある。

門が閉めれないなら町を通過してしまえばいい。


「うお、アレか」


ミカラもそれに気づく。


ギャオオオオオオオッ!


サウルス系の魔物だ。

ドラゴンと混同されがちだが、ドラゴンは知能が高く魔術も使う。

サウルスの咆哮は威嚇効果はあっても魔術的作用は無いし、あのトカゲたちは頭もあまりよろしくない。

低級の魔物と言っても良い。

しかし・・・


「なんだあの数は?」


ドラゴン1匹でもこの町は滅ぼされていただろう。

サウルス1匹なら難無く倒せるだろう。

だが、10匹以上ものサウルスには対処できるかどうか・・・。


「ミカラ〜!」


タルトが指差す。

咆哮によりサウルスに気づいた通行人たちが、慌てて町へと向かって走り出していた。

その通行人たちを、サウルスの一匹が狙って大きな口を開いている。


「ちっ!」


ミカラは肉体を強化し走り抜ける。


「そりゃっ!」


一撃必殺の暗殺のスキル。

強化したナイフがサウルスの首の動脈を切断する。


「1匹!」


次は行商人の背中の荷物に食らいついていた一匹の足首を切断する。

これでもう走れまい。


「2匹っ!」


ミカラはたった1人でサウルス相手に獅子奮迅の活躍をする。


(くそぉ、こんなの盗賊職の戦い方じゃねぇよぉ)


しかもただ働きだ。

そして、タルトの境遇も少し理解する。


(旅人を突然襲うサウルスの群れ、それをたまたま居合わせた盗賊職と占い師が倒す・・・詐欺師だってもう少しまともな嘘を吐くか)


これだと、全て解決できても自演自作を疑われる。

失敗したら恨まれ、成功しても疑われる。


(なんちゅー貧乏くじな能力だよっ!)


タルトのあの能力は魔術と言うより、体質、異能に近いだろう。


「―――あのバカっ!」


そのタルトはというと、早くもない足をちょこちょこ動かし、ミカラの守備範囲外へと駆けて行く。


「きゃっ!」


若い母親と幼い娘の二人連れの旅人が、一緒くたに転ぶ。

タルトはその母娘の上に覆いかぶさり―――


「あぐっ!」


サウルスの鋭い爪がその柔らかな背中をえぐった。









「このっ!バカがっ!!!」


ミカラはタルトを抱えて泊まっていた宿屋へ戻ってきた。

あの後、目にも取らなぬスピードで残りの魔物を片付けた。

お礼をしようとする母娘や事情を聞こうとする警備兵、タルトの傷を見て首を横に振る治癒術師を無視し、大急ぎで帰還した。


「ごめ・・・ね〜・・・じぶ・・・のことは・・・見えな・・・」 


「うるせぇ。気が散る」


ミカラはタルトを黙らせ服を脱がす。

爪痕は背中をえぐり、骨まで見えていた。

内臓にも達しているだろう。

薬草、ポーション、治癒術じゃ間に合わない。

これを癒せるレベルの高位の神官を探し出してる暇も無い。

血も大分失っている。

時間が無い。


(出し惜しみ無しだ。絶対に助ける。『▲▲』適性―――)


ミカラが隠している奥の手を残らず駆使して傷を癒やす。

しばらくして・・・


「―――――はぁっ!はぁっ・・・は〜〜傷は塞がったぞ」


背中に酷い傷跡は残っているが、峠は越えた。

しかし・・・


(生命力・・・魔力がもう残ってねぇだと?これは攻撃受ける前からだな。寿命にしちゃ若過ぎる・・・いや、今はそんな場合じゃねぇか )


「タルト、今からお前さんを抱くぞ。いいな?」


(『▲▲』適性での治癒はここらが限界だ。『●●』適性も恐らく上手くいかん)


ミカラが自分の服も脱ぎ捨てタルトに背後から覆いかぶさる。


「おや、おや〜・・・死ぬ前に報酬を受け取りに、きたかぁ〜?い、いいよ〜〜・・・」


タルトの顔は青白いを通り越して紙のように真っ白だ。


「アホか、死なせねぇよ」


「あぅっ」


前戯も何も無しからの行為にタルトが苦悶の声をあげ身をよじる。


「はぁ、はぁっ、あんっ」


無言のまま行為を続けていると、タルトの痛みによる息遣いに、色が混じり始める。

タルトの青白い肌が朱に染まる。

苦しげな表情に笑顔が浮かぶ。


「へ、へへ〜。このま、ま死ぬとして・・・最後の思い出って、ヤツか〜〜〜・・・」


「死なせねぇって言ってんだろ?」


「んん〜?このまま私が死んだら、後腐れなくて済むだろ〜?」


タルトがそう返すと、ミカラがギロリと睨む。


「・・・本気で怒るぞ?」


「・・・怒ってから言うなよ―――んっ」


ミカラに抱かれながら、タルトが自身の肉体が内側から満たされていくのを感じる。

まぐわいながら、ミカラが己の生命力と魔力を注ぎ込んできているのがわかる。

ここ東大陸よりさらに東の国の仙道の術に、性行為により陰陽の氣・・・魔術的には光と闇の魔力を循環させて、肉体も魂も回復させ、さらには強化をさせる術がある。

ミカラが行うはまさにそれだ。


(これが、俺自身の力で行える確実な手段・・・)


「―――――あっ」


タルトの肌に玉のような汗が浮き出る。

タルトに正面を向かせると前から抱き合う。

か細い腕がミカラの背中に回され、細い足がミカラの足に絡む。

大きな胸がミカラの胸に潰される。


「ん〜、キス・・・して」


「んっ―――」


タルトがミカラの唇に食らいつき、貪るようにキスをする。


「・・・ふふっ〜冥土の土産に、良い思いをさせてくれて・・・ありがとう」


「バカ。死なすかっつってんだろ!」


ミカラがタルトに生命力を注ぎ込むたびに、タルトの体がびくびくと震え、その腕はミカラの背中をかきむしる。


「・・・聞いてた通りだね〜。これは、病みつきになるよ〜」


タルトがミカラの瞳を覗き込む。


「・・・ ねぇ、私のモノにならないかい?ミカラが欲しいモノなら〜私がなんでも手に入れてやるよ〜~」


その発言を嘘とは捉えず、ミカラは別の嘘を暴きにかかる。


「お前さんのは――――占いじゃないな?」


「ふふ〜?バレた〜?未来視・・・て、なんでもかんでも見れる都合良い能力じゃないんだけどね〜〜魔眼だよ〜」


大分回復してきたのか、タルトの身体には力が戻り始めていた。

代わりに、ミカラの方がグッタリし始める。


(くそぉ・・・ 眠気が・・・)


タルトの豊か過ぎる胸に埋もれ、窒息しそうになる。

そんなミカラの頭を、タルトは優しい手つきで撫でつける。


「私には〜不幸な未来しか見れないんだ〜。その未来は不確定でさ〜。頑張れば回避できたりするのさ〜。まぁ、上手くいかない事のが多いけどね〜」


黙って聞いていたミカラが、さらに別の事を問い詰める。


「タルト、お前さん・・・魔族か?」


だとしたら危ない橋を渡ってしまったかも知れない。

『▲▲』適性の治癒は、対魔特攻の側面も持つ。

瘴気も纏えぬ小者のようなので殲滅対象の判定をされなかったようだが、下手をすれば塵にしてしまっていた。


「あ〜〜〜肌を重ねりゃバレちゃうか〜?え〜?ミカラって魔族女を抱いた事あるんだ〜?ちゃんと人間と交尾する魔族って少ないけどなぁ〜?誰かな〜?誰誰誰〜?」


「うっせーな。あと交尾言うな」


魔族とは、魔物・・・いや、あらゆる全ての生命体の上位種だ。

女神教などの神を崇める宗教や、人間至上主義者、エルフ至上主義者たちからは否定されているが、生物学的に高い魔力を秘めた超越生命を魔族と呼ぶ。

スライムタイプからビーストタイプ、岩石や樹木の魔族もいる。

もちろん、ヒューマノイドタイプも居る。


「私の最初で〜最後の相手がミカラで良かったよ〜。思い残す事が無い〜。君が初めてじゃないのは気に入らないがね〜」


「うるせーな。ほんとに死に損ないか?」


「ははは〜、抱いたならわかるだろ〜?」


タルトがミカラに口づけをする。


(・・・確かに、魔族の癖に魔力が小さ過ぎる。まるで人間並だ。俺が助けても助けなくても・・・あまり長生きできねぇ)


「呪いか?」


「うーん、ノーコメントで〜。君を巻き込みたくないし〜」


何故魔族が人間のふりをして市井に溶け込んでいるのか疑問だった。

もしかしたら魔王軍の潜入工作とかも考えたが・・・


「魔族の優秀な工作員ならこんなアホな占い師とかやらないな」


「酷いなぁ〜。私はこれでも魔王軍の幹部だったんだぜ〜?」


くすくす笑う女魔族。

タルトは女神のように慈愛に満ちた笑顔で、ミカラをその胸に抱き締める。


「女神ではないけれど〜私が君に祝福をあげようね〜」


魔力の枯渇と疲労から、ミカラの意識が朦朧としてきた。

タルトは出来る限りの魔力を込めて、ミカラの額へと口づけした。










「う・・・」


ミカラが目覚める。

身体に凄まじい倦怠感がある。

この手段は生命力をゴッソリ奪われる。

下手をすれば術者も一緒に死ぬ共倒れのリスクがあるし、術式直後はまともに戦闘もできない。

今何者かに襲われればアウトだった。

しかし・・・


「・・・ちっ」


タルトはもう部屋に居なかった。


「今度会ったらおしおきだな」


青白い肌の女魔族の微かに残っているベッドのぬくもりを感じ、ミカラは呟いた。










「・・・はぁ、私が人間なんかに惚れるとはねぇ〜。やだやだ〜弱ってるとコロリと絆されるのは、人間の女と変わらないか〜・・・あとやっぱり・・・昔の優しいまんまだったな〜ミカラのヤツ〜」


タルトがニマニマしながらひょこひょこ歩く。


「・・・私の事を覚えてないのは癪だったけど〜」


偶然出会った訳ではない。

未来視の魔眼に、タルトの亡骸を抱きしめて泣くミカラが映ったのだ。


(・・・ミカラに会いに来なければ、私ももう少し長生きできたかな〜?)


「恩返しになれたかね〜?いやぁ〜私の初めてじゃ有難み薄いか〜」


未来視の映像で見たミカラは泣いていた。

もしも、死んでいたら思い出してもらえたのだろうか?


「いや〜言い訳かな〜。死ぬ前に最後に会いたかった私のエゴだな〜・・・」


タルトが朝靄の漂う町をふらふらと進む。

ミカラのお陰でなんとか動けている。

はやく。

はやくもっと離れなければ。


「―――!―――」


そんなタルトの目の前に、懐かしい人影が現れる。

タルトは嘆息して足を止めた。

どうやらここまでのようだ。


「・・・やぁ、久しぶり」


「お久しぶりですな。人間並に力を奪われていて、まだ御存命でしたのは驚きです。まぁそれもここまでですが。・・・さて、裏切り者アシュタルテ。何か言い残す事はないですか?」


かつての仲間であった魔族が、慇懃に笑う。

コイツはとにかく人間臭い挙動を好み、それが逆に人間から遠退いている。


「いいや特に。ま、苦しいの嫌だし一思いに頼むよ〜?・・・あ〜そうだ〜。私の死体は持ち帰ってくれよ〜?好きに実験に使って構わんからさ〜」


「ふむ?それくらいならお安い御用ですが」


これで、ミカラが泣く未来は変えられた。

ミカラには笑っていて欲しい。

タルトがそれを想い、微笑む。

次の瞬間・・・


ドスッ!


肉を貫く鈍い音が・・・


ドスドスドスドスドスドスドスッ!


連続して響き、血飛沫が宙に舞う。


(・・・君の、未来には大きな不幸も、待っているが、抗い打ち勝てれば・・・平和で、幸福な結末も・・・また有り得る〜〜〜頑張りなさ、いね〜〜〜・・・―――ミカラ、愛して)


ミカラの笑顔を思い浮かべながら・・・タルトの意識は途切れた。

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