第26話 ラピスラズリ
ラピスラズリはエルフとして生を受け、とある森にある隠れ里で暮らしてきた。
別の大陸にあるというエルフ大森林と違い、ハイエルフの居ない森には魔物や害意を持つ人間たちがやってくる。
そんな相手との戦いの日々はラピスラズリを戦士として成長させた。
ある日、旅をしてきた別大陸のエルフと出会う。
彼はエルフ大森林の出身だと言う。
彼から色々教わった。
少しの滞在で彼は里を出ていった。
ラピスラズリは、森の外は敵しかいないわけじゃないと知る。
外の世界に興味を持った。
繁殖力の低いエルフだが、その土地では魔物や人間の襲撃により人口が減る事が多々あるため、ラピスラズリにも結婚の話が来る。
子を産んで育て、エルフの里を守れ。
そう両親から言われ初めて大喧嘩をし、森を飛び出した。
しかし初めての外の世界。
言語もわからず右往左往していると、エルフ語を話す親切な老夫婦と出会う。
人間にも悪い人間以外が居ると知る。
しばらく世話になってるうちに人間の言語を覚えた。
ある日、老夫婦が相次いで死んだ。
病気や事故ではない。
老衰だ。
知ってはいたはずだが、人間との寿命の違いに驚いた。
2人は自分よりも年下だったのだ。
ラピスラズリは悲しかったが、乗り越えた。
「そうだ、別大陸のエルフ大森林に行ってみよう」
彼女は剣も弓も精霊魔術も使え、魔物との戦いも経験豊富であったため、冒険者としての活動を始める。
数年旅をし、ようやく辿り着いたエルフ大森林とエルフの王都だったが、国民は外のエルフには冷たかったし、何より軟弱だった。
ハイエルフの守りと強力な精霊の加護を受けて悠々自適に暮らす王都のエルフは戦闘力が低かった。
弓も剣もろくに扱えず、精霊魔術頼り。
生活も精霊魔術を多用していた。
長老集の1人と名乗った老エルフが彼女に言う。
誰かの妻となり子を生むか、戦士として魔物と戦うなら王都に置いてやると。
お断りであった。
「こんなの、森の中で暮らす獣と同じよ。むしろ、森の奴隷だわ。昔会った彼がここを出ていった理由がよくわかった」
失望はあったが、ようやく長年の目的を果たした彼女には次なる展望があった。
「今までソロでやってきたけど、本格的にパーティー結成をしよう」
助っ人などで臨時に組む事はあれど、固定パーティーを組んだ事は今までなかった。
しかし、そこで彼女は躓く。
「私がリーダーをするのよ?エルフ以外あり得ないわね。私はハーフにも偏見無いから、ハーフエルフでもいいわよ。だけどやっぱり人間だと感覚合わないし人間は無理。獣臭いから獣人も無しね。あと男も無しだからね?男ってアレの事しか考えてないわよね。女は子供を産んで育てる道具じゃないのよ?ああ、でもこないだ組んだパーティーの男は、子供欲しい訳じゃないけど子作りしようとしてきたわね。蹴り倒してやったけどさ。あと知ってるパーティーで男女関係で拗れて解散したとこ見たしさ。冒険者に恋愛なんて不要よ。絶対に女エルフだけでパーティー結成するから。じゃ、募集よろしくね」
大森林の最寄りの冒険者ギルドにて、パーティーメンバーの募集をかける。
しかし、まったく集まらない。
仕方なくソロでクエストをこなしてると、ギルド支部長のエルフからお試しで入ってみないかとあるパーティーを勧められる。
しかし上手くいかなかった。
何度か試して、その都度追放されるか、こちらから出ていってやった。
ソロ活動が長過ぎた彼女は、チームワークや連携の技術が不足していたし、それを直す気も無かった。
「だからぁっ!私にもっと合った、高ランクのクエストさせてってば!私の実力知ってるでしょ?」
ラピスラズリが苛々しながら受付嬢に迫る。
「ですから、これ以上の仕事はソロではお受け出来ません」
「じゃあ早く女エルフのメンバー集めてよっ!」
「募集はかけてます。けれど、もし女エルフだけのパーティーが見つかっても、ラピスラズリさんには紹介出来ませんよ?」
「は?なんでよ?」
「・・・貴女、御自分の立場わかってます?こちらが紹介したパーティーで毎度毎度ケンカをして・・・頭を下げるのは我々なんですよ?ブラックリストとまでは言いませんが、そんなトラブルメーカーをおいそれと組ませられませんよ」
「私のアタックをサポートできない奴等が悪いんじゃない」
「助っ人待遇の新人が偉そうにしないでください」
「ああ?百年も生きてない人間の小娘が・・・」
「あらあら?それを貴女が言います?このギルド内の酒場で散々エルフ王都の愚痴をこぼしていた貴女が?そんなに長生きした方が偉いと思うなら、大森林の年長者に従いながら生きてみたらどうです?」
受付嬢が売り言葉に買い言葉でラピスラズリを煽る。
丁度昨日、彼女が殴ったパーティーリーダーがクレームを言いに来て、散々怒鳴られひたすら謝り尽くしたところなのだ。
あのリーダーはなかなかの男前で、以前誘われ食事に行った事もあったのに。
彼との仲はもう進展しないだろう。
この女エルフがへそを曲げて町を出てってくれた方が助かる。
もしも受付嬢に手をあげれば出禁にもできる。
「あんたねぇっ!誰に向かって口きいてるのよっ!?」
ラピスラズリが怒鳴ると、室内に風が逆巻き、書類がバサバサと宙を舞う。
この癇癪の起こし方は予想外だった。
「ああ、もう、ギルド内で精霊魔術使わないでくださいっ!ちょっと誰か支部長呼んできてっ!」
受付嬢の悲鳴を聞いて、同僚が慌てて奥へと走って行く。
問題児ではあるが精霊魔術の使い手としては一流だ。
互角の使い手である支部長ぐらいしか彼女を抑えられない。
「もういいっ!あのオバサンにはこっちから直談判してやるっ!通してっ!」
ラピスラズリはギルド支部長をオバサン呼ばわりして、支部長室のある方へと歩いていく。
「ちょっ!待ってくださいっ!」
受付嬢の制止を無視して速歩きで進むと、見慣れぬ連中が居た。
(エルフ?ハーフエルフにダークエルフもっ!しかもみんな女っ!)
ラピスラズリが喜び勇んで彼女らに話しかける。
コレはきっと運命の出会い。
自分の冒険はこれからが本番なのだと、ラピスラズリは疑いもせずに自侭に振る舞う。
そして―――
(な、なんなの?なんなのよ!)
ラピスラズリはうずくまり、震える身体を止められずに居た。
精霊魔術師同士の戦いとは、パイの奪い合いに他ならない。
実力がほぼ拮抗してるギルド支部長ともし戦えば、お互いの精霊魔術が相殺するか未発動で終わり、後は剣や弓での戦いとなる。
パイを全て奪われ、喉の奥の空気だけを固定されて窒息死させられそうになったのは生まれて初めてであった。
―――ハイエルフは、意思だけで他人を殺せる。だから彼らは感覚を敢えて鈍化させ、感情の起伏を制御している―――
師と仰ぐ旅のエルフの言葉を思い出す。
(こ、コレがハイエルフ―――)
大森林外の弱体化した状態でこの強さ。
王族、神と呼ばれるのは納得だ。
多少なめてはいたが、ここまで一方的に制圧されるとは思いもよらなかった。
それに・・・
(このハーフエルフ・・・強い)
自分を冷たい眼差しで見下ろしてくる2人のエルフ族を見る。
ハイエルフよりかは格段に落ちるが、ハーフエルフから漂う気配も尋常ではない。
長年の戦士としての勘が、この相手には勝てないと教えてくる。
ダークエルフの強さは自分と同じくらいだろうか?
しかし3対1、しかも1番弱い相手と自分が同じ実力だとしたら、勝ち目も何もあったものではない。
そして・・・
(なんなの?いったいなんなの?)
しゃがみこんでこちらを覗き込んで来ている人間の男。
鈍いラピスラズリもさすがに理解した。
この3人の態度からも、この男が1番強いのだ。
意味がわからない。
そしてさらに意味がわからないのが・・・
「は?わ、私がリーダー?貴方はパーティーを抜ける?」
話が上手過ぎる。
警戒心しか抱けない。
「そもそもこの3人は今から登録すっところだ。元々パーティーでもなんでもねぇ」
男はラピスラズリの手を優しく取って、肩を抱いて立ち上がらせる。
「俺はミカラ、よろしく」
「ラ、ラピスラズリよ、よ、よろしく・・・」
ミカラが自分の手を握った瞬間、殺意が3つばかし叩きつけられ気絶しそうになったが、なんとか堪らえる。
「えーと、ダイヤ支部長?」
「な、なんだ?」
ミカラに話しかけられ、金縛りが解けたようにダイヤが返事をする。
「ラピスラズリ嬢をリーダーとして、シャプティをサブリーダー、前衛をマハナ、後衛をミルティーユとして、パーティー登録する」
「ああ、わかった。ミルティーユ様たちを冒険者として登録しよう。もしよければ保証人は私がなる。それで、君はどうするんだ?」
(ギルド支部長のお墨付きか、そりゃ有り難い)
嬉しい誤算だ。
これで、ミカラ自身は本来のスタイルに戻れる。
「俺か?俺は臨時の助っ人扱いで、中衛として参加する」
ミカラがニコリと微笑み、ここに女だらけのエルフパーティープラスアルファが誕生した。
「よしっ!行くわよみんなっ!!!」
「・・・ 」
「―――うっ・・・ぐすっ」
「おーい、返事してやれよ。リーダー泣いてるぞ?」
「はーい旦那様」
「主様りょーかぃ」
「わ、わたし、このパーティーのリーダーなのよね?」
早くもパーティーが乗っ取られてる事に気づくラピスラズリ。
そんな彼女の傷ついたプライドなどお構いなしに、魔物の群れが突っこんで来る。
「はあっ!」
「ブギィィィッ!」
ラピスラズリの剣が猪型の魔物を次々と切り裂き絶命させる。
マハナは徒手空拳で魔物を殴り殺し、シャプティの放つ炎が逃げようとした魔物の退路を塞ぐ。
あっという間に殲滅していく。
取り敢えず、簡単そうな魔物駆除の依頼を受けた4人+1名は街道沿いの森にて、魔物というか害獣を駆除していた。
依頼主は畑を荒らされて困っていた農家さんだ。
ハイエルフなどの過剰戦力パーティーの初クエストとしては安全が過ぎる。
「よし、こんなもんだろ」
酒を片手に後方からパーティーを俯瞰して見ていたミカラが寸評する。
「ラピ、もっと突っこんでいい。死なない限りは俺が回復してやる。怪我していいからもっと斬り込め」
「わ、わかったわ」
ラピスラズリがコクリと頷く。
何かに思案するように確かめるように、その場で剣を軽く素振りしている。
彼女はミカラが観察してる気配により、動きがいつもよりぎこちなくなっていた。
それも折り込み済みだ。
(慣れれば本来の動きができるだろ。あと、そろそろ気付いたかな・・・?)
ラピスラズリが己の腕を見つめて愕然としている。
下級の魔物を斬っただけなのに、反動で手が痺れている。
(お、おかしい、なんだかいつもより力が出ない?)
心当たりの無い不調に、不安が募る。
「マハナ、ラピの背後を守れ。シャプティはラピが狙ったターゲット以外に牽制」
「はい旦那様」
「主様、りょ」
首をぶんぶん振るマハナと、片手を額に当てて片目を瞑るシャプティ。
「ミルティーユはまぁ、全体のフォローかな?」
「うむ」
対軍相手に範囲攻撃や地形攻撃が出来る、まさに歩く国宝なので、あまりやる事は無い。
てゆーかやらせる訳にはいかない。
精霊を介して索敵や諜報を担当させておくのが無難だろう。
「はいはーい、みんなお疲れ様〜。じゃ、撤収しよっか」
ミカラが手を叩き、クエスト達成した4エルフたちは帰り支度を始めた。
「じゃ、新生パーティー結成を祝してカンパーイ!」
ギルド内酒場にて、打ち上げが行われる。
「ほらほら、リーダー飲んで飲んで」
ミカラが勝手に音頭を取って乾杯すると、ラピスラズリの盃に並々と酒を注いでくる。
「ど、どうも」
(なんだろう?このパーティーのリーダーって、ホントに私?)
そんな訳は無い。
完全に名義貸しに使われている。
犯罪組織が裏の仕事をギルドを介してやらせるやり方だ。
「旦那様、もっとお肉を食べましょう。精がつく物をもっと。お酒はほどほどにしてくださいまし」
「主様主様、はいあ〜〜〜ん」
「婿殿!このパフェとやら頼んでよいかの?なんと5種類もあるぞ!」
ラピスラズリを置いてけぼりにして、4人で好き勝手に飲み食いし始める。
しばらくは萎縮していたラピスラズリだが、酔いが回って来た頃に、盃を音を立ててテーブルに叩きつけて鋭く言い放つ。
「このパーティーはわらしのらっ!」
「ああ、そうだな。ラピがリーダーだよ?俺は助っ人に過ぎない」
ミカラは笑顔でこくこく頷きながら、サポート役としてリーダーの盃に酒をドプドプ注ぐ。
それを呷って一気飲みしたラピスラズリがミカラに掴みかかる。
「おみゃえはにゃんにゃ?にゃんでみんにゃおみゃえに・・・ ひっく」
「リーダー、どうした?もう回ったのか?」
弱過ぎてビックリした。
「よくもまぁ、今まで無事だったなぁ」
顔を真っ赤にして座った目で虚空を睨んでるラピスラズリは、それでも見た目は美少女に変わりない。
あちこちで恨みを買っているようだし、酔わせてしまえば好き放題できたはずだろう。
「まぁ、君らもそう変わらんか」
「だんにゃしゃみゃ、子供は何人欲しいれすか?」
ミカラにしなだれかかってきたマハナの頭を撫でてやる。
質問には答えない。
「主様が3人に増えてる〜これで平等だね。あはははは!」
大口開けて笑うシャプティの口に肉の塊を咥えさせるとそのまま咀嚼し始めた。
「邪魔するぞ?・・・うわ、凄い状態だな・・・」
そこへ仕事上がりのダイヤがやってきた。
遠慮がちにミルティーユの隣に座る。
ミルティーユはすでにおねむだ。
彼女は酒では酔わない。
お腹がいっぱいになったから眠っただけだ。
ダイヤはウエイトレスに酒とツマミを注文し、まずは一杯呷る。
ミカラがそれにおかわりを注いでやってると・・・
「私には夫も子供もいるからな?君のエルフハーレムには加わらないぞ?」
昼間と同じ事をまた言われた。
そんなに自分はエルフ誑しに見えるのだろうか?
「ハーレムなんて作ってねーよ」
「どうだかなぁ」
頭をふらふらさせながらもなんとか起きているラピスラズリを見ながらダイヤが苦笑する。
「む!旦那様の正妻はわたすでしゅ!」
ミカラの胸に抱かれていたマハナがダイヤにがるるると威嚇する。
「ああ、マハナ君だったか?私にはハーフエルフへの偏見はない。安心してくれ」
エルフに対してまだ嫌悪感や警戒心のあるマハナ。
酔ってはいたが、まだダイヤに対しての警戒心が残っている。
「私の夫は人間だ。我等親子はエルフ大森林では暮らせないのでな。世界あちこち旅してきた。結局大森林の側に住む事になったが、後悔は無い。が、娘には複雑な立場を押し付けてしまって申し訳なく思ってはいる。私が冒険者ギルドで働くのは、少しでもハーフエルフへの偏見を無くすためさ。だから・・・」
ダイヤが優しげな眼差しをして、ミカラの胸でうつらうつらしているマハナの頬を撫でる。
「あまりちゃんと会話できていなかったが、私はマハナ君に1番期待しているのさ」
「あ、そうですか。どうぞご自由に・・・」
マハナがぼやくように返事をする。
「お母さんに捨てられたけど・・・そのお陰でミカラ様と出会えたから・・・私の事はもういい、です・・・」
そしてスウスウと寝息を立て始める。
「ところで、何故このエルフの面汚しをリーダーにしたんだ?」
ラピスラズリの扱いは、マハナと比べると天地ほどの差がある。
ダイヤの働く理由を聞けば納得ではあるが。
ラピスラズリがあちこちでトラブるたびに、エルフ族全体の評判は下がっていくだろう。
「そのままの理由だよ。特に裏は無い。俺は目立ちたくないだけさ。マハナでもリーダーにするかと思ってたんだがな。丁度良かったぜ」
基本的に初心者ではリーダー登録できない。
出来たとしても色々と制約が付く。
トラブルメーカーだろうと・・・いや、トラブルメーカーならばなおさら隠れ蓑としてはうってつけだろう。
「ふーん?居場所を知られたくない相手でもいるのかい?わかった、昔の女だろう?いったい何人の女を泣かせてきたのやら」
「まぁ、それもあるかな?特に1人・・・2人か。しつけーのがいるんだよ」
(自分ん家に転移座標を強制するようなのがな)
「2人か?以外に少ないな?」
他愛もない世間話をダイヤと続ける。
変な話だが、自分に恋愛感情を持たない女との会話は、ミカラにとっては久しぶりにホッとできるひとときだった。
「・・・うぅ、頭いったぁ・・・」
ラピスラズリがガンガン頭痛がする頭を振りながら目を覚ます。
「はい、水」
「・・・ありがとう」
ゴクゴク飲み干して、固まる。
「な、な、な、なーーーーっ!?」
「な?」
裸に近いミカラが目の前に居て、素っ頓狂な声を出すラピスラズリ。
「はぁっ!わたしっ!昨日どうしたっけ!?」
思い出せない。
身体を触れば服は着ている。
下着も履いている。
「酔い潰れたから俺達の部屋に運んだんだよ」
ミカラが欠伸を噛み殺す。
「俺達・・・て、うっ・・・」
その部屋のベッドは広く、よく見るまでもなく、ミルティーユ、マハナ、シャプティも同じベッドで寝ていた。
ミルティーユはヒラヒラしたパジャマ姿で安らかに寝ている。
「むにゃむにゃ・・・おおう、7段アイスパフェか・・・まだ食べれるぞ・・・」
とか呟いている。
しかし、マハナとシャプティははだかんぼだ。
昨夜はナニをしていたか一目瞭然。
(わ、わわわわたしが寝ていた同じベッドで、普通する???)
3人で致していた真横で、自分が酔っ払って深く眠っていたなど信じられない。
信じたくない。
ミカラはというと、一足早く衣服を身に着けて部屋の外へ出ようとしている。
「ちょ!ちょっと待ってよっ!私はまだ納得してないんだからねっ!?」
「何を?」
「貴方が実質裏のリーダーで、私がお飾りだって事よ!」
「あーそんな事か。あのなぁ、本当のパーティーリーダーは、相当の場数を踏んだ上で頭もキレなきゃできねーんだよ。俺がしっかりサポートしてやるから、早く本物のリーダーになりゃいいだろ?ラピの目論見通り、世間知らずのエルフの女の子でメンバー揃えたって、魔物か悪い人間に喰い物にされるだけだぞ?俺が悪い人間だったら、お前さんを好きに犯した後に奴隷として売り払ってトンズラしてたかもな」
「ぐっ!それは、そうかもだけど・・・!」
ラピスラズリは黙らざるを得ない。
まさか自分があんな簡単に酔いつぶれて記憶まで飛ぶなんて、思いもしなかった。
(今までこんな事無かった・・・まさか!)
ラピスラズリはミカラに疑惑の目を向ける。
思い返せば、クエストの時から身体が変だった。
「貴方が何かしたんじゃ?」
「ぶっぶ〜ハズレ〜」
「違うって言うの!?」
ミカラは黙ってスヤスヤ眠るミルティーユを指差す。
「そりゃぁ姫さんがいるからだ。姫さんの周囲に存在する精霊はすべて無条件でハイエルフを愛する。今まで格上の精霊魔術師と出会った事無いだろ?ラピが今までそれなりに強かったのは、自動でバフかかってたからだよ。酒も毒の一種、酩酊も状態異常にカウントされっからな。今まではどんな酒豪と飲み比べしても勝てたんじゃねぇか?」
ミカラの言葉にギクリとするラピスラズリ。
飲み比べ勝負で、負けたら身体を自由にしていいとかの条件で屈強な冒険者たちを挑発しては返り討ちにしてきた。
確かにその中に、もしも自分より優れた精霊魔術師が居たら終わりだった。
「じゃ、じゃあ私はそのハイエルフと一緒にいない方がいいんじゃ・・・ 」
「アホか。そうやってまた精霊バフ頼りで生きてて突然格上とぶつかってみろ?手も足も出ないぞ?今は地力を鍛えろ。修行し直せ」
「わ、わかったわよ・・・」
言い負かしたり問い詰めるつもりが、正論でフルボッコにされてしまった。
ちょっと泣けてきた。
「主様・・・?」
普通の声で会話していたためか、シャプティが起きてしまう。
「昨日は激しかったからな。も少し寝てろ」
「ん・・・キスして」
「はいはい」
「えへへ」
ミカラがシャプティの額にキスをすると、幸せそうにへニャリと笑って目を閉じる。
(し、信じられない・・・何人もの女を所有物みたいにしてる男と寝て・・・なんでそんな顔してられるのっ!?)
シャプティの事情を知らないラピスラズリとしては、ミカラはエルフの女を喰い物にする最悪な人間にしか思えない。
人間の寿命からすれば、年老いて醜くなっても美しいエルフを好きなだけ抱けるのだ。
しかも繁殖力の低いエルフならばあまり子供を産む心配も少ない。
体の良い性奴隷。
家畜と同じだ。
「ね、ねぇ。私も、ミカラに抱かれないといけないの?」
己の肩を抱き締め、警戒するラピスラズリ。
彼がその気になれば抵抗は無駄だろう。
せめて気持ちだけは折れてやらない。
惚れたりなど、絶対にしない。
「いや、別に」
凄く興味無さそうにするミカラ。
自分に警戒心を抱く女を無理矢理抱く趣味は無い。
「え!?なんでよっ?」
それはそれで女としてのプライドは傷つくラピスラズリ。
「わかったわかった」
そこでミカラがニヤリと笑う。
「俺に惚れたら、その時抱いてやるよ」
「おお、そのじゃじゃ馬を手懐けるとはな。さすがエルフキラーのミカラ」
「お願いマジやめて」
「私はミカラとそんな関係になってないから」
まだ目覚めない3人を置いて、2人で朝食を食べに食堂へ降りて行くとダイヤが待ち構えていた。
ここはギルド運営の宿屋。
居ても不思議ではない。
恐らく出勤前の朝食を取りに来たのだろう。
ちなみに昨夜、酔い潰れた4人を寝室に運ぶのに協力してもらった。
後で礼をするとは伝えたが、丁度良いから朝御飯を奢る事にする。
微妙な空気のまま朝食を共にする3人。
「いやぁ助かる。コイツはエルフのエリート意識を捨てれない困ったヤツでな・・・本当に困った奴でな?」
肉を切り分けながらダイヤが同じ事を2度言った。
相当迷惑をかけていたのだろう。
サラダをもしょもしょ口に詰め込んでいるラピスラズリは居心地悪そうにしている。
「4人目の妾でも性奴隷でもなんでもいいから上手く飼いならしてくれ」
「げふぉっ!な、なんて事言うのよっ!?」
さすがに無視はできなかったのか、ラピスラズリが吠える。
だが、ダイヤはまったく小揺るぎもせずに淡々と付け加える。
「あと、ハーフエルフの子供を増やすのは大歓迎だから遠慮なく孕ませろ。私の子供の世代で差別や偏見はどんどん失くしていきたい。ミカラとのハーフエルフなら相当強い個体が生まれそうだからな。期待してるぞ?ラピスラズリ」
「支部長の鬼・・・ 悪魔。魔族っ!」
昨日はあれだけ威勢の良かったラピスラズリが見る影も無い。
100年以上培ってきた戦士としての誇りやプライドがたった1日でボロボロのボコボコにされたからだ。
「・・・私がどれだけ貴様の尻拭いをしたと思ってる?冒険者資格を剥奪されないで今までこれたのはただの温情なんだぞ?パーティーの件だけじゃない。気の乗らない依頼は途中ですっぽかすわ、人間の依頼人と喧嘩するわ」
ダイヤ支部長がにこやかに青筋を立てている。
「と、言う訳だミカラ君?このエルフの面汚しも君のパーティーだけでなく、ハーレムの方にも加えてやってくれ。身体は君の妻たちより貧相だが、まぁ抱けなくはあるまい。むしろ抱け。好き放題しろ私が許す」
「別にハーレムじゃねーけど・・・承った。俺の名前が出ないなら問題無ぇーよ。ラピがリーダーさ」
ミカラはあくまでエルフの冒険者4人組の助っ人だ。
案内役やオブザーバー扱いにさせてもらう。
それこそ古代遺跡発見や魔族討伐なんかのデカイ事をすると、ミカラの名前も広報や新聞に載ってしまうが、普通に活動する分にはミカラ・デタサービとこの4人の接点はゼロのままだ。
大元のギルド本部や登録した支部とかならともかく、どこか別のギルド支部でちょっと調べたくらいではミカラの痕跡は見つけられないだろう。
好き勝手に話してる2人に、遂に我慢できなくなったのか、野菜と果物のスムージーを飲み干したラピスラズリが叫ぶ。
「―――わっ!私は、絶っっっ対に!ミカラなんかに抱かれないからねっ!人間なんか好きにならないしっ!子供も作らないからっ!!!」
ラピスラズリが真っ赤な顔で重ねて言い放つ。
「いい!?私は絶対!ミカラなんかに惚れないからっ!」
ギルド運営の宿屋1階の、人もまばらな食堂にて、とあるエルフの魂の叫びが響き渡った。
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